かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

唐津の七ツ釜

2010-08-19 15:12:38 | ゆきずりの*旅
 盆も過ぎたので、どこかへ行こうと友人がやって来た。
 とりあえず、唐津へ行こうということになる。
 佐賀県の場合、どこかへ行こうとなると、唐津・呼子あたりになってしまう。いわゆる玄界灘の海辺の方だ。この辺りに行くと、海の景色も変化に富んでいて、見るものもあり、魚介類の食べ物も美味い。何度行っても、飽きることがない。
 北へ向かって、多久、厳木(きゅうらぎ)、相知を通って唐津に入る。
唐津市街からさらに北へ車を走らせていると、「七ツ釜」の標示が目に入り、急遽そこへ方向を変える。
 七ツ釜とは、玄界灘に面した断崖が海の浸食によってできた並んだ岩穴を言う。釜のような穴が七つ(それ以上あるという)あるのだろう。周りには、玄武岩が柱を並べたような柱状節理があり、いっそう奇観を呈している。
 小学生のとき、海浜学校で初めて唐津の海へ行ったときに見た七ツ釜は、おどろおどろしく横溝正史の獄門島のようであった。
 七ツ釜の上から眺めていると、呼子の町からやって来た遊覧船が七ツ釜の湾内に入ってきた。船の後ろの両サイドには、何やらにょきにょきとした何本かの丸太が波を掻いているようなデザインだ。船体に、「IKAMARU」とある。呼子名産のイカを形どった船なのだ。
 船は、別に「ジーラ」という名のものがある。こちらは、鯨を形どった船だ。かつて江戸時代には、この地では鯨漁も行われていた。
 「IKAMARU」は、しばらく湾内に泊まったあと、穴のあるほうへ動き出し、一つの穴へすっと頭を入れた。(写真)
 穴は奥行き100メートルもあるという。

 七ツ釜の展望台の近くの1軒の食堂の窓に、メニューが手書きで書いてある。イカの生き造り、と真っ先に大書きされている。やはり、この辺りに来たからにはイカの生き造りに限ると、店に入るや、さっそく注文した。
 すると、店の主は申し訳なさそうに、今日はイカがないんですと言う。盆で市場に入らなかったと言う。漁師も盆休みだったのか。やはり、呼子まで行かないとないのか。残念だが、壁に貼ってあるメニューを見ていると、イカの横に、アラカブの唐揚げ、アラカブの味噌汁定食とある。
 アラカブとは大根のことかと頭をひねったら、釣りの趣味もある友人がカサゴだと教えてくれた。カサゴは岩礁などに生息している見た目は悪いが、美味い魚だと言う。僕らはアラカブの唐揚げ定食を頼んだ。
 アラカブは頭からかぶりつくんだと友人は言う。アラカブは、骨も味わうものなのだ。頭から骨ごと齧ったが、それでも骨は残る。付いていたアラカブの味噌汁が美味い。

 七ツ釜を後にし、呼子の町を通って、呼子沖の加部(かべ)島へ渡った。この島へはもう大分前から橋が架かっていて、呼子と地続きの感覚だ。
 加部島には、美しい田島神社がある。2008年の正月、初詣を兼ねて初めてこの神社に来たとき、海に向かって鳥居が立っているのを見て、僕は感動したのだった。
 それに、境内には佐用姫(さよひめ)伝説の佐用姫を祀った神社もある。
 田島神社の海を眺める神社から海の方を見つめていると、対岸の岸壁で少年たちがたむろしている。みんなパンツ1枚だ。やがて、1人が海に飛び込んだ。そして、1人、また1人と宙返りをしながら飛び込んだ。少年たちは、きれいな曲線を描いて海に落ちていった。
 うだるような暑さの中、羨ましい。

 僕らは、はじけるような少年たちの水しぶきを見ていた。僕らも、海に入りたくなった。僕は一瞬自分の少年時代を思い浮かべながら、夏の風景を眺めていた。
 この日も、猛暑だ。
 シャツは汗で濡れている。
 海は青く、空も抜けるように青い。白い雲が今日もゆったりと漂っている。

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