瑠璃ガール<50>

2018-11-30 | ss(現代・高等科編)
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まったく頭に来ちゃう!

何なのよ、高彬のあの言い草!

まるであたしからもらうのを牽制してるかのようなことばっかり言っちゃってさ。

高彬め、そんなにあたしからの手編みのプレゼントが欲しくないのか。

なーにが

『瑠璃さん、そもそも不器用だろ』

よ。

女心なんてこれっぽっちも分からない高彬に言われたくないわよ。

鈍感!

最近うっかり忘れがちだったけど、思えばあいつはあたしより年下なのよ。

なのにあの言い方!

年下のガキのくせに生意気な!!

怒りに任せて猛ダッシュしながら、思い付く限りの悪態を付く。

走り過ぎて、学校に着く頃にはヘトヘトだった。

「・・・どうしたの、瑠璃。赤い顔して」

昇降口で亜実に声を掛けられたけど、あたしは返事をせずにムンズと上履きを掴むとローファーを脱ぎすごい勢いで履き代えた。

「まぁまぁ、何よ、朝っぱらから粗雑ですこと」

ホコりを払う仕草をしながら亜実は言い、あたしはそのまま教室へと向かった。

一時限目の数学が始まっても気持ちは収まらず、数式の解説を聞きながら、あたしは唐突にあることを思い付いた。

(いっそ、高彬に告白してやるって言うのはどうかしら)

そんなにあたしの手編みのマフラーを欲しくないって言うんなら、尚のこと、あげてしまうってわけ。

思えばあたしが高彬に何も言わないでいるのは、どこかで「高彬を困らせたくない」って気持ちが働いているからなのよ。

あたしたち幼馴染だし、卒業するまではあたしの送り迎えが父さまから言い付けられた任務だし、あたしが告白したらやっぱり高彬は困るんじゃないかな・・・なんて思って。

困るって言うか気まずいって言うかさ。

なんてあわれ深い女心なのかしら、あたしって。

でも、さっきのあんな言い草を聞くと、そんな風に気を使ってることが馬鹿みたいに思えてしまった。

言いたいこと盛大に言ってやってさ、それで高彬が困るなら勝手に困ってりゃいいのよ。

まぁあたしも多少は気まずいかも知れないけど、どうせ卒業まで数か月だもんね。

卒業したら会わなくなるんだから、その間だけ辛抱したらいいんだし。

とにかくあたしの気まずさよりも、高彬が困ったら「ザマーミロ」と言う気がする。

考えれば考える程、妙案な気がされ、居ても立ってもいられなくなったあたしは早退することにした。

告白すると決まったら、早く帰って志乃さんにマフラーの編み方教わらなきゃ。

チャイムを待ち、一目散に教員室に向かう。

うちの学園の教員室は、生徒と教員の垣根を無くし、かつオープンなものにしたいとか言う理由で、教員室は動物園かと見紛うような全面ガラス張りなので、担任の姿はすぐに見つかった。

中に入って行ってもいいけど、先生から気付いてくれるとありがたいんだけど・・・

そんな思いでガラスの前をウロウロしてたら、期待通りに担任が気が付いて出て来てくれた。

「どうしたの、瑠璃ちゃん」

24歳の若くて綺麗な担任は受け持つ生徒のことを下の名前で呼ぶ。

「先生、すみません。今日、早退します」

「早退って・・・、どうしたの?具合でも悪いの?少し顔が赤いようにも見えるけど、熱でもあるのかしら・・・」

赤いのは色々考えて興奮状態だからなんだけど、その方が話が早いからあたしは頷いた。

「わかったわ。じゃあ藤原くんに言わないと・・・」

「だ、だ、大丈夫です!」

慌てて手を前で振る。

高彬があたしの登下校を任されてることは、ほぼ学園中の人に知れ渡っているのだ。

でも、高彬に送ってもらうなんて真っ平ごめんよ!

「家に電話して途中まで迎えに来てもらうので一人で帰れます、失礼します」

言いたいことだけ言い、頭をペコンと下げると、カバンを取るため教室に戻る。

確か高彬のクラスは二時限目が体育だったはずだから、皆、更衣室に向かっているはず。

念のため、教室に誰もいないことを確認し、あたしは逃げるように学園を後にした。

いつもの半分以下の時間で帰宅したあたしは玄関を開けるなり

「志乃さん!マフラーの編み方教えて!」

そう叫ぶと、奥から驚いた顔をした志乃さんが飛び出してきた。




<続>



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高彬ボーイ<49>

2018-11-27 | ss(現代・高等科編)
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「高彬、・・・女の子と本屋さん入っていかなかった?・・・誰?」

「え・・・」

少し息の上がった声で聞かれ、口ごもってしまった。

女の子?

誰だ、それ。

一瞬、本気で考えて

────あぁ、大江のことか・・

と気付いた。

大江のこと「女の子」だなんて思って見たことなかったからな・・・

「夏に・・・、ほら、海の帰りに電車乗り過ごして千葉まで行ったことがあっただろ?その時に泊めてもらった家の娘だよ」

「あ、じゃあ、高彬の家のお手伝いさんだったって言う・・」

「そう。駅まで車で迎えに来たのが兄貴で、本屋で瑠璃さんが見たのがその妹」

「そうなんだ」

瑠璃さんはそれで黙ってしまい、しばらくは走ることに専念しているようだった。

───昨日、瑠璃さんと代田、見かけたんだよ。駅ビルで。

一定のリズムを刻む靴音のお蔭なのか、走っていると言う少しの非日常感のお蔭なのか、さっきは驚くほど自然にそんな言葉が出ていた。

瑠璃さんから返ってきた言葉は

『本屋さんいたら声を掛けられたのよ。成り行きでお茶する羽目になっちゃって』

で、昨日からこっち、あれこれ考えてたのがバカらしくなるくらい何てことない経緯だった。

この調子で、さっき代田が言ってたセーターのことも聞いてみようか?

「瑠璃さん、あのさ」

「ねぇ、高彬」

奇しくも声が重なり

「何?瑠璃さん」

先を譲ると

「付き合ってもない子から、手編みの物もらうのってどう思う?」

前を向いたまま瑠璃さんが聞いてきた。

まるで台本でも棒読みしてるみたいな感情のない、その分、流暢に聞こえる言い方だった。

「手編み・・?」

「そう。例えばだけど・・、セーターとか、その、マフラーとか」

「・・・」

さっきとは打って変わってしどろもどろになり、何だかぼくの方が落ち付かない気分になってしまう。

まさか、代田に編むって言うのか?

それか、それこそ、まさかと思うけど、大江みたいに手当たり次第にエサをばら撒くとでも言うのか・・?

「マフラーがダメなら手袋とか・・」

「ぼくは付き合ってもない人に手作りの物を贈るって言うのはどうかと思うけど」

気が付いたら、瑠璃さんの言葉を遮って、そんな言葉が出ていた。

「・・・」

「そう言うのって結局は自己満足なんだろうし、それに相手への押しつけだしさ、手作りって言うのは考えた方がいいよ」

「・・・」

「大体さ、瑠璃さん、そもそも不器用だろ。そんな手編みだの手作りだの考える前に・・」

「高彬のバカ!カバン返して!」

言うなり、ぼくの脇からカバンを抜き取り、更にはぼくの胸をドンと押し、ぼくが立ち止まった隙に、瑠璃さんはすごい勢いで走って行ってしまった。




<続>



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瑠璃ガール<48>

2018-11-23 | ss(現代・高等科編)
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「瑠璃ちゃん、昨日のセーターの話なんだけどさ」

隣に並んで歩く代田くんに突然言われ、あたしは不機嫌モード全開だったことも忘れて、焦りまくってしまった。

「俺が編んで欲しいのはさ・・」

ど、どうして高彬の前でそう言う誤解を招くようなこと言うのよ!

「色は青がいいかな。青って言うか紺って言うか・・」

「いけない!遅刻しちゃう!」

大声で言うなり、あたしは走りだした。

こう言う場合は逃げだすに限るわ。

学生カバンを脇で抱えるようにして猛ダッシュする。

朝日を受けた川面がキラキラと反射しているのが横目にも見えて

(あ、綺麗・・)

なんて思った瞬間、後ろから足音が聞こえ、誰かが隣に並び、チラリと見ると高彬だった。

「高彬・・、どうしてあんたまで走ってるのよ!」

走りながら聞くと

「送り迎えは、瑠璃さんのお父上に頼まれたぼくの任務だからね」

平然とそんな答えが返ってきた。

まったく、真面目と言うかお固いと言うか・・・

「・・・お勤めごくろうさま!」

「どういたしまして」

「・・・」

嫌味半分の言葉も、さらりと返されあたしは口をつぐんだ。

呆れたの半分、いい加減疲れてきてしゃべる余裕がなくなったの半分。

「カバン、持とうか」

あたしと違って全く息の乱れてない声で言われ、あたしは無言のままカバンを差しだした。

確かにカバン、邪魔。

カバンがなくなって両手が空き、走るのがうんと楽になった。

代田くん、どうしてるのかな、と思ったけど、どうやら代田くんは朝から走る気はなさそうで、後ろからは全く人の気配はしてこない。

はからずも「あたしと高彬が2人で朝のジョギングをする図」になってしまい、だけど初冬のきりりとした朝の空気の中を走るのは気持ち良かった。

「・・昨日、瑠璃さんと代田、見かけたんだよ。駅ビルで」

ふいを付くように言われ、一瞬、息が止まりそうになったけど

「本屋さんいたら、・・・声を掛けられたのよ。で、成り行きでお茶する羽目に・・なっちゃって」

息が上がって途切れがちだったけどするすると言葉が出て

「あたしも高彬・・・見たのよ。女の子と、本屋さん、入っていかなかった?誰?」

普段だったら意地張って聞けないようなことが、なんの気負いもなく聞けた。






<続>



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高彬ボーイ<47>

2018-11-20 | ss(現代・高等科編)
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「おはよう」

普段通りの朝、玄関が開き制服姿の瑠璃さんが現れた。

一段と冷え込みが厳しくなり、瑠璃さんの首には大きなチェック柄の暖かそうなマフラーが巻かれている。

見たことのないマフラーで、ふと

(まさか昨日、代田に買ってもらったのか?)

と言う疑念が湧く。

昨日は結局、声を掛けることが出来なかった。

下りのエスタレーターに乗り、小さくなっていく瑠璃さんと代田の後姿をただ見送ることになってしまい、今になって自分の不甲斐なさに腹が立っている。

『あれ、瑠璃さんじゃないか。どうしたんだ、こんなところで。もう帰るのか?なら、一緒に帰ろう。・・・なんだ、代田いたのか。いやぁ、悪いな、まったく気が付かなかったよ、影が薄くて』

くらいのこと言ってやればよかった。

ちくしょう。

土手に上ったところで、そう言えば今日は瑠璃さんと「おはよう」以外の会話をしていないことに気が付いた。

考え事に気を取られ気が付かなかったけど、瑠璃さんが元気がないように見える。

「瑠璃さん、具合でも悪いの?」

「別に」

ニベもない返事で会話は終わってしまった。

こう言うパターンには覚えがある。

具合が悪いのではないとすると、機嫌が悪いのだ。

「融と喧嘩でもした?」

「してないけど」

「朝ごはん、何か融に先に食べられちゃったとか」

「・・・」

無言のまま横目でじろりと見られてしまう。

「じゃあ・・」

「───瑠璃ちゃん!」

後ろから聞き覚えのある声がして、振り返らなくたって分かる、代田だ。

颯爽と走ってきたかと思ったら

「後姿みて瑠璃ちゃんだと思ったんだ。登校中に会うなんて珍しいな。一緒に行こう。・・・なんだ、藤原もいたのか。いやぁ、悪いな、まったく気が付かなかったよ、影が薄くて」

奇しくもさっきぼくが思ったことを代田はさらっと言ってのけ

「勝手に言ってろ」

ぼくは鼻を鳴らした。

「ぼくの影が薄いんじゃなくて、お前の目が悪いんだろうよ」

「何だよ、朝っぱらからやけに絡むじゃないか。まぁいい。3人で仲良く歩こうぜ」

返事も待たずに代田は瑠璃さんの横に並び、瑠璃さんを挟んで両隣がぼくと代田と言う形になってしまった。

「瑠璃ちゃん、昨日のセーターの話なんだけどさ」

「ふぇ?!」

瑠璃さんが変な声をあげ、ぼくは何気ない風を装いながらも2人の会話に聞き耳を立ててしまう。







<続>



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高彬ボーイ<46>

2018-11-18 | ss(現代・高等科編)
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「これなんて見やすくてお勧めだけど」

駅ビル6階の本屋の一角で、ぼくは一冊の参考書を手に取り差しだした。

「・・・うわぁ、本当!分かりやすーい。さすが、高彬さま」

パラパラとめくった後、パチパチと手を叩く仕草をされ、たかが参考書一冊のことで、と思わず苦笑が漏れる。

「大げさなんだよ、大江は」

大江と言うのは、夏に瑠璃さんと泊めてもらった家の娘で、最近まで兄、守弥と共に我が家に住んでいた子だ。

守弥、大江の母親である按察使が長いこと我が家の家政婦だったので、大江とは文字通り産まれた時からの知り合いで、年も一緒、兄弟と言うか気の置けない友人と言うか、そんな関係なんである。

ま、兄の守弥はガチガチに頭が固い奴なので、大江がぼくに気安く話しかけるのを良く思ってないようではあるが。

「参考書なんか、守弥に聞けばいいじゃないか。ぼくなんかよりあいつの方がよっぽど頭がいいぞ」

「だって兄に聞くと、変なのばっかり勧めてくるんですもの」

「変なの?」

「えぇ。この間も数学の参考書貸してって言ったら、哲学書みたいなの渡されたんです。『人生を数値化する』ってタイトルの本で。中みたら付箋とかマーカーでたくさん印がしてあって兄ながら気持ち悪くって」

「・・・」

「『気持ち悪い』って突き返したら『私の愛読書に向かって気持ち悪いとは何だ』とか怒りだしちゃって。ほんと、変人で気難しくて嫌になります」

「ま、まぁ、守弥も少しは良いところはあるぞ」

実の兄のことを言っているとは思えない程の辛辣な言葉に、かばう筋合いでもないのについかばってしまった。

「そう言えば、先週、兄が高彬さまのお宅にお邪魔したそうですけど、何か用でもあったんですか?」

「さぁ?なんだろうな。一泊してすぐに帰ってたけど。そう言う大江こそ、今日はどうしたんだよ」

そう言うと、大江は(ふふふ)と含み笑いをして

「ちょっといいですか、こちらに来てもらっても」

ぼくを手招き、連れて行かれたのは「編み物コーナー」だった。

「もうじきクリスマスじゃないですか。だからマフラーでも作ってプレゼントしようかなぁっと思って」

「誰に」

「取り敢えずは仲の良い男子全員にですわ。手当たり次第にエサばら撒けば、誰か釣れるかなぁ・・・なんて思って」

「・・・おまえなぁ」

「手当たり次第って言っても、もちろん厳選はしますよ。この人なら彼氏にしても良いって思う人にしか渡しません」

「・・ふぅん。で、何人くらいに渡すんだよ」

「6人か・・、7人。多くて8人ってとこですわ」

大江は指を折ってカウントしながら言い

「こちらには大きな手芸店がありますでしょ?だからついでに毛糸もたくさん仕入れて行こうかと思って」

「まさか、その店もぼくに付き合わせる気か?」

ぎょっとして言うと

「いえ、大丈夫です。高彬さまには参考書の相談に乗っていただきたかっただけですから」

「そうか。じゃあぼくはこれで・・」

大江に軽く手を上げ、回れ右してエスカレーターの方に行こうとした次の瞬間、(あっ)と声が出そうになってしまった。

瑠璃さんの後姿が見えた気がしたのだ。

柔らかそうなニットを着て、下りのエスカレーターに乗るその女性は───

間違いなく瑠璃さんだった。

「る・・・」

瑠璃さん、と声を掛けそうになり、慌てて口をつぐむ。

隣には上背のある男がまるでナイトのごとく寄り添っていて───

「・・・」

思わずムッとする。

隣の男は、誰あろう、生徒会長の代田だった。








<続>

注)守弥の愛読書『人生を数値化する』は架空の書籍です。



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瑠璃ガール<45>

2018-11-15 | ss(現代・高等科編)
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「瑠璃ちゃん、買い物?」

代田くんに聞かれて、あたしは慌てて編み物の本を後ろ手に隠した。

「あぁ、うん、・・ま、ちょっとね」

悪いことしてるわけじゃないから隠す必要なんてないはずなんだけど、見られたくなって言うか・・

なのに代田くんは

「何?編み物の本?」

後ろに回り込み、ズケズケと聞いてきた。

ま、そもそもここが編み物コーナーなんだから、隠し通せるはずはないんだけどね。

「いやぁ、嬉しいなぁ、瑠璃ちゃんがオレにセーター編んでくれるなんて」

「ふぇ?!」

あまりにびっくりし過ぎで変な声が出てしまった。

あたしが代田くんにセーターを編む?

なんでそうなるわけ?!

「代田くん、あたしそんなこと一言も・・・」

「瑠璃ちゃん、そこのカフェでお茶しようぜ」

「え」

6階のフロアには本屋とかばん屋とカフェが入っていて、コーヒーのいい匂いがここまで漂ってきている。

「オレ、セーターで欲しいデザインがあるんだよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ、代田くん」

腕を取られ、今にもカフェに引っ張られて連れて行かれそうになり、あたしは足を踏ん張った。

だけどあたしの力じゃ代田くんに敵うはずもなく、簡単に重心が崩れて足はたたらを踏み、観念してとっさに本を平台に戻した。

代田くんと別れてから買おう。

カフェはオープンな作りになっていて、あたしと代田くんはエスタレーター際の席に向かい合って座った。

「瑠璃ちゃん、何飲む?お勧めはマンゴージュースだけど」

「じゃあ、それで」

代田くんが店員を呼び、マンゴージュースとコーヒーが置かれたところで

「あのね、代田くん、あたし、セーターなんて・・・」

「あれ、藤原じゃないか?」

「え」

代田くんの目線を辿ると、エスカレーターを下りて本屋に向かう男性がいて、それは確かに高彬だった。

「たか・・」

高彬、と声を掛けそうになり、慌てて口をつぐむ。

代田くんとお茶してるとこなんて見られたくないと言う思いと、もうひとつの理由があった。

エスカレーターを下り、小走りに高彬に近づく人がいて───

「・・・・」

見たことのない女の子だった。








<続>


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瑠璃ガール<44>

2018-11-12 | ss(現代・高等科編)
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「瑠璃、早く食べないと冷めるわよ」

「・・あ、うん、そうね」

亜実に言われ、あたしは慌ててナイフとフォークを動かした。

「やっぱりスワンでのランチは最高ね。普段のおにぎりとは大違い」

背筋をピンと伸ばし、食事マナーの見本とでも言えるような優雅な手つきでビーフシチューを口に運びながら、亜実はあたしにだけ聞こえるような声で言う。

亜実は学園でのお昼ご飯はほぼ毎日おにぎり持参で、何でもそれが一番

「腹持ちを考えたらコスパが良い」

と言うことらしい。

前に亜実に塀を乗り越えるための<足場>になってもらう条件としてあたしが提案したのが、ここスワンでの食事で、今日はその条件をしっかり遂行されられに来ているのだ。

約束事、ことに自分がしてもらう方の約束事には滅法厳しい亜実に、翌日にはきっちりと詳細を取り決められ、具体的にはスワンでの食事3回のうち2回はランチ、残り1回はコース料理を奢らされる羽目になった。

今日は1回目だから、後2回は亜実とスワンに来ないと行けない。

老舗の洋食屋スワンは、店内はそう広くはないけれど、床は赤い絨毯が敷き詰められていて壁はレンガ作り、テーブルごとの照明はアンティークなシャンデリアで、古いお城の一室のようなイメージのお店で、ディズニーランドのホーンテッドマンションみたいな感じ、と言ったら一番伝わりやすいかも知れない。

ディズニーランドかぁ・・・

夏に高彬と行ったなぁ・・・

再び手を止め、あたしはぼんやりと回想した。

ミニーの耳のカチューシャ買ってもらって、一緒にアイス食べて、井戸に向かってお願い事して、花火見て───

ホーンテッドマンションに乗って、怖さのあまり高彬に抱き付いたりしちゃったし。

パーク内ではぐれて迷子になって、お城の前で再開して抱き合っちゃたりもしたし。

ほんの3か月前のことなのに、ものすごく昔のことみたい。

あの時はあまりに幸せで

(もう思い残すことはない。これを思い出にあたしはこれから生きて行こう)

なんて思ったりもしたけれど、でも、やっぱり人間って強欲な生き物なのね。

2学期が始まれば、高彬、学園祭は誰と過ごすのかなー、なんてことが気になったりで、やっぱりあたしは高彬を目で追ってしまっているのよ。

「ねぇ、瑠璃。この間も思ったけど、あなた本当に大丈夫なの?」

「え、何が」

亜実の言葉でハッと我に返る。

「なんか呆けてるように見えるのよ。ま、前からそう言うところはあったけど、最近特に、よ」

「・・・」

「悩み事あるなら聞くし、あたくしに出来ることなら力になるわよ」

熱心に亜実は言い

「亜実・・」

あたしはと言えば、思いがけない亜実の友情に感動してしまい、思わず身を乗り出すと

「友だちなんだし、安くしとくわ」

「・・・お金取るの?!」

ずっこけてしまった。

ま、まぁ、そう言う人だわよね、亜実って。

そもそもこのランチが、条件クリアのための食事なんだし。

食事を終え、店を出ると

「ご馳走さま」

亜実はきっちりと頭を下げた。

こう言うとこ、亜実に良いところなのよねぇ。

言いたいこと言ったりセコイこと言ってるようで、きちんとお礼を口にする辺り、ちゃんと育てられた人なんだろうなぁ、と言う気がする。

「どういたしまして」

「後2回よ、お忘れなく」

「分かってるわよ」

この後、人と会う約束があると言う亜実と別れ、あたしは歩き始めた。

亜実って結構、するどい。

実はあたしは今、ちょっとした考え事があって、それは高彬にマフラーを編んであげるのはどうかな、と言うことなんである。

この間、朝の登校時、高彬、何となく首元が寒そうに見えたのよ。

ほら、女子と違って男子って首が丸出しになっちゃうから。

特に土手の上は吹きっさらしで風が強い時もあるし。

でも、どうなの?今時、手編みのマフラーなんて流行らない?

自慢じゃないけど、あたしは料理やお裁縫は全然ダメで、だから編み物なんかからっきしなんだけど、今から始めればクリスマスには間に合うかなぁ・・、とか思ったり。

駅前には手芸専門店もあるし、駅ビルには本屋もある。

編もうと決めたわけじゃないのに、自然と足は駅に向かっていて、まずは駅ビル6階にある本屋へ立ち寄った。

手芸コーナーには、季節柄なのか編み物の本が平置きに並べられていて、初心者向けのものもたくさん出ている。

数冊を手に取り、パラパラとめくっていると

「あれ?瑠璃ちゃんじゃないか」

声を掛けられ振り向くと、そこには生徒会長の代田くんが立っていた。







<続>


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高彬ボーイ<43>

2018-11-07 | ss(現代・高等科編)
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「・・・おはよう」

玄関のドアが開き、小さなあくび混じりに冬服姿の瑠璃さんが現れ、2人並んで歩き出す。

9月末から10月いっぱいは冬服への移行期間中で、生徒は夏用でも冬用でも、はたまたミックスでも自由に着て良い期間なのだけど、瑠璃さんは

「気温と相談して毎朝考えるのが面倒」

とのことで、ずっと夏服にセーターを着て過ごしていた。

だけど一週間前、11月に入ってからは冬服のセーラー服を着用しており、密かに瑠璃さんのセーラー服姿が好きなぼくとしては、何だか毎朝の楽しみが増えたような気持ちなのである。

土手に上ると、遮るものがない分、風が気持ち良く通り過ぎて行く。

土手を登下校に使っている学園の生徒も多く、皆、同じ方向に歩いている。

「11月入ってから、何だか急に冷え込むようになったわね」

首をすくめながら、またしてもあくび混じりに瑠璃さんが言い

「うん。もう初冬だからね」

そう答えると、少しの沈黙のあと

「・・ほんと、可愛いわよね」

瑠璃さんが呟いた。

「は?可愛い?」

初冬が可愛い?

その、あまりのトンチンカンな答えに思わず瑠璃さんを見てしまうと

「え。だって可愛いじゃない。初等科の子って。高彬はそう思わない?」

「・・はぁ?」

「身体よりも大きいようなランドセル背負って」

そこまで言われ、ようやく瑠璃さんの勘違いに気が付いた。

「・・・いや、違うよ。その初等じゃなくて・・」

途中まで言い、口をつぐむ、

初冬を初等───

「好きだ」を「すき家」と聞き間違えた瑠璃さんなら、さもありなん、である。

そうか。

ぼくは心の中で頷いた。

瑠璃さんが聞き間違えを起こすパターンの謎が少し分かったような気がする。

まず一つは眠気だ。

あの日も今も、瑠璃さんは少し眠そうにしている。

そしてもうひとつは瑠璃さん自身の「心持ち」の問題だ。

少し先の方には、明らかに初等科と分かる制服を着た生徒たちが集団で歩いており、その中には確かにランドセルが歩いてると見紛うような小さな子もいる。

瑠璃さんは前を歩く初等科の子を見ながら「可愛い」とでも思っていたのだろう。

そしてあの日、瑠璃さんは「少しお腹がすいている」と言っていたはずだ。

つまり瑠璃さんは、自分の心の状態に合わせて、ぼくの言葉を勝手にシンクロさせているに違いないのだ。

となると、瑠璃さんに聞き間違いを起こさせないために大切なことは、まずは完全に覚醒していること。

次は、いかに瑠璃さんがニュートラルな状態でいるかと言うこと。

更には、そこに絶対に聞き間違いのないようなフレーズが必要不可欠なわけで・・・

「なぁに、朝から怖い顔しちゃって。ここに皴が寄ってるわよ」

気付いたら瑠璃さんに顔を覗き込まれており、眉間の辺りを指さされていて───

怖い顔してるとしたら瑠璃さんのせいだよ。

そう言いたいのをグッと堪え

「確かにちょっと冷えるからね」

首元を気にする振りをして、ぼくはそっとため息を吐いたのだった。







<続>


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年下の男の子<4>

2018-11-04 | ss(年下の男の子)
※本館「社会人編」の設定です。




「・・高彬・・!高彬・・」

目を瞑りうわ言のようにぼくの名前を繰り返す瑠璃さんの膝を抱え、身体を沈めて行く。

「・・あぁっ」

瑠璃さんの顔に恍惚とも苦痛とも取れるような表情が浮かび、ぼくの背に回した指先に更に力が加わる。

ぼくの動きに合わせ、瑠璃さんは途切れがちな声を上げ、肌のぶつかる音と瑠璃さんの艶めかしい声が寝室に響いている。

瑠璃さんの中は相変わらず最高で、よくこれを一週間も味わわずに我慢出来たよな、と思う。

瑠璃さんがイったのを見届け、その感覚を十分に堪能してから、ぼくも果てた。




******



程よい疲れと、心地よい余韻。

恋人同士、これ以上はないと言う濃密で密着した時間を過ごした後は、いつも2人で毛布に包まり、それこそ他人には聞かせられないような睦言を囁き合うのだが───

だけど、今日の瑠璃さんは違った。

身体を離した途端

(ガバっ!)

と起き上がったと思ったら

「ねぇ、高彬、あなた熱でもあるんじゃない?」

いきなりそんなことを聞いてきた。

「え?熱?いや、ないと思うけど・・・」

「ウソよ、あるはずよ」

そう言うと寝たままのぼくの額に手を当て、額だけでは判断出来なかったのか、首筋や脇の下まで手の平で確認してくる。

「別にだるくもないし、熱なんてないんじゃないかな」

「ううん、絶対あるわよ」

ぼくの身体のあちこちを、真剣な顔で検分しながら言う。

「どうして」

「だって、今日、熱かったもの」

「・・・え、何が」

「高彬が入って来た時よ。あ、いつもより熱いなって」

ぼくに熱があると思いこんで、すっかり看病モードのせいなのか、普段だったら口が裂けても言わないようなことをサラリと言う。

「・・・」

ベッドの上でのことだ。

そりゃあぼくだってオトコだから、スケベ心を出して瑠璃さんからイロイロと聞きだそうとしたことはある。

感触とか、感覚とか、感想とか。

だけど瑠璃さんは頑として口を割らず

「よく覚えてない」

の一点張りだったのだ。

だけど───

今日が「いつもよりも熱い」と思ったと言うことは、普段も何かしらの感想を持っているというわけで───

「何よ、ニヤニヤして」

手を止めた瑠璃さんに指摘され、ぼくは自分が笑っていることに気が付いた。

「いや、別に」

ここは余計なことは言わず、瑠璃さんの看病に身を任せるのが賢いやり方だろう。

「そう言えば・・、ちょっと身体が熱い気がする、かな」

「でしょう?!」

我が意を得たり、とばかりに瑠璃さんが目を輝かせた。

ぼくに熱があって目を輝かせるって言うのもおかしなものだけど。

「水でも飲みたいな」

「分かったわ。待ってて」

張り切ってキッチンに行きかけ、自分が裸なことに気が付いた瑠璃さんは、急いで辺りに目をやり部屋着代わりのワンピースを探している。

気付かれないようにワンピースを毛布に隠し

「瑠璃さん、早く飲みたいよ。死にそうだ・・」

わざと苦しそうに言ってみせると、少しの逡巡のあと

「うん。わかった」

ワンピースは諦め、そのままの姿でキッチンへと向かった。

コップを受け取り、心配そうな瑠璃さんに見守られて水を飲み干す。

「大丈夫?」

ぼくの顔を覗き込みながら瑠璃さんが言う。

極上の乳房を惜しげもなくさらしながら、いや、きっとぼくを心配するあまり、自分が今どんな恰好でいるのかすら、きっと瑠璃さんは気付いてないに違いないのだ。

「濡れたタオルとかあると・・」

「そうね。持ってくる。待ってて」

瑠璃さん、楽しんでてごめん。

心で謝りながら、まぁ、たまにはこんなご褒美があったっていいよな、なんて思う。

「良かったよ、瑠璃さんが年上で、色々面倒みてくれて」

弱った声で言ってみると

「そうよ。しっかりしてるように見えて、あんたは年下なんだから。あたしに任せなさいって」

瑠璃さんは笑い、その夜、ぼくは年下の特権を発動して朝まで瑠璃さんに甘えまくり、だけど、翌日には熱がなかったことがバレてしまい、瑠璃さんにこっぴどく叱られてしまったのだった。







<終>


いきなりのベッドシーンからで失礼しました。社会人設定の「年下の男の子」が終わってなかったのが気になっていたので、唐突でしたが今回更新しました。
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「ビフォー」か「アフター」か、はたまた「その間」か、の論争を「あれこれ掲示板」で巻き起こした藍さんのこちらのイラスト。
我々、高彬ファンを悶え狂わせた罪深い一枚でもあります。
作品タイトル『ジューシー』(←ベリーさんの名言から勝手に拝借して、これまた勝手に命名。藍さん、ベリーさん、お許しを。)

高彬ボーイ<42>

2018-11-03 | ss(現代・高等科編)
※本館「現代編」設定の2人です※





「好きだ。・・・瑠璃さんのことが好きなんだ」

そう言うとしばらく瑠璃さんからの返事はなく、もう一度口を開きかけた次の瞬間、瑠璃さんが息を飲む気配が背中から伝わってきた。

「あの、高彬・・」

「うん」

「今、何か言った?」

「え」

「あたしったらウトウトして眠りかけてたみたいで・・。高彬が何か言ったような気がして、その声でハッと目が覚めたの」

「・・・」

「だから、ごめん、ちゃんと聞いてなくて。さっき真面目な話があるって言ってたでしょう?もしその話だったら悪かったなぁって思って」

「・・・」

「何て言ったの?今度はちゃんと聞くから」

「いや・・、いいよ。その・・、どうしてもって話じゃない・・から」

ぼくは口の中で言葉を転がした。

なまじ決意が強固だっただけに脱力感が半端なく、もう一度言って欲しいと言われても、それはなかなかに難しいことだった。

そういや、海での告白もこのパターンだったよな。

何だってまぁ、肝心なところで瑠璃さんは寝てるんだよ。

どっちのタイミングが悪いのかは知れないけど・・

しばらくの沈黙のあと

「・・ねぇ、高彬。ぼんやりと高彬が言ってたこと聞こえてた気がするんだけど、もしかして高彬が言い掛けてたことって・・」

瑠璃さんが話しかけてきた。

ぼくの言葉の切れ端でも必死に思い出そうとしているのか、思案気な声だった。

「間違ってても怒らないでね」

いつもの瑠璃さんらしくない、探るような、用心に用心を重ねたような声で言う。

「・・・うん」

ぼくも真剣に頷いた。

もしドンピシャなことを言われたら、その時ははぐらかしたりせずに認めよう。

「高彬、もしかして・・・」

「うん」

「お腹がすいてるの?」

「・・え?・・いや、すいてないけど・・・、どうして」

予想もしてなかった瑠璃さんの言葉に思わず聞いてしまった。

「<すき家>って聞こえた気がしたの」

・・・は?

すきや?

「知らない?<すき家>って。牛丼チェーンの。ほら、最近、駅前に出来たじゃない。本屋さんの後に。でね、この間、融がクラスの子と食べに行ったらしいんだけど、美味しかったんですって。だから高彬も行きたいのかなぁ、なんて思って」

「・・すき家はもちろん、知ってるけど・・」

先ほどとは比べ物にならないくらいの脱力感がやってきた。

───好きだ。

───すき家。

いや、確かに語感は似てなくはないけど・・・

でも、どこの世界に「真面目な話がある」と前置きしておいて、すき家に行きたいと言う奴がいると言うのか。

いや、もちろん、すき家がふざけてるとかそう言うことではないんだけど。

「ねぇ、違う?」

重ねて聞かれ

「うん、まぁ、当たらずとも遠からずかな」

ぼくは朗らかな声で答えた。

もうこの状況で、ロマンチックへの軌道修正は不可能だ。

流れに身を任せよう。告白は仕切り直しだ。

どうやら恋の女神は、まだぼくに微笑んではくれないらしい。

そう思ったら、いっそ清々しい気持ちになった。

「瑠璃さんはお腹すいてないの?」

「うーん、すいてる気もするけど、それより眠くって」

「じゃあ家に着くまで寝てていいよ」

「え、でも、それじゃ悪いわ」

なんて言いつつ、3分後には規則正しい寝息が聞こえてきた。

全身の力が抜け、ぼくの背中にくったりと身体を預けてきている。

歩いているうち、街の明りが一斉に戻った。

その瞬間を瑠璃さんに見せてあげたかったけど、まぁ仕方ないだろう。

「・・まぁまぁ、瑠璃お嬢さま!」

チャイムを鳴らすと志乃さんが飛び出してきた。

「申し訳ございません、高彬さま」

「いいですよ。・・慣れてます」

おんぶなんて2度目だったけど、何となく見栄を張ってみたくてそう言ってみた。

「瑠璃さま、瑠璃お嬢さま」

志乃さんがゆすっても瑠璃さんが目を覚ますことはなく

「このまま部屋に運びましょうか」

提案すると、志乃さんは恐縮しつつも2階の瑠璃さんの部屋へと案内を始めた。

「さ、瑠璃さま、お部屋ですよ」

志乃さんに手助けされながら、瑠璃さんをベッドに下ろす。

制服のスカートが少し捲れて膝上まで来た時は、さりげなく目を逸らした。

志乃さんは良識ある大人だから、ぼくと瑠璃さんを2人きりにするようなことはなく、ごく自然な振る舞いでぼくを促して外に出た。

志乃さんに見送られて瑠璃さんの家を後にし、夜道を家路に付く。

学園祭実行委員長としては、観月祭を振り返りたいところだけど、だけどやっぱり考えるのは瑠璃さんのことだった。

ドジで早とちりで自由奔放ですぐ寝ちゃうけど、でも、チラリと見たベッドで眠る瑠璃さんは最高に可愛かった。

まるで昔話に出てくる、お城で眠るお姫さまみたいで───

どうやら瑠璃さんに告白するのは、並大抵のことではなさそうだ。

眠れるぼくだけのプリンセス───

覚悟しとけよ、瑠璃さん。

瑠璃さんの眠気も吹き飛ぶような、100年眠ってたプリンセスだって飛び起きちゃうような、いつかそんな告白をして見せるから。

決意を新たに夜空を見上げると、そこには停電なんか何とも思ってないような顔をした月が、変わらず見事な光を放っていたのだった。







<続>


「学園祭編」これにて終了です。お付き合いいただきありがとうございました。
瑠璃が寝ていると予想された結さん、ベリーさん、大当たりです!高彬告白→瑠璃寝てる。高彬告白→瑠璃早とちり。このパターンは3月までの「様式美」としてお楽しみいただければ、と思います。
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高彬ボーイ<41>

2018-11-01 | ss(現代・高等科編)
※本館「現代編」設定の2人です※





人工的な明かりがまったくなかったけど、満月のお蔭で歩くのには困らなかった。

背中の瑠璃さんが「ごめんね」「重くない?」と何度も言うので

「重くなんかないさ。それにおぶると言ったのはぼくなんだし、瑠璃さんが謝ることじゃないよ」

「でも、あたしがコケたりしたから」

「瑠璃さんのドジは今に始まったことじゃないさ。それを言ったらぼくが帰ろうなんて言わなければ、瑠璃さんは足を挫いてなかったかも知れないじゃないか」

「でも、秋になって、あたし最近、食欲旺盛だし」

「それは年がら年中だろ」

「二学期の身体測定で微妙に体重増えてたし」

「・・・」

「心なし、ウエストきつくなってるし」

「・・・」

「それに」

「もういいから。重くないから」

あまりに瑠璃さんに謝られると、ぼくのことをそんなに非力だと思われてるのかと落ち込んでくる。

「瑠璃さんなんかよりよっぽど力があるんだから任せてよ」

そう言うと

「少し前まではあたしの方が背も高いし、よっぽど力持ちだったのにねぇ・・。あんたのことなんか軽々投げ飛ばしていたのに」

瑠璃さんがしみじみと言い

「いつの話だよ」

何となく2人で肩越しに笑ってしまう。

「電気がなくても案外明るいのね」

「うん」

「月でもこんなにくっきりと影が出来るって、なんか新鮮」

「うん」

背中にある月が、ぼくたちの長い影を作っている。

瑠璃さんがふざけてぼくの頭に影で角を生えさえ、次いで両手をパーにしたりして、そうして一人でケラケラと笑う。

「人の影で遊ぶなよな、瑠璃さん」

たしなめつつ、ついぼくも笑ってしまった。

「ほら、小さい時もこんな風に影で遊んだわよね。覚えてる?夏のうんと暑い日で、融と3人でうちの庭で水鉄砲で遊んでた時」

「うん、覚えてるよ」

「楽しかったなぁ」

───そうだね、楽しかったね。

そう言おうと思ったのに、何だかふいに鼻の奥がおかしな感じになってしまい、ぼくは口をつぐんだ。

瑠璃さんの言い方がやけにしみじみとしていたのが身に染みた。

何だよ、そんな言い方。

まるで、もう2度とあんな楽しいことは来ないみたいな言い方───

瑠璃さんは過去でも回想しているのか、それきり黙り込んだ。

月明かりだけの静かな土手に、ぼくが立てる小砂利を踏みしめる音だけがする。

一歩、一歩───

もうじき土手から離れてしまうと言うところまで歩いたところで

「瑠璃さん」

ある決意を胸にぼくは口を開いた。

「なぁに」

「好きだ」

「・・・」

「瑠璃さんのことが好きなんだ」

さっきまで鳴きやんでいた虫が、一斉に鳴き出した。






<続>


ついに告白した高彬!次回のサブタイトルは「ぼくだけのプリンセス!」でお届けいたします。
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