My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

グローバル化を前提としたキャリア設計

2011-02-12 17:25:56 | 1. グローバル化論

以前からこのブログでも書いているように、私は日本に一人当たり生産性の高い、高機能移民を呼び込むことに賛成だ。
インドからエンジニア、フィリピンから看護師、介護士や英語教師、中国・台湾から優秀な留学生を呼び寄せて就職させればよいと思っている。
また、日本のグローバル企業が、次々と外国人や留学生を採用する「グローバル採用」が増えているが、これはあるべき姿だと思っている。
こうならなければ、日本が経済力を維持し、日本企業が成長し続けることは難しくなると考えているからだ。

そういう時、必ずコメントされるのが次の内容。
「Lilacさんは、優秀な中国人が流入しても自分は絶対勝てると思ってるから言えるんです。
中国人に採用を奪われて職に就けない今の若い人の立場を考えて下さい。絶対に言えないと思います」

本当にそうだろうか?
仮に、私が中国人に職を奪われるからグローバル採用をやめるべきと論じ、日本企業が呼応したとしよう。
それで日本や日本企業が競争力を維持出来るのか。
タイタニックが沈んでしまったら、短期的に雇用を維持できても仕方が無い。

世界は確実にグローバル化に向けて動いている。
そして日本企業は熾烈なグローバル競争の中で自らが生き残れる道を模索するし、日本のためにもそうであるべきだ。

2000年代の初め頃、アメリカでもこういう論争があった。
当時、IBMやマイクロソフトなどの企業がSIやソフトウェア開発分野をインドへ大量にアウトソースし、かわりに米国国内のレイオフを行った。

その結果、米国じゅうのメディアがこれらの企業をつるし上げた。
CNNなどの大手メディアは「IBMは米国の雇用(US Jobs)をインドに売り渡している」というような挑発的な見出しで報じた。
CNetやZDNetなどネットメディアのコメント欄炎上(Flaming)ぶりはすごかった。
「マイクロソフトはアメリカから技術を流出させ、雇用を出す売国奴だ」
「パルサミーノ(IBMのCEO)は自社の業績のために米国の雇用を売りに出した」というように。
この流れは多少和らいだが続いており、今でも大きなオフショアがある度にたたかれている。

しかし、世界はグローバル化し、すべての職業は国を超えて流動化している。
かつて米国で起こり、今日本で起こっているように。
このグローバル化の動きをまとめたのが、トーマス・フリードマンの「フラット化する世界」だ。

フラット化する世界
[増補改訂版] (上)

トーマス フリードマン

日本経済新聞出版社

フラット化する世界
[増補改訂版] (下)

トーマス フリードマン

日本経済新聞出版社

今世界中で、業務のアウトソースが起こっている。
しかし、インド人が如何に優秀でも、全ての仕事をインドにアウトソースすることは出来ない。
現実的には、切り分け可能な作業がアウトソースされ、アメリカ人はより付加価値の高いプロセスだけに集中して取り組まざるを得なくなる。
具体的には人間どおしの触れ合いが必要な営業や高度な分析、提案などの考える作業だ。

結果として、実際アメリカ人はより付加価値の高い仕事をし、高い給料をもらうようになった。
アメリカの一人当たりGDP(国民総生産)は、日本人の約1.5倍だ。
さらには、米国の白人の中でも大きく二極化した。
付加価値の高い仕事が出来る人は高い生産性で働き高い給与をもらう。
キャリア設計を誤って出来ない人たちはレイオフの繰り返しだ。

例えばシステム開発分野では、一部の人しか習得していない複数の言語が扱えたり、アナログ設計などが出来る技術者は引っ張りだこで、
誰でも出来ることしか出来ないエンジニアは、レイオフされて職を変えたり、雇用が不安定になった。
前者は、オフショアで仕事が効率化され、付加価値の高い仕事に集中できることを喜び、
後者は、不安定な職をふらふらしながら、ネット上でインド人に文句を言っている。

日本企業による「グローバル採用」は、米国のアウトソース事例よりもシビアだ。
事業開発や製品開発など、単純作業以外の仕事も流動するからだ。
それでも、中国の市場開拓の仕事が中国人の仕事となり、日本人の手には日本人にしか出来ない仕事が残る。
企業文化の強みを生かして、グローバルな組織に伝達し、商品開発から販売まで一貫した組織を作ること、各分野での専門的なスキルなどだ。

世界は確実にグローバル化に向けて動いている。
だったら世界が動く方向を見据えて、それに向けて自分が勝てる方向にキャリア設計をしたらどうだろう?
日本にいながら、グローバルに強みを発揮し、勝てる分野は何か?
(私は素材と部品とB2Bの電機、つまり重電系だと思う)
企業が中国人を採用することを批判するのではなく、そのうち中国人やインド人に奪われかねない、付加価値が出せない仕事は選択しなければよい。
(専門性をつけるのが鍵だと私は思っている)

自分がなんとなく目指すキャリアを前提として、世界の動きを批判しても意味が無い。
世界の動きを前提とし、「攻め」の姿勢で自分のキャリアを設計しよう。
そうでなければ二極化の下の方に追いやられてしまう可能性もあるだろう。

参考記事
日本でも転職を前提とした就職が当たり前になる時代-My Life After MIT Sloan (2011/01/29)
今年成人を迎える人たちって大変な時代に生きてると思う-My Life After MIT Sloan (2011/01/10)

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20 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
いつそれを考えるのか (けんけん)
2011-02-12 18:42:38
Lilacさん、初コメントです。

おっしゃる通りとしか言えないのですが、誰がいつそれを選択するのでしょうか。当事者が学生ならば、誰がその状況を知らせて導いてあげるのでしょうか。

Lilacさんは、グローバル化による雇用市場を挙げておられましたが、それ以外にも、IT技術やロボットが作業を代行する分野はどんどんと人間が必要なくなっていくわけです。

大学生の就活動向を見ていると、大学生が十分に未来を先読みしているとは思えず、また、身近な安定企業を目指しているようにしか思えません。

こういうときに、両親や学校の先生がするアドバイスは、保守的な安定的なものにならざるを得ないです。そうなると、学生さんが確固たる意志をもって判断するしかありません。それって現状だと難しいなと思わざるを得ないんです。

未来の動向を先読みして自己責任で動ける人は、少なくとも学生よりは、経験を積んだ社会人でしょう。そう考えると、社会人が自らの意思で転職しやすい社会環境を整備する必要が絶対的にあると思います。しかし、民主党政権になってむしろその流れに逆行しています。派遣社員の正社員化を促進して、派遣切りをするしかなくなっている、郵政公社が象徴的な気がします。

労働市場動向の統計を出して、厚労省やオピニオンリーダーは啓蒙して欲しいです。タクシー業界の収入の激変とかニュースになりますが、他の業種において、労働市場の需要と供給が著しく変化している産業の現実を知らせてくれないと、それを各自が自己責任で先読みしなさい、というのはあんまりなように思います。

もちろん、最終的には、自分の人生の責任は、自己責任なんですけれどね。
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Unknown (traveler)
2011-02-12 19:13:58
まさにその通りですよね、、そう考えると自分が今いる金融、しかもマーケットサイドの仕事なんか、もはや国レベルなんか全く関係のない仕事で、なんてコンペティティブな環境なんだろうと思う日々です。独自の専門性をつけなければ即刻退場になりそうです(苦笑)。英語化の反対をしたところで、意味ないですもんね。ましてや今は中国語もできないとって言われる時代。遅かれ早かれ、3ヶ国語位(母国語+英語+市場が大きくなっっている国の言語、今は中国語か)できないと駄目ですよ、、なんて時代が到来するんでしょうね。果たして何で付加価値をつけれるのか、、、結局これが問題なんですが。そう考えると、自ら動けば様々な選択肢に出会えるMBAの2年間は、高いけれど、やはり良い投資なのかも、と考えさせられました。ちょっと論点があっちこっい行きましたが、ご容赦を。
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グローバル化がもたらしたもの (lhw3834)
2011-02-12 20:35:34
結局グローバル化は多国籍企業が都合がいいように世界の一国内の流通のしくみを世界に適用した結果のような気がします。儲かったのは多国籍企業だけ先進国でも一般市民は貧困化し多くの途上国は搾取されています。この流れを変える人はいないんでしょうか。グローバル化に備えて付加価値をつけるしかないんでしょうか。
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はじめまして (Keizo)
2011-02-12 20:51:10
初コメント失礼します。

キャリア観としてはおっしゃる通りです。
私(29)は金融機関で投資調査業務に従事しておりますが、
雇用環境も直接/間接双方でグローバル競争に直面し、
スキルアップの必要性を痛感しています。

1点危惧しているのは、中高年層の雇用体系が変わらず、タイタニックが二層構造になることです。
下層部分で若年層がグローバルベースの人材競争にさらされ、推進力を得たとしても、
上層部分でいわゆるバブル世代を高賃金で抱えていては、
競争力はあまり高まらず、沈むのを遅らせるに過ぎないかもしれません。

したがって、グローバル競争に対応するための、
労働法制の再設計が必要かと思います。

本題から若干それてしまいますが、ご容赦を。
返信する
移民には大いに賛成 (nakazawa)
2011-02-12 23:37:37
日本国籍を一億円で売ればいいのです。
日本には、安全やおいしい食事など、世界的にも魅力的なものがあります。

一億円という”シンプル”な足きり水準を設けることで不正な移民を排除できます。子ども手当のときのような悪用を避けることができます。
さらにはポンと一億円を払えるという”優秀”な人材を移民として受け入れることになります。
言わずもがな、財政の足しにもなりますよ。
”高機能”な移民を人が選ぶときっとどこかで不正が始まりますよ。。

また、グローバルな競争は避けられませんが、勝てない人は「カスタマー・インティマシー」
という戦略をとるのがよいでしょう。日本人には向いている考え方です。グローバルで活躍している人や企業にいい意味で”寄生”するのです。

>タイタニックが沈んでしまったら、短期的に雇用を維持できても仕方が無い。

本当にそうです。ここが見えてない人が多いですよね。まずは母艦が前に進むことを前提にしないと議論になりません。
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言葉の壁 (まーくん)
2011-02-13 02:18:16
ちょっと論点は逸れますが、アメリカのIT企業がSIやソフトウェア開発をインドへアウトソースできたのは、英語という共通言語があったからこそ成せる業だと思います。

サービス業において「言葉」は非常に大きい参入障壁となります。これは日本のサービス企業がアメリカでビジネス開発できないのもそうですし、その逆もまた然りです。

日本を見れば分かるとおり、経済の規模が大きければ言葉が普及するわけではないです。文化的な側面をみなければ。日本語が駄目ならじゃあ、大都市東京では移民のために今後英語を使いましょう!ってのもちょっと乱暴ですよね。

nakazawaさんの言う「寄生」は良いなと思いました。直感的にですが、「グローバルで活躍できる専門性を持っている日本在住技術者」の大多数が英語では勝負できないと思います。事業規模は小さくてもDisruptiveなものを生む仕組みを戦略的にシリコンバレーなどに寄生しつつ作っていくいくべきだと僕は思います。

大所高所よりも、どこから切り崩していくかを議論したいですね。行動あるのみです。
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Unknown (総論賛成)
2011-02-13 02:20:46
「中国人やインド人に奪われかねない、付加価値が出せない仕事」が結果論でしか定義できない以上、トートロジーです。また、発展途上国の方々がいつまでもそこにとどまっているという認識そのものが危ういのですが。
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Unknown (機械系の大学院生)
2011-02-13 02:41:52
何個か前の記事にもコメントさせて頂きましたが,基本的には賛同です.大局的にみればです.

さて,こんな未来のない国「日本」に,高機能人材が集まってくれるでしょうか?

個人的には,Lilacさんがなぜ日本のことを考えてくれるのか,正直わからないですね.あなたなら世界どこでも働けるでしょうに.そんなあなたが日本で働いてる(でしたよね?)のがすでに疑問です・・・
若者には搾取されるか無視されるかの二択しかないような国に,来る理由がありますか?自分の出身の国だという以外で.

理想をいえばおっしゃるとおりですが,まずはその前に環境を整えなければ・・・
一言でいえば,既得権益握ってる方々をとっとと引きずりおろさなければ,なにも始まらないと思います.
その方法を何か考えていらっしゃいますか?
(自分はクーデター以外に思いつかないです・・・冗談です)

最近日本郵便のニュースで,非正規を2000人削減するっていうのがありました.それに日本郵政グループでは採用を中止するそうですね.自分は興味ないのでどうでもいいですが,社会全体としては大きな問題だと思います.さらには非正規を正社員にするなんてこともやってましたよね.こういう世代間格差をますます広げるような横暴をやめない限り,理想には近づけないと思います.

そろそろ,その辺を何とかする方法論が出てこないと,利益は常に高齢者に,負担は若者にという構造は変わらないですよね.高機能人材は生きていけるが,その他の方は負担だけ背負うというのは,自分としては最も避けたい.
ですので,この状況を打破する方法を示して頂きたいです.
返信する
出て行くのか入ってくるのか (ふぃりっぷ)
2011-02-13 11:33:14
Lilacさん 

初コメントです。

「現実的には、切り分け可能な作業がアウトソースされ、アメリカ人はより付加価値の高いプロセスだけに集中して取り組まざるを得なくなる。
具体的には人間どおしの触れ合いが必要な営業や高度な分析、提案などの考える作業だ。」

この部分がビビっときました

・高機能移民を入れてグローバルに対応する

↓↓↓

・結果的出自や言語が多様な人が集まり、仕事での競争環境が激しくなる

↓↓↓

・仕事の範囲や考え方で衝突が起きる

↓↓↓

・結果的に日本の競争力が高まる


一方で、Licaさんみたいにどんどん出ていくのも大事かなと
思いました。

出ている人がいずれ帰ってくる
或いは帰ってこなくても現地で同じく日本人に会うことで
これもまた結果として日本に多様性をもたらすのかなと
思いました。

ぼくは現在、クラウドソーシングに極めて近い業態で働いて
いますが、これもまた高機能移民しかりで、日本に変化を
起こす起爆剤になるんではないかと思っています。
返信する
皆様コメント有難うございます (Lilac)
2011-02-13 13:46:08
沢山のコメントを有難うございます。
「フラット化する社会」自体は5年前の本ですが、今でも考え方として学べるところは多いし、発展的な考えが出来ると思ってます。

@けんけんさん
初コメント、有難うございます。私はそれでも大学生や高校生の時期から考えるべきことだと思います。そのために視野を広げるために勉強しているのですから。
そしておっしゃるとおり、社会人になっても考え続けるべきだし、そうなったときに「再チャレンジ」が出来る社会でなくてはなりません。個人的には、企業がリストラを多くやったことで結果的にそうなってきているかと思います。セーフティネットには、金銭的な保証ではなく、こういうキャリア設計指導が必要だと思っていますが。

@Travelerさん
金融業会は本当に大変だと思いますよ・・。
MBAでしか出来ないことは、完全に日本人以外の視点を持ち、その視点で日本を見直すことが出来ることだと思います。そのためには毎日英語のメディアに触れ、日本人以外の人と沢山交わり、自分の意見を大量に述べてフィードバックをもらうことを続ける必要があります。そうやって使って初めてMBAからのグローバル人材が出てくるのだと思っています

@lhw3834さん
両面あります。多国籍企業が国家に変わって大きな役割を果たしているのは確かで、これらが一定の倫理観を持つ必要はありますが、個人も軸を持って動き、それこそ搾取を防ぐのが肝要です。
国民国家も、民主主義が制御することで良くなってきましたが、これは個人が啓蒙された効果が大きいです。同じように多国籍企業が支配する世界でも、個人が啓蒙され自ら動くことが重要だと私は考えます。

@Keizoさん
バブル世代への批判は、高年齢層にも若者にも多いですね。いずれにせよ固定化されたシステムで戦うのはグローバル企業にとってもメリットがなく、能力が無い人が大量にしがみつく形は多かれ少なかれ排除されていくと思います。

会社を変える方法は二つしかありません。ひとつはトップを動かして大幅な組織改革をすることです。もうひとつは若い人たちだけで会社を辞めて起業し、元の会社を脅かすほどに成長することです。
国が出来るのは制度変更よりも、後者をサポートする仕組みを作る方だと思ってます。

@nakazawaさん
面白いです。Customer Intimacyは私も日本人に向いてると思います。現にB2Bの方が業績がよいのはそこでしょう。

@まーくんさん
紹介した「フラット化」には日本が大連のデータセンターに大量にアウトソースしている事例が書かれています。大連の3分の1の高校生は日本語が第二専攻。それを活用して、日本語が出来る中国人に大量にアウトソースが既に起こってるわけです。
日本語の壁は、以前は競争を避けて延びるために必要でしたが、今やグローバルな組織化を阻むものとなってきていると思います。取り除かなければ、日本企業の国際的な成長が難しくなると。

@機械系の大学院生さん
おっしゃるとおり、どうやってこういう高機能の人材を集めるのかは常に問題。
しかし現在は、高機能人材が日本に来るのを日本の法制度が阻んでいる状態です。これはまずなんとかしなくてはならない。
そのうち本当に誰も来てくれなくなります。

@ふぃりっぷさん
私は日本を完全に出なくても、自由に行き来している身です。そういう人が増えるのは大切だと思っています。
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