Johann Sebastian Bach: “Wachet auf, ruft uns die Stimme” (BWV 140)
Teldec, Das Kantatenwerk Vol. 8 CD1 4509-91762-2
Allan Bergius (Solist des Tölzer Knabenchores), Kurt Equiluz (Tenor), Thomas Hampson (Baß), Tölzer Knabenchor, Concentus musicus Wien, Nikolaus Harnoncourt (Gesamtleitung)
キリスト教の教会暦は、キリスト生誕の日と受難、復活の日を基に定められている。生誕の日は12月25日という固定された日であるが、受難と復活は、元々ユダヤ教の過ぎ越の祭りと関連があり、復活の日は、春分の後最初の満月の次の日曜日と定められている。そのため復活の日曜日は、3月下旬から4月中旬までの間で、年によって変動する。これによって復活の日曜日の前後の日曜祝日の役割が決まり、40日後の木曜日がキリスト昇天の日、50日目に当たる日曜日が精霊降臨の日となり、その次の日曜日が三位一体の祝日となる。この三位一体の祝日の次の日曜日から、「三位一体後の第XX日曜」と名付けられる。三位一体後第27日曜日まである年は、極めてまれにしかない。バッハがライプツィヒのトーマス・カントールだった間には、1731年と1742年にしかなかった。
今年(2008年)は3月23日が復活祭と、非常に早い時期にあったため、11月23日が三位一体後の第27日曜日になる。この稀な機会に、バッハのこの日曜のための唯一のカンタータ「目を覚ましていなさい、と私たちに呼びかける声がする(Wachet auf, ruft uns die Stimme)」(BWV 140)を紹介する。このカンタータは、同名のコラールをもとにした、いわゆるコラールカンタータである。バッハは1724年の三位一体後第1日曜日に始まり、翌1725年4月1日の復活祭第1日曜までに、以前に作曲した作品の再演を含め、41曲のコラールカンタータを作曲、演奏した。おそらくバッハは三位一体の祝日までの教会暦1年分を作曲するつもりであったが、何らかの理由で中断したものと考えられている。その後1730年代になって、これらを補足するものとして、11曲のコラールカンタータを作曲している。
バッハが作曲したコラールカンタータは大きく2種類に分類される。その一つは、コラールの歌詞をすべて用いたもので、その代表的な例は、復活祭第1日曜のためのカンタータ「キリストは死の枷に捕らわれた(Christ lag in Todes Banden)」(BWV 4)である。このカンタータはおそらくアルンシュタットかミュールハウゼン時代に作曲されたものと思われている。もう一つの種類は、コラールの歌詞は一部のみを用い、これにコラールの内容を敷衍した詩を加えたものであり、このタイプのカンタータが圧倒的に多い。 そのうちの1曲がこの三位一体後第27日曜日のためのカンタータである。
三位一体後第27日曜日の礼拝の主題は、マタイによる福音書第25章の1節から13節に語られる花婿を迎えに出る乙女達の喩えで、その13節「だから、目をさましていなさい。」に基づいてフィリップ・ニコライが1599年に作曲したのがこのコラールである。バッハはこれに自由な詩を加えた歌詞をもとに作曲し、1731年11月25日の三位一体後第27日曜日に初演した。作詞者が誰かは分かっていない。全体は7つの楽章からなり、第1楽章はコラール旋律をソプラノが定旋律で唱う合唱曲、第4楽章はヴァイオリンとヴィオラがユニゾンで、それに通奏低音を加えた伴奏の上に、テノール独唱がコラール旋律を歌うトリオ楽章である。この第4楽章は、バッハが晩年の1746年から1750年の間に出版したと考えられているオルガンのための6曲のコラール、いわゆる「シューブラー・コラール」(BWV 645 - 650)の第1曲に編曲された。最後の第7楽章は4声のコラール合唱曲である。
今回紹介するこのカンタータの演奏を収録したCDは、 1972年から1989年までの18年間に渉って順次発売されたテルデックのバッハの教会カンタータ全曲から、現在入手可能な6枚組9巻の第8巻である。BWV 140はその1枚目に収められている。ソプラノ独唱は、テルツ少年合唱団員のアラン・ベルギウス、テノール独唱はクルト・エクヴィルツ、バス独唱はトーマス・ハンプスン、テルツ少年合唱団とコンセントゥス・ムジクス・ヴィーン、指揮はニコラウス・アルノンクールである。もとは1984年に2枚セットのLPで、全集の第35巻として発売されたもので、それによるとこのBWV 140からデジタル録音になっている。このBWV 140とマリアご訪問の祝日のためのカンタータ「心と、口と行いをもって」(BWV 147)の2曲を収録した1枚もののCDが、現在ワーナー・クラシックジャパンのクラシック・ベスト100の92番(WPCS-21092)として発売されている。
現在声楽部も全て男声のオリジナル編成によるこの曲の録音は、このテルデック盤だけなので、是非一度聴いていただきたい。
ボーイソプラノを使ったオリジナル編成で演奏されたバッハのカンタータ全集ですが、ブリリアントから出ています。レオンハルト・アーノンクールにはさすがに演奏力は及びませんが、短期間で一気に録音したこともあって、なかなかまとまっていると思います。価格もCD60枚組で16000円程度と破格の安さですから、こちらも案外魅力的かもしれません