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口角をゆっくりと上げてニヤリ笑ったかと思うと、赤い舌をのぞかせる。
そんな霧太郎の挑戦的な笑みが目に焼きついた舞台だった。
荒唐無稽なところも含めて歌舞伎らしく、見るべきところがいっぱいあって
誰にでも楽しめるお芝居だと思った。
以下、全面的にネタバレです。ご注意ください。長いです。
<配役>
橋之助(盗賊霧太郎実は鬼一法眼) 愛之助(源実朝/薬売り喜之平)
勘太郎(北條義時) 七之助(傾城櫻木実は千代姫)
薪車(悪禅師公曉) 亀鶴(比企軍太夫) 彌十郎(和田新左衛門)
萬次郎(北條政子/母妙正) 京蔵(喜之平女房おいさ)
<あらすじ>
鎌倉二代将軍・頼家の死後、その弟・実朝が将軍になる日も間近。
そこに現れた天狗の霧太郎。日の本を魔界に変え、掌中に納めようと画策。
頼家の遺児・悪禅師公暁を利用して、源氏の白旗と名剣鬼切丸を奪う。
一方、傾城・櫻木は比企軍太夫から言い寄られるが、櫻木は義時にかねてよ
りの思いを告げ、すぐに二人は相思相愛に。
義時は実朝の病気見舞いにと鬼切丸を持参する。が、木の枝とすり替わって
おり、鬼切丸を紛失した罪で勘当の身に。
なぜかその鬼切丸を手に入れた薬売りの喜之平。元の主人である義時を助け
たいと思いつつも、いま仕えている霧太郎を裏切るわけにもいかず、鬼切丸
をどうするかで板ばさみになり苦悶する。
喜之平から鬼切丸を奪い返した霧太郎はその後、源義経の娘である櫻木を連
れ去る。が、和田新左衛門の働きにより、天下を意のままに操るという野望
は阻まれる。はたして霧太郎は捕えられるのか?
<全体の印象と座席の関係>
昼・夜ぶっつづけで7時間40分の観劇。おかげで帰ったらぐっすり眠って
しまったので感想も書けずじまい(笑)。
個人的に今回は、座席が花道の左か右かでものすごく印象の違う観劇になっ
た。昼の部は花道外側の席。花道で大事な場面を演じる義時の表情が見られ
なかったのが残念で。また、1回目は全体を見通そうとして、ただ楽しいだ
けで終わってしまった感じ。見方が悪いのか散漫に感じられ、そこがちょっ
と不満だった。
夜の部はセンター席で観劇。こんどは登場人物の心情をクローズアップして
見ようと試みた。義時の切なさも、霧太郎の不気味さも、花道の右側のほう
がより感じられたし、割腹場面の喜之平には俄然、感情移入できた。
今回は2回観て、ようやくマル。
<舞台装置、演出などの印象>
「アナログ歌舞伎」がキーワードらしい。コクーン歌舞伎やパルコ歌舞伎は
見ていても、スーパー歌舞伎を知らない私には今回の舞台がどのくらいアナ
ログなのかはわからないけれど、いろんな仕掛けが楽しめたと思う。
宙乗りはさすがにすごかった。その滞空時間の長さといい、南座3階まで届
く高さといい、移動距離といい。橋之助さん、とても高所恐怖症の人とは思
えない見応えのある演出だったと思う。
真下から見た七之助さんの掌が華奢できれいだった。
手をつないだ二人のタンデム宙乗り(←正式名称があるのかも)。途中、そ
の手を放し、七之助さんが落ちてゆく演出にヒヤッとさせられたり。
このときだけは2階や3階席の人がすごく羨ましかった。
でもでも、実は私が一番好きな演出は、天狗の手先となって働くカラス天狗
たちの不思議な動き。
浜辺の松の木をクルンと回ったり、スルスルッと下りたり。屋根の上に登場
したり。とりわけ、その場で何度も高くジャンプし続けながら、音をほとん
どたてない脚力の素晴しさ。
JAEも顔負けの歌舞伎役者さんたちの身体能力の高さにホレボレ♪
暗闇の中のだんまりも面白い。登場人物全員をカッコよく見せながらも、ス
トーリーの鍵となる重要な出来事を盛り込んだ心憎い演出。ここはイヤホン
ガイドがなかったら気づいていなかったかも。
公曉の持っていた鬼切丸を喜之平がつかみ、喜之平の薬箱の札を公曉が引き
抜くんだった・・・よね。これが喜之平の割腹の伏線なわけだけど、あれは
すれ違いざまに偶然起きたこと? それとも喜之平が義時を助けるために暗
闇で狙ったことなのか? そこが知りたい!!
演出で一つ、見られなくて残念だったのが喜之平の羽のくだり。
「霧太郎と主従の誓いを結ぶと背中から羽が生えてくるらしいんです」と
愛之助さんが言ってた通り、羽が生えてきてだんだん大きくなってゆくのを
アナログの仕掛けで目に見える形で見たかったなー。
喜之平が何回か「これは面妖な」と言いながら背中を気にしている場面が伏
線になってはいたけれど。次回、再演時にはぜひ!!
おもな配役についての感想は観劇メモ(2)につづきます。
『霧太郎天狗酒もり』@ムーブ!(このブログ内の関連記事)
三月花形歌舞伎「霧太郎天狗酒もり」 観劇メモ(2)(このブログ内の関連記事)