最近の台湾、とくに民進党政権はツいていない。
8月下旬に高雄MRT(都市交通システム)建設作業に従事するタイ人労働者による「暴動」が起こって以降、台湾、民進党政権をめぐる不利な話があいついでいる。とくに先週10月25日の「光復節」(国民党側の言い方、国民党が日本から台湾施政権を奪った記念日)には、野党版NCC組織法成立、民進党系高官も関係していると噂される株式市場「禿鷹ファンド」インサイダー取引事件求刑、アフリカの友邦セネガルとの断交と、大事件が相次いだ。
その前後にも、釜山で開かれるAPECへの台湾代表について、陳水扁政権が推薦していた国民党籍の王金平・立法院長の案が主催者の韓国側に拒否されている。また高雄MRT建設疑惑をめぐって、国民党右派系の聯合報や中国系のテレビTVBSなどが、業者から接待を受けたとの疑惑がある陳哲男・元総統府副秘書長が韓国チェジュ島の賭博場にいた写真を暴露したことから、クリーンイメージが強かった民進党のイメージが一挙に傷ついた。
やや有利な話といえば、ハンセン病強制隔離問題訴訟で、東京地裁で25日、韓国人原告敗訴、台湾人原告勝訴の判決が出た点だけは、台湾にとって有利なニュースだった。
雰囲気はかなり落ち込んでいる。私自身も気分が重い。
発端となった高雄MRT建設タイ人労働者の暴動は8月22日に発生した。待遇が不当として不満のタイ人が暴動を起こした。これに対する台湾人・民進党政権の対応は、当初はまともだった。というのも、「タイ人の宿泊所の条件が悪く、タイ人への差別対応があった」と率先して反省したからだ。私が知っている限りでは、台湾人の外国人労働者の待遇は、差別があるとはいっても、他国(とくに日本や韓国)のそれに比べたらまだまだ人道的なほうだとは思うが、差別があったことは事実だし、それを率先して自己反省した点は台湾人の善良さを示すものとして賞賛に値すると思った。
ところが、その後、民進党の良心で女性政治家として人気も高い陳菊・労工委員会主任委員(労働大臣)が、待遇差別など労働政策の誤りの責任をとって辞任したあたりから、別の暗雲が出てきた。というのも野党側がこの事件を契機に、高雄MRT建設をめぐって政府高官、高雄市高官の接待疑惑などを持ち出したからだ。
高雄市は代理市長の陳其邁氏が辞任、女性の葉菊蘭氏が代理市長となった。
10月に入ってから高雄にある国営企業・中国鋼鉄の林文淵会長による「社員持ち株不正取引」疑惑を野党側があげつらい、林会長が辞任に追い込まれた。さらに今年初めから続いているハイテク株のインサイダー取引疑惑をめぐって、民進党上層部を含む金融監督責任者が検察の調査対象となっていることが明らかになった。
また、野党側は謝長廷行政院長の腹心である姚文智・新聞局長の素行などを槍玉に挙げて非難作戦を進行。新聞局が持っているテレビラジオの許認可権限を取り上げて、立法院が主導する「國家通訊傳播委員會(国家通信委員会、NCC)」なる機関で放送の許認可を行う「NCC組織法」を野党が過半数を占める立法院で上程、25日に可決された。
一連の問題は、陳水扁総統を標的にもしているが、主に謝長廷・行政院長を狙い撃ちしていることは一目瞭然。謝氏は2月に行政院長になるまでは高雄市長だったし、高雄MRT、新聞局なども謝氏に近い人物が関わっているからだ。もともと彼は浮き沈みが激しく、これまでも身内などのスキャンダルに巻き込まれて政治生命を危うくすることがあり、運が良いとはいえない。私も個人的に、謝氏が行政院長になったときに、「また何かスキャンダルに巻き込まれなければいいが、大丈夫か」と不安を持ったが、その予感が的中した感じだ。
謝氏は民進党の幹部の中では数少ない留学経験があり(しかも日本)、頭の回転が速く、切れ者で、策謀にも長けている。しかし、頭の回転が速すぎて、話が遠い先を見すぎているので、台湾人には理解されにくいし、さらに独立問題などさまざまな発言では(本心は別として)、支持者から反発を受けやすい言い回しをわざと使うなど、偏屈なところが災いして、能力のわりには反感をもたれやすいところがある。
今回もそれが裏目に出ている感じがしなくもない。
不思議なのは、本来民進党は危機管理能力は比較的優れていて(というのも、結党以来危機の連続だったから)、これまで国民党側から悪意ある「疑惑暴露」があっても、その都度即座に対応して(本当に悪い部分があればすぐに自己調査・処分するなどみぎれいにして)切り抜けてきたものだが、どうも今回は違うところである。対処の速度が遅くてもたもたしている感じなのだ。それがまた従来からの支持層の失望を買い、12月3日に予定される県市長など地方トリプル選挙の雰囲気を悪くしている。
NCC組織法は、まだいい。たしかにこの法律の内容は、許認可の審査を立法院の議席比例に応じて割り当てられた政党推薦代表によって行うというもので、青色陣営お得意の方法(青色陣営が立法院で永久に多数派だという前提があるのだろうか?)だが、はっきりいって立法権による行政権侵害、権力分立原則否定の噴飯モノの法案なのだが、だが結果的には悪くはないと思う。
というのも、民進党政権が新聞局を握っていても、実際に下で動いているのは国民党系の守旧官僚だから、韓国の進歩政権が果敢に行ったように許認可権限を駆使して、保守的メディアの是正を行うところまでいっていない。TVBSのように明らかに中国資本で作られているものを取り消しにできない。7月にはいくつかのテレビチャンネルの免許を取り消したが、なぜか緑系の台湾語局がほとんど。「国境を越えた記者団」が「野党テレビを弾圧した」と批判している東森Sチャンネル許可取り消しも、東森自身は日和見で国民党色が強いわけではないから、「野党テレビを閉鎖して弾圧した」ことにはならない。結局新聞局は右翼国民党勢力に対抗する姿勢は弱く、機能していないことがわかる。
民進党に近い記者も「どうせ今より悪くなるはずがない」と指摘していたが、私はむしろNCCのように各党の議席に配分して、オープンな方法で審査したほうが、新聞局の国民党官僚が密室で審査する現行方式よりは、まだしもまともになると思う。はっきりいって民進党政権5年になっても、官僚の多くはまだまだ守旧派国民党で占められているのだから、行政部門を握っていれば権限があるとはいえない。
だからNCCはそんなに悪い話ではないと思う。
最近おこった事件で、今後の悪影響を一番心配しているのは、セネガルとの断交問題である。このまま行くと、台湾の存立そのものが大丈夫かという心配になってきた。これについては別稿で議論したい。
8月下旬に高雄MRT(都市交通システム)建設作業に従事するタイ人労働者による「暴動」が起こって以降、台湾、民進党政権をめぐる不利な話があいついでいる。とくに先週10月25日の「光復節」(国民党側の言い方、国民党が日本から台湾施政権を奪った記念日)には、野党版NCC組織法成立、民進党系高官も関係していると噂される株式市場「禿鷹ファンド」インサイダー取引事件求刑、アフリカの友邦セネガルとの断交と、大事件が相次いだ。
その前後にも、釜山で開かれるAPECへの台湾代表について、陳水扁政権が推薦していた国民党籍の王金平・立法院長の案が主催者の韓国側に拒否されている。また高雄MRT建設疑惑をめぐって、国民党右派系の聯合報や中国系のテレビTVBSなどが、業者から接待を受けたとの疑惑がある陳哲男・元総統府副秘書長が韓国チェジュ島の賭博場にいた写真を暴露したことから、クリーンイメージが強かった民進党のイメージが一挙に傷ついた。
やや有利な話といえば、ハンセン病強制隔離問題訴訟で、東京地裁で25日、韓国人原告敗訴、台湾人原告勝訴の判決が出た点だけは、台湾にとって有利なニュースだった。
雰囲気はかなり落ち込んでいる。私自身も気分が重い。
発端となった高雄MRT建設タイ人労働者の暴動は8月22日に発生した。待遇が不当として不満のタイ人が暴動を起こした。これに対する台湾人・民進党政権の対応は、当初はまともだった。というのも、「タイ人の宿泊所の条件が悪く、タイ人への差別対応があった」と率先して反省したからだ。私が知っている限りでは、台湾人の外国人労働者の待遇は、差別があるとはいっても、他国(とくに日本や韓国)のそれに比べたらまだまだ人道的なほうだとは思うが、差別があったことは事実だし、それを率先して自己反省した点は台湾人の善良さを示すものとして賞賛に値すると思った。
ところが、その後、民進党の良心で女性政治家として人気も高い陳菊・労工委員会主任委員(労働大臣)が、待遇差別など労働政策の誤りの責任をとって辞任したあたりから、別の暗雲が出てきた。というのも野党側がこの事件を契機に、高雄MRT建設をめぐって政府高官、高雄市高官の接待疑惑などを持ち出したからだ。
高雄市は代理市長の陳其邁氏が辞任、女性の葉菊蘭氏が代理市長となった。
10月に入ってから高雄にある国営企業・中国鋼鉄の林文淵会長による「社員持ち株不正取引」疑惑を野党側があげつらい、林会長が辞任に追い込まれた。さらに今年初めから続いているハイテク株のインサイダー取引疑惑をめぐって、民進党上層部を含む金融監督責任者が検察の調査対象となっていることが明らかになった。
また、野党側は謝長廷行政院長の腹心である姚文智・新聞局長の素行などを槍玉に挙げて非難作戦を進行。新聞局が持っているテレビラジオの許認可権限を取り上げて、立法院が主導する「國家通訊傳播委員會(国家通信委員会、NCC)」なる機関で放送の許認可を行う「NCC組織法」を野党が過半数を占める立法院で上程、25日に可決された。
一連の問題は、陳水扁総統を標的にもしているが、主に謝長廷・行政院長を狙い撃ちしていることは一目瞭然。謝氏は2月に行政院長になるまでは高雄市長だったし、高雄MRT、新聞局なども謝氏に近い人物が関わっているからだ。もともと彼は浮き沈みが激しく、これまでも身内などのスキャンダルに巻き込まれて政治生命を危うくすることがあり、運が良いとはいえない。私も個人的に、謝氏が行政院長になったときに、「また何かスキャンダルに巻き込まれなければいいが、大丈夫か」と不安を持ったが、その予感が的中した感じだ。
謝氏は民進党の幹部の中では数少ない留学経験があり(しかも日本)、頭の回転が速く、切れ者で、策謀にも長けている。しかし、頭の回転が速すぎて、話が遠い先を見すぎているので、台湾人には理解されにくいし、さらに独立問題などさまざまな発言では(本心は別として)、支持者から反発を受けやすい言い回しをわざと使うなど、偏屈なところが災いして、能力のわりには反感をもたれやすいところがある。
今回もそれが裏目に出ている感じがしなくもない。
不思議なのは、本来民進党は危機管理能力は比較的優れていて(というのも、結党以来危機の連続だったから)、これまで国民党側から悪意ある「疑惑暴露」があっても、その都度即座に対応して(本当に悪い部分があればすぐに自己調査・処分するなどみぎれいにして)切り抜けてきたものだが、どうも今回は違うところである。対処の速度が遅くてもたもたしている感じなのだ。それがまた従来からの支持層の失望を買い、12月3日に予定される県市長など地方トリプル選挙の雰囲気を悪くしている。
NCC組織法は、まだいい。たしかにこの法律の内容は、許認可の審査を立法院の議席比例に応じて割り当てられた政党推薦代表によって行うというもので、青色陣営お得意の方法(青色陣営が立法院で永久に多数派だという前提があるのだろうか?)だが、はっきりいって立法権による行政権侵害、権力分立原則否定の噴飯モノの法案なのだが、だが結果的には悪くはないと思う。
というのも、民進党政権が新聞局を握っていても、実際に下で動いているのは国民党系の守旧官僚だから、韓国の進歩政権が果敢に行ったように許認可権限を駆使して、保守的メディアの是正を行うところまでいっていない。TVBSのように明らかに中国資本で作られているものを取り消しにできない。7月にはいくつかのテレビチャンネルの免許を取り消したが、なぜか緑系の台湾語局がほとんど。「国境を越えた記者団」が「野党テレビを弾圧した」と批判している東森Sチャンネル許可取り消しも、東森自身は日和見で国民党色が強いわけではないから、「野党テレビを閉鎖して弾圧した」ことにはならない。結局新聞局は右翼国民党勢力に対抗する姿勢は弱く、機能していないことがわかる。
民進党に近い記者も「どうせ今より悪くなるはずがない」と指摘していたが、私はむしろNCCのように各党の議席に配分して、オープンな方法で審査したほうが、新聞局の国民党官僚が密室で審査する現行方式よりは、まだしもまともになると思う。はっきりいって民進党政権5年になっても、官僚の多くはまだまだ守旧派国民党で占められているのだから、行政部門を握っていれば権限があるとはいえない。
だからNCCはそんなに悪い話ではないと思う。
最近おこった事件で、今後の悪影響を一番心配しているのは、セネガルとの断交問題である。このまま行くと、台湾の存立そのものが大丈夫かという心配になってきた。これについては別稿で議論したい。









