福島県白河市の県文化財センター白河館「まほろん」は文化財復興展を6月9日まで開いている。東日本大震災で被災し、東京電力福島第一原発事故で警戒区域に指定された市町村のうち、双葉、大熊、富岡3町の資料館収蔵資料約百点が並ぶ。被災ミュージアム再興事業で「救出」された。
避難生活が続く住民にとって、懐かしい土地の香りがする品々は心のよりどころだ。人々が暮らしてきた証しで、郷土の自慢でもある。だが、保存に向けた取り組みはまだ十分といえない。双葉郡の町村は長期間にわたって帰還が難しい地域を多く抱える。故郷とのつながりを維持するためにも、被災文化財の復興対策を急がなければらない。
双葉町の国指定史跡「清戸●[きよとさく]横穴」の土器や勾玉[まがたま]、富岡町に伝わる古文書や大熊町にあった仏像を展示する。仏像は子安観音だ。避難先から訪れた高齢の女性は「お産のたびにお参りした。また拝めてうれしい」と、涙を浮かべて手を合わせたという。
県教委や被災市町村教委、福島大、県文化振興財団などは昨年度、県被災文化財等救援本部を設立した。昨夏以降、3町の資料館に残された古文書や考古資料など約5千点を相馬市の旧相馬女高に運び出した。まほろんに整備した仮保管施設に順次収容している。放射線量を測り、整理する作業は困難を伴う。大熊町からの搬出はほぼ終了したが、富岡町は約半分、双葉町は八割程度が依然、資料館に残ったままだ。
比較的被害が小さかった楢葉町の歴史資料館と、資料館がない他町村の文化財救援はこれから本格化する。職員は復旧や復興の業務に忙殺され、手が回らないのが現状だ。散逸が懸念される個人所有の文化財の把握と保存も課題になる。知識や技術を持った国や県の専門家による支援が欠かせない。
民俗芸能などの無形文化財は、担い手が各地に避難している。民俗芸能学会は調査団を組織し、復活・継承の手だてを探る。県も練習に集まる経費や道具の新調費用を補助する事業を実施しているが、避難生活が長引くほど、継承は難しくなる。練習場や定期的な発表の場が必要になる。
関係者は双葉郡の有形・無形文化財の保存や研究をする総合的な施設の設置を国に求める。郡内の文化財を展示公開し、民俗芸能の発表や郷土料理が楽しめる機能を想定する。郡内か周辺にあれば、帰還の日まで故郷と人々をつなぎ、双葉郡の歴史や文化を後世に伝える重要な役目を果たすはずだ。(鎌田 喜之)
※●は延のツクリが白
2013/04/30 08:16 福島民報論説
避難生活が続く住民にとって、懐かしい土地の香りがする品々は心のよりどころだ。人々が暮らしてきた証しで、郷土の自慢でもある。だが、保存に向けた取り組みはまだ十分といえない。双葉郡の町村は長期間にわたって帰還が難しい地域を多く抱える。故郷とのつながりを維持するためにも、被災文化財の復興対策を急がなければらない。
双葉町の国指定史跡「清戸●[きよとさく]横穴」の土器や勾玉[まがたま]、富岡町に伝わる古文書や大熊町にあった仏像を展示する。仏像は子安観音だ。避難先から訪れた高齢の女性は「お産のたびにお参りした。また拝めてうれしい」と、涙を浮かべて手を合わせたという。
県教委や被災市町村教委、福島大、県文化振興財団などは昨年度、県被災文化財等救援本部を設立した。昨夏以降、3町の資料館に残された古文書や考古資料など約5千点を相馬市の旧相馬女高に運び出した。まほろんに整備した仮保管施設に順次収容している。放射線量を測り、整理する作業は困難を伴う。大熊町からの搬出はほぼ終了したが、富岡町は約半分、双葉町は八割程度が依然、資料館に残ったままだ。
比較的被害が小さかった楢葉町の歴史資料館と、資料館がない他町村の文化財救援はこれから本格化する。職員は復旧や復興の業務に忙殺され、手が回らないのが現状だ。散逸が懸念される個人所有の文化財の把握と保存も課題になる。知識や技術を持った国や県の専門家による支援が欠かせない。
民俗芸能などの無形文化財は、担い手が各地に避難している。民俗芸能学会は調査団を組織し、復活・継承の手だてを探る。県も練習に集まる経費や道具の新調費用を補助する事業を実施しているが、避難生活が長引くほど、継承は難しくなる。練習場や定期的な発表の場が必要になる。
関係者は双葉郡の有形・無形文化財の保存や研究をする総合的な施設の設置を国に求める。郡内の文化財を展示公開し、民俗芸能の発表や郷土料理が楽しめる機能を想定する。郡内か周辺にあれば、帰還の日まで故郷と人々をつなぎ、双葉郡の歴史や文化を後世に伝える重要な役目を果たすはずだ。(鎌田 喜之)
※●は延のツクリが白
2013/04/30 08:16 福島民報論説