瑠璃ガール<40>

2018-10-31 | ss(現代・高等科編)
※本館「現代編」設定の2人です※





一日中、喧騒と言っていいほどの賑やかさに囲まれていたためか、土手がいつも以上に静かに感じる。

「皆、まだ盛り上がってるかしらね」

「多分ね」

炎の回りではしゃいだり、BGMに合わせて踊ったり、もしくは2人きりの世界に浸っちゃってる恋人たちとか。

そんな光景が目に浮かぶ。

土手は大通りからも離れているので車の音もなく、あたしたちが踏みしめる小砂利の音と、草むらで鳴く虫の声しかしない。

この辺りは川がカーブしているので、等間隔にある街灯の灯りが、先の方に向かい緩やかな曲線を描いている。

高彬によって掴まれていた手首は、校門を出る頃に離されていた。

きっかけなんかなく、ただ、すぅっと離されていたと言う感じ。

「高彬は抜けて大丈夫だったの?後夜祭」

「大丈夫だよ、後夜祭はまた別の実行委員が動いてくれてるんだし。とんでもないハプニングでも起こればすぐに連絡が来るさ」

あたしとしては暗に(誰かと過ごす予定はなかったの?)と聞いたつもりだったんだけど、高彬の返事はどこまでも実行委員長としての見解だった。

「ま、何も起きないだろうけど」

そう言ったきり、高彬は前を向いたまま黙々と歩いている。

「・・・」

「帰ろう」って言ったのは高彬なんだし、何か、しゃべってくれないかな・・・

間が持たないじゃない。

しばらく無言で歩いていると

「さっきの話だけどさ、瑠璃さん。瑠璃さんはどうなのかな」

高彬が急に口を開いた。

「え。さっき?さっきって・・・、どのさっき?」

いきなり、どうなのかな、と聞かれ、間が抜けた声で聞き返してしまった。

「あのさ」

高彬が立ち止まり、釣られてあたしも立ち止まる。

「真面目に聞いて欲しいことがあるんだけど・・」

高彬があたしの方に身体ごと向くので、あたしも同じように高彬に向き直る。

正面から向かい合い、街灯の灯りに照らされた高彬の顔が真剣な顔であたしを見て───

そうして口元が動きかけた次の瞬間。

辺りが真っ暗になり、目の前から高彬の顔が消えた。

「え、何・・」

何が起こったのかわからず狼狽えていると

「停電だよ、きっと」

シルエットだけの高彬が言った。

確かに普段は見えているビルの窓の灯りや街灯が全て消えている。

「やだ、怖い。暗い・・」

突然の暗闇は思っていた以上に恐怖で、情けない声が出てしまう。

「大丈夫、落ち着いて。すぐに目が慣れるから。一度目を瞑って、十数えたくらいでゆっくり開けてごらん」

「う、うん」

言われた通りにしてみると、さっきよりもよく見えて、それどころか月明かりで随分と回りが明るく照らされていることに気が付いた。

高彬の顔も良く見える。

「もう大丈夫だろ?」

「そうね、良く見えるわ」

嬉しくなって、にっこりと笑い合う。

「後夜祭、大丈夫かしら」

「むしろ盛り上がってるじゃないか?」

「・・そうかもね」

頷いて歩き出そうと一歩を踏み出すと

「あっ」

足元に大きめの石でもあったのか、派手に躓いてしまった。

「痛っ」

思わずしゃがみ込んで足首をさすってみても、すぐには痛みが治まらず

「どうした?挫いた?」

「うーん、どうかしら・・」

あー、もう!あたしのドジ。

よりによってこんな時に躓かなくても!

「歩ける?」

「うん、大丈夫よ」

強がり言って歩き出してみたものの、足がズキズキと痛み、思うように歩けない。

「瑠璃さん、良かったらぼくに掴まって・・・いや、こっちの方がいいかな。・・・はい」

言うなり高彬があたしの前にしゃがみ込んだ。

「え」

「乗って。おぶってあげる」

「えぇー。い、いいわよ。大丈夫、歩けるわ」

「いいさ、遠慮しないで。前もおぶったし」

「・・・」

夏に───

海からの帰り道におぶってもらったこと、覚えてくれてるんだ・・・

「誰も見てないし」

「・・・」

「さぁ、早く」

「・・うん。じゃあ、・・ごめんね。重いけど」

肩に手を掛け身体を預けると、次の瞬間、足が地面を離れ、ふわりと身体が浮いた。






<続>


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瑠璃ガール<39>

2018-10-29 | ss(現代・高等科編)
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「学園祭、大成功だったわね」

「うん」

「学園祭実行委員長として大変だったでしょ、お疲れさま」

労うと

「どうも」

高彬は素直に頭を下げ

「でも委員の皆が色々やってくれたからね、そのお蔭だよ」

その、どこか作り込んだ声色にピンと来るものがあり

「まぁた、謙遜しちゃって。ほんとは自分のお蔭だって思ってるんでしょ?」

ニヤニヤ笑いながら突っ込むと、高彬は少し目を見開いたあと、笑いながら

「うん。実は」

と頷いた。

「そうよ、それでいいのよ、誰がどう見たって高彬の頑張りのお蔭なんだから。あんたのそう言う優等生的なとこ、良くないわよ。謙遜が美徳ってわけじゃないんだから」

「・・うん」

「少なくともあたしの前では謙遜とか美辞麗句とか、そう言うのいらないから」

笑いながら言うと、高彬はまたしても少し目を見開きながらあたしを見ていたかと思ったら、ふいに目を逸らし前を向いてしまった。

そうして、前を向いたまま、小さな声で

「うん、わかった。・・・ありがとう」

と言い、そのまま黙っている。

高彬の横顔にも炎の照り返しがあり、火が揺らめくたび複雑な陰影を作っている。

(綺麗な横顔・・)

小さい頃から見慣れてるはずなのに、改めてそんな風に思ってしまった。

小さい頃から───

そう、あたしたちは幼馴染で、本物の兄弟みたいに一緒に遊んで、泣いたり笑ったり、時にはケンカしたりしてきた。

ケンカって言っても、主にはあたしが一方的に怒りまくったってことが多いけど。

だから高彬のことは当たり前みたいに思ってたんだけど、実はすごい人なんだって気が付いたのは、多分、中等科に入ったあたりだったと思う。

何でも出来るし、面倒見良くて優しいし、背も高くてカッコいいし、同性にも異性にも人気があって。

高等科入ってからは、あからさまにモテまくってるし。

そんな高彬と幼馴染で、しかも朝晩毎日一緒に帰ってるなんて、多分、あたしは幸せ者なんだろうなぁ、って思う。

幼馴染ポジションはちょっと辛い時もあるけど、でも、さっきみたいに心配して探してもらえたりして、これも役得ってもんよね。

だから、あんまり高彬のこと困らせたくないし。

うん、先回りしてあたしから言っちゃおう。

「高彬、さっきありがとね」

「え」

「権野って人のこと」

「あ、あぁ」

「高彬が機転利かせて、あたしたちが付き合ってるって言ってくれたから助かっちゃった」

「・・・」

さっき二野さんに中断された会話、きっと高彬はこんなことを言い掛けたんだと思うの。

『今のは言葉の綾だよ。本気にするなよ』

って。

でも高彬ってそう言うことって言うの苦手そうだし、だからこそ、何か言いにくそうにしてたんだと思うし。

「あの権野って男もバカよね。あたしたちが付き合ってるわけないのにね。それを真に受けちゃって『覚えてろよ』だって。笑っちゃうわよね~」

こう言う話は笑い話にするに限ると思ってケラケラと笑ってみせたのに、高彬は一緒には笑ってくれなかった。

前を向いて真面目な、見ようによっては怒ったような顔で炎をじっと見ている。

何か怒らせるようなこと言っちゃったかしら・・?

高彬がノッてきてくれないので、あたしだけペラペラしゃっべてるわけにも行かず、あたしも前を向いて炎を見た。

隣の高彬。

すごく近くにいるのに。

少し手を動かせば、高彬と手がぶつかりそうなほどの距離なのに。

そのたった5センチの距離が埋まらない───

近いのに遠い。

これが幼馴染の呪縛なのかな・・・

なーんてね。

炎のせいなのか、めずらしく感傷的な気分になっていると

「瑠璃さん、クラスの打ち上げは出るの?」

ふいに高彬に聞かれた。

「え?あ、ううん。準備に追われて毎日遅かったし、行かないわ」

首を横に振ると

「じゃあ、もう帰ろうよ。どうせ後片付けは明日改めてやるんだし。・・・行こう」

言葉と同時に、高彬に手首を掴まれていた。

皆、炎に気を取られているので、あたしたちが動いたことなんか気に留める人もいない。

手首を掴まれたまま、あたしたちはその場を離れた。






<続>


姫子が融を好きだと判った時の、皆さんの驚きっぷりと言ったら!
「皆さんの 融の評価の 低さかな」
一句読んでみました。

この後、瑠璃と高彬は「ふ・た・り・き・り」に。(「お・も・て・な・し」風に)
次回、サブタイトル「月明かりの2人。恋の予感──?!」でお届けいたします。
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瑠璃ガール<38>

2018-10-28 | ss(現代・高等科編)
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「藤原くん・・」

そろりとドアが引かれ、遠慮がちな声が掛けられる。

「ごめんなさい、ちょっといいかしら」

「二野さん・・」

困惑した様子で高彬が言い

「あ、あたし、外行くわね」

2人の間をすり抜けるようにして廊下に飛び出した。

早や歩きで直線を行き、階段で曲がったところで駆け出し昇降口に向かう。

───もうっ!どうしてあたしが逃げ出すみたいなことしなきゃならないのよ。

そんな思いと

───うわ~、やっぱり高彬、あの子と付き合ってるんだ・・・

その思いで、頭の中がぐちゃぐちゃになる。

そっか、そう言えばあの子「二野さん」とか言ったんだっけ。

同じクラスになったことないし、そもそも人の名前覚えるのが苦手だから、あの子の名前考えたことなかったけど。

二野さん、二野姫子さんと言うんじゃなかったっけ?

「姫子~」とか呼ばれてるの見たことあるような気がする。

高彬と結婚したら、藤原姫子かぁ・・、似合うかも。

ローファーに履き換えながら、ため息が出てしまう。

あんな美少女じゃ勝ち目ないしなぁ。

昇降口を出て校庭に向かうため左に曲がると、すぐにキャンプファイヤーの炎が目に飛び込んできた。

ちゃんと専門の業者さんにお願いしてるから、炎の大きさや高さも立派で、回りに集まってる生徒の顔を赤々と照らしている。

学園祭を終えたと言う達成感なのか、炎を間近で見ると言う非日常感なのか、皆、高揚したような顔をしている。

知った顔がいくつかあったけど、そこに入って行く気になれず、あたしは後ろに回った。

パチパチと音を立てて秋の夜空に吸い込まれて行く炎───

炎の先にはまん丸の月。

高校最後の後夜祭。

これ以上はない思い出作りのシチュエーションだと言うのに、あたしと来たら・・・

「瑠璃さん!」

ふいに後ろから声を掛けられ、我に返る。

振り返らなくたって分かる、この声は────

「高彬」

「どうしたのさ、急にいなくなって。何だか最近、瑠璃さんを探してばかりだ」

笑いながら言う高彬に向かい曖昧に頷きながら、あたしはキョロキョロと辺りを窺ってしまった。

「何?」

「あ、あの・・・二野さんはどうしたのかな、と思って」

「二野さん?あぁ、どこだろうね」

「どこだろうねって。・・・後夜祭、一緒に過ごすんじゃないの?」

「は?どうして」

「どうしてって、だって、ほら、あんたたち付き合ってるんでしょ?」

「はぁ?」

「二野さんからラブレターもらってたじゃない」

思い切って言ってみると、しばらくの間、ポカンとあたしを見ていた高彬が、やがてクスクスと笑いだした。

クスクス笑いが、クックとなって、最後には声を出して笑っている。

「何よ、そんなに笑って。失礼ね」

「ラブレターなんかもらってないよ」

「何言ってるのよ、あたし見てたんだから!」

この後の及んでウソを・・・

カッとなりかけたところで

「ぼくじゃない、融だよ」

「・・・は?融?」

融?

融って・・、あの愚弟の融?

融の名前がどうしてここに───

と思っていると

「瑠璃さんにだから言うけどさ、この間、二野さんに『これを融くんに』って手紙を渡されたんだ。一週間くらい前、昼休みだったかな」

あたしが亜実とカフェテリアにいて、高彬が入って来て、ポケットに手紙が見えた時だわ。

「で、委員会の後、帰ろうとしてたら、ほら、瑠璃さんを校門で待ってた時だよ、二野さんが来て『やっぱり手紙を返して欲しい』って言われてさ。それで、手紙じゃなく自分で言いたいから協力してもらえないか、なんて言われちゃってさ」

「・・・」

「出来れば後夜祭に告白したい、何か良い方法を考えて欲しい、でも誰にも言わないで欲しいって言われて、融にはもちろんのこと瑠璃さんにも相談出来なくて、ほんと困ったよ」

「・・・」

そっか。考え事してたから、だからあの日の帰り道、心ここにあらず状態だったんだ。

「ほら、ぼくはそう言う分野は苦手って言うか、・・・あれ?瑠璃さん、どうしたの?頭でも痛いの?」

はぁ・・・

あたしは頭を抱えてしゃがみ込んだ。

あまりと言えばあまりのことに本気で頭痛がしてくるわ・・・






<続>


二野姫子。その安直なネーミングに自分でもビックリ!ラブレターの種明かしは「融宛てのもの」でした。次回、サブタイトル「届け!瑠璃の思い。あと5センチの恋心」でお届けいたします。
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瑠璃ガール<37>

2018-10-27 | ss(現代・高等科編)
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後夜祭のキャンプファイヤーのため、生徒たちは皆、校庭に出ていて、校舎内は驚くほど静まり返っている。

遠く引き戸を開け締めする音が聞こえ、主務室に駐在する事務員のものかも知れない。

「あの・・」

ほの暗い室内、静けさ、高彬との距離───

その全ての緊張感に耐えられなくなって、あたしは無理やりに言葉を発した。

「うん」

「えーと、その・・・、あ、あたしがここにいるってどうして分かったの?」

一番に聞きたいことは聞けないから、二番目に気になったことを聞く。

「校庭に瑠璃さんの姿が見えなかったからさ。教室行ってみたけどいなくて、だったらここかなって」

「そっか・・」

あたしのこと気に掛けてくれてたんだ・・・

「近くに来たら話し声がするから少し聞いてたら、すぐに事情が飲み込めたから」

「あ、うん」

「瑠璃さん、あの日、塀を乗り越えて帰ったんだね。道理で校門を通らなかったはずだよ」

「・・・」

ちらりと高彬を見ると、怖い顔であたしをじっと見ている。

「瑠璃さん、ぼくが言いたいことわかるよね?」

「・・・」

何だか怪しい雲行きに、あたしは首をすくめ俯いた。

「あそこは立ち入り禁止区域だし、塀を乗り越えるなんてもってのほかだ。いくら瑠璃さんがお転婆だからって怪我をする可能性だってあるし、悪い事を見咎められれば今みたいに脅されることだってあるんだ」

まさしく全てが正論で、あたしはますます縮こまってしまった。

「そもそもさ、どうして塀なんか乗り越えようとしたんだよ」

「・・・」

それは高彬を避けたかったからで、どうして避けたかったかと言うと、高彬があの子にラブレターもらったからで・・・

だけどそんなこと言えるはずもなく黙りこくっていると

「瑠璃さん」

今までとは違う改まった口調で名前を呼ばれた。

怒ってるような声じゃなく、聞きようによっては優しくも聞こえる声。

高彬があたしの正面に向き直る。

その距離、50センチくらい。

「さっきのことだけどさ」

「・・・」

「その、ぼくたちが付き合ってるってこと」

ドキンと心臓が飛び撥ねる。

あたしが一番に聞きたかったこと、あの男に向かって言った

『ぼくたちはずっと以前から付き合ってるんです』

の言葉───

「ぼくがああ言ったのは・・」

高彬が何かを言い掛けた次の瞬間、

───コンコン。

ドアがノックされ、ハッとして2人同時に一歩後ろに下がった。

ドアの覗きガラスから誰かがこちらを見ており───

「・・・」

高彬にラブレターを渡した、3組のあの子だった。






<続>


すみません!前回、予告したサブタイトル「どうなる?ラブレターの行方!」まで話が進みませんでした。次回こそ「どうなる?ラブレターの行方!でお届けいたします。
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瑠璃ガール<36>

2018-10-25 | ss(現代・高等科編)
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「お前、いつから俺にそんなエラそうな口聞くようになったんだよ。俺はお前が高等科に上がって来た時の剣道部の先輩だぞ。忘れたのか」

「もちろん覚えてますよ。権野先輩は先輩も先輩、大先輩です」

「だったら・・」

「何しろ剣道部に5年も在籍してたんですからね」

・・・え?

高彬の背中に隠れるようにしながら2人のやりとりを聞いていたあたしは首を捻った。

剣道部に5年も在籍?

ん?

高彬が高等科に来た時に、この男もいた?

計算が・・・合わなくない?

指を使って勘定していると

「3年を3回も経験された大先輩です」

「それって留・・」

留年と言い掛け、男にギロリと睨まれて首をすくめる。

なるほどー、留年ね。

「ぼくなんかより4つも年上ですしね」

「う、うるさい。黙れ!」

留年を指摘されたことが面白くなかったのか、男───権野は腕を大きく振り払った。

窓から入り込む、今にも消えそうな夕陽だけが頼りの薄暗い中でも、その顔が真っ赤なのが分かる。

「と、とにかくだ、俺はこの女の弱みを握っているんだ。この女を留年させたくなかったら、こっちに寄越せ」

「嫌です。瑠璃さんが後夜祭を過ごす相手はもう決まっています」

「誰だよ」

「ぼくですよ」

顔色ひとつ変えずに高彬が言い、その言い方がまた権野の癇に障ったのか、語気を強めて

「ウソをつけ。だったら何で後夜祭が始まろうって時間にこんなところに一人でいるんだ。第一、お前は今日、一言もこの女と話してないじゃないか。そんな見え透いたウソを・・」

「いちいち当日に約束を取りつける必要もない関係だからですよ」

「それは付き合ってるってことか?」

「他に何があるっていうんですか。ぼくたちは誰にもバレてないだけで、ずっと以前から付き合ってるんですよ。・・・だよな、瑠璃さん」

「え」

高彬の話に呆然としていたところで、いきなり話を振られ、あたしは固まってしまった。

ずっと以前から付き合ってるとか、そんな事実全くないんだけど・・・

だけど、ここで否定してしまったら、後夜祭を権野と過ごすことになりそうで

「そ、そうよ!あたしと高彬は産まれる前から付き合ってるんだから!」

あたしはダンと足を踏み鳴らしながら言い切った。

「だから、あんたのなんか行かないわ!おととい来やがれ!だわよ」

フンっと鼻を鳴らすと

「いいのか?親父に言い付けるぞ!俺の親父はエラいんだぞ」

「・・・」

高彬が小さく息を吐くのが聞こえ、あたしも同じように息を吐いてしまった。

親父はエラいんだぞ───

20歳過ぎにもなって良くそんなこと言えるわよ。

あたしたちの沈黙を何と捉えたのか

「今の理事長だって俺の親父から口添えがあれば・・・」

「現理事長は立派な方です。そんな裏からの情報に諾々と従ったりはしませんよ。第一、生徒の留年などに口を出すような方じゃない」

「な、なんだよ、お前。まるで理事長と知り合いみたいな口を利くじゃないか」

「知り合いと言うわけじゃないですが、まぁ・・・、そのご子息が現生徒会長ですからね」

今の生徒会長って言ったら・・・代田くんだわ。

そっか。

理事長って代田くんのお父さんなんだ。

「あの親子に代わってから、学園も色んな面で改善されました。例えば・・・」

高彬は権野を正面から見据えながら

「部費の使い込み、闇に葬られた暴力事件、果ては生徒による理事の奥さんとの不倫事件。それらの諸悪が今の理事長、生徒会長になってから一掃されました」

「・・・」

その言い方から、高彬言う所の「諸悪」に権野が関わっていることは明らかだった。

関わってるどころか、全部、当事者かも知れない。

「理事長は事を荒立てないため穏便に処理されたようですが、何なら今からぼくが犯人を吊し上げたっていいわけですからね」

「・・・」

「弱みを握られてるのはどっちか、良く考えた方がいいですよ」

「・・・く」

権野は一歩踏み出しながら何かを言い掛け、少し間、みっともなく口をパクパクさせると

「覚えてろよ!」

と捨て台詞を残して出て行き、足音が完全に聞こえなくなると、部屋はシンと静まり返った。

さっきよりも一段と暗さが増した部屋の中、あたしと高彬は2人きりになって───







<続>


薄暗い部屋に2人きり。このままロマンチックモードに突入するのか───?次回のサブタイトルは「どうなる?ラブレターの行方!」でお届けいたします。
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瑠璃ガール<35>

2018-10-24 | ss(現代・高等科編)
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びっくりしてるあたしに構わず、男はズカズカと部屋に入り込んでくる。

「え、え・・」

そのあまりに迷いのない足取りに、このまま掴みかかってこられるような恐怖を感じ、反射的に立ち上がってしまった。

あたしのすぐ横で男は立ち止まり、ジロジロと顔を覗き込んでくる。

「え、・・何・・」

「俺さぁ、前から君のこと目ぇ付けてたんだよね。顔も可愛いし、結構スタイルも良さそうだし」

「・・・」

「親も超金持ちだって聞いたし」

「・・・」

「で、後夜祭、誘いにきたってわけ」

「・・はぁ?」

「行こうぜ」

掴まれた腕を、思いっ切り振りほどく。

最初の驚きが去ると、猛然と腹が立ってきた。

何なの、この男!

「どうしてあたしがあなたと後夜祭行かなきゃいけないのよ!行くわけないでしょ!」

「へぇ、威勢がいいね。噂通り、鼻っ柱が強いんだな。ま、そんなところも俺様の好みってわけだけど」

この男とこうしていてもしょうがないから、部屋を出て行こうとすると、行く手を阻まれてしまった。

「ねぇ、そこどいてくれない。通りたいんだけど」

「だーめ。君は俺と後夜祭行くの。で、その後も2人で過ごすってのはどう?」

「バッカじゃないの。とにかくどいて・・」

「へぇ、じゃあ、この間、あの塀を乗り越えてたこと学年主任に言い付けていいんだ?」

「・・・え」

「あそこって生徒は立ち入り禁止区域なんだよねぇ。いいのかなぁ、チクっちゃっても。君、この学園の校則知ってるよね、生徒の素行に滅法厳しいってね。学業はともかく、それで留年になる生徒も毎年多数いる」

「そんな大げさな。たった一回のあれだけのことで・・」

「俺の親父、前理事長なんだよね」

「・・・」

「親父から手を回せば、そこら辺のこと、いくらでも何とかなっちゃうってわけ」

「・・・」

「さ、行こうか。瑠璃ちゃん」

「放してよっ」

さっきよりも強い力で腕を掴まれてしまい振りほどいてみたものの、今度は上手く行かなかった。

「痛っ、放してよ・・!」

至近距離も至近距離、異様に男の顔が近くにあり、気持ち悪いったらありゃしない。

男の空いてる方の手が腰の辺りに回され、嘘ではなく鳥肌が立つ。

離れようにも力では敵うわけもなく───

(高彬!助けて)

心の中でそう思った次の瞬間、ガラリとドアが開き人が入ってきた。

男とあたし、同時に顔を向けると───

高彬が立っていた。

「高彬・・・」

あたしの呼びかけに応えず、高彬は無言で男の腕を掴んで捩じり上げた。

男は

「イテテテ・・」

と情けない声を上げながらも

「放せ、藤原。こんなことしてどうなるか分かってるんだろうな」

とスゴんでいる。

「その台詞、そっくりそのままお返ししますよ。───権野先輩」

一歩も引かず、高彬は男を睨みつけた。







<続>


ローファー男の正体は権少将でした。権少将は、ああ見えて実は「キューピット」なんです。だってあの夜這い未遂があったからこそ、あの後の展開があったわけですからね。ある意味、キューピット。可愛くないけどキューピット。次回のサブタイトルは「瑠璃を守る!我らがヒーロー高彬!」でお届けいたします。
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瑠璃ガール<34>

2018-10-23 | ss(現代・高等科編)
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「後夜祭のことなんだけどさ」

「うん・・」

「上からの参加も多いらしいよ」

「・・・そう」

実行委員長の立場としての発言に、あたしは言葉少なに頷いた。

一瞬だけ───

後夜祭、瑠璃さんは誰と過ごすの?もし決まってないのならぼくと───

なんて、そんな甘い期待をしてしまった自分を呪いたくなるわ。

「今年は例年以上に内部進学が多かったのと、学内でのアナウンスが昨年より早かったらしく、それも要因らしい。連休前で日取りもいいしね」

「ふぅん・・」

「上」と言うのは、エスタレーター式で上がれる大学のことで、要は後夜祭に大学生も多く参加すると言う事らしい。

でも、今のあたしにはそんなことはどうでも良く、やっぱり気になるのは、高彬は昨日のあの子と過ごすのかなぁ・・と言うことだった。

「明日はどうするの?また早く行くの?それとも普段通り?」

「早く行くわ」

「ふぅん。・・・何か予定でも?」

「そう、あるの」

予定なんか何にもないけど、きっぱりと言い切る。

「ならちょうど良かった」

「え」

「ぼくも委員会の仕事で早く行かなきゃならないんだ。30分早く迎えに行くよ」

「・・・・」

にっこりと言われ、唇を噛んだ。

何だか上手くハメられた気がする・・・

予定があると言い切った手前、今さら普通通りに行くとも言えず、あたしは仕方なく頷いた。

家の前まで来ると、今日は普段通りちゃんとあたしが中に入るまで見届けてくれて、悔しいけどそれだけでちょっとだけ気分が上向いてしまう。

今日の高彬はいつもの高彬で、昨日の上の空の高彬が嘘みたいだった。

自室に上がり窓を開けると、遠く高彬の後姿が見える。

ほんと、昨日のことが嘘だったらいいのになぁ・・

段々と小さくなって行く後姿。

一回くらい振り返ればいいのに。

(振り返れ、振り返れ)

念じてみたのに、後姿は振り返ることなく角を曲がってしまった。

「・・・クシュン」

まるでため息の代わりのように小さなくしゃみが出て、それを自分の中の理由にして

「あー、寒い」

わざとらしく呟きながら、幾分乱暴に窓を閉めた。




*******



観月祭までの数日間は学園中が浮き足立っていて、あたしも委員として目の回るような忙しさだった。

結局、あの日以来、そのまま高彬の送り迎えは復活してしまった。

不本意ではあったけど、毎回、塀を乗り越えるわけにも行かないし、それに実行委員として顔を合わせたり口を聞いたりしないわけには行かず、現実問題として高彬を避けられる状況ではなかったのだ。

だけど、ずっと心の中では気になっていたし、時々、高彬とあの子が親密そうに立ち話してる場面に出くわしたりすると、やっぱりズンっと落ち込んだりもした。

そして観月祭の日───

保護者や近隣の住人、学園生徒や大学生で朝から校舎内はごった返している。

この盛況ぶりを見るだけで、今年の観月祭は大成功だと言うことが分かって、実行委員会のメンバーとしては一安心と言う感じだった。

委員としての仕事をこなしたり、模擬店を回ったりしてるうち、あっという間に夕刻になった。

保護者やお客さんは少しずつ減って行き、5時半になったところで後夜祭の開始を告げるチャイムが鳴る。

生徒たちも一人二人と校庭に向かう中、あたしは一人で実行委員室にいた。

結局、今日は高彬と話せなかったなぁ・・

途中、姿を何度か見かけたけど、忙しそうだったり、隣に誰かいたり。

あーあ。

あたしはイスに座ったまま、行儀悪く脚を投げだした。

高校最後の学園祭だと言うのに、何だか冴えないったらありゃしない。

半年後には卒業なのになぁ。

頭の差があるから、当然、高彬とは違う大学に行くことになる。

高彬と一緒に登下校出来るのは、あと半年・・・・

あーあ・・・

机に突っ伏したところで、ガラッとドアの開く音がして誰かが部屋に入ってきた。

「ねぇ、藤原瑠璃さん」

びっくりして振り返ると───

そこには、この間、あたしの放った靴が頭に直撃した───

ローファー男が立っていた。







<続>


ローファー男の正体、ヒントは「キューピット」です。キューピットなんて可愛いもんじゃないけど、キューピットです。次回、ローファー男の正体が明らかに!
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瑠璃ガール<33>

2018-10-22 | ss(現代・高等科編)
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何も答えないままスタスタと歩き出すと、高彬も当然のように歩き出した。

彼女持ちのオトコとなんか、絶対に口なんか聞いてやるもんですか───

そう決意して口を真一文字にしていると

「もしかしてお父上と喧嘩でもしたの?」

のんびりとした口調で高彬が話しかけてきた。

「もしそうなら・・」

「・・・」

違うと言う意思表示に、頭をぶんぶんと振る。

違うわよ。

「じゃあ何か、感動する本でも読んだ?」

「・・は?どう言う意味?」

あまりに突拍子もない質問に、口を聞かないと決めたことも忘れて、思わず聞き返してしまう。

「いや、もしかしたら女性が自立する話でも読んで、それに感化されて、それで送り迎えはいらないとでも言ったんじゃないかと・・」

「・・・」

あたしは立ち止まって高彬の顔をまじまじと見てしまった。

一体どうしたら、そう言う手の込んだ想像が出来るのかしら?

その割に、肝心な所で鈍いと言うか、頭が回らないと言うか・・・。

いつからあたしが避けるようになったかを考えれば、少しは勘が働きそうなものなのに。

「あのね、高彬。言っておくけどあたしは本なんか読んでないわよ。だから誰にも感化されてなんかないし・・」

そこまで言ったところで、遠くから大きな声が聞こえた気がしてあたしは言葉を切った。

声のした方に目をやると、5、6人の子どもの集団がこちらに向かい走ってくるのが見える。

近づくにつれ顔が判明し───

いつもこの辺りですれ違う、小学生の軍団だった。

何度もすれ違ってるうち、あたしたちのことを「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」と呼び懐いてくるようになったのだ。

「こんにちはー!」

一番小さい女の子に抱き付かれ、あたしは優しい声で「こんにちは」と言いながら女の子の頭を撫ぜた。

「お姉ちゃんたちも今帰りなの?」

「そうよ」

またしてもにっこりと返事をする。

「今日、宿題、すっげぇ多いんだぜ。やんなっちゃうよ」

「今日の給食、デザートにアイスが出たのー」

口々に発せられる言葉に笑顔で頷く。

いくら高彬とケンカしてようが(高彬はどう思ってるか知らないけど、あたしにとってはケンカよ!)この子たちには関係ないものね。

いつも通り、振る舞わないと。

うーん、あたしってば大人!

一人悦に入ってると

「ねぇねぇ、お兄ちゃんとお姉ちゃんは、恋人同士なの?もうチューしたの?」

突然、三年生くらいの女の子が聞いてきた。

「ち、違うわよ!た、ただの幼馴染よ!」

かぁっと頭に血が上ってしまう。

もうもう、何なのよ!バットタイミングでの、選りによってのこの質問!

実際ね、前にも何回か似たようなことを聞かれたことはあるの。

でも、昨日の今日で、この質問はないわよ。

高彬、どう思ってるんだろ・・・

ちらりと顔を窺うと、案の定、困ったような顔をしていて、分かってたこととは言え、あたしはズドーンと落ち込んでしまった。

子どもたちに「付き合ってるの」と聞かれて、あたしが「違うわよ、ただの幼馴染よ」と答えるのはいつものパターンなんだけど、高彬は一度だってそれを否定してくれたことはないもの。

ウソでも言いから

「さぁ、どうかな。この先は分からないよ」

くらい言ってくれたら、あたしだって少しは希望を持てるって言うのに。

ま、そんなこと、オンナ心に鈍感な高彬に求めても無理なんだけどね。

子どもたちと手を振り別れたところで、あたしはまた口を真一文字にして歩き出した。

少しの間に太陽が動いたみたいで、さっきよりも影が長くなっていて、吹く風が少しだけ肌寒い。

ついこの間まで暑かったのにな・・・

「瑠璃さん、後夜祭のことなんだけどさ」

高彬の発する「後夜祭」と言う言葉に、心臓がトクンと鳴った。







<続>


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瑠璃ガール<32>

2018-10-21 | ss(現代・高等科編)
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慌てて亜実の背中に飛び乗り、塀の向こうを覗くと────

そこには見知らぬ男が立っていて

「イッテェ・・」

と言いながら頭をさすっている。

見たところ二十歳前後の若い男である。

脇にはローファーが転がっており、あたしの投げたローファーがこの男の頭に命中したことは明らかだった。

「あ、すみません」

頭をペコンと下げると、男はムッとした顔をあたしに向け、文句でも言おうとしたのか口を開きかけ、次の瞬間

(あれ?)

と言う顔になった。

そうして

「確か君って・・・」

「はい?」

あたしを・・・知ってるの?

男は立ち止まったままあたしの顔を無遠慮にジロジロと見ている。

謝ったんだし、もうどっか行ってくれないかしら。

いくらあたしでも、この男の前で塀をまたぐなんてことはさすがに出来ないし。

「あの、何か?」

追っ払いたい気持ちを込めて声を掛けると、男はハッとしたように目をパチパチさせ、そうして歩き出した。

やれやれ、ようやく立ち去ってくれたわ。

念のため、男が角を曲がるのを見届けてから、あたしは(えいっ)と勢いを付けて塀を飛び越えた。

片方の靴とカバンは亜実が投げてくれた。

要求アップを疑ってたなんてことは、この際、亜実には言わないでいいわよね。

「亜実、ありがとね」

塀越しに言い、あたしは男とは反対方向に歩き出した。

迂回しながら土手に上がり、用心深く辺りを見回すと、高彬の姿はどこにも見えずホッと息を吐く。

この土手はどのルートで帰ったとしても通らないといけないので、もし高彬に見つかるとしたら、この土手で───

「瑠璃さん」

突然、土手添いの繁みから声が聞こえ

「きゃっ!」

さっきより更に飛び上ってしまった。

この声は・・・・

恐る恐る声のした方を振り返ると、思ってた通り、高彬が立っていた。

「どうしてここに・・」

「どう言う訳だか、今日一日、瑠璃さんに避けられてるみたいだったからね」

「・・・」

「さっきも一番に教室を出た割りに、校門で待ってても来ないし」

「・・・」

「家に帰るには、どうしたってここを通らないといけないからね」

「・・・」

「だから、ここで張り込んでた」

「・・・」

「瑠璃さん、どうしたんだよ、ほんとに。何かあった?」

───何かあったのは高彬でしょ?

思わず出かかったその言葉を、あたしはグッと飲み込んだ。







<続>


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瑠璃ガール<31>

2018-10-20 | ss(現代・高等科編)
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「こらぁ!廊下を走るなぁ。誰だぁ?藤原かぁ?」

後ろから怒鳴り声が聞こえた。

あの語尾を伸ばす特徴のあるダミ声は、うるさ型で有名な学年主任に違いないわ。

捕まったら最後、延々と指導と称するお説教をされるに決まってるから、当然、無視して走り続ける。

校舎の一番端っこの出入り口まで来たところで、あたしは立ち止まった。

離れの用務室に行く為の出入り口で、生徒の使用は禁止されている。

静かにドアノブを回し、ローファーを置くと、あたしはさっと外に滑り出た。

秋の青い空に色づいた銀杏の木が映え、それが絵葉書みたいに綺麗で一瞬見惚れてしまったんだけど、本来の目的を思い出し、あたしは塀の前まで行った。

この塀を乗り越えて外に出ようって魂胆なのである。

ちょうど正門の真裏だし、ここから出れば高彬の目に触れることはないはず。

塀の前に立ってみると思いのほか高く、何か足場になるものはないかとあたしは辺りをキョロキョロと見回した。

だけどそんな都合の良いものが転がってるはずもなく、思い付いて用務室のドアノブを回して見ると、やっぱりしっかりと鍵が掛かっている。

用務室にだったら脚立くらいあるだろうし、何とか開けられないものかしら?

諦め悪くカチャカチャとノブを回していると

「何してるの?」

ふいに声を掛けられ、あたしは文字通り、飛び上ってしまった。

恐る恐る、声のした方を振り返ると───

亜実が立っている。

「亜実・・。やだ、もう、驚かさないでよ」

唇を尖らせると

「こんなところで何してるのよ、瑠璃。ここは基本、生徒が立ち入っちいけない場所よ」

「あ、うん・・」

思わず反省しかけ、でも、すぐに気が付く。

「そう言う亜実こそ何してるのよ」

「あたくし?あたくしは、ほら、これよ。秋の味覚の収穫」

良く見ると亜実は片手にビニール袋を持っていて、中に入っているのは・・・

「ぎんなん?」

「そうよ」

「・・・」

「校舎の窓から、これだけ立派な銀杏の木なら、さぞギンナンもたくさん落ちてるに違いないって目を付けてね。もうかれこれ3年目かしら。お蔭で毎年ギンナン買わずに済んでるわ」

「そ、そう。良かったわね」

全く悪びれない様子に思わずコクコクと頷いてしまう。

「で、あなたは何をやってるの?用務室に入りたがってたみたいだけど。なぁに?もしかしてバケツでも盗むつもり?いよいよ藤原家も財政危機?」

「そんなんじゃないわよ」

迷ったのは数秒だった。

「実はね・・・」

大元の理由はばっさり省略して、高彬を避けてることだけ話すと、亜実は「ふぅん」とさして興味もなさそうな返事をして

「で、この塀をよじ登りたいってわけ」

「そうなの。それでお願いなんだけど、亜実、足場になってくれない?こう、馬になってもらって・・」

「は?あたくしが?冗談でしょ。どうしてあたくしが盗賊の手伝いみたいなことしなきゃならないの」

ギンナンを拾ってたことを棚に上げて言う。

「それにあんたの下僕みたいなことするなんて、あたくしのプライドが・・」

「スワンで何でもご馳走するから」

「え」

「2回、ううん、3回でいいわ。海老フライでもビーフシチューでも何でもいいわよ」

「スワン」と言うのは学園の近くにある老舗の洋食屋さんで、だけど結構なお値段なのだ。

「何だったらコースでもいいわよ。ほら、秋限定の・・」

「やるわ」

「え」

「足場にでも岩場にでもなってあげる」

「・・・」

「だってあたくしたち親友じゃない」

「え、えぇ。そ、そうよね」

あまりの変わり身の早さに、さすがのあたしもびっくりしてしまう。

ま、いいんだけどね。

亜実はさっさと四つん這いになると

「遠慮なく乗ってちょうだい。あ、靴は脱いでよね」

「わかってるわよ」

ローファーを脱ぎ、亜実の背中に立ったところで

(靴とカバンは先に向こうに投げておこう)

と思いついた。

身体ひとつで向こうに行ってしまったら、亜実のことだから

「この靴が欲しかったら、コース料理を5回!」

とか要求をアップさせてくるかも知れないものね。

片方のローファーを放ると

「イテッ」

塀の向こうから声が聞こえた。







<続>


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瑠璃ガール<30>

2018-10-18 | ss(現代・高等科編)
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「何が?」

ジロリと睨み付けたまま言うと

「何がって。朝行ったらいなかったじゃないか。志乃さんに聞いたら30分前に出たって言うし」

「そうよ」

「何かあったの?」

「別に。早く出たかったから出ただけよ。いけない?」

つん、とアゴをあげて見せる。

続けて

「あ、そうそう。今日から送り迎えはノーサンキューよ、ノーサンキュー。朝、うちに来ないでね。帰りも待たないでいいから」

ピシャリと言うと

「え、でも瑠璃さん・・・」

高彬が何かを言いかけたのと、チャイムが鳴ったのが同時だった。

生徒たちが着席しだし、納得しない顔ながらも、ずっとここにいるわけにはいかず、高彬は教室を出ていった。

また後で、と最後に高彬の口が動いた気がしたけど、そんなのは無視よ、無視。

休み時間になるとダッシュで教室を抜け出し、トイレ行ったり図書室行ったり中庭をうろついたりして、とにかく高彬を避けまくった。

その甲斐あって下校時まで高彬と接触することはなく、今日は実行委員会がないのも好都合で、そそくさと昇降口に向かう。

学園指定のローファーに履き替えようと屈んだ瞬間、あたしは舌打ちしそうになってしまった。

門のところに、誰あろう高彬が立っているのだ。

慌てて物陰に隠れる。

もう!待たなくていいって言ったのに!

それに何でこんなに早くにいるのよ。

あたしだってフライングすれすれで出てきたって言うのに、もう門にいるなんて信じられない。

あいつ、瞬間移動でも出来るんじゃないかしら?実はエスパーとか?

それとも6時限目、早退でもしたのかしら?

今日1日あたしが捕まらなかったから意地になってるのかも知れない。

高彬って変なとこで負けず嫌い出してくるから。

さてどうしよう・・・

あたしは物陰で(うーむ)と腕組みをした。

うちの学園はセキュリティ上の問題とかで、出入り口は正門ひとつしかないのである。

だから帰るには、高彬の前を通るしかなくて───

でもそうしたら、絶対に高彬はあたしの後を付いてくるだろうし、それでまたあれこれ聞かれて、自分のことは棚に上げてお説教でもしてくるに違いないんだから。

そんな事態は絶対に避けたいわ。

うーん・・・

目を閉じ少し考えて

(そうだわ!)

いい事を思い付いたあたしは、脱いだローファーを片手に持ち、校舎内を走りだした。








<続>


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瑠璃ガール<29>

2018-10-17 | ss(現代・高等科編)
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何もしゃべらないまま2人並んで歩く。

普段だったら、高彬の方から

「今日は何かあったの?」

とか

「この間のテスト返ってきただろ。どうだった?」

とか、何かしらの話題を提供してくれるのに今日はそれもなく、かと言ってあたしはあたしで動揺してるから、気の利いた話題なんて浮かんでこない。

いつもはあっという間の土手が、今日はやけに長く感じる。

土手ってこんなに距離あったかしら?

「えーと・・・、観月祭、もうじきね」

沈黙に耐えきれずにそう言うと

「え。あ、・・・あぁ、そうだね」

どこか上の空の答えが返ってきた。

今の高彬は観月祭のことで頭がいっぱいだから、いつもなら観月祭のこと振ったらうんざりするくらい饒舌になるのに・・・

結局、交した会話はそれだけで、盛り上がりがいっさいないままにあたしの家の前に着いてしまった。

「じゃあ瑠璃さん、また明日」

毎回、決まり文句となっている言葉をまたしても上の空で発すると、高彬はそのまま踵を返し行ってしまった。

いつもだったらあたしが玄関に入っていくとこまで見届けてくれるのに、今日はそれもナシ。

反対にあたしが見送るような形になってしまい、それに気が付いて、慌てて玄関を閉めた。

「お帰りなさいませ、お嬢さま」

家人の出迎えを適当にあしらい、あたしはキッチンに向かい

「志乃さん!何かおやつ持って来て!」

「あら、瑠璃お嬢さま、お帰りなさいませ。どんなおやつになさいます?今、ご用意出来るのはプリンアラモードにモンブランケーキ、浅草の人形焼きに長野のサラバンド、宮城の萩の月に山口の利休饅頭、北海道の白い恋人に沖縄の紅芋タルト、あとはダロワイヨのマカロン・・・」

「全部!」

そう叫ぶとドタドタと階段を上がり、バタンと部屋のドアを閉め、ベッドにダイブした。

何なのよ、高彬のあの態度!

いいって言ってるのに家まで送りたがってるのは高彬じゃない。

だったらあたしが退屈しないように、時事ネタから芸能ニュースまで幅広い話題を提供するのが筋ってもんじゃないの?

それが何よ、可愛い子に告白されたからってぼ~っとしちゃって。

あたしに失礼じゃないの。あのバカ。

そうだ!

いいことを思い付いて、あたしはムクッと起き上がった。

明日、高彬の迎えを待たずに学校に行っちゃおう。

当分───

ううん、もう高彬の送り迎えはいらないわ。

彼女持ちの人にそんなことさせちゃ悪いものねーーー。

ふん、だ。

そんなわけで翌朝、あたしは目覚ましを5個鳴らして、いつもより30分早く家を出た。

もう少しで朝のホームルームが始まると言う時、高彬があたしの教室に入ってきた。

「瑠璃さん、今日どうしたんだよ」

あたしはジロリと高彬を睨んだ。








<続>


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瑠璃ガール<28>

2018-10-16 | ss(現代・高等科編)
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このまま何も気付かない振りして「高彬ー」なんて言いながら駆け寄るか、それともどこかに身を隠してやり過ごすか。

考えること数秒。

あたしは、近くの大きな銀杏の木に近づいた。

太い幹が隠れるのには好都合だった。

実はね、高彬の告白場面に立ち合ったのって初めてじゃないのよ。

ううん、それどころかかなりの回数に上る。

だって、高彬ってほんとにモテるんだもん。

代田くんみたいにキャーキャー騒がれるモテ方じゃないけど、その分、本気で片思いされてるって感じのモテ方。

でも、告白した子はいつも玉砕してて、どうしてそれをあたしが知ってるかって言うと、高彬が話してくれるから。

あたしも興味ない振りで茶々を入れながら、しっかりダンボの耳になったりしてる。

それでその度に安堵のため息を吐いたりして・・・

銀杏の木に寄りかかって空を見上げると、まん丸には少し足りない月が浮かんでいた。

秋のせいか月が綺麗に見えてて、一週間後の「観月祭」には見事な満月が見られそうだった。

高校最後の学園祭。

後夜祭、高彬は誰と過ごすんだろ・・。

観月祭には後夜祭があって、実はそっちの方が盛り上がったりするのだ。

夜のグラウンドでキャンプファイヤーやって月を見て、キャンプファイヤーの火が消えると代わりにイルミネーションが灯って、最後に秋の夜空に花火が打ちあがって───

いつもそれをきっかけに誕生するカップルも多数で、何となくこの時期、男子も女子もソワソワしている。

だから後夜祭を誰と過ごすかは、皆の共通の関心事項で───

向こうから足音が近づいてきて、あたしは更に銀杏の木を回り込んだ。

どんどん近づいて来て、反対側からそっと様子を窺ったあたしは

(あ)

と声を上げそうになってしまった。

学園一の才色兼備、美少女の誉れ高い、3組の女の子だったからである。

直接話したことはないけど超有名人で、半端なく告白されまくってるらしく、でも皆、当たって砕け散っていると言う専らの噂だった。

うわぁ・・、そんな子が高彬のこと好きになっちゃったんだ・・・。

どうしよう・・

「あ、瑠璃さん、遅いと思ったらこんなとこにいた」

「きゃっ」

木の陰で一人であわあわしていたら、ふいに後ろから高彬の声がして、思わず飛び上ってしまった。

「教室まで見に行こうかと思ってたんだ」

「あ、ごめん。えーとさ、何かお取組み中だったみたいだからさ。終わるまで隠れてようかなぁ、なんて思って。へへ」

こう言えば

『何だよ、見てたのかよ、瑠璃さん。人が悪いな』

『まぁ、たまたまよ。相変わらず、モテて結構なことじゃない』

『止めてくれよ、結構だなんて。毎回、断る言葉に苦労してるんだから』

なーんて会話になるので、今回もそう言って見たのに、高彬はふいに口をつぐんでしまった。

あたしから目を逸らし、そうして

「帰ろうか」

校門に向かって歩き出す。

え。

えぇ?

もしかして、話、逸らされた?

どうして?

まさか、まさか。

そのまさかなの────?!








<続>


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瑠璃ガール<27>

2018-10-15 | ss(現代・高等科編)
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「瑠璃さん。・・と、水無瀬」

カフェテリアに入ってきた高彬はすぐにあたしたちに気付いた様で、まっすぐ席にやってきた。

いつも思うんだけど、高彬って本当に目聡いと思う。

千里眼って言うか。

剣道してる高彬をこっそり見に行こうと武道場行けば、すぐに見つかって声掛けられちゃうし。

「藤原くん、ポケットから何か出てるけど」

亜実が指さしたのはズボンのポケットで、釣られて目をやると、確かにポケットから何かがはみ出していて───

───封筒?

同時に気付いた高彬は慌てたようにポケットにそれをねじ込むと

「瑠璃さん、今日は6時限目の後に実行委員会があるよ。忘れずにね」

そう言い、そのままカフェテリアを出て行ってしまった。

カフェテリアでの滞在時間、約20秒。

「慌ただしいこと。あれだけ言いに来たのかしら。ほんと・・・、なんて言うか過保護よね、藤原くんって瑠璃に」

「前の時、あたしが忘れてすっぽかしちゃったからよ。自分が委員長やってるから欠席者が出て欲しくないんじゃない?ほら、あいつ真面目だから」

「それだけが理由かしらねぇ」

意味ありげに亜実が言い、あたしは返事することなく、目まぐるしく頭の中で考えを巡らせた。

さっきの封筒。

やっぱりラブレターかな。

良く見えなかったけど、白地に小さなお花模様が縁取られていたような気がする。

それにあの慌て様。

ただの学園からの配布物だったら、わわざわ隠すようにポケットに入れる必要ないんだし。

あーあ・・・・

また、あたしのロマンスが遠のいたみたい・・

「何よ、またため息ついて」

「別に。じゃ、あたしもう行くわ。またね」

5、6時限目を適当にこなし、時間きっかりに実行委員会室に入って行くと、すでにあたし以外の委員は全員揃っていたみたいで、ペコンと頭を下げて席に着く。

高彬の「遅い!」とでも言いたげな視線を感じた気がするけど、気にしないでおこう。

「全員揃ったところで、第7回目の実行委員会を始めます」

高彬の宣言で委員会は始まった。

何の委員会かと言うと、一週間後に迫った学園祭のための集まりなんである。

うちの学園祭は、毎年、十五夜の頃に開催されることから「観月祭」と呼ばれていて、高彬はそれの実行委員長を務めているのだ。

副委員長は生徒会長の代田くん。

後は各クラスから数名ずつ。

自薦他薦問わずで、お祭り騒ぎが大好きな人なんかは率先して立候補するし、後は高彬目当ての女子もいるんじゃないか、とあたしは踏んでいる。

だって、またとないお近づきのチャンスだもの。

2時間近くも委員会は続き、お開きとなったのは6時を回っていた。

秋の日は短くて、陽はとっぷりと暮れている。

「瑠璃さん、校門でね」

席を立ったところで高彬に声を掛けられ、あたしは頷いた。

父さまの言い付けで、高彬は登下校をあたしと共にしているのだ。

教室に戻りカバンを取り、校門に向かう。

昇降口を出ると、門へと向かう真っ直ぐのアプローチの先に高彬らしい人影が見えた。

遅れたらまた怒られちゃう。

「高彬・・」

手を振りながら走り出したところで、あたしはピタと足を止めた。

高彬の向いに誰かが立っているのだ。

一歩ずつ近づいて行き、今度こそあたしは足を止めた。

高彬の手には封筒が握られていて───

もしかして・・・

さっきのラブレターの子?

これって───

高彬の告白場面ってわけ?!








<続>


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瑠璃ガール<26>

2018-10-12 | ss(現代・高等科編)
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「どうしたのよ、瑠璃。元気ないじゃない。あなたにしちゃ珍しくお弁当もひとつしか食べなかったし。何か悩み事?」

亜実に顔を覗き込まれ、あたしは大きなため息を吐いた。

「あらやだ。ほんとに悩み事なの?」

「別にそんなんじゃないけど。ただ・・」

「ただ?」

「・・・秋だからよ」

「はぁ?秋?秋だからなによ。食欲湧き過ぎてお腹でも壊したの?」

「もうっ。そんなんじゃないわよ!亜実には秋の風情ってないわけ?何て言うかこう・・・、切なくなるって言うか、人恋しくなるって言うか」

そう言うと亜実はふふん、と鼻で笑い

「どうして秋だからって切なくならないといけないのかしら。バカバカしい」

黒く艶やかな髪を払い、あたしに興味を失ったように文庫本を開いた。

それきり亜実が顔をあげることはなく

(あーあ)

あたしはまたしても心の中でため息を吐きながら、回りに目をやった。

ランチ時のカフェテリアは生徒たちでごった返している。

全面ガラス張り、陽光溢れる明るくおしゃれなカフェテリアは学園自慢の設備で、時々はテレビでも紹介されるほどだ。

ま、親がお金持ちの生徒が多いから、寄付金がわんさか入ってくるってだけなんだろうけど。

窓から見える校庭の木々は色づき始めている。

空気は澄み渡り、高くなった空にはうろこ雲───

気が付いたら、季節はすっかり秋なんである。

秋と言えば、恋よね、ロマンスの季節よね。

嗚呼!なのにあたしったら!

読書の秋を決め込む亜実の前で、あたしは頭を抱え込んだ。

あたしったら、なんて無為な夏の日々を送ってしまったのかしら?

せっかく海に行ったのに!

せっかくディズニーランドに行ったのに!

せっかくプールに行ったのにーーー!

「瑠璃、さっきからうーうー、うるさいわよ。何、呻いてるの。読書の邪魔よ」

ぴしゃりと亜実に言われ、あたしはふと顔を上げた。

目の前の亜実の顔。

文字を追う目元は長い睫毛で覆われ、はらりとページをめくる指は白魚のように白く───

「文句を言う時でも綺麗な人は綺麗なのねぇ・・・」

まじまじと亜実を見ていたら、思わずそんなことを言っていて、それに気を良くしたのか

「あらあら何よ、瑠璃ったら。今日はヤケに素直じゃない。なぁに、あたしで良かったら話くらい聞くわよ、いくらでも。何でしたっけ?秋は切ない?人恋しい、でしたっけ?えぇえぇ、本当に、秋は切ないわよねぇ」

ウキウキと身を乗り出してきた。

「で、なぁに?悩みって」

「別に・・」

あたしは言葉を濁した。

「話せば楽になるわよ」

亜実に話したって楽になんかならないわよ。

だって元凶はあいつだもん。

「あら、藤原くんよ」

亜実の目線に釣られて入り口付近に目をやると───

元凶、もとい、高彬が入ってくるところだった。








<続>


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