凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

鈴木康博「SO LONG」

2006年08月04日 | 好きな歌・心に残る歌
 別れる時の言葉に最もふさわしいものは何だろうか。

 「さようなら」という言葉がある。別れの挨拶として最も定着している言葉だ。でも、日常会話の中で、僕は「さようなら」「さよなら」という言葉の使用頻度は低い。なんでだろうかとぼんやりと考える。
 そもそも、「さようなら」という言葉は、「左様ならば(お別れしましょう)」から出来た言葉で、後半を省略している。本来「さようなら」だけでは意味が通じない。しかしいつの間にか別れの言葉となった。
 日本語にはこういう省略された言葉が多い。「こんにちは(今日はお日柄もよろしく)」「ありがとう(有難き幸せです)」などと、主文を省略する。これは日本文化であるとも言える。みなまで言わなくても通じる。「さようなら」もそういうことだろう。
 しかし、「さようなら」の省略にはもう少し意味があるようにも思えてならない。
 日本は言霊の国である。言葉が現実を引きずる力を持つと信じられている。「するめ」はスッてしまうから「あたりめ」と言い換える。結婚式では「終了」と言わずに「お開き」、ケーキは切らずに「入刀」。忌むべき言葉は遣わない。
 「さようなら」にもそういう意味合いがあるような気がしてならない。「お別れしましょう」まで言ってしまえばもう永遠に離れてしまうような気がする。だから、「さようなら」で止める。そうして、別れの重さを軽減してきたのではないかと思う。僕の勝手な解釈だけれども。
 しかしながら、この「さようなら」という言葉も、別れの言葉として既に長い歴史を持った。もはや「左様なら」ではなく独立して「お別れ」と完全に同義になってしまった。日本語はどんどん移りゆく。僕の感覚では、「さようなら」という言葉は今や非常に重い。永遠の別れが後に待っている感覚にとらわれてしまう。不思議なものだと思う。
 なので今は、「さよなら」の使用を微妙に避けてしまう。公的には「失礼します」「ごめん下さい」などと言う。私的には「じゃあね」「それじゃまた」と言う。「じゃあ(お別れしましょう)」であるから、さようならと同じ主文を省略している言葉なのだけれども、歴史が浅い分気持ち的に軽い。「それじゃまた」と「また」を入れると、「また(お会いしましょう)」ということになって、再会の予感が出る。言霊の日本にはふさわしい気もしている。
 外国の別れの言葉もまた千差万別である。その中で、中国の再見(ツァイチエン)などはとてもいい響きである。またお会いしましょう。英語で言うとsee you againに相当する。こういう言葉は余韻があっていい。
 good-byeはちょっとドライな感じもする。あくまで感覚だが。日本語で言う「じゃあね」に相当するのは、「so long」だろうか。

 オフコースが解散したのは公式には1989年である。しかし、事実上のオフコースの終焉は僕は82年、鈴木康博の脱退であろうと思う。「秋の気配」でも書いたが、オフコースのデビューは小田和正、鈴木康博のデュオだった。これがオフコースの原型である。
 オフコースは、確かに曲作りは小田さんがリードした。そのヒット曲はほとんど小田さんの作詞作曲である。鈴木さんは、シングルでは常にB面を担当していた。ただ、鈴木さんが№2であったということではない。そのサウンド作りは、名ギタリストである鈴木さんの主導と言われる。
 鈴木さんが作詞作曲した唯一のA面の曲に、あの「ロンド」がある。

  日差しが部屋の奥まで 差し込むころまでに会えるだろうか
  今こうして生きていることさえ あなたの望んだ道じゃない

 オフコースの中では異質の曲だと言われる。そりゃそうだろう。小田さんの曲じゃないんだから。
 でも、この曲は本当に沁みる。こういう曲もあって、オフコースには重厚感が生まれたのだと思う。

  母はいつまでも 子どもに追いつけない

 小田さんがリリースした「自己ベスト」は大ヒットアルバムとなった。ちょっと僕は買う気にならなかったのでレンタルして聴いた。
 どうにも物足りない。そう思った人も多いと思う。その物足りなさは、「さよなら」のリフレインが淀川長治の挨拶に聴こえたからだというだけではあるまい。それは、鈴木さんが居なかったということに尽きるのではないだろうか。
 あの名曲、僕が大好きな「秋の気配」が妙に薄く感じるのは、鈴木さんの声が被っていないからに違いない。曲は小田さんが作ったものにせよ、あのサウンドはやはり鈴木康博あってのものだったのだと言うことが再認識されたようにも思う。

 小田さんと鈴木さんは、別れて後、ずいぶんと違う道を歩むことになった。今でも日本の音楽界に君臨する小田和正。対して鈴木さんは、「あの人は今」的感覚で見られることすらある。間違いなくオフコースの両輪であったはずなのだが、水が開いてしまった。谷村新司と堀内孝雄のように共に大活躍ということにはならなかった。
 鈴木さんがオフコースを脱退してしばらくしてリリースした曲に「SO LONG」がある。「さよなら」ではなく「SO LONG」。

  君の旅立ちを見送るだけ もう終わった
  黄昏あつめた浜辺に二人 街へ行くバスを待っている

 びっくりするほどの名曲では確かにないかもしれない。けれども、夏の終わりの香りがするこの曲は、その当時の僕の心に沁みた。
 初秋のリリース。19歳だった僕は、夏に長い旅をして戻ったところだった。
 旅は全て出逢いと別れ。今日出逢った人はもう明日には別々の道を行く。そんな刹那を繰り返し続けた僕に、「SO LONG」は無常観みたいなものを感じさせてくれた。サヨナラだけが人生さ。

  I say to you So Long 元気でね 
  微笑でそう伝えて手を振る俺なのさ

 オフコースはその頃、「君が、嘘を、ついた」が大ヒットしていた。まだ10代だった僕にはとても違和感があった。売れんがための曲が全てじゃない。
 ただ、小田さんにも寂しさはあったのだと信じたい。鈴木さん脱退前にリリースした「言葉に出来ない」を、鈴木さん最後の武道館コンサートで歌って泣いた小田さんは、鈴木さんを失うことが辛かったのだろう。さよならなんてとても言葉に出来ない。
 それでも、人生は出逢いと別れ。
 
  I say to you So Long 幸せに 
  新しい人を愛して 僕なんか忘れて… 

 全然関係の無い話なのだけれども、インターネットの世界も、旅と似ているように最近は思えてならない。人と人とはすぐに出逢うことが出来る。でもその出逢いは永遠に続くように見えてその実そうではない。やはりここも「So Long」の繰り返しである。
 「それじゃまた」と言う言葉には再会の予感がある。けれども、「また」という一言を書き込めないときもある。もう再び逢うことはないんだ。そんなときに「それじゃ」だけで万感の想いを込めて止めるとき、「So Long」も辛い言葉となる。
 やっぱり人生は出逢いと別れ。それを繰り返して成長していくのが人間なら、僕はまだまだ大人に成りきれていない。


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6 コメント

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鈴木さんのアルバム♪ (jasmintea)
2006-08-06 17:50:32
LP(年がバレる??)を買ってテープに録音したのをいつも聴いていました。

あれは何てアルバムだったかな?

長男がお腹の中にいた頃で胎教が鈴木さんのアルバムだったんですよね~。

私は鈴木さんのサウンドは大好きだし、しつこくない詩も大好き



本当に人生は出会いと別れの繰り返し…

だからこそ周りの人を大切にしたいです。



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LP世代はお互い様(笑) (凛太郎)
2006-08-06 22:34:09
そう言えば以前、アリスの記事だったっけな…鈴木さんが好きと書いておられましたね。「しつこくない詩」とは笑わせていただきましたが(笑)。



しかし、鈴木さんで胎教…のご長男さんも今は○○歳とうかがっています。月日の流れるのは本当に早いですね。SO LONGはもう22年前ですよ。なんということでしょうか(笑)。
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アラレ (6.)
2006-08-10 01:00:36
谷村さんのアルバム「半空」(なかぞらと読みます)に、鈴木さんが参加されています。

オフコースとアリスって共に同じ時代を生きていたグループ。

どちらがいなくても、名曲が成り立たなかった。



ソロはソロでもいいけど

やっぱり、一緒でなければ出ないサウンドってあると思います。



>「さよなら」のリフレインが淀川長治の挨拶に聴こえたからだというだけではあるまい。



これは笑えました。



それじゃ、またといえない別れを

繰り返しながら生きていくこと



慣れることのない淋しさですね。
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凛太郎 (6.とは?)
2006-08-10 23:01:30
あの「さよなら、さよなら、さよなら」って短いセンテンスで歌うからそう聴こえますよね? (笑)

それはさておき。



「半空」に鈴木さんが参加されていたのですか。いやありがとうございます。ご活躍されておられれば重畳です。



人と別れることを考えるたびに鬱になります。僕は、自分では比較的ドライな人間であると思って生きてきたのですが、最近はダメですね。どうも感情が迸ってしまう。年齢のせいかもしれません。うーむ。



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出逢いと別れ (組長~!)
2006-08-11 20:21:16
旅は、本当に出逢いと別れの繰り返しですよね!

嫌いで分かれる分けじゃなくて、また次にも出遭える予感を残しながら分かれるから希望が残ります。

再会できた時の嬉しさは、何とも言えないです!

でも、全ての人とそうなるわけじゃなくて実生活においても「さよなら」だけの人と、「また」って言いたくなる人と大きく分かれてしまいます。

その人と自分との波長かなぁ。(^_^;)



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おかえんなさーい♪ (凛太郎)
2006-08-11 23:17:10
旅から帰られた組長さんですが、もうベテランであられますから(笑)、そういう点は達観されていらっしゃるのかなぁ。別れもあれば出会いもあるわけですから♪ プラスにとらえていかないといけませんねー。 



しかし、実生活の波長の合わないひとと「また」と言いたくない組長さんの心中を慮りますと…。

(* ̄m ̄)プッ (失礼しました~)
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