地球散歩

地球は広いようで狭い。言葉は違うようで似ている。人生は長いようで短い。一度しかない人生面白おかしく歩いてしまおう。

2008-11-17 00:06:39 | つれづれ帳

meso(メソ・ボスニア語)

前回・前々回、スペインの羊祭、イランの羊料理と、連続で「羊」が登場した。羊繋がりということで今回も羊の丸焼きの写真を登場させるが、「散歩」先は『地球散歩』初、ボスニア・ヘルツェゴヴィナに飛ぶ。写真は、クロアチアの景勝地ドゥブロヴニクからボスニアの首都サラエヴォへ向かう道中、山間のレストランで撮影したもの。

ボスニア・ヘルツェゴヴィナと聞いて、この国のイメージを即座に思い浮かべることが出来る人は殆どいないだろうと思う。
しかし、彼の地が「かつてはオスマントルコの領土であった
と言ったらどうだろうか。トルコが如何なる文化を持つ国か想像できる人は、決して少なくはないだろう。

バルカン半島に位置し、古くから様々な民族が行き交い人種の坩堝であったボスニア・ヘルツェゴヴィナでは、人々の顔立ちや宗教と同様に、食べ物にも混淆の痕がくっきりと刻まれている。中でもオスマントルコが残した痕跡は多大なものだ。以前、トルコ語の「
コーヒー」の記事でも書いたが、巨大帝国がかつての支配地に残した文化の跡は、口にするものに多く残されている。この地に住む人々の多くがムスリムだということも理由のひとつであろうが、ボスニア料理の中にはトルコ的要素が多く見られる・・・どころか、トルコ料理そのものだと言っても過言ではない気がする。彼の地を「散歩」中、トルコ料理、中でもオスマン朝の宮廷料理の名残を、私の舌はしっかりと記憶した。

さて、今回は「肉」がお題なので、ボスニアの代表的な肉料理をふたつご紹介しよう。そのひとつは「チェバブチッチ」だ。チェバブチッチは、「小さなケバブ」のことであろう。しかし、トルコのシシケバブに代表される串焼き肉とは形状が違い、どちらかというとキョフテに近く、棒状の肉団子という感じである。これをナーンのような薄めのパンに挟んで食べるわけだが、その時にヨーグルトドリンクと一緒に食すのが習慣であるところも、いかにもトルコ的だ。
もうひとつは「ブーレク」という料理。ボスニアではパイ生地で挽肉や玉ねぎを包み、それを鉄板で焼いたものを指すが、この料理に似たものが、これまたかつてオスマン朝の領土であったチュニジアに「ブリック」という名称で存在する。チュニジアでは、薄い春巻きの皮のようなもので、肉ではなくツナやジャガイモなどを包んで揚げたもののことだが、これらふたつの料理が元々同根であることは、「ブーレク」「ブリック」という名称からも明らかだ。

以前、『見ることの塩』(四方田犬彦氏のパレスチナ・セルビア紀行)という本を読んだが、その中に「ブーレカを食べる人々」という章があった。氏は、かつてオスマントルコが支配したふたつの地に「ブーレカ」という料理として残る、同王朝の文化的痕跡について述べている。「ブーレカ」は勿論ボスニアの「ブーレク」と同じものである。

歴史を振り返る時、強国の支配という事実からしばし目を離し、複雑に交じり合った文化の根底に多様性を発見した時の喜びは大きい。中でも文化の混淆の跡を色濃く見ることができるもののひとつは、料理。舌や鼻腔に残る記憶は強烈である。更にそれが美味しければ言うことはない!料理を巡るあれこれの旅は今後も続いていきそうだ。(m)

長い文章を読んでくださってhvala vam!(Thank you!)
『地球散歩』の食べ物を巡る旅はまだまだ続きます。
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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ダリダリ~♪ (aoi@休筆中)
2008-11-18 17:10:23
チェバブチッチって、チュッパチャップスの親戚みたいですね!
私は食べ物を食べるとき、目が悪くてよかったと思います。
形状が分からないと、ものすごく美味しい。
イナゴはあとで仰天しました…(笑)
脳みそも、から揚げのように、露骨じゃないものからトライすると良いですね~
しかし見た目が食べられそうでも、ペルーでクイ(テンジクネズミ)の煮物を「モルモット」と言われたときは、ねずみの形状ではなく、ただの肉片だったにもかかわらず、ちょっとしか食べられず、美味しくありませんでした。
この時ほど、現地人に「クイ」の訳をモルモットなんて、いい加減に教えたであろう日本人を恨んだことはありません。
食い物の恨み(笑)
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ヒツジと聞くと (がんさん@大和の国)
2008-11-19 20:44:42
スペインのラ・マンチャ、コンスエグラに向かう途中で出逢った羊飼いを想い出します。
今でもカラコロという鈴の音がはっきりと。
同じヒツジの肉でもいろんな料理法、味があるのでしょうね。
文化の交流の産物として、支配の歴史の産物としてそれが今も色濃く残っているというのは興味深い。
日本の素麺のルーツもシルクロードの辺りに見ることができるのでしたっけ…。
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Unknown (タヌ子)
2008-11-21 17:19:38
お隣クロアチアでもチェバブチッチとブーレクは人気のファーストフードです。
ユーゴがまだ一つの国だった頃にボスニアから入ってきた料理なのかもしれないですね。
クロアチアではチェバブチッチにアイバルと言うパプリカのペーストを塗って食べるます。
このアイバルがまた美味しいんです!
モロッコでもブリックを頂きました。
美味しいので自分でもたまに作って食べるのですが、大きいので、油を大量に使用しなければならないのが難点。
前回のコメレスへのレスですが、クロアチアではあまり『強烈』な食べ物は見かけません。
お肉屋さんでも頭や鼻、内臓など生々しい部位は売っていません。
豚足を見ることもないですね・・・
以前ボスニアに住んでいた人の話しでは、ボスニアはやはりトルコ料理に近いものが多く、ハンガリーやオーストリア料理が主流のクロアチアとは大分食生活は違うと聞きました。
恐らくボスニアの方が健康的な食生活なのでしょうね。
以前ギリシャに住んでいた私には、きっとボスニアの食生活の方が馴染みがあって、舌にも合うような気がします。
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碧さま (mitra)
2008-11-21 18:02:54
またまた休筆中にコメントをありがとうございます(笑)。
コメントバックが遅くなりました。
「モルモット」って訳されると、確かに食べたくないな~。
翻訳のセンスが問われますね(笑)。
脳みそ、実は唐揚げは食べた事があるんです、日本で。
食感は白子ですね。でも、もともと白子もあと内蔵系も
好きではないので、いずれにしろ私にとってはあまり美味しく
なかったなあ。

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がんさん@大和の国さん (mitra)
2008-11-21 18:08:21
ラマンチャの羊の鈴の音。旅情を誘いますね。
スペインも羊王国ですね。
今すぐスペインに飛んで行きたくなります。
大国の支配には負の遺産の方が多く残りますが
文化的にはおもしろい混淆の跡が見られますよね。
素麺のルーツがシルクロードだったとは知りませんでした。
饅頭もあの辺り(中央アジア)でしょうね。
日本の食べ物のルーツを巡る旅も、いつかしてみたいなと
夢(野望?)が広がります。
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タヌ子さん (mitra)
2008-11-21 18:23:59
クロアチアは文中でも述べたようにドゥブロヴニクと
ダルマチア海岸沿いの何カ所かを訪れました。
よって、ダルマチア料理しか食べるチャンスがなくて
(要するに殆どシーフードですね)、チェバブチッチに
代表されるオスマン系(とは言わないですよね)の
料理は全く食べるチャンスがなかったのです。
仕方なく(?)日本に帰って来て京橋にあるクロアチア料理店で
食べたんですが、その時にチェバブチッチにかかっていた
ソースがアイバルっていうんですね~。確かに美味しかったです!
前回のコメレスへのお返事もありがとうございます。
そうですか。やはりイスラームの国なんですね、内蔵まで
きれいに食べてしまうのは。
以前ギリシャにいらっしゃったタヌ子さんは、やはり
ボスニア料理の方に親しみを感じられますか。
確かに、ハンガリーやオーストリアなどの中欧のお料理よりも
あちらの方がヘルシーだし、食材も豊富に使用しますよね。
それからブリック、私も自分で作ります。
美味しいけど、家で作る時には油が生地の中に浸透してベタつくの
が難点だと思っています。何かさっぱり出来る良い方法はない
でしょうか?
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すっかり出遅れましたが・・・ (マーク)
2008-12-25 17:56:40
どうしても、食べ物ネタには敏感な私・・・。お許しを(笑)

最近、「シシケバブ」をよく見かけるようになりましたが、この「チェバブチッチ」というのは味は似ているのでしょうか?
え?自分で食べてみろ!?
食べてみたいです。東京で食べれるところ(再現しているところ)はないでしょうか?

なんか、「?」ばかりですいません。



※ひとつ前の記事にもコメントさせていただきました(mOm)
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マークさん (mitra)
2008-12-26 16:57:58
マークさん、引き続き(笑)ありがとうございます。
チェバブチッチは、キャバブというよりは挽肉を固~く練って炭火で焼いたソーセージという感じです。トルコで喩えるなら、キャバブよりも「キョフテ」に近い感じです。
東京では、京橋のクロアチアレストラン「ドブロ」や、銀座のルーマニアレストラン「ダリエ」で食べられますよ!ボスニアで食べたものに近いのは、どちらかというと、ダリエのものです。話は少しずれますが、ダリエ、ルーマニアの伝統料理が一通り食べられて味も良くお勧めです。同じバルカンのお料理なので如何でしょう?
あと、こちらで作り方(自己流)載せてます。
http://ethno-mania.at.webry.info/200611/article_2.html
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