「精霊の守り人」 作:上橋 菜穂子 絵:二木 真希子 発行:株式会社偕成社
なんと、はじめて日本人の書いた本をとりあげます
別に日本の本がだめというわけではありませんが…
たしかに洋物が好きかもしれませんけれども。
今後は和物も積極的に読んでいきたいとは思います。
…で、「守り人」ですね。みんな読んでますよね…。
アニメにもなってるんですってね
世の中変わったもんだ…(かつてのアニメファンのつぶやき)。
とりあえず、読み終わって思ったことなど。
・おもしろい。とても端的に言っておもしろかった。
主人公が30過ぎのおねえさんというのが、なかなかいい。いくつもの危機をのりこえてきたベテランの(?)用心棒、という設定はこの物語では重要である。過酷な運命を課せられて、命を狙われるチャグム皇子を守る用心棒は強くなくてはいけない。同時に子どもを守る、という上で女性のやさしさも時に必要であろう…ということで女用心棒バルサ、っていうのはなかなかいいですね。
アクションシーンなど、文章がとっても生き生きしていていいね。こんな感じ。
「バルサは槍の柄を手のなかですべらした。石突のわずかうえをにぎったバルサは、その石突をよこにふりぬいた。モンは、視界の外から槍の石突がせまるのを感じて、首をひねった。が、よけきれなかった。こめかみのした-急所のわすかしたを石突に強打されて、あっというまになにもわからなくなった。バルサはモンがたおれるのをみもせずに、身をひるがえして森にかけこんでいた。ユンは、顔をきりさかれた激痛にたえて、あとをおおうとしたが、その肩を、おいついてきたジンがつかんでひきとめた。」
アクションに限らず、描写に臨場感があるっていうんでしょうか、架空の世界を描いているわけですが、まるで「見てきたような感じ」がけっこうあって、すごいねえ、と思いました。上橋さんは文化人類学をやっていらっしゃる、とのことですから、学問のほうから、架空の世界を構築するアイデアをどんどんと投入できるんでしょうね。
・ちゃんと児童文学になっている。
この本がえらいのは、まあたしかに若干むずかしいところはあるけれども、小学校高学年の子なら読みこなせるであろう内容・文章になっているということです。
文章については、上の引用のところを見てください。自分が読んだのは子ども向け単行本でして、ひらがなが多めで、なおかつルビが入っております。(軽装版や新潮文庫版は漢字が多くなるが、文章そのものは変わっていないようだ)ぱっと見た感じ、ひらがなが目につきますね。もっともこれは漢字でいいだろう、というものまでひらがなになってるところもありますが。(上で言えば「あとをおおう」は「後を追おう」の方が子どもでもわかりやすいような気はしますが…。)
内容的には、架空の皇国の歴史とか、サグとナユグという2つの世界が重なっているだとか、っていうのは大人でも理解しづらい話で、この手の本を読みなれていないと、入ってこない部分でしょう。しかし、そこがないとお話が成り立たないですよね。だから、この本ではむずかしい部分をなるべくシンプルな形にしているように感じました。
例えば、チャグムは、当初帝(=父親)の放った殺し屋と、ラルンガ〈卵食い〉に命を狙われるのだが、敵が2組もいると、最終的にややこしくなる、と考えたのか、第一皇子(チャグムの兄)が病死してしまい、帝が第二皇子のチャグムを助けなければいけない状況にしてしまって、敵をラルンガひとつにすることで、「みんながチャグムを守る」という、子どもでもわかりやすい構図にした、と思うのですがどうでしょう?
とはいうものの…聞きなれない固有名詞も多いしね…どうやって読んでいるのかな?みんななんとなくわかって、ぐらいで読んでいるんだろうか?(自分もきっちり理解しているわけじゃないしね)まあ、読書ってそういうものなんだろうけど。
オーラス近く、じーんとくる文章があった。またまた引用で恐縮ですが…
「なぜ、ととうてもわからないなにかが、とつぜん、自分をとりまく世界をかえてしまう。その大きな手のなかで、もがきながら、ひっしに生きていくしかないのだ。だれしもが、自分らしい、もがき方で生きぬいていく。まったく後悔のない生き方など、きっと、ありはしないのだ。」
これは、大人でないとわからんひとことやね。今の自分に、こたえるひとことやね。
つづきも、ぼつぼつ読んでいきたいです。ではまた。
"Seirei no Moribito" by Nahoko Uehashi (1996)
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