中華人民共和国の人口はおよそ13億4千7百万人だといいます。もちろん、世界で最も人口の多い国です(2位は12億1千万人のインド)。家族にはかけがえのない「命」であっても、これだけの人口を擁していると、国家からはその命を軽んじられることもあるのでしょうか、鉄道事故に対する賠償を定めた「鉄路旅客意外傷害強制保険条例」では、鉄路運輸企業の賠償責任の限度額は、15万元と定められているののだそうです。
15万元は、現在(2011年7月26日)の為替レートから言うと、180万円にしかなりません。2011年7月23日、20時30分頃、中華人民共和国(中国)の浙江省温州で、北京発福建省福州行きの高速鉄道列車が、落雷で停まっていた(追記 時事通信によると、運行指令室からの指示によって停車していたのであって、電力供給は正常であったという)浙江省杭州発福州行きの高速鉄道列車に追突(時速118kmという高速で)、死者39名(後に40名に)という大惨事が起りました。今回の大事故では賠償額が50万元という報道がありますが、それでも600万円です。
この金額は、中国の物価水準では、例えば働き手を失って残された家族がある程度長期にわたって生活苦に陥らないで済む金額なのでしょうか(追記 毎日新聞によると、中国都市部の市民の平均年収が約2万元であることから、その25倍)。日本の物価水準では、つましい暮らしをしたとしても2年も経たないうちに、生活苦に追い込まれてしまう金額です。幸い、日本人の乗客はこの列車事故の死亡者の中にはいなかったようですが、人の活動がグローバル化する中で、日本人が事故に巻き込まれる可能性は、少しも低くはありません。死亡者の中にはアメリカ人が2人、イタリア人女性が1人いたようです。
残念ながら、この事故は予告されていたと言います。2010年4月6日のイギリスの経済紙「フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)」で、JR東海の葛西敬之(かさいよしゆき)会長が東京特派員とのインタビューで、中国の高速鉄道について「安全を軽視」などと述べていました。会長は「日本では乗客が1人負傷したり死亡したりすれば、そのコストは途方もなく高く付く。それは深刻な事態になる。しかし、中国では毎年1万人の乗客が死ぬ可能性があるのに、誰も騒ぎ立てない「お国柄」である。それが中国と日本の相違点だ。“The difference between China and Japan is that in Japan, if one passenger is injured or killed, the cost is prohibitively high. It's very serious. But China is a country where 10,000 passengers could die every year and no one would make a fuss.”」
これに続けて、葛西氏は「中国は日本のデザインに基づく列車を25%速い速度で走らせている。中国の鉄道省は我々と同じレベルで安全性に注意を払っているとは思えない」との見解を述べているのだそうです。
この大事故が起る以前に「落雷」による列車の停止がすでに何件かあったといいます。列車に落雷対策が標準で施されていないということが考えられます。落雷による「サージ電流」を「アース」へ流す対応を車両にしておくのは、常識でしょうし、車両以外でも架線設備、ATSや信号システム、電源設備にも落雷対策、例えば、設備の周囲に避雷針を設置しておく、電源は非常電源を用意しておくなどの対策が必須でしょう。落雷に対して脆弱であるシステムで高速鉄道を走らせるのは恐ろしすぎます。
仮に列車が落雷で停止したとしても、その列車の後方の一定区間に後続列車を入れないというシステムが構築されていれば、列車が追突するということはありえません。
中国鉄道省の技術主任によれば、高速鉄道の走行中にトラブルが発生した場合、「自動停止システムが必ず始動する」のだそうですが、そうはならなかったのは、「落雷」という日常起りうる現象を考慮に入れた設計にはなっていなかったのでしょうか。
7月24日配信の時事通信の記事によると、「追突した列車は時刻表の上では、衝突された列車よりも前に温州を通過するはずだった。順序が入れ替わっ」ていたといいます。信じられないようなことが既に起っていたのです。中国高速鉄道の列車運行・安全管理システムはどうなっているのでしょう。システムが重大な欠陥を抱えているとしたら、次の大惨事も予告されていることになります。
中国の高速鉄道列車は、システムの改善のために運行を休止するということもなく、すでに運行を再開して走り始めています。中国の高速鉄道の安全性を強調し、高速鉄道の海外輸出を促進するという政治的意図があるのではないかと言われています。政治的で無謀な決断のつけは庶民の犠牲となって現れます。この惨事によって、亡くなられた方々に深い哀悼の意を表します。負傷された方々に心からお見舞い申し上げます。
(追記)こんな「予告」もあります。中国の鉄道省の高速鉄道網の建設で負った債務は巨額で、数十年は黒字化しない。鉄道建設のコストを抑えるため、安全性を犠牲にして、レールを敷設している。そのため、劣化によってレールの直線性が数年内に保てなくなる。そうなれば、高速走行は危険を招くことになる。それに気付くのは2度目の大惨事が起ってからなのでしょうか。
実は中国ではこの高速鉄道列車追突事故の死者数を上回る大惨事が追突事故の前日に起きています。2011年7月22日早朝4時ごろ、北京から広州、珠海を結ぶ「京珠高速道路」で、47人の乗客が乗っていた長距離寝台バス(定員は35名)が走行中に突然炎上したといいます。47人中41人が死亡したそうです。出火の原因は、違法に車内に持ち込まれた易燃性の化学製品で、炎上事故に関わったとみられる6人(生存者)が拘束されているのだそうです。中国では、知識のない者が毒物を農薬として使用したり、危険物を車内に持ち込んだりして、死亡事故に発展することがあります。
そういう行為に対する対策はなされているのでしょうか。対策のなされないまま、犠牲者を出し続けていくのでしょうか、「命」のコストが安いから、、、鉄道省の関係者からは、事故の規模からすれば、バス事故より死亡者数が少なかったではないか、だから安全と言っていい、という声が聞こえてきそうです。非常に残念です。
(参考) 「中国の高速鉄道列車事故 - 予告されていた大惨事を起こした責任は」
(参考) 「中国の高速鉄道列車事故 - 中国では安全に対する考え方が違うのか」
(健人のパパ)
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