星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

能楽劇「夜叉ヶ池」  観劇メモ

2007-10-28 | 観劇メモ(伝統芸能系)

公演名    「夜叉ヶ池」~能・狂言と演劇との出会い~
劇場     シアター・ドラマシティ
観劇日    2007年10月21日(日)
上演時間   19:00開演
座席     20列

「夜叉ケ池」。玉三郎さん主演の映画も、監修の舞台も私は見ていない。
3年前、三池崇史演出、長塚圭史脚本の舞台を観たが、異界どころか大霊界な役者
さんが舞台上でプロンプトを読む演出に集中力がプツンと切れた。
能楽劇「夜叉ヶ池」~能・狂言と演劇との出会い~
今回このサブタイトルを見て、あ、これだ!と思った。
5月に三響会の公演に行ったことが明らかに私の嗜好に影響を与えている。
今度こそ「夜叉ケ池」の世界にちゃんと出会えるチャンスかも。



キャスト
晃(百合の夫):湖月わたる  学圓(晃の親友):小林十市  
泉鏡花(原作者):尾上青楓  百合(村娘):牧瀬里穂

白雪姫(夜叉ケ池の主):梅若六郎  童:中村梅枝
鯰入(千蛇ケ池よりの使い):三宅近成 
河太郎(千蛇ケ池よりの使い):高澤祐介 
鮒七(千蛇ケ池よりの使い):河路雅義
虎杖入道(姫の従者):角当直隆  鯖江入道(姫の従者):鷹尾維教 
鯖波太郎(姫の従者):鷹尾章弘  骨寄鬼(姫の従者):山崎正道 

畑上嘉傳次(村長):中平良夫  権堂管八(村の有志):石橋徹郎
鹿見宅膳(神官、百合の叔父):青山伊津美  穴隈鉱蔵(代議士):大滝寛
傳吉(博徒):田原正治  傳吉の子分:今岡雅彦
斉藤初雄:上川路啓志  村の者:太田周作、水谷悟  歌(録音):愛耀子

スタッフ
監修・出演:梅若六郎  スーパーバイザー:野村萬斎  邦楽:藤間勘十郎
演出:高橋正徳  原作:泉鏡花  台本:村上湛


<あらすじ>
越前の国(現在の福井県)・夜叉ケ池に住む妖怪・白雪姫は、加賀の国(現在の石
川県)白山・千蛇ケ池の公達(若者)と恋仲でありながら、先祖代々の盟約によっ
て池を出ることができない。
伯爵家の嫡男・萩原晃は、旅の途中で出会った孤独な美女、百合と契り、鐘撞男と
なってこの山すじに暮らしている。
京都帝国大学教授の学僧、山澤学圓は、晃と無二の親友だった。大干魃の夏も、こ
こばかりは清らかな清水が流れる。
と、雨乞いの生贄に立てようと百合を襲う、鬼畜のごとき村人たち。その背後では
白雪姫はじめ異界の妖霊たちが人間たちの違約の時を待つ。一度でも誓いの鐘を撞
かぬが最後、たちまち大洪水が襲い、村は水底に沈むのだ。
百合・晃・学圓の運命は・・・。
(以上、パンフレットより引用。)

<舞台装置など>
鏡花が進行役で登場。舞台上手の文机の前にすわったり、舞台前方に立ってト書き
を読むという演出。ときどきキャストに絡まれたり、劇の中に参加することもある。
舞台セット自体はかなりシンプル。
舞台を横切るように設えられた小川が前方に。川の畔には百合の花々。奥に数段の
階段があり壇上へ。上がった壇の頭上には大きな釣鐘が下がっている。釣鐘の背景
として、ときおり時間や天候の変化を表す照明効果が入る。
以上は人間が住む世界。
一方の夜叉ケ池のほうでは、能舞台のような四角い壇が設えられていて、異界の出
来事はすべてこの上で表現される。花道はない。
最後の大洪水シーンではスモークが効果的に使われ、幻想的な雰囲気を醸していた。

<スーパーコラボレーション>
演劇、狂言、能の3つの分野からなる劇。
そのうえキャストは各界からの超コラボレーションだった。
●演劇
泉鏡花役の尾上青楓さんは日本舞踊家。学圓役の小林十市さんは元バレエダンサー。
晃役の湖月わたるさんは元宝塚スター。ここに牧瀬里穂さんが百合役で分け入る。
晃になぜ湖月わたるさんが起用されたのか、全部観終わってから思い当たった。能
と狂言という非日常劇とバランスをとるためには、演劇部分にもファンタジーが必
要だったのでは?
晃の台詞に「僕は物語そのものになったんだ」というのがある。湖月わたるさんが
演じると、こんな言葉が妙にナットクできた。白髪の仮髪を被って気分転換をする
と、照れながら親友に話す時のキュートさは湖月さんならではなのかもしれない。
(カーテンコールでわかったのだけれど、私の周辺、というより観客の半分以上が
湖月わたるさんのファンのようだった。)

●狂言
狂言方和泉流の3人が登場。千蛇ケ池よりの使いとして手紙を夜叉ケ池の白雪姫に
届ける役で、鯰入はナマズっぽく、河太郎はカッパらしく、鮒七は魚らしいお面を
かぶっている。
この場面は能楽に入る前の橋渡しにもなっているのか、いろいろ笑いをとってリラッ
クスさせてくれる。手紙を届ける道々(何度も舞台前方の階段を昇ったり降りたり)、
白雪姫と千蛇ケ池の公達の恋のいきさつや、人間との盟約についても話してくれる
という楽しいガイダンスの時間でもある。

●能
白雪姫役は観世流シテ方能楽師の梅若六郎さん。白雪姫はもちろん、他の従者もお
面をかぶって、いかにも異界、妖怪然としている。
急に舞台が重々しく感じられ、緊張モードに変わった。これが能楽の雰囲気なのか。
そんななか白雪姫の脇に侍る白塗りの童役の若者が爽やか気。この人物だけは話せ
そうな雰囲気(笑)。と思ったら、歌舞伎俳優の中村梅枝さんだった。(先日、お
父様である時蔵さんの梅川を歌舞伎座で見たばかりだ。)
狂言が口語古典語だったのに比べ、能の部分は文語古典語で語られる。これを理解
するのは私には無理で、途中、眠くなってしまった(苦笑)。あとでパンフレット
に掲載された台本を見てようやく台詞がわかった次第。
ただ、白雪姫の衣装が途中から鱗に変わったのは気づいた。蛇に限らず、龍神も鱗
なんだろうか?
こちらの住人たちを見ていると、もしかして人間こそが仮の世界に生きているので
はと思わせられた。そのくらい存在感があったということだろう。

<異界の住人との出会い>
観劇してみて・・・やっぱり理解はできなかった(笑)。
ただ、ワタシ的にはやっと出会えたような気がする、夜叉ケ池の世界と。
直観的にわかった気がする、自然への畏怖の念が。
それは人間界から隔絶された場所に潜みながら、何百年にもわたって人間との盟約
を守り続けている異界の住人たちの蠢き、忍耐、怨念。恋に執着する姫の激情。
ついに人間が盟約を破った時に見せた自然界の圧倒的なチカラ。
村人と戦う晃が、とうとう誓いの鐘を<撞かない>決心をし、鐘の綱を自ら切り落
とすと、雷鳴がとどろき、秘めていたエネルギーを一気に噴出させる怒号の響きが
やってくる。洪水が生き物のような長い舌で村中をなめつくし、ついに飲み込んで
しまう光景が見えた。
娘道成寺を思わせるあの心高ぶる音楽とともに、なんだか私もろとも飲み込まれて
しまったような不思議な快感。その後の劇場全体を包むカタルシス・・・。
最後に言う白雪姫の、本心から出た言葉が好き。
 今こそ時よ、盟約も尽きたり。
 「嬉しやな」
落ちた釣鐘の影で洪水をやりすごした晃と百合。百合が生き返り、二人喜び合う。
白雪姫もやっと自由な恋ができる喜びに満たされている。その頭上には大きな月が。

パンフレットの泉鏡花記念館、穴倉玉日さんの解説によれば、鏡花の生涯にわたる
テーマは「恋愛至上主義」だそうだ。

●関連リンク 
梅田芸術劇場「夜叉ケ池」
当ブログの泉鏡花記念館観覧メモ


花組芝居 泉鏡花の「夜叉が池」大楽 観劇メモ(このブログ内の関連記事)


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4 コメント

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吉弥丈の万年姥の記事トラバします。 (とみ)
2007-10-28 22:17:56
>ムンパリさま
異種芸能コラボも見慣れないといけませんね。丁寧なエントリ,楽しませて頂きました。
覚悟めされませ。二年前の吉弥丈の万年姥最高でしたよ。以下拙宅より。
「ブラボーなのが万年姥の吉弥丈。姫への愛情と説得力,魔界を守る自負。何よりお若い頃は白雪姫に勝るとも劣らないであろう美貌の残照を拵えておられ,思わず贔屓として胸を張る。」
姥が立派なので,姫も立派に見えました。お声もええし,夜は薄でした。御殿女中の拵えもサイコーです。
読ませて頂きました♪ (ムンパリ)
2007-10-29 00:41:06
とみさん、トラバありがとうございます。
玉三郎さん監修の舞台・・・やはりこれは歌舞伎で見たい作品ですね。吉弥さんの萬年姥、さぞかし味わい深かったことでしょう。
今回の夜叉ケ池には残念ながら萬年姥が登場しませんでした。初演にはあった役なので私もそちらが観たかったですね! この再演では姥の台詞を童が言うので、分別のある不思議な童になっていました(笑)。
私は… (かしまし娘)
2007-10-29 11:39:04
ムンパリ様、まいど!
>3年前、三池崇史演出、長塚圭史脚本の舞台を観たが
私は、これWOWOWで観たのですが、
映画監督の手にかかると、舞台がこうなるのか。という驚きと、
役者が役に近づいいたんじゃなく、役が役者に接近した。と思わせる演出に
ズキュンズキュン来ました~(笑)
テレビだから、ナマ観したムンパリさんとは同じラインからは観ているわけじゃないのですが…。

あ、歌舞伎で観た時はじぇんじぇんグッサリ来ませんでした…。
とみさんと逆だ(笑)。あ、吉弥はナイスだって自分で書いてる(己のレポを読み返しました)

「夜叉ヶ池」の3D化ってとっても難しい気がして。
泉鏡花はみんなそうですよね。
”どう幻想するのか”その角度で全く違うものになる気がする…。
しかし、今回の作品は色んな世界観がてんこ盛りですね!

小林十市が気になります。
落語家の柳家花禄のお兄ちゃんだし(笑)
「プリマダム」(ドラマ)も見たし。

梅枝も気になる気になる。
テレビでやらないかにゃ~。
おっ! (ムンパリ)
2007-10-29 19:18:26
かしまし娘さん、まいど!2
> 役者が役に近づいいたんじゃなく、役が役者に接近した。
あの作品、全部現代語で書かれた脚本はよかったんですよー。そのアイデアも♪ 既成概念にとらわれない衣装とか、松雪さんの台詞回しもキライじゃなかった。でも、堂々とプロンプトを読んでしまうというその一点がううっ、ワシには、ワシには・・・ゆるせん!かったのじゃ。(←誰やねんっ?) 録画DVDで、もう一度見直してみようかな。

今回面白かったのは、感覚的に能そのものが私には異界だったからなんですよ。だって、白雪姫ってお面だし(笑)。きれいなお面の下から男性の太い声が厳かに聞こえてくるんだもん。(歌舞伎だと女性の声色に変わるのに。)そんな姫が自分の恋のために人間の命なんて知るか!なんてコワイけどすっごく女らしいワガママを言うところがねー。
ただ、舞も音楽もいいんだけど、心から楽しむには言葉遣いをクリアしなければ、と思いました。

> 「夜叉ヶ池」の3D化ってとっても難しい気がして。
そうかもしれないですね。鏡花の世界観を把握した人が独善的でもいいからしっかり絵にして見せてほしい。かなり前に「海神別荘」を辻村ジュサブローさん(現、寿三郎さん)の人形で観たことがあるんですけど、ジュサブローと鏡花の世界観はピッタリだったなーと思います。

> 小林十市が気になります。
> 落語家の柳家花禄のお兄ちゃんだし(笑)
そうそう、花禄さんのねえ~♪なかなか好感持てる人ですね!
なんか「夜叉ヶ池」ってハマリそう。これからもチェックしたい演目です。

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