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2015夏 ドイツ/クロアチア/ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紀行 4:国際寝台列車LISINSKI号の旅

2015-08-30 | 旅行記:2015 ボスニア・ヘルツェゴヴィナ
Photo:国際寝台列車LISINSKI号の朝の車窓(スロベニア)


3:ミュンヘン中央駅にてからの続き



午後11時頃、ミュンヘン中央駅の12番乗り場に3列車併結編成の国際夜行寝台列車が入線して来た。
プラットホームに表示された行き先表示には、ずらりと3つの街の名前が連なる。




くすんだ水色の寝台車は、ハンガリー国鉄が運行するブダペスト行きのEN463「KALMAN IMRE」。
それにベネチア行きのCity Night Line 40463「PICTOR」の赤い寝台車が続く。
「KALMAN IMRE」とはオペレッタ「チャールダーシュの女王」で知られるハンガリー出身の作曲家の名前、「PICTOR」は南半球の星座「がか座」だ。




そして、白地に青のストライプが鮮やかなクロアチア鉄道の寝台車が、今夜僕が乗車するザグレブ行きEN499「LISINSKI」。

「LISINSKI」はクロアチアの作曲家の名前で、ザグレブの音楽ホールにもLISINSKIの名が冠されているようだ。ちなみに、半世紀前に同じミュンヘンからザグレブまでを結ぶルートを運行していた豪華列車オリエント急行の仲間の一つである「タウエルン・オリエント・エクスプレス」の伝統を引き継いでいる、由緒正しき国際寝台列車である。
ミュンヘン中央駅23:36発の国際夜行寝台列車は、以上3カ国方面行きの3つの列車を束ねて出発する。オリエント急行の末裔であり、二人の音楽家が南天の星座を挟んで向かい合うという、なかなか洒落た夜汽車である。

ヨーロッパの夜行列車では目的地が異なる複数の列車をまとめてつないで1本の列車に仕立て上げて運行するのはよく行われている手法だが、所属する国も鉄道会社も車体の色も異なる客車たちがにぎやかに連結されている列車は見ていて楽しいし、様々な行き先の都市名には旅情を感じる。

そしてふと、今はもう走っていない日本のJRのブルートレインも東京発熊本行き「はやぶさ」と大分行き「富士」や、京都発長崎行き「あかつき」と熊本行き「なは」などがヨーロッパの夜行列車と同じように併結運転を行っていたのを思い出した。



さっそく、LISINSKI号に乗り込む。
今夜予約しているのは、奮発して1人用コンパートメントの個室寝台車。日本のブルートレインではA寝台の「シングルDX」に該当するグレードだ。


寝台車に乗車すると車内の端に通路があり、それに添ってコンパートメント個室のドアがずらりと並ぶ。


そしてこれが今夜の僕の部屋。
こざっぱりとしていて、清潔感がありなかなか快適そうだ。

今夜は僕が一人利用で予約しているので上段のベッドを収納してシングルルームとしているが、上段ベッドを引き出すことで収容人数を増やすことができるタイプのヨーロッパではよく見かけるスタイルの個室寝台だ。日本式に言うと「サンライズ瀬戸・出雲」のB寝台「シングルツイン」個室に似たシステムだが、室内のレイアウトは「北斗星」のA寝台「ツインDX」によく似ている。

ちなみに、通常はこのタイプの個室寝台は1等車扱いとなるのだが、なぜかクロアチア鉄道の寝台車には車体の等級表示が無く、手元のチケット(日本の代理店で発券してもらったドイツ鉄道DB発行の早割寝台券)では2等寝台と記載されていた。


個室内には洗面台も準備されている。


洗面台に用意されていたミネラルウォーターと、夜食の菓子パン。


そしてナイトグッズの詰め合わせもプレゼントされる。
この寝台車がもしドイツ鉄道の言うとおり2等車だとしたら、破格のサービスだ。



定刻の23:36、EN463「KALMAN IMRE」とCNL40463「PICTOR」、そしてEN499「LISINSKI」の併結編成の国際寝台列車はミュンヘン中央駅を発車した。
すぐにクロアチア鉄道の車掌氏による車内検札があり、これから寝てる間にいくつもの国境を越えていく旅なのでチケットと一緒にパスポートを渡そうとすると「明日の朝、ザグレブに着く少し前にクロアチアの国境駅(ボーダー)でパスポートチェックがあるだけだから。おやすみ!」とだけ言われて終了。
一昔前までは国際寝台列車に乗ったら先ずはパスポートを車掌に預けて、真夜中に通過する国境駅での入出国審査を代行して貰うのが風物詩みたいなものだったのだが、今では旧ユーゴ北部にまで広がった「シェンゲン協定」圏内ではパスポートチェック無しでの国境通過が当たり前になってしまった。

さて、もう夜も遅いし、オリエント急行の系譜を引き継ぐ華やかな国際寝台列車とはいえ深夜運行で編成も短いこの列車には食堂車も連結されていないので、あとは暫く車窓の夜景を眺めてから寝ることにする。
このクロアチア鉄道の寝台車は最近造られたばかりのまだ新しい車輌のようだが冷房はついておらず、窓を少し開けて涼しい夜風に吹かれながらベッドに横になる。
ヨーロッパの夜行列車の風情は、こんなところに健在だった…

…車窓から吹き込んでくる、牧草の香りのする冷たい夜風にすっかり気持ちよく寝入っていると、列車が停車したり発車したり、連結器をつないだり外したりする音と振動で目が覚めた。


ブラインドを開け放した窓から、煌々と明かりのついた駅のプラットホームが見える。
まだミュンヘンを出てから1時間半ほど、オーストリアとの国境を越えてザルツブルグ中央駅に到着していた。
ここでブダペスト行きのEN463「KALMAN IMRE」を編成から切り離す作業をしているらしい。

この後、夜明け前に到着したイタリア国境に近いフィラハの駅でもベネチア行きCNL40463「PICTOR」を切り離したり、機関車交換をして進行方向を変えたりしたようで、寝ぼけ眼で車窓を見ると列車が駅構内を行ったり来たり入れ替え作業をしていた記憶が夢うつつに薄っすら残った。

2015年8月9日





すっかり夜が明けた。
EN499「LISINSKI」は夜のうちに、前身である「タウエルン・オリエント・エクスプレス」の名の由来となったオーストリアのタウエルン峠を越える長いトンネルを抜けて、併結していた列車と別れて身軽な単独編成となり、早朝のスロベニア国内を快走している。


フィラハで進行方向が逆になったので、僕の乗っている個室寝台車が編成の最後尾になり、車端部デッキのドア窓から走り去る風景を見て楽しめるようになっていた。
スロベニアはかつてのユーゴスラビア連邦共和国最北部に位置する国で、ユーゴからの独立後はいち早くEUに加盟し通貨もユーロに移行している。
人口わずか200万人ほどの小国ながらも、経済水準が高く豊かな国である。





スロベニアの首都リュブリャナを朝6時半に発車すると、列車はサヴァ川に沿った美しい渓谷地帯を進んでいく。




川霧にけむる渓谷にそびえ建つ、高い塔が見えた。
煙突にしては高すぎるし…これは一体何の建物なんだろう?
(この時は塔の正体がよく分からなかったが、帰国後に調べたところどうやら「トルボヴリェ火力発電所」の煙突らしい。ヨーロッパで最も高く、360mもあるとか。)



やがてサヴァ川の渓谷は流れが穏やかになり、思わず目を奪われる美しい風景が車窓に展開する。







車窓に見入っていると、車掌氏が「お茶は欲しいか?」と聞いてきたのでストレートティーをお願いする。

すると出てきたのがこのプレート。ちっちゃいパンはどうやら「朝食サービス」らしい。
お茶はどういう訳だか、真っ赤で酸味のあるローズヒップティーだった。

朝のお茶と食事(という程のものでもないが…)を済ませると、スロベニアとクロアチアの国境の駅Dobovaに到着。
ここで数十分間の停車中にスロベニアの出国審査官とクロアチアの入国審査官が順番にコンパートメントに回ってきて、パスポートに出国と入国のスタンプが捺されて審査完了。
ここからあと30分も走れば終着駅だが、LISINSKI号を牽引する機関車もスロベニア鉄道のものからクロアチア鉄道のものに交換されたようだ。


朝8時40分頃、ほぼ定刻にLISINSKI号は終点であるクロアチアの首都ザグレブの中央駅 Zagreb Glavni kolodvorに到着した。
いよいよ旧ユーゴとバルカン半島の入り口である街ザグレブまでやって来た事になる。



5:真夏の朝のザグレブ中央駅に続く


2 コメント

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Unknown (Lunta)
2015-08-31 11:04:49
寝台列車から見るスロベニアの景色、素敵ですね。
実は10月にスロベニアに行くので期待が高まりました。
寝台列車で入国と言うオプションもあったんですね。空路で入ることにしてしまったのをちょっと後悔。
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Luntaさん、こんばんは。 (天燈茶房亭主mitsuto1976)
2015-08-31 21:22:53
おお、スロベニアに行かれるんですね。
スロベニアは日本ではまだ知名度が低いのですが、小さな国なのに自然に恵まれていて風景がとても美しいのが印象に残りました。
僕は今回はスロベニアは列車で素通りしてしまったので、旅行に行かれたらどんな国だったかblogで教えて下さいね~
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