雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

508億円でどうぞ ・ 小さな小さな物語 ( 1026 )

2018-05-11 17:04:35 | 小さな小さな物語 第十八部
イタリア・ルネサンス期に活躍した、レオナルド・ダビンチがキリストを描いた油絵が、ニューヨークでの競売において4億5千万ドル(およそ508億円)で落札されました。
まあ、「それがどうした」と言われればその通りですが、いくらすごいといっても、たき火に放り込めば簡単に燃えてしまうはずの1枚の絵が、希少価値、あるいは芸術性などをどう評価したのかしりませんが、508億円とは、何ともすさまじい価格です。

ダビンチの絵画は、現存が確認されている物は20枚ほどだそうで、今回競売に掛けられたキリストの肖像画は、唯一個人所有になっていた物だそうです。
この作品は、17世紀にはイギリス国王が所有していたようですが、その後は行方不明となり、長く「幻の作品」とされていたようです。
何でも、長い沈黙の後登場した時には、100万円ほどで売買されたようで、その頃には、真贋が争われたとも言われています。その後、どのような経過を経たのでしょうか、ついに美術品市場の最高値に昇ったことになります。
買主は明らかにされていないようですが、もし個人でなければ、ダビンチの絵画の個人所有者は皆無になってしまうことになります。世界には、1兆円を超える資産を有している人がゴロゴロいるわけですから、そうした誰かが、2~3日程始末してこの絵を買っていてくれたら、唯一の個人所有の記録は続くことになります。
もっとも、それも余計なお世話ですが。

かつて、ある著名な小説家の方からお話を聞く機会がありました。そのお方は、若い頃には絵画も志していたそうで、その頃の仲間が、いずれも食べる物も削って画業に専念し、栄養失調から結核を患って有能な才能を開花させることなく若い命を散らせてしまった・・・、といった話を聞いたことがあります。その時、豪放無頼を売り物にされていたその先生が、目を潤ませていたことを覚えています。
もし、その時、先生の仲間たちの手に、この絵1枚があれば、何人の人材を育て上げることができただろうと、つい、詮無いことを考えてしまいました。

いくらすばらしいからといって、たった1枚の絵に508億円とは、と思わないでもないのですが、この世というものは、すべからくそういうものかもしれません。
現役の画家の間でも、1枚508億円の人はいないでしょうが、1枚数百万円の人はたくさんいるでしょうし、白地のままの方が高い値がつく方も少なくないのではないでしょうか。
これは、何も絵の世界だけでなく、芸術の世界だけのことでもありません。
能力や体力などに大きな差があるのだとしても、またたゆまぬ努力の結果だとしても、突出した一握りの人と、その他大勢と、そこからさえも落ちこぼれている人があることは、あらゆる分野でみられることです。
ただ、神様か仏様かは知らないのですが、そういった存在から学んだらしい先人たちは、508億円の絵はなくても、豊かに生きていく方法のヒントを伝えてくれています。
ただ、ヒントだけで、なかなか身に付かないのが難ですが・・・。

( 2017.11.18 )

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