子どもの本はいい。

大人でもおもしろい子どもの本を紹介するブログ。

ギヴ・ミー・ア・チャンス 犬と少年の再出発

2019-02-01 22:25:08 | 児童書・日本
「ギヴ・ミー・ア・チャンス 犬と少年の再出発」 作:大塚敦子 発行:株式会社講談社


2014年7月、GMaC(ギヴ・ミー・ア・チャンス=ぼくにチャンスを)と呼ばれるプログラムが、
千葉県にある八街少年院でスタートしました。
非行を犯して少年院に送られた少年たちが、動物愛護センターなどに保護された「保護犬」を訓練する。
その経験をとおして、一度は社会からドロップアウトした少年たちが、少しずつ変わっていきます--。
3か月におよぶプログラムに密着し、少年たちと犬との温かい交流を描く渾身のルポルタージュ!
〈小学上級・中学から〉
(HPから)


以前「犬が来る病院」という本を読みましたが、その作者の大塚さんが書いた、
やはり犬と人との交流を描いた本になります。
「非行をして少年院に送られた少年たちが、なんらかの事情によって捨てられたり、
手放されたりして動物愛護センターなどに保護された「保護犬」を訓練する。
少年たちの手でよい家庭犬となるための基本的な訓練を受けた犬たちは、
希望する家庭に引き取られる。
このプログラムは、捨てられた犬たちを救うこと、そして、犬を救う過程を少年たちに担ってもらうことで、
彼らに社会復帰のきっかけをつかんでもらうことをめざしている。
また、このプログラムは少年院の中だけで完結するのではなく、
社会から一時退場させられている少年たちと社会をつなぐため、
週末は地域のボランティア家庭に犬たちを預かってもらい、
少年たちと日誌を介して交流してもらう。
彼らが訓練した犬を引き取る「セカンドオーナー」にも、少年たちに手紙を書いてもらう。
つまり、一般社会の人びとにも、犬を介して少年たちとかかわることで、
少年院にいる少年たちへの理解とサポートを深めてもらいたい――。
そんな願いを込めて創ったプログラムなのだ。」
長い引用になりました。
本では(当然のことながら)、犬に訓練を与える少年たちの姿、そして少年たちが苦闘しながら、
少しづつ変わっていく姿が描かれます。
訓練は本格的なもので、命令の言葉は英語だし、歩き方やジャンプまで訓練するのです。
自分も犬を飼ったことがありますが、お手やおまわり程度しかできなかったし、
それで困ったことはあまりなかったので、「ここまでしないかんのかな?」とは思いました。
おそらく、「少年たちの訓練」という側面もあるから、訓練もきちんとやるんでしょうね。
親から暴力を受け、人に頼れなくなった少年が、訓練で変わった。
「けっこう楽になったんです、人と接するのが。まえは自分でやんなきゃって思ってたから、
でも、いまは頼ってもいいんだなっていうか。
自分でどうしようもないときは素直に認めて、親とか仕事関係とか帰住先とか、
大変になるときがあると思うんで、そんときは素直に助けてって言えると思う」
人は変われる。人は犬の前で素直な自分に出会うのである。
ぜひご一読ください。
 
"Give Me a Chance" by Atsuko Otsuka(2018)

天からの神火

2019-02-01 22:18:41 | 児童書・日本
「天からの神火」 作:久保田香里 画:小林葉子 発行:株式会社くもん出版
 
 
郡の大領の子、柚麻呂は、郷の少年早矢太の弓のうでまえにあこがれ親しくなる。
しかし、多賀城へ向かう兵士が通ったことをきっかけに、ふたりの立場の違いを思い知らされる。
なにをやっても不器用で、すぐにあきらめてしまう柚麻呂が、へだてを乗りこえるために踏みだす一歩は――
(文研出版HPより)
 
 
「氷石」「駅鈴」につづき、久保田さんの本を読んだ。奈良時代を舞台にした、歴史物語である。
神護景雲元年(767年)、坂東(関東・東北地方の一部)地方の新田郡の大領の末っ子柚麻呂(ゆずまろ)
は、兄たちに似ず、学問も武術もぱっとしない。
競べ弓でさっぱり的に当たらない柚麻呂の矢がそれて、郷の早矢太(はやた)の近くに落ちたのが縁で、
早矢太の弓の腕が並々ならぬことを知る。
それから柚麻呂は早矢太に弓を教えてもらおうとするのだが…。
奈良時代の社会の仕組みや、身分の違い、生活の苦労などが描かれ、それはそれでとても勉強になるのだが…。
最後の「放火」はあまり感心しない。
(こりゃネタバレだ)
柚麻呂が、早矢太の姉が売られるのを止めるために、
米の入った倉庫に火をつけて、米を郷のみんなに持っていかせようとするのだが…。
いくら「神火」(雷が落ちて火がついた、ということ)に見せかけたと言っても、
やっぱり放火は放火じゃなかろうか。
犯罪をしていいとは思えんのだけど。
まあお話のほうは、おとがめなしで終わる。
うーん、ちょっと納得いかんわ。
全体として、柚麻呂のぱっとしない性格が最後にいい方向へ向かい始める、という展開だが、
ぱっとしない、イラっとさせるほうが多いのでその辺も読んでていまいちと思わせる。
前の2作はそれなりによかったが、これはちょっとどうかなあと感じずにはいられない。
とはいえ、お話はテンポよく進んでいくので、読んでいて退屈はしない。
あまりおすすめはしないが、よかったらどうぞ。
 
"Ten kara no Shinka" by Kaori Kubota(2018)
 
 

ゲンバクとよばれた少年

2018-11-14 23:28:10 | 児童書・日本
「ゲンバクとよばれた少年」 作:中村由一 聞き書き:渡辺考 絵:宮尾和孝 発行:株式会社講談社(世の中への扉)


中村由一さんは長崎市内の被差別で生まれました。
2歳10か月で原爆投下のため被爆します。
被爆者であり被差別出身者でもあることで、つらい少年時代を過ごしました。
「ゲンバク」と呼ばれた少年が大人になり、自分の体験を伝えることで差別のない世の中が実現することを願って、
この本を書く決意をしました。

(講談社HPより)


幼いころ原爆に被曝して、運良く助かったけれども…
髪が抜けてしまい、「ハゲ」。
少し髪の毛が生えてきて「カッパ」。
神が生えそろったら「ゲンバク」。
中村さんの小学生時代のあだなです。
同じ長崎でも南のほうだと、原爆はさほどの影響がなかったそうで、
原爆に被曝した中村さんをいじめの標的にしたんですね。
ひどいもんです。
その上に「出身」ということで差別を受ける…。
その中村さんが郵便局に入って、ようやくいい目が出てくる。
もっとも郵便配達は、後遺症の残る身体で、人の2倍時間がかかり、(足が悪い)
ころんで郵便物を濡らしてしまったりしたそうです。
でも結婚もし、通信制の高校にも入って、ようやく人並みの生活ができるようになった。
そんな時に、同じ出身の「おじちゃん」が、自分が出身だとカミングアウトした。
ショックを受けるとともに、勇気づけられた中村さんは、自分も出身だと郵便局で話しました。
でも、だれもそのことで差別はしませんでした。
このころから、問題について活動をはじめ、また学校などで被曝や差別について話をするようになりました。
「子どもたちに話をするときに、かならず聞くことがあります。
 『差別やいじめはなくなると思いますか?』
 ほとんどの子が『なくなりません』とこたえます。
 しかし、ぼくは、はっきりと信じています。
 かならずなくすことができると信じています。」
問題は根深い問題ですが、中村さんのように、隠すのではなくはっきり発言することで、
乗りこえていけるのかもしれません。
差別やいじめがなくなるように、われわれも行動しなければならないと思います。
子どもたち、この本を読んで考えてみてください。

"Genbaku to Yobareta Syounen" by Yoshikazu Nakamura(2018)
 
 

地図を広げて

2018-11-14 23:23:41 | 児童書・日本
「地図を広げて」 作:岩瀬成子 発行:株式会社偕成社


・内容紹介
中学入学前の春、4年前に両親が別れて、父親と2人暮らしの鈴のもとに、母親が倒れたという知らせがとどく。
母はそのまま亡くなってしまい、母親のもとにいた弟の圭が、鈴たちといっしょに暮らすことになった。
たがいに離れていた時間のこと、それぞれがもつ母親との思い出。
さまざまな思いをかかえて揺れ動く子どもたちの感情をこまやかにとらえ、
たがいを思いやりながら、手探りでつくる新しい家族の日々をていねいに描いた感動作。
・著者紹介
岩瀬成子
1950年、山口県に生まれる。77年に『朝はだんだん見えてくる』でデビュー。
同作品で日本児童文学者協会新人賞を受賞。
92年に『「うそじゃないよ」と谷川くんはいった』で小学館文学賞、産経児童出版文化賞を受賞。
95年に『ステゴザウルス』『迷い鳥とぶ』の2作により、路傍の石文学賞を受賞。
2008年に『そのぬくもりはきえない』で日本児童文学者協会賞を受賞。
そのほかの作品に『もうちょっとだけ子どもでいよう』『アルマジロのしっぽ』『となりのこども』
『オール・マイ・ラヴィング』『まつりちゃん』『だれにもいえない』、エッセイ『二十歳だった頃』などがある。

(偕成社HPから)


両親の離婚で別々に引き取られていた姉弟が、一緒に暮らすことになって…だけじゃないんですが。
主人公の鈴の学校生活なども含めて、鈴がどう生きていくかを丹念に追った作品です。
事件らしい事件もなく、それでも心の動きだけで、十分ドラマチックになるという、これぞまさしく「文学」なんだと思いました。
例えばこんな感じ。
「学校でだれかとおしゃべりをしているときにも、こんなことをしている場合じゃなくて、と気持ちがそわそわすることがあった。
頭の中にいろんなことがちらちらと浮かんで、話についていけなくなった。
朝食べたゆで卵のこととか、夜にガラス窓にはりついていた白い蛾のこととか、
寝るまえにきこえたサイレンのことが頭に浮かんできて、何かし残したことがあるような気持ちにいつもなった。
そんな気持ちでみんなの輪の中にいると、みんなにうそをついているような気がした。」
弟の気持ちがわかってきて…
「弟は、と思った。自分の気持ちをだれにも話せなくて、話す言葉が見つからなくて、
そうしろと言われたから、わたしたちと暮らし、友だちもほとんどいない学校に通っているのだ。
弟は毎日、しなきゃいけないと決められていることをしていたのだ。
圭にはここしか逃げこむ場所がなかったのかもしれない。
でも、ここも、圭にとってはちょっとだけいる場所にはなっても、ずっといられる場所じゃない。
どこにもいられなくて、だから圭は自転車で走りまわっているのだろうか。
地図に印をつけながら、どこかに自分が安心していられる場所をさがしていたんだろうか。」
鈴の思いは、やっぱり岩瀬さんの思いとつながっているんだろうなあと。
岩瀬さんは結構なお年ですが、こういう思いは不変のもの、だから今でも十分通用するものですよね。
秋の夜長にじっくりと読んでいただきたい逸品です。
 
"Tizu wo Hirogete" by Jokp Iwase(2018)
 
 

ガラスのうさぎ

2018-10-14 19:40:07 | 児童書・日本
「新版 ガラスのうさぎ」 作:高木敏子 絵:武部本一郎 発行:株式会社金の星社


一九四五年三月十日の東京大空襲で、十二歳の敏子は母と二人の妹を失った。
焼け跡には、敏子の家にあったガラスのうさぎが、変わりはてた姿でころがっていた。
うさぎは、燃えさかる炎に身を焼かれながらも、戦争の悲惨さを見つめ続けていたのだった…。
戦争の中を生きぬいた著者が、平和への祈りをこめて少女時代の体験をつづった感動のノンフィクション。
戦時用語など語句の解説を増やした待望の新版。小学校高学年・中学校向き。

(Amazonより)


…ということで、「ガラスのうさぎ」も読んでみました。
何年ぶりでしょうか。
思っていたのと全然違ってました。
東京大空襲はほとんど出てきません。
(大空襲で作者の母と妹は亡くなってしまいますが…いや行方不明が正しいかな?)
その後、駅で艦載機の機銃掃射にあって、お父さんが亡くなるところはくわしく書かれています。
ひとりぼっちになった敏子は、いろんな人たちの助けを借りながら、必死で生きていきます。
そこのところが、物語の主になっています。
(お兄さんが復員してきて、ひとりぼっちではなくなりますけどね)
仙台の親戚のところで、働かされるところが一番つらいですね。
敏子は最終的に逃げ出してしまうんですが。
けっこう大胆に行動するところがあるようです。
東京に戻り、女学校に通うようになって、彼女がいちばんうれしかったのが、新憲法の制定。
憲法第9条が引用されていました。
戦争が生んだ悲劇を繰り返してはなりません。
今こそ、この本が読まれるべき時なのではないでしょうか。
本筋とは関係ありませんが、この本の挿絵がすばらしいのです。
絵を描いたのは、武部本一郎氏。
自分は、「火星シリーズ」とか「英雄コナン」の挿絵を思い出します。
とにかく、敏子がとても愛らしく描かれているのです。
一番印象に残っているのが、敏子が自殺しようと海に入っているところの挿絵。
以前読んだ時の記憶がよみがえりました。
この挿絵は、今後もぜひ残してほしいと思います。

"Garasu no Usagi" by Toshiko Takagi(1977)