むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

台湾とセネガルの断交は、日本外交にも警鐘

2005-10-31 05:12:41 | 台湾政治
 台湾政府は10月25日夜、友邦だった西アフリカのセネガルが中国と国交を樹立し、しかも「台湾は中国の一部であることを承認」したことから、セネガルとの断交を発表した。これで台湾と国交がある国は25カ国になった。
 中国の外交攻勢によって、最近台湾の国交国が減りつつあるが、今回の断交は二つの意味で衝撃的で、台湾各紙は26日、27日付けと二日間にわたって大きく報じた。
 たとえば26日は台湾日報2面(自由時報なし)、聯合報2面、中国時報10面、27日は自由時報4面、台湾日報3面、聯合報2面、中国時報3面がそれぞれほぼ全面を使って特集した。
 衝撃の二つの意味とは、(1)セネガルと中国の国交交渉が極秘におこなわれ、台湾側がまったく掌握できず、国家安全情報収集能力が欠如していることが明らかになった。(2)セネガルは台湾の国交国の中では、規模も大きく、西アフリカの雄としてかなり重要な地位を占めていたこと。
 2000年以降では、欧州のマケドニア、中米のドミニカ国、グラナダ、アフリカのリベリア、大洋州のナウル(その後復交)と断交しているが、マケドニアは関係が短かったし、ほかはそれほど重要な意味を持たなかったし、事前に情報を掌握していたこともあって、それほど騒ぎにはならなかった。
 しかし今回の場合はかなり衝撃的である。実は私自身も来年セネガルに行こうと思っていたからだ。アフリカも行ってみたくなって、ちょうど来年4月にセネガルで国会議員選挙があることから、いろいろと調べていたら、わりとよさそうな国だと思っていた矢先だった。

 セネガルはサハラ以南アフリカとしては、医療衛生設備は比較的ましなほうらしいし、スーパーも発達していて物も豊富らしい。また、文化的にも面白い。
 フランス語が公用語で、部族語もいくつかあるが、それでも地元の部族語のひとつウォロフ語(Wolof)は、サハラ以南のアフリカの民族語としては珍しく国内共通語・超民族語として通用している。もちろん、エチオピアのアムハラ語のようにキリスト教信仰とともに多くの歴史的文献があって現在でも多くの出版物が出ているとか、東アフリカのスワヒリ語のようにやはり文学語としてそれなりの地歩を固めているというわけではないが、コンゴ民主共和国のリンガラ語とともに、国内で広く共通語として使われている例として、アフリカの発展を考えるうえでも面白い例である。
(参照)砂野幸稔「セネガルにおけるウォロフ語使用>報告要旨」http://www3.aa.tufs.ac.jp/~P_aflang/TEXTS/june96/sunano.txt
 また、音楽的にも、世界的に有名な音楽家ユッスー・ンドゥール(Youssou N'Dour)が有名で地元でもよくコンサートをやっているらしい。
 市民団体が活発に活動していて、それが大きな内戦もなく、順調に民主化に移行するための基礎となった点で、同じくフランス語圏でかつては経済繁栄していたコートジボワールがその後内戦になって独裁体制を払拭できなかったことと対比して面白いようだ。
(参考)勝俣誠「第四章 セネガルにおける民主諸制度の運用-2001年のセネガルの政権交代をコートディボワールの政権交代を比較して」www.jiia.or.jp/pdf/global_issues/h14_africa/04_katsumata.pdf
 ほかにも次を参照:
「セネガル概観」http://www.geocities.com/CapitolHill/Congress/4430/dkr-01.htm
「セネガルへようこそ」http://www006.upp.so-net.ne.jp/africa/senegal/
「セネガルがいど」http://www2.mnx.jp/ggg/
「セネガルよもやま話」http://www.d7.dion.ne.jp/~usakou/

 それにしても不思議である。セネガルは1996年に復交してから、かなり緊密な関係にあったはずである。
 台湾と国交がある地域としてはアフリカ、中南米、大洋州があげられるが、台湾がアフリカでそこそこの実績を挙げていたのは、熱帯医療と作物ではかなりの蓄積があって、それを技術・知識提供できたからである。
 しかもセネガルは、台湾と親密になれる条件がほかにもあった。奇遇なことに、2000年に大統領選挙で、それまでの権威主義的長期独裁政党社会党から、民進党と同じくリベラルな民主党に政権交代がなされている。民進党が所属するリベラルインターナショナル(LI、本部はロンドン)にセネガル民主党も参加しており、LIが2002年セネガルの首都ダカールで開いた大会では民進党も当時の謝長廷主席を団長とする代表団を送り、セネガルとの友好関係を政党次元でも深めていた。セネガルはまた市民団体の活動も活発で、アフリカにおける民主化と政局安定の優等生と目されていた。
 もちろんぎくしゃくもあった。2002年のサッカーワールドカップでベスト8に進出したセネガルチームを台湾が招待した際、乱交など破廉恥事件を起こして問題になったことがある。
 しかし、総じて緊密で、私自身は不安定な関係が多い台湾との国交国の中では最も安定した関係にあると思っていた。それが突然の断交である。
 外交部や国家安全局など情報収集部門も、同じように考えてタカをくくっていたのか、セネガルと中国の接触をほとんど知らなかったという。接触はパリで行われていたようだし、さらにセネガル自身も台湾との国交を続ける意思をたびたび示していた。27日付けの各紙が伝えたところによると、陳唐山・外交部長は立法院での質疑に「騙された感じがする」と力なく答えたという。

 ただ、セネガルとの関係も後付けで見ればかなり危機的な兆候があった。
 聯合報27日付け15面に掲載のアフリカ問題専門家の厳震生氏の投書によれば、セネガルはアフリカではエジプト、南ア、アルジェリア、ナイジェリアに次ぐ規模と国力を持つ西アフリカの雄であり、アフリカ内での影響力と発言力が大きい。しかし発言力が大きいということは、それだけ中国との接触の機会も出てくる。まして経済発展を目指すには国連その他国際機関の援助を仰がないといけないから、国連常任理事国中国との関係が必須となる。南アが1997年に台湾と断交した際にも、南アの国際的地位の大きさを一員に挙げていた。ただし、聯合報に出た投書にしてはそれほど台湾に悪意ある内容ではなく、「セネガルと断交後アフリカの国交国は6カ国に減り、1997年にはアフリカに11カ国と国交があったのと比較すれば憂うべき状況だが、しかし1980年代の最も暗黒だった時期に3カ国のみだったのと比べたらそれほど悲観的になる理由はない」とも指摘している。
 また、自由時報27日付4面では、アフリカの国交国ブルキナファソ駐在大使への電話インタビューを掲載している。それによれば、台湾内部で青緑の対立で台湾全体の国力が消耗されて、外交で一貫性と積極性のある策が取れない点を指摘。さらに、問題は中国人はアフリカにおいても生活条件の悪さを関知せずに労働者としてたくさん来ているのに、台湾人はビジネスマンも投資したがらず、アフリカへの投資も少ない。民間関係が薄い状態で外交官だけに外交をゆだねている状態では、たとえ中国の圧力がなくても台湾は外交発展ができないという問題点を指摘している。
 たしかにそのとおりで、台湾人は戦後国民党政権の教育もあって、対米一辺倒で、留学も投資も米国を主体に、日本や中国に集中という形態で、世界を広く見る感覚が欠如している。これは、中国が世界覇権を目指してアフリカも含めたあらゆる国に人材を派遣して、専門家を養成し、投資も行っているのと比べると、きわめて貧弱な状況であることは確かだ。つまり問題は、セネガル断交後に国民党などが批判したように、陳水扁の外交センスの悪さにあるのではなく、野党も含めた台湾人全体の視野の狭さにあるのだ。

 また、27日付け中国時報3面によれば、セネガルをのぞく国交国25か国のすべてが危険で、安心できるものはひとつもない状況だという。
 セネガルなき後、重要なのはバチカン、パナマが残るのみだが、いずれもがきわめて危険な状況だ。ただ、バチカンの場合、聖職者任命問題で譲れないだろうから中国が信教の自由を認めないかぎり、本当に進展はないだろう。ただし、バチカンは72年以降台湾には代理大使を派遣しているのみで、しかも教皇がアジア歴訪しても台湾にだけは立ち寄らないという異常な状態にある。
 90年代までは、中米各国との国交は安定していたはずだが、ここに来て、中米各国の不正政治献金事件で台湾からの献金が問題になってイメージが悪化、さらに中国の経済力も台頭していることから中米の農産物を大量に買い付けていて動揺しているという。
 それでも比較的安定しているのは、アフリカのスワジランドとマラウィ、さらに新聞では指摘されていなかったが、おそらくパラオも安定しているはずだが、台湾外交はかなり危機的状況にあることは確かなようだ。

 しかしこれは、「アジアとアフリカの小国の間の関係断絶」という具合にたかをくくってはいけない。日本にも深刻な問題を投げかけるように思う。
 というのも、中国の外交攻勢は、ひとり台湾を包囲して台湾を完全になきものにして併合するという意図を持っているだけでなく、その目的はその先に、日本からアジアの大国の地位を奪い、中国がアジアの代表として世界にプレゼンスを示すという日本排除の論理も付きまとっているからである。
 私が最近レバノン、ドバイ、タイと旅行して感じたことは、日本のプレゼンスが小さくなり、中国が目立つようになっていることである。
 レバノンを9月30日に出るときに、空港で地元テレビを放映していたが、「おはようレバノン」という番組に中国人の外交研究者が二人出てきて、流暢なアラビア語で話していた。おそらく都合のいいことばかりいっていたのだろうが、アジアに対してわりと好意的な感情をもっているレバノン人からみたら、中国人の言い分はかなり浸透しやすい。しかし問題はそうやって中国が浸透していくと、日本を妨害して、結果的に日本が排除されてしまうことである。
 ドバイでは、圧倒的なインド人の波の中に、ときどき東洋人の顔が混ざっていて、目つきの悪さと怪しげな雰囲気から中国人だとすぐにわかる。中国雑貨店を開いたり、労働者として来ているらしい。ドバイのような保守的で親米的な産油国では、かつてはアジアの国でプレゼンスがあったのは日本だけなはずだ。しかも中東外交はきわめて弱い台湾も、ドバイには代表部をおいておりそれなりの地歩を固めている。しかし、最近ではハイアールの看板も見かけたり中国人の姿も多いこともあいまって、中国の台頭が目につくようになっている。
 これが、反米的なシリア、イランなどなら、中国のプレゼンスはもっと大きく、台湾は根本的に不在、日本も押され気味なのではないか。
 タイでは日本企業や日本人の圧倒的なプレゼンスが健在だったが、それでも現在のタクシン政権は親中国であり、中国の影はひしひしと大きくなっていることが感じられた。
 世界全体を見わたすとわかることは、中国が外交的に台湾を封じ込めて台湾の空間を狭めることは、実は同時に日本を追い落とすことにもつながっていることである。

 その点を気づいている日本人がとくに日本政府にどれだけいるか知らないが、セネガルとの断交も日本にとって警戒すべき点があると思う。
 セネガルはもともと親西側路線であり、日本人もノービザ待遇になっているように、日本にもかなり好意的な対応を保っている。しかし今回中国が国交を回復させたということは、中国がこれからセネガルにも労働者や諜報員も含めて大量に人を送りこむということであり、中国の最近の反日姿勢を見れば日本を排除する方向に工作するだろうことは想像に難くない。
 しかも噴飯モノなのは、セネガルが中国と復交するうえで、中国が20億ドルとも50億ドルとも言われる援助を約束したということである。中国はいわば金でセネガルをつったわけだ。事実、中国との国交を告げるワド大統領の陳水扁総統宛ての親書では「国家間には友人はない。ただ利益があるのみ」と指摘していた。
 しかし、不可解でならないのは、セネガルにそれだけの大金を援助できる中国は同時に、いまだに開発途上国面をして、日本からODAを受けたり、ほかにもゴビ砂漠緑化、西部大開発、貧困解決など、さまざまな名目で金をせびっている点である。それなら、日本は「セネガルにこれだけの金を援助しているなら、日本から援助は減らせばいいですね」といって、その分の援助額を削減するべきだし、セネガルが断交前の台湾に援助を要求したなら、日本が肩代わりして拠出するくらいのことをしてもよさそうなものである。

 というのも、台湾と国交がある国は、必然的に日本とも緊密で好意的、その逆に中国と緊密な国は日本と疎遠という関係が見られるからである(もちろんそれぞれ例外はある)。
 たとえば、別に私は常任理事国入りに積極的賛成派ではない(どちらかというと消極的)だが、国連改革枠組み決議案(G4案)の共同提案国で、G4を除く23カ国を見ると、次のようになる(以下、◎は台湾と正式に外交関係がある国、〇は台湾と国交はないが台湾に好意的な国、×は台湾とは関係が悪い)。
アジア(3カ国):アフガニスタン、ブータン×、モルディブ
ヨーロッパ(12カ国):ベルギー、チェコ〇、デンマーク、フランス×、グルジア、ギリシャ、アイスランド〇、ラトビア〇、ポーランド、ポルトガル×、ウクライナ、リトアニア
大洋州(7カ国):フィジー〇、キリバス◎、ナウル◎、パラオ◎、ソロモン◎、ツバル◎、マーシャル◎
中南米(3カ国):ハイチ◎、ホンジュラス◎、パラグアイ◎

 これを見れば一目瞭然だが、台湾と関係が深いところは、日本にも好意的である。G4は日本だけではないのだが、日本が入っていることに中国が反発していることから、ここで共同提案国になったところは中国および日本との関係がもっぱら焦点となる。
 中国は台湾だけをいじめていると考えるとしたら間違いだ。台湾をいじめて完全に追い込んで手中に収めることは実は過程と手段に過ぎず、その先には日本を追い落とし、日本を孤立化させるという遠大な目標があるのである。
 ところが、問題は日本の外交もお寒いもので、コイズミ政権登場以降はあまりにも米国一辺倒になりすぎて、日本が従来米国とは一線を画して独自に築いてきた東南アジアや中東・アフリカとの関係は、最近はおろそかになっているような気がする。米国との友好関係は重要だが、米国と心中するつもりでもないかぎり、米国とは距離をおいたり反米意識が強い東南アジアや中東においても米国追随外交では、日本自身のプレゼンスと足場を失うだけではないのか。小泉氏の果敢さはある程度は買うが、国際的視野が狭い点では、小泉外交は批判されてしかるべきであろう。

 いろいろ述べたが、要するに言いたいことは、台湾外交の苦境は、そのまま日本にも影響する問題であるということだ。台湾とセネガルとの断交は、対岸の火事ではなく、日本の外交戦略にも問題を突きつけているといえるだろう。日本も腰をすえて外交戦略の建て直しと見直しを図るときだろう。

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