紫匂う花房の<1>

2017-04-14 | ss(紫匂う花房の)
※<原作8巻その後>をイメージしたお話です。ネタばれ要素を多く含みますので閲覧ご注意下さい。※



届いたお文を読み終え文机に置くと、知らず深い深いため息が出てしまった。

卯月の昼下がり───

澄んだ空には刷毛でサッと描いたような薄い雲が散り、その中を鳶が気持ちよさそうに回遊している。

三条邸の庭には花が咲き乱れ、どこからか鳥のさえずりが聞こえ、文句の付けようのない春爛漫の風情ではある。

その中であたしは何とも冴えない気分で脇息に寄りかかり、じっと文机の文を見た。

この文は、畏き辺りからの───

はっきり言うと鷹男からの文なんである。

帥の宮事件の後、鷹男からの連絡は途絶えていた。

それも当然で、とにかくあの事件は京を揺るがす大事件だったし、さすがに鷹男にも堪えたみたいだった。

あたしはあたしで高彬が死線を彷徨ってる時に鷹男のことなんか思い出しもしなかったし、むしろ鷹男が

「右近少将はどうしたのかっ?!この失態、必ず後で詮議するぞ!」

とヒスってたって後になって聞いた時は、ブチ切れそうになったくらいだった。

なーにが失態よ、なーにが詮議よって感じでさ。

さんざん高彬のことを「少しヤキモチ焼かせてやろう」なんて言ってオモチャにして遊んでたくせに、よっく言うわよって感じ。

だから鷹男からの連絡が途絶えていたことなんて気にもしてなかったし、どちかって言うと清々したって気持ちもあったのよ。

あたしはもう、高彬が一番大事な人で、2番なんてないって気分だったし。

それが高彬の容態も落ち着いて、少しずつ出仕を始めた頃、鷹男から非公式にお文が届いたのだ。

それがまたえらく心のこもった内容で、とにかく右近少将が無事で良かった、とか書き連ねてあって、あたしもホッとした気持ちもあったから返事を書いたりもしたんだけど。

そうしたらまた文が来て、何度かやり取りをしてるうちに、段々と意味ありげなことを書いてくるようになったのよ。

あの人って本当に根っからのプレイボーイなのよ、きっと。

ノーテンキって言うかさ。

あたしもまだ独身の頃なら、そう言うのを多少は楽しむ気持ちもあったけど、何て言うかあんな事件のあった後だと、ほんとよくやるなぁ、とか呆れる気持ちの方が強くなっちゃって。

この文のことは高彬には言ってない。

鷹男と2人だけの秘密、とか、そんな甘やかな気持ちではもちろんないわよ。

何て言うか、高彬を失望させたくないなぁ・・・とか、そんな気持ちなの。

だって高彬は変わらず鷹男に忠誠を誓っているし、大火傷を負った時だって、どれだけ高彬が鷹男のことを思っていたかをあたしは知っているから。

それがまた、あたしに意味ありげな文を贈ってきてるなんて知ったら、あまりに高彬が可哀想だもの。







~続きます。


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