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銀の枝

2009-03-24 23:49:44 | 児童書・イギリス

「銀の枝」 作:ローズマリ・サトクリフ 訳:猪熊 葉子 発行:株式会社岩波書店

「第九軍団のワシ」に続く、サトクリフのローマン・ブリテンシリーズの第2作であります。前作以上に歴史的知識が必要かとも思いますが…まあなくてもなんとかなるでしょう。わたくしもローマ、イギリスどちらの歴史ともほとんどわかりませんし

「第九軍団のワシ」から時代が下って…(おそらく西暦280~300年くらいの話)ローマ帝国の東のはずれから、西のはずれブリテンにやってきた青年ジャスティン。彼は軍団の軍医としてこの地に来た。到着早々、彼は自分の親戚すじにあたる、フラビウス(マーセルス・フラビウス・アクイラ!)と知り合い、意気投合する。(すなわち、2人は「第九軍団のワシ」の主人公マーカスの祖先になる)

彼らの仕えるのが、「ブリテンの皇帝」を名乗るカロウシウス帝。成り上がりもので、海戦に強く、ローマ軍も彼に勝てなかったため、カロウシウスを認めざるをえなかったのだ。ジャスティンとフラビウスは、ひょんなことからカロウシウスの知己を得る。人間的なものにひかれ、2人はカロウシウスを自分たちの仕えるべき者として認める。

そのカロウシウスに取って代わろうと、彼の側近である大臣のアレクトスが陰謀を企てる。ブリテンの敵(=ローマの敵だ)サクソン人と手を結んで、ブリテンを我が物にしようというのだ。狩りの最中に、アレクトスとサクソン人が密会しているのを目撃した2人は、サクソン人を捕らえて、カロウシウスに注進するが、かえって2人は北壁(=ハドリアヌスの防壁でしょう)の地に左遷されてしまう。

北の地で、2人は「槍のエビカトス」と呼ばれる男と知り合って、カロウシウスの危機がいよいよ迫っていることを知らされた。2人は皇帝あての手紙をエビカトスに託したが、発覚して追われる身となってしまった。逃亡中、3人はカロウシウスがアレクトスに殺されたことを知る。エビカトスと別れた2人は、ドーバー海峡を渡り、西ローマ皇帝コンスタンティウスのもとへ逃げるしかない、と決意する。しかし、運命はジャスティンとフラビウスをブリテンにとどめ、「ワシ」(!)の下に軍団を集めることとなる…。

友情、忠誠心、生と死、どう生きるべきか-まあ他にもいろいろあるんですが、そんなことが、じっくりとした筆致で描かれております。「第九軍団のワシ」と比較して、お話のおもしろさ(「ワシ」は、冒険もの的要素がかなりありましたので)という点では、少し負けてる部分もあるかなと思います。代わりにスパイもの的な要素(ジャスティンとフラビウスが密航の手助けをするくだりなど)があるかな。(…どちらもイギリス的だね。)陰謀とか、裏切りだとか、いわゆる歴史小説らしい部分は、「銀の枝」のほうが多いかな。

あと、男のドラマだったですね。女性の登場人物がほとんど出てこないですね。フラビウスの伯母ホノリアが一番印象的でしたか。ちなみに、ホノリア伯母の家の地下から、「ワシ」が発見されるんです。

本筋とはちがうんですが、印象的なせりふがありました。剣闘士(ローマの円形劇場で見世物として戦う者。「グラディエーター」という映画がこの剣闘士のお話だったそうですな)が、彼を軍団にスカウトしようとするジャスティンに向かってこう言うんです。

「朝に食ったパンとタマネギは、また食うことができると思っている者にとっちゃどうってことはないだろうが、これっきりだとなれば、それはどんな宴会の飯よりもうまいもんだ。頭の上から鉄格子ごしに差しこんでくる日の光だって、明日もまた太陽は昇ると思ってる男が見るよりも、ずっと明るいものなんだ。なぜって、あんたは闘技場の砂の上でたぶん死ぬだろうってことがわかっているからだ。二千人の客の見守るなかで…。もしも、この勝負でなけりゃ、次の試合でな。もしかすれば、百回目にかもしれん。しかし、いつでも、木剣を手に入れる機会はあるんだがね。」

最後の「木剣を手に入れる」というのは、剣闘士を引退することを意味するようです(引退した剣闘士が、新しい剣闘士を訓練する役になると、木剣が与えられた)。剣闘士は、多くが奴隷の身分でしたので、自由になることは、よいことのはず…と思うところですが、日々の勝負に命をかけている者にとって、剣闘士として戦い、観客の喝采を浴びることは、特別な興奮、高揚感があったにちがいありません。上のせりふを吐いた男、パンデラスは、ジャスティンに「普通の仕事などできない、ばくちをうつような仕事がしたいんだ」みたいなことを言います。彼はジャスティンたちの軍団に加わり、戦って壮絶な死を遂げます。赤いバラの花を身につけて。

人生は一度きり。細く長く生きるか、太く短く生きるか。自分は細く長く…のほうに向かっているみたいだ…。それがいいのか、悪いのか、よくわからんがね。

ちょっと本からはなれてしまいました。すみません。でも「銀の枝」は、なかなかいいですよ。歴史アレルギーがなければ(!)、ぜひお読みいただくとよろしいかと。「第九軍団のワシ」を読んでからだと、さらにおもしろさが2倍に(?)なりますです。

"THE SILVER BRANCH" by Rosemary Sutcliff (1957)

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