子どもの本はいい。

大人でもおもしろい子どもの本を紹介するブログ。

農は過去と未来をつなぐ

2013-11-30 15:00:02 | 児童書・日本

「農は過去と未来をつなぐ―田んぼから考えたこと―」 作:宇根 豊 発行:株式会社岩波書店(岩波ジュニア新書)

4005006620 農は過去と未来をつなぐ――田んぼから考えたこと (岩波ジュニア新書)
宇根 豊
岩波書店 2010-08-21

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イネを植えるのに、なぜ田植えって言うんだろう?
田んぼの生きものを数えてみたら、5700種もいることがわかった。
田んぼはイネを育てるだけでなく、多くの生きものを育てているのだ。
環境稲作を提唱してきた著者が、
生産者減少や食糧自給などの問題を考えながら、
「農」が本来もっている価値を1つ1つ拾いあげていく。
(裏表紙より)

職場の近くには田んぼがいくつも見られる。
車で通り過ぎるばかりだが、
季節季節で田んぼが姿を変えていくのを見るのはいいものである。
この本は、もっと田んぼとイコール自然と触れ合ってほしい、
という願いで書かれている。

自分は、田んぼに入ったこともない。
田んぼに入るきっかけとして著者が挙げるのが「生きもの調査」である。
田んぼには実に多種多様な生き物がいるのである。
「行ったこともない原生自然の生物多様性ではなく、
身のまわりのありふれた世界の生きものたちの生物多様性のほうが大切でしょう。」

なるほど、そりゃそうだ。

著者は減農薬運動などをやってきた人だ。しかし、生産効率を上げる目的のために、
農薬を使ったり機械化を進めたりして、農業は自然破壊をしてしまっている。
それではいけない、本来農業は自然をつくり出してきたのだ、というのが著者の主張だ。
なぜ、「稲植え」と言わず、「田植え」というのか。
イネを私が植えて育てる、のでなく、田がイネを育ててくれる、
私はその手伝いをするに過ぎないのだ、ということなのだ。

「つまるところ、百姓仕事とは田をつくりつづけることでしょう。
『百姓は稲を作らず田をつくる』という本質は、百姓仕事が除草剤やコンクリートや
農業機械という近代化技術に浸食されても、まだ骨の部分が健在なのです。
つくりつづける、そのことが美しい、と言いなおすべきでした。
じつは、つくりつづけようとする情念が百姓仕事を支えているのであって、
経済や経営が支えているのではありません。
仕事とは、本来そういうものでした。
なぜなら、仕事の中に、生産物を得る前に、すでに喜びがあったからです。」

最後に、この本は「HONZ」というサイトで見つけたものである。
「HONZ」の影響で、(影響を受けやすいのだ)最近ノンフィクションに興味が
出てきた。たくさん積まれた小説本も読まなきゃいけないのに!

"Nou wa Kako to Mirai wo Tunagu" by Yutaka Une (2010)


忘れ川をこえた子どもたち

2013-11-23 17:46:00 | 児童書

「忘れ川をこえた子どもたち」 作:マリア・グリーペ 訳:大久保貞子 発行:合資会社冨山房

4572004366 忘れ川をこえた子どもたち
マリア・グリーペ ハラルド・グリーペ
冨山房 1979-12-05

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「なげきの村」に、ガラス職人アルベルトの一家が住んでいた。
ある日、市に出かけた一家を不幸が襲う。
2人の子どもたちがいなくなってしまったのだ。
子どもたちは「願いの町」の領主に連れ去られてしまったのだった。
「忘れ川」をこえた子どもたちは家のことを忘れてしまう。
金持ちの領主のもとで何不自由なく暮らす二人だったが、
遊んでくれる人もなくさびしかった。
家の中のガラス器を割り始める弟のクラース。
領主は、2人にベビーシッターをつけるのだったが…。

またもわけのわからんあらすじだ(笑)
ということで、マリア・グリーペをまた読んだ。
これもファンタジー系、というか昔話風で始まるのだが、
やっぱり人の心理や行動が主題になる。
ガラスのことで頭がいっぱいのアルベルト。
アルベルトにかまってもらえず、さびしさと不満でいっぱいの妻ソフィア。
いい人だが、人に善意を押し付ける領主。
そして心に病を抱える領主の妻…。

とても子ども向きとは思えない物語が展開される。
訳者曰く、「グリーペは人間の本質的な問題を追及する」。
まさしくそんな本であります。
他の本(子供たちの日常を書いたもの)も読んでみたいなと思います。
この本絶版のようです。岩波少年文庫あたりで復刊できないものでしょうか。

"GLASBLÅSARNS BARN" by Maria Gripe(1964)


鳴りひびく鐘の時代に

2013-11-12 21:18:36 | 児童書

「鳴りひびく鐘の時代に」 作:マリア・グリーペ 訳:大久保貞子 発行:合資会社冨山房

4572004528 鳴りひびく鐘の時代に
マリア・グリーペ ハラルド・グリーペ
冨山房 1985-02-26

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作者は20世紀後半のスウェーデン児童文学を代表する作家。
作風はファンタジー系と現代の子どもの心理を描くものと二つの傾向があり、
この本は前者に入る。もっとも内容的には現代の若者と同様の(?)人間とは何か、
自分は一体どういう人間なんだ?という問いかけをする、
心理的描写がかなり多い。

少年王アルヴィドが、自分は王に向いていない、
自分は何をなすべきかと悩むところへ、
自分の鞭打ちの身代わり役として、ヘルゲが城にやってくる。
ヘルゲは、母親の弟に育てられ、父親を知らなかった。
そんなヘルゲを、アルヴィドは初めて友だちとして認め、
心を開く。
そんな二人に意外な真実があった…。

わけのわからんあらすじだ(笑)
なんでもホイジンガの「中世の秋」に触発されて、この本を書いたそうである。
なんつって「中世の秋」読んだわけじゃないけど。

自分としては、例によって登場人物のうち、2人の女性が主人公2人に
大きな影響を与えていくところが、とても興味深かったんですね。
さすがは女性作家であります。
全体として、ストーリーうんぬんより登場人物の心理を読んでいく、
そういう本だと思いました。
「小学校高学年からおとなまで」とありましたが、大人のほうが読むべきでしょうね。

"I KLOCKORNAS TID" by Maria Gripe(1965)