ウォーターセブンを目指すメリー号では、ルフィとチョッパーが船中くまなくウソップを探しまわったが、ウソップはどこにもいなかった。
乗り合わせていた”そげキング”が「彼はさっき小舟で先に帰った」と説明していた。
一方ナミも、船内隈なく”あの声の主”を探したけれどこちらもいなかった。
ココロさん達を除く、”麦わらの一味”は皆、”あの声”が聞こえていて、なんとなく、あれはメリー自身の声ではないかとも思うのだけど、現実的にはそんなわけない・・・と思ってしまうのであった。
そうこうしていると、前から一隻の豪華な船がまっすぐにこちらに向かって進んでくるのが見えた。それはガレーラカンパニーの船で、アイスバーグさんを中心に、ガレーラカンパニーの職人達が大勢乗っていた。
アイスバーグさんは「とんでもねぇ奴らだ。世界政府相手に・・・本当に何もかも奪い返してきやがった・・・!!」と笑った。
職人達はそれに加えて、あのアクアラグラに乗り出して無事でいることにも感嘆した。
アイスバーグの姿を捉えたメリー号は、そこで安心して力尽きたように真っ二つに折れた。
その姿は、まるでアイスバーグに礼を言っているかのようにも、麦わらの一味の事を頼んでいるのかようにも見えた。
自分達を助けてくれた大事な仲間であるメリーの危機に、ルフィは叫んだ。
「やべぇ!!!メリーがやべぇよ!!!何とかしてくれ!!!よかった、お前らみんな船大工だろ!頼むから何とかしてくれ!!ずっと一緒に旅してきた仲間なんだよ!!!さっきもこいつに救われたばっかなんだ!!!」
アイスバーグは険しい顔でルフィに言った。
「だったら、もう眠らせてやれ・・・!!すでにやれるだけの手は尽くした」
ルフィ達がアクアラグナに飛び出した後、アイスバーグは廃船島の方から誰かが小槌を打つ音を聞き、その音を辿って来てみると、そこには麦わら達の船が、アクアラグナにやられて、さらに酷い状態となって浜に打ち上げられていた。
廃船はアクアラグナ以前の問題か・・・と、そのボロボロの船体に手をかけると、その手を通じて”声”が直接頭の中に呼びかけてくるのを感じて、アイスバーグは驚愕した。
その声は『もう一度だけ、走りたいだ』と訴えてきた。
これが船大工に伝わる伝説の・・・、まさか・・・、と思いつつも、アイスバーグは修復の見込みのあるはずもない船の修理に、我を忘れて没頭していた。
自分でも馬鹿げたことだと思いつつ、なんとか自力で立てるところまでメリー号を修復した。
すると、また”あの声”が聞こえた。
『ありがとう』
振り返ると、その船は波にさらわれるように海に出て、一直線に沖を目指して走っていく。
アイスバーグは、この奇跡を見届けねばと、いてもたってもいられず、大シケの中を船を出して、メリー号を追いかけてきていたのだった。
そのメリー号が、まさか麦わらの一味を乗せて、エニエス・ロビーから帰ってこようとは、アイスバーグは思ってもいなかった。
アイスバーグは、麦わら達に言った。
「おれは今・・奇跡を見ている。・・・もう限界なんかとうに越えてる船の奇跡を。長年船大工をやってるが・・・・おれはこんなにすごい海賊船を見たことがない。見事な生き様だった」
ルフィは静かに目を閉じて「・・・・わかった」と答えた。
メリー号との2度目の別れ。
「メリー、海底は暗くて淋しいからな、おれ達が見届ける!!」
みんなが見守る中、ルフィは船長として、自らの手でメリーの船体に火をつけた。
メリー号に火をつけながら、ルフィがつぶやいた。
「ウソップはいなくてよかったかもな・・。あいつがこんなの・・・耐えられるわけがねェ」
ゾロはそげキングに「どう思う?」と聞くと、そげキングは「そんな事はないさ・・・、決別の時は来る。男の別れに涙の一つもあってはいけない。彼にも覚悟はできてる」とウソップの言葉を代弁した。
皆、泣かないように、泣かない様にメリーが燃え上がるのを黙って見守っていた。
「長い間・・おれ達を乗せてくれてありがとう、メリー号」とルフィが言うと、メリーの船体が燃えて舞い上がった灰が、まるで淡雪のように皆に降り注いだ。
後から後から降り積もるメリーの灰の中、麦わらの一味はメリーとの思い出に胸が詰まった。
初めてメリーに逢った日の感動を、海賊旗をつけた時の感動を・・・
みんなであちこち壊してしまい、その度に自分達で修理した日々・・・
メリー号で、夢と憧れだった「グランドライン」へ入ることが出来た日のこと・・・。
グランドラインのどんな気候もどんな海も、渡ってこれたこと・・・
後ろを振り返らず、自分と仲間とメリー号を信じて、ひたすら前へ前へと進んできた日々。
フライングメリー号で空島へと飛びあがったこと・・・
不思議に修理されたメリー号で地上へと還ってきたこと・・・、
そして今、メリーに助けてもらえて生きている事・・・
ルフィの特等席も、ゾロの訓練場所も、ナミのみかんの木スペースも、サンジのキッチンも、チョッパーの庭も、ロビンの手すりも・・・ウソップのメリー号が燃えている。
ナミとチョッパーとそげキングは涙を止める事が出来なかった。
また、あの声が聞こえた。
今度はガレーラの船大工達の耳にもはっきりと聞こえていた。
『ごめんね、もっとみんなを遠くまで運んであげたかった・・・。ごめんね、ずっと一緒に冒険したかった・・・・。だけどぼくは・・・・・』
ルフィが、涙でぐちゃぐちゃになりながら叫んだ。
「ごめんっつーなら!!おれ達の方だぞメリー!!おれ舵ヘタだからよー!!お前を氷山にぶつけたりよー!!帆も破った事あるしよー!!ゾロもサンジもアホだから、いろんなモン壊すしよー!!
そのたんびにウソップが直すんだけどヘタクソでよォ!!!ごめんっつーなら・・・・」
なきじゃくって詫びるルフィの声を遮るように、メリーの声がした。
『だけどぼくは、幸せだった。今まで大切にしてくれて、どうもありがとう。ぼくは本当に幸せだった』
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