むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

TVBSは100%中国資本

2005-11-02 22:42:51 | 台湾政治
国民党および中国寄りの姿勢が明確なテレビ局TVBSが100%中国資本だという疑惑が民進党国会議員によって暴露されたことから、「違法だから目居を取り消せ」とする緑色陣営と「言論弾圧」だとする青色陣営の間で綱引きが続いている。
暴露された情報によると、現在台湾のメディア関連法制の規定では、外国資本は50%を超えてはいけないことになっている。
TVBSの場合、台湾で設立された東方彩視公司が53%、英領バミューダ諸島に登記上の本社を置く百慕大(バミューダ)公司が47%となっていて、表向きは海外の会社が47%で規定に沿っているように見える。ところが、東方彩視公司は資本金100万台湾元(350万円)程度の小さなペーパーカンパニーであって、その何百倍にも相当する53%分の資金はない。資金は結局百慕大から出ており、その百慕大は中国政府と密接な関係にある邵逸夫が出資し、北アイルランドに籍を置く中国人で中国のメディア事業と密接な関係を有する費道宜が会長となっている。さらに中国はこれまでにも「東方」という名を冠したメディア企業を作って北米などで華僑向け宣伝工作を行ってきたことから、台湾にある東方彩視も、同じ手法と目的をもって設立されたものだという。

TVBSはもともと香港のTVBが台湾プロ野球を仕切っていた邱復生(親民党に近い)と組んでケーブルテレビが盛んになった90年代前半に設立された。当初は事実上国民党営のテレビ局が支配する構造の中で、国民党政権も批判するなど独自色を出して人気を得た。1995年ごろは当時の李登輝総統も既存局を批判して、「TVBSは良い」といったこともある。
しかし、李登輝の下で国民党の本土化(台湾化)と改革が進むと、争点がそれまでの古い外省人世代の「独裁守旧派」か、外省人若手も含めた「民主改革派」かではなく、台湾土着の価値を高めて将来的独立を想定する「本土・独立派」か、中華民国の価値に固執して将来の中国との統一を想定する「統一派」かの対立に移行すると、それまで外省人若手改革の立場だったTVBSは本性をむき出しにして、台湾本土・独立の動きの足を露骨に引っ張るようになった。これが陳水扁政権成立後はさらに加速化し、いまでは新聞の聯合報、中国時報、国民党直系テレビの中視(中国テレビ)、中国資本が設立し、二転三転をへて現在は中国時報系の中天などとともに大中国守旧派のメディアとして、民進党のリベラルかつ台湾土着志向の改革の足を引っ張ってきた。そして、その資本構成について最近になって詳しく調べてみると、香港TVBと邱復生ではなく、バミューダなどの怪しげな名前になっていた、というわけである。

もちろん、自由な言論市場という観点からみれば、メディアがどういう立場をとるかはそのメディアの自由だ。しかし、白色テロでほんとうの独裁体制の時にはそのお先棒をかついできた現在守旧派の言論人が、「言論の自由」を錦の御旗にして、その言論の自由のため、恐怖政治に立ち向かい、ときには投獄されたり死の危険にさらされた経験をもつ、自由化の功労者からなる進歩改革政権を攻撃するのは、やはり尋常ではない。
メディアというのは本来は、政府の保守性を批判し、進歩改革の立場から政府を監督するのが役割のはずである。ところが、台湾の場合は政府のほうが進歩的で、メディアは保守的というか反動的なのである。これと似た状況は勧告でも存在するから、新興民主主義国家の宿命なのかも知れない。しかし、台湾を扼殺しようとしている中国の手によるものとしたら事は重大である。

民進党や台連の議員は違法であるとして、監督権限を持つ新聞局に対してTVBSの免許取り消しを求めた。これに対して国民党側、とくに親民党は「取り消すなら言論弾圧であり、100万人抗議デモを仕掛ける」と脅して抵抗している。
白色テロ時代に言論弾圧の張本人だった人たちが中枢を占める親民党が、かつての過ちを謝罪も反省もせずに、違法行為を「言論の自由」問題に摩り替えるのは白々しいといわざるをえない。

ただし、今回は民進党も戦術としては幼稚だといえる。
TVBSは以前から中国資本の流入がうわさされていたし、政府中枢は実態をつかんでいたはずだ。もしそれを問題にするなら、2-3年前にとっくに問題にするか、あるいは遅くとも、3月26日に中国の「反国家分裂法」に抗議するデモを緑色陣営などが行ったときに暴露してしかるべきだった。
今回の場合、陳水扁総統側近のギャンブル疑惑をTVBSに暴露されて、反撃を試みたという「単なる政治闘争」の意味合いが強い。まして、8月に新聞局がテレビ局への免許更新を行ったばかりである。8月に「違法はない」として認可して置きながら、前からわかっていたはずの「中国資本」を持ち出して、いまさら取り消すのでは、大義名分はないし、タイミングが悪い。
青色陣営の攻勢に怖気づいたのか、陳水扁総統は11月1日に「任期中にテレビ局を閉鎖することはしない」と約束してしまった。しかしこれでは、問題の野放しである。

民進党はもともとリベラル市民勢力と連携をとってきて、自身も運動を進めてきた体質があるため、政府になっても市民運動感覚で、守旧勢力の問題を自分自身で訴えようとするが、それは問題だ。いまだに台湾政府の要は国民党系守旧官僚がおさえていて、民進党政権には権力があまりないとはいえ、政府はやはり権力者である。政府が自ら音頭をとって守旧派メディアを攻撃するというのでは、言論弾圧と見られても仕方がない(同じ問題は韓国の進歩派政権にもある)。
こういう性質の問題は、むしろ進歩改革の側に立つ民間のメディア監視団体に任せるべきだろう。政府が情報を公開して、それを使ってメディア監視団体が問題提起を行い、抗議活動をする。それによって世論を喚起して、世論の批判と圧力によって守旧派メディアの改革を導く、という具合にすればよい。

最新の画像もっと見る