子どもの本はいい。

大人でもおもしろい子どもの本を紹介するブログ。

ともしびをかかげてⅡ

2010-01-16 01:42:25 | 児童書・イギリス

「ともしびをかかげて」 作:ローズマリ・サトクリフ 絵:チャールズ・キーピング 訳:猪熊 葉子 発行:株式会社岩波書店

(前回よりつづく)

4001145820 ともしびをかかげて〈下〉 (岩波少年文庫)
Rosemary Sutcliff
岩波書店 2008-04


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サトクリフの小説では、主人公は最初になにかしら困難、障害を背負わされることが多い(それはサトクリフ自身が身体に障害をもっていたことと無関係ではあるまい)。「太陽の戦士」のドレムは片腕が不自由だし、「第九軍団のワシ」のマーカスは、戦闘で足を負傷して、軍人としての未来を絶たれる。では、アクイラはどうか?
アクイラは、ローマ軍がブリテンを離れる時にいっしょにブリテンを離れれば…困難を味わわずに済んだかもしれなかった。しかし彼は残ってしまった。ローマ軍のいなくなるブリテンがめちゃくちゃな状況になることが多分わかっていたにもかかわらず。

要するに、アクイラはみずからの決断で困難をしょいこんでしまったわけだ。
ではなぜ彼は困難な道をえらんだのか?
それは、家族や故郷があることだけでなく、自分がブリトン人である、という強い意識があったからだ、とある。
ブリトン人である以上、ブリテンを捨てて逃げることはできない、と考えたのだ。
彼は損得でなく、自らの尊厳、信念、そんなものを優先したのである。

はたして今の日本人に、信念を貫いて生きているものがどれだけいるだろう?
かくいう自分も、信念などかけらもなく、あっちふらふらこっちふらふらしているだけではないか。

まあ、アクイラにしても、この後さまざまな困難に直面して、迷い、苦しみながら生きていく。奴隷になったころなどは、どうとでもなれ的な精神状態にまで落ちている。それでも、自分がブリトン人だ、という尊厳は捨てなかった。心までサクソン人に売り渡してはいなかった。そして、その「ぶれない生き方」が、不遇の時を脱して、幸運を引き寄せたのだ…ということなのだろう。自分にもいささか覚えのあるところではある。(自分の場合は、生き方がぶれたために、苦しみを味わうことになってしまったのだが)

アクイラに限らず、「ともしびを~」にでてくる人々はそれぞれの考え、信念を持って登場する。例えば、2人の女性-妹フラビアや妻ネスの生き方は、アクイラとまたちがった筋の通ったものである。彼女たちは、男たちにいいように振り回され、それでも生きていくために(そこには愛もある)人生の選択をする。それはある意味やむをえない選択だったのかもしれないが、また最善の選択でもあったのだと思う。女性の強さ、たくましさがそこにはあると思う。

そんな一人一人の人生、生き様が、幾重にも折り重なって、「歴史」がつくられていくのではないだろうかと、そんなことに思い至った。

「われわれはいま、夕日のまえに立っているようにわしには思われるのだ。…そのうち夜がわれわれをおおいつくすだろう。しかしかならず朝はくる。朝はいつでも闇からあらわれる。太陽の沈むのをみた人びとにとっては、そうは思われんかもしれんがね。われわれは『ともしび』をかかげる者だ。なあ友だちよ。われわれは何か燃えるものをかかげて、暗闇と風のなかに光をもたらす者なのだ。」


物語のラストで、医師ユージーニアスがアクイラに向かって語った言葉を引用してみた。「ともしびをかかげる…」は、物語の冒頭でアクイラがルトピエの灯をともすところともつながり、また物語全体を象徴する、見事な締めくくりである。
いいことはすくないかもしれない、つらいことや苦しいことばかりの人生かもしれない、でもいい時も必ずくる、その日のためにわれわれは生きているんじゃないか。いいことがあると信じて生きようじゃないか。
そういうことだ。

またいらんことをくだくだ書いてしまいました。ここまで読んでいただきありがとうございます。

例によって、行って見てきたかのような、克明な情景描写も見事です。
1959年のカーネギー賞を受賞。
万人にはすすめにくいけれども…とてもいい本、じっくり読んでほしい本です。

"THE LANTERN BEARERS" by Rosemary Sutcliff (1959)

★サトクリフの本

ともしびをかかげてⅠ

第九軍団のワシ

銀の枝

    

 

 


ともしびをかかげてⅠ

2010-01-13 00:06:38 | 児童書・イギリス
今年の「書き初め」(?)は、サトクリフの大傑作(!!)「ともしびをかかげて」であります。
下にも書いたように、読むのは苦労しました。しかし読み終わったあとのなんとも表現しがたい充実感は、他にはないものではないかと。
ってことで、わけのわからん文章がえんえんと続きますので、2回に分けることにしました。
よろしければ、おつきあいください。
「ともしびをかかげて」 作:ローズマリ・サトクリフ 絵:チャールズ・キーピング 訳:猪熊 葉子 発行:株式会社岩波書店
4001145812 ともしびをかかげて〈上〉 (岩波少年文庫)
Rosemary Sutcliff
岩波書店 2008-04


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「ローマン・ブリテン四部作」の3作目。ということで、主人公のアクイラは、「第九軍団のワシ」や「銀の枝」の主人公たちの子孫であり、しるしの「イルカの指輪」を持っていて、なおかつイルカの刺青までしている。
岩波少年文庫で読んだ。2分冊、500ページ近くの長編である。まあ、もっと長いのが今はたくさんあるが、内容が今風のファンタジーなどとちがう。
日本人にはなじみがないローマン・ブリテンの時代を描く歴史小説、というだけでもとっつきにくいが、解説の上橋菜穂子氏も指摘するように、主人公になかなか感情移入しにくく、読みきるのは骨が折れた。
去年の3月終わりに上巻を読み始めて、やっと新年1月2日読了。中断時期もたっぷりあったので最初の方は忘れかけているのだが…。
「第九軍団のワシ」、「銀の枝」にはまだ冒険小説的要素があって、ストーリーを追う楽しさがあったけれども、この「ともしびをかかげて」にはそれもない。主人公の厳しい生き様が、ある意味淡々とした筆致で描かれていく。上橋氏曰く、「はじめの数ページで放り出す」人が多いだろうという本である。
だが、読みきってみて思わずうーむとうならずにはいられなかった。うーむ、すごい本だ…と。こりゃ子どもじゃわからんわ、と。
逆に言えばこれを若いうちに読むことは、とてもすごいこと、得るところも多い(?)ことだろうと、思える。
ローマ帝国が衰退し、ブリテンから軍をすべて引き上げる日がきた。ローマ軍人の主人公アクイラは、軍を脱走し、故郷のブリテンに残った。
しかし、サクソン人の襲撃によって家は焼かれ、父は殺され、妹フラビアはサクソン人に連れ去られてしまう。そして自らもサクソン人の奴隷となってしまうのだった。
妹フラビアとの再会、そしてフラビアの力を借りて、奴隷状態を脱し、自由の身になるアクイラだったが、フラビアはサクソン人との間に子どもを設けており、アクイラとともに逃げることは拒む。フラビアはもはやサクソンの人となっていたのだ。
修道士のニンニアスにかくまわれた後、アクイラはローマの生き残りの王子アンブロシウスのもとで、サクソン人たちとの戦いの日々を送る。
結婚、子どもの誕生。妻ネスとは(ある種の政略結婚であるがゆえ)うまくいかない部分もあるが、少しずつ人間らしい幸福感のようなものを感じ始めるアクイラ。
そしてサクソン人との一大決戦の日、アクイラは戦場で、サクソン人の中にフラビアによくにた青年=フラビアの息子を見出したのだった…。
じゃあどこがすごいのか。推測に過ぎないが、この本は、子どもの本なのに子どもに向けて書かれていないのだろう、ということだ。確かにこの本は青少年向けに出版されている、しかし内容は必ずしも青少年向きではない、ということだ。
言い換えると、この本で描かれる人間像(それは主人公だけでない)は、子どもが理解しにくい部分を描いている、むしろある程度人生経験を積んだものでないと理解しづらい部分を描いている、ということだと思う。
(以下、PARTⅡへ)
"THE LANTERN BEARERS" by Rosemary Sutcliff (1959)
★サトクリフの本
    


あけましておめでとうございます

2010-01-08 00:30:19 | 日記・エッセイ・コラム
おくればせながら、あけましておめでとうございます。
宣伝もしていない当ブログを読んでいらっしゃる方、まことにありがとうございます。
文がうまく書けない、まともなブックレビューになってない、更新が少ない…
なかなかうまくいかんものです。
今年はもう少し気楽に書いていきたいものです。
ネタはぼちぼちあるんですが…
いざ、パソコンに向かうとなると、なかなかねえ~
もうすぐ、このブログを始めて1年です。
なにか「企画」のようなものをやってみたいですね。
「1周年記念特別企画」みたいなやつを。
さて、どうなることやら。またお会いしましょう。
おまけに絵本をご紹介します。
だまし絵というのか、ちょっとおっかない絵ですね。

ちょっとマグリットぽい感じもしました。よろしければどうぞ的な1冊ですね。(あまり正月らしくない本ですね)


終わらない夜 終わらない夜
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