「高彬解体新書」~巻の二

2017-04-05 | 高彬解体新書
「あら、ずいぶんと早いお目覚めね。いつもぎりぎりに起きてくるあなたが珍しいこと」

「うふふ。だって今日、私、高彬さまの朝のお召し物を御着付けする日なんですもの」

「あなた、昨日も御着付けを担当していなかった?さてはズルしてるわね」

「してないわよ。昨日は小式部さんが風邪をひいてしまって、代わりにお願いねって言われたのよ」

「じゃあ、今日は私が代わってあげるわ。2日続けてじゃ大変でしょう」

「いいえ、大丈夫よ」

「・・・静かになさいませな。朝から騒々しいこと」

わたくしは若い女房たちをたしなめました。

右大臣家の朝の女房部屋では、良く繰り返される会話です。

女房たちが、お仕えしている高彬さまの<御着付け担当>争いをしているのでございます。

右大臣家と言えば京でも屈指の名門、そこにお仕えしている女房ともなれば美貌も教養も兼ね備えた言わばエリート女房です。

それをまぁ、御着付け担当を取り合うとは・・・

と思いながらも、女房たちの気持ちも分からなくはないのです。

高彬さまと言ったら、京に住まうものであったら知らぬ者はいないほどの花形公達、近衛府の少将さまでございます。

その高彬さまのお側近くにお仕えし、日々のお世話を出来るのはこの上なき誉れであり、女房冥利に尽きるというものです。

「さぁさぁ、早くお行きなさい。高彬さまをお待たせしてはなりません」

「はぁい」

素直に返事すると、女房たちは部屋を出て行きました。

一人になった部屋で

「さ、お仕事、お仕事」

わたくしは弾みを付けるように言い、縫い物やらお文の整理やらしつつ、ついつい鼻唄が出てきてしまいます。

気を抜いたら忍び笑いまで出そうになり、きゅっと唇を引き結びました。

実は・・・

今日は高彬さまが<お湯浴み>をする日なのです。

そうして、何を隠そう、その担当はわたくし・・・

守弥さんは若い女房にその仕事を振るのを嫌がり、結局、60に手が届くと言うわたくしにその役が回ってきたのでございます。

年を取るのも悪くございませんわねぇ・・・うふふ。

夕刻になり宮廷よりお戻りになられた高彬さまは、薄い小袖1枚のお姿でお湯殿に入って参りました。

すでにお湯殿は湯気でもうもう、準備は万端でございます。

簀子の上に置かれた台座に高彬さまは腰を下ろされ、わたくしは後ろに控えました。

引き締まったお身体のラインが、薄い小袖越しに透けて見えるようでございます。

しばらくすると湯気の湿気と、高彬さまご自身の汗のため、小袖が水分を含み、お身体に貼り付いて参ります。

わたくしは伏し目がちに、それでもチラチラと見てしまい、密かにため息を漏らしてしまいました。

何度見ても、何てお綺麗で逞しいお身体なのでございましょう。

腹のせり出しはじめた自分の夫と比べたら・・・

いえ、比べるのさえおこがましいほどでございましょう。

暑くなられたのか、高彬さまは小袖の合わせを開かれたようで、それにより項から肩の辺りまでが現れました。

「高彬さま。汗をお拭きいたしましょうか」

「うむ、頼む」

小布を持ち、後ろからそっと肩にあてがいます。

肩から背、そして首へ・・・

玉のような汗が、若い肌の上で輝いております。

高彬さまはご結婚されてから、どこがどうとは言えないのですが、お身体付きが変わったようでございます。

時には背中に小さな引っ掻き傷のようなものがある時もあり、ついつい(おや?)と目に付いてしまうのです。

「今日は一段と汗が出るな」

そう呟かれると、両袖から腕を抜き、上半身を全ておさらしになりました。

「・・・」

うっとりするような後ろ姿でございます。

ひとつも無駄な贅肉などない背中から腰にかけてのライン、しっかりと張った肩と、そこから伸びるしなやかな腕。

高彬さまはこのお身体で、毎夜、三条の姫さまを・・

「高彬さま、汗をお拭いいたしましょうか」

「頼む」

わたくしはそっと背中に小布をあてがったのでございました・・・







<終>



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