紫匂う花房の<3>

2017-04-16 | ss(紫匂う花房の)
※<原作8巻その後>をイメージしたお話です。ネタばれ要素を多く含みますので閲覧ご注意下さい。※



「あのぅ、姫さま。またお文が届きました」

早苗がおずおずと差しだすお文を、あたしは片手でひったくるように受け取った。

「・・・」

あたしの荒々しい仕草に早苗が怯えたような上目づかいで見てくるので

「あぁ、悪かったわね、おまえが悪いわけではないのよ」

無理に笑って見せると、早苗はホっとしたような顔で退がって行った。

最近、高彬以外の人からの文が届くとあたしの機嫌が悪いと言うので、女房たちがあたしに文を渡しに来るのを嫌がっている───、と言うようなことを少し前に小萩が言っていたことを思い出す。

女房たちが悪いわけじゃないんだし、気を付けないといけないわね・・・

そんなことを思いながらお文にざっと目を通したあたしは、危うく料紙を握り潰してしまいそうになった。

言うまでもなく、またしても文は鷹男からのもので、この間のよりも強い文言で<お会いしたい>みたいなことが書かれてある。

更には<このまま返事をもらえないようなら、近々、命婦を遣わすかも知れない>と言うことまでそれとなくほのめかしてあったのだ。

前回も前々回の文にも返事を書かなかったから、こんなことを書いてきたのに違いない。

鷹男のやつ!

あたしは盛大に舌打ちをした。

高彬はまだ完全に本調子じゃない身体を推して、それでも毎日、出仕していると言うのに、何を浮かれた文を書いているのよ!

高彬がどれほど気を使って嘘の報告書を作成したかわかってんの?!

それもこれも、少しでも鷹男の気持ちが楽になるためにって言う、その一心だったと言うのに。

まだ痛む身体で、休み休み、考え考え、筆を動かしていた高彬の姿をあんたに見せてやりたかったわよ!

今度こそは本当にお文を握りつぶしてやろうと両手を絞りかけた瞬間、ふと閃くものがあり、あたしは手を止めた。

いつだったか鷹男は、こんな風な<艶な噂>に紛らせながら、何とかあたしに連絡を付けようとしてたことがあったのを思い出したのだ。

まさかと思うけど、また何か極秘であたしに伝えたいことでもあるのかしら?

吉野君のことや、前左大臣のこととかで・・・

どうなんだろう、一度、会って話した方がいいのかしら。

「・・・・」

本当に内密に伝えたいことがあるのだとしたら早めに聞いておきたいし、それにもし、あたしが参内しないことに焦れた鷹男が、また高彬にお使者役とかやらせたりしたら、それも嫌だし・・

少し考えて、高彬が帰ってきたら相談してみよう、と決めた。

文をもらってることは、高彬が鷹男に失望しないためにも言わずに済むものなら言いたくないって気持ちがあったけど、鷹男に会うとなるとそういうわけには行かないものね。

そうなると今までにも何回か鷹男から文をもらってたことを話さないといけないけど、きちんと話せばきっと高彬は分かってくれるはずよ。

あたしは高彬のことで、いくつか学んだことがある。

それは、何も知らされずにいると言う事がすごく嫌な人なんだな、と言う事。

思えばあたしは、今までは一人で突っ走るようなところがあって、高彬には内緒だったり事後報告ってことがすごく多かった。

それで高彬を怒らせたこともたくさんあったし、だから、もうそう言うことはしないでいようと思ってる。

根本的なところであたしが変わったわけではないんだけど、相手が嫌がることはしないでいようって言うか。

高彬の意に沿うように、合わせられるところは合わせようって言うか、あたしのやり方を見直そうって言うか。

高彬は確かにお固くて口煩いところはあるけれど、でも、頭ごなしに何でもかんでも反対するような人じゃないし、むしろちゃんと事情を話せば分かってくれることが多いのよ。

まぁ、こんなことも、少しずつ見えてきた部分なんだけど。

高彬のこと、幼馴染だし何でも分かってる気になってただけなのかも知れないなぁ、なーんて思ったりしてね。

夜になり高彬がやってきた。








~続きます。


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