星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

ウィー・トーマス  □観劇メモ

2006-06-25 | 観劇メモ(演劇・ダンス系)

 公演名 ウィー・トーマス
 劇場 シアター・ドラマシティ
 観劇日 2006年6月24日(土) 
14:00開演
 座席 10列


○観劇を決めた理由
 長塚圭史さんの演出作品だから

<あらすじ>
1993年、アイルランドのイニシュモア島。
ある民家のテーブルに、頭を半分吹き飛ばされた猫の死骸が。この猫の飼い主
パドレイクは、目下、IRAから分派したINLA(アイルランド国民解放軍)の活動
のため、父親に猫を預けたまま留守中。問題なのは、パドレイクが5歳の時から
その猫を異常に可愛がっていたこと。狂気に満ちたパドレイクがこのことを知っ
たら・・・。パドレイクの父親ダニーと、猫の死骸を見つけたデーヴィッドは
なんとか猫の死を隠そうと工作する。
拷問中に猫の一大事を聞いたパドレイクは拷問を中止してすぐに島に戻り、ま
もなく二人のマヌケな隠蔽工作を見抜く。
猫にからんで登場するのは、パドレイクに片目を撃たれたクリスティと、ブレ
ンダン、ジョーの3人組。そこにパドレイクに恋する過激な女の子マレードも
からみ、猫1匹から始まってどんどん死体が増えていく・・・。

以下、全てかなりネタバレです。
暴力や、スプラッターな表現が苦手な人は絶対に読まないでください!!

<全体を通しての感想>
初演は平日公演で見られなかったため、これがまったくの初見。
ブラックユーモアがきいて、ほろ苦くもある、不思議なテイストの作品だった。
スプラッター系のバイオレンス劇かといえば、言葉としてはその通りだけど、
そればかりではない。むしろ、私はそれよりも若者たちの行動のベースになっ
ている彼らが育った土地、風土のほうに興味がわいた。
また、ラストの会話のせいで、あんな凄惨な現場をみたはずなのに後味は全然
わるくなかった。ブラックだけれど苦笑いではなくて、B級ホラーの要素もあっ
て気楽に笑い飛ばせる面白さだったと思う。
カーテンコールで登場したキャストたちが客席に向かって振る手が(血で染まっ
て)真っ赤というのは、なかなか壮観だった。
アイリッシュの音楽もとてもよかった。

<舞台セットや美術について>
開演と同時に劇場の照明が消えると、波の音が聞こえてきた。
その瞬間私は、デヴィッド・リーン監督の映画「ライアンの娘」に出てくるア
イルランドの空と海を頭に思い浮かべた。

場面のほとんどが、一軒の民家のリビングルームで進行していく。
舞台セットとしては、家の向こうや家の横に石積みの塀が見えているぐらい。
にもかかわらず、島の背景というか、ディテールがなぜか印象に残った。
登場人物の台詞の端々から、ここが島であることや、海が迫っていることを思
わせる道幅の狭さ、島の暮らしは質素であることなどがわかってくる。
大きな月や黄昏時の風景がとても寂しく空しく、きれいに見えた。
パンフレットの長塚圭史さんのインタビューによれば、初演が終わってから実
際のイニシュモア島を訪ねたとのこと。印象としては「ただの岩の山」とか。
そういう不毛の地に育った若者たちがIRAやその反対勢力に関心を持ちのめり込
んでいく感じが、舞台を見ていてもなんとなく伝わってきた。

死体については「ラストショウ」を先に見ていてヨカッタと思った(笑)。
免疫ができていたというか、目が慣れていたというか。
最初の猫の死体はたしかに悲惨だった。ただ、その状況説明の会話のほうがもっ
と気持ち悪かったので、目で見る怖さのほうはすぐに克服できた。
人間の死体を切り刻むシーンは普通に考えれば凄惨だけれど、芝居にはリアリ
ティがなく、客席からは笑いが何度も起こったぐらい。
あえてあげるならば、パドレイクの口から血が音を立てて流れ続ける場面が私に
は一番気持ち悪かった。

<登場人物について>
●パドレイク(高岡蒼甫さん)
彼は狂気に満ちた人物。クレイジーの度が強すぎてIRAにも入れなかったほど。
他人に対しては厳しく、拷問したり、仲間の目を撃ち抜いたりするのに、自分
の猫<ウィー・トーマス>にだけは異常に愛情を注いでいた。ペットというよ
り親友だった。その偏愛の情がこの作品の核になっている。
それにしても自分の猫を守りきれなかったというだけで、なぜパドレイクは父
親を殺そうとしたのか? なぜそこまで父親をモノのように軽んじれるのか? 
それがずっと疑問だったのだが、後になって父親の罪を述べるシーンが衝撃的。
高岡蒼甫さんが漂わせる狂気はストレートで熱かった。いい意味で気色悪くも
醜くもなかった。猫が死んだとわかった時に激しく呼吸をしながら話す場面。
特に息継ぎする声がとても印象に残っている。

●マレード(岡本綾さん)
つねに銃を肩にかけている過激な16歳の女の子。兄のデイヴィーよりも芯が
しっかりしていて、純粋で筋が通っているように見える。
が、一歩間違えばとんでもない方向にいきそうな危うさを持っている。
島の牛の目を60ヤ-ド(?)離れた場所から撃ち抜いたという武勇伝の持ち
主でもある。また、パドレイクに恋するかわいい面も持っている。
時間がたつにつれ、この作品の主役はマレードではないかと思えてきた。
岡本綾さんは初舞台と思えないほど堂々としていて、かわいくて過激なマレー
ドを演じて違和感がなかった。マレードが島に戻るパドレイクを待っている時、
銃をもち、独立運動の歌を歌いながら無邪気に口紅を塗っているところが好き。
マレードのラストシーンについては後述するつもり。

●その他のキャスト
コワモテなのに意外にイイ人に見えた父親ダニー役の木村祐一さん。ロングヘ
アーにこだわり続け、いつのまにか恐怖を楽しんでいるように見えたデイヴィー
役の少路勇介さん。ブラックコメディの間とか感覚がとてもハマッていた、片
目のクリスティ役の堀部圭亮さん。一生懸命さが哀しみとおかしさを誘うジョー
イ役の富岡晃一郎さん。線が1本確実に切れている感じが妙にカッコよかった
ブレンダン役のチョウソンハさん
。宙づりお疲れさま、カーテンコールの肉体
美にビックリしたジェームス役の今奈良孝行さん

<ラスト前のシーンについて>
気になる点が一つ。
マレードが最後にパドレイクを撃ったのは、自分の猫を殺した相手が憎くて復
讐したのか、それとも冷淡に処刑を遂行しただけなのかということ。
パドレークとマレードはその直前、結婚の約束をし、二人でいっしょに分派を
作っている。「ウィー・トーマス・アーミー」。
その行動計画の最初にあげたのが「猫の頭を撃ったヤツを殺る」だった。
ただし、不衛生な猫は撃たれても仕方ない、という条件をつけて。
「私の猫は不衛生じゃない!」と叫ぶマレードは、自分の親友である猫のサー・
ロジャーズをパドレイクに殺された悲しみをぶつけている気がするのだけど、
その後、パドレイクの死後に「いまから私が中尉よ」とつけ足すマレードは、
恐ろしくクールに任務を遂行する鉄の女のようにも見えた。猫とパドレイクを
同時に失った悲しみのあまりそう口走ったのか。それとも本気でクールな女中
尉の誕生を意味するのか。
そこを考えていたところ、パンフレットに翻訳家の大嶋豊さんのこんな解説が。
女(マレード)にとって男(パドレイク)は島を出るための手段・・・という
ような意味のことが書かれている。そうか! ・・・その手があったか(笑)。
私は独立運動の歌を歌いながら退場するマレードが、ここであきらめたのでは
なく、男には頼らない本物の女兵士としてきっと再生するのではないかと、勝
手にそう信じている。

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