My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

中国・ロシアは技術供与してでも取るべき市場か?

2010-09-22 14:36:19 | 2. イノベーション・技術経営

世の中が尖閣諸島で盛り上がっているところ、別視点からの中国ネタで。

最近、中国やロシア市場に工場を建てたり、資源開発するに当たって、
日米欧の企業が最先端の技術供与を強く要求される、という記事を良く見る。
要は、国レベルで「お前達の最新の技術をこっちによこさないと、工場建てたり、資源開発は認めない」という強い態度で、最新技術の供与を求めてくるわけだ。
新興国が市場参入や資源開発の見返りに技術供与を求めてくるのは良くある話だが、この2ヶ国、その要求度合いが特に高い。

当然企業側は強く反発するが、そこは敵もさるもので、企業側の競争関係をうまく活用し、
「技術供与を一番行ってくれる一社のみを優先的に採用」とかいう戦術に出る。
企業側としては、競争力の源泉である最新技術は出したくないが、自分だけ反発して、他社が少しでも出してしまうと、結局市場も資源も取れなくなる。
まさにゲーム理論における「囚人のジレンマ」。

(日経9/21)日産、中国生産能力8割増-合弁先に電気自動車技術供与

日産自動車は20日、中国での自動車の年間の生産能力を2012年に現在の8割増の120万台に引き上げると発表した。日産の中国合弁、鄭州日産汽車の第2工場の完成式典でカルロス・ゴーン社長が表明した。(中略)
中国政府は最近、EVの現地生産で中核技術の供与を要求し、日米欧の自動車大手は反発している。これに対しゴーン社長は「中国合弁には無制限で技術供与する」との考えを示した。現地生産をためらう世界大手に先行し、2020年で300万台とされるEVなどの新エネルギー車市場での主導権獲得を狙う。

これは昨日の日経の記事。こういう記事を読んで
「やっぱり与えるものは与えないと、取るものも取れないよな~。気前良く技術は供与しないとね」なんていう判断をしてはいけない。
技術を供与するだけ供与しても、供与したメリットも得られずに終わる、ということも多々あるからだ。
こんなホラーストーリーもある。

これはロシアの記事だが、
日経ビジネス「時事深層」-造船大手、ロシアに翻弄

リーマンショックで稼働率が落ち込んだ造船業界に、救いの手を出すように発注を出してきたロシア。
造船大国である日本と韓国を競争させて、技術供与を沢山してくれる方に受注。
ところが、実はロシアは自国を造船大国にしようともくろんでおり、途中で受注を延期したりして、
技術協力期間を引き延ばしながら、両国からの技術を得られるだけ得ようとしている、と言う話

中国の場合、ロシアのように「技術をとった上で突然やめる」という汚い手は余り使わず、
最初はとりあえず工場を作らせてくれたり、受注してくれたり、とこちらをいったん儲けさせてくれる。
しかし、その後あの手この手でしつこく技術供与を求めてきて、次に投資するなら技術供与をしないと認めない、という感じで迫ってくる。
こっちも一度中国に相当な投資してしまってるので、その効果を最大限得るためには、技術供与するしかない、という形になるわけだ。

中国やロシアの成長市場や資源は欲しい。
でも相手にすると、技術を搾り取られるだけ搾り取られる。
こういう国に対して、技術を売りにする製造業は、どういう立場を取るべきか?

その業界ごとの市場特性、競合の出方、自社の状況によるので、一概には言えないが、
論理的に可能な選択肢として次の順序で、3つの方法がある。
(4つ目として技術は出すが、市場は取らないというのがあるが、これは除く)

1. そもそも中国やロシアを市場(や資源確保先)として相手にしないし、技術も出さない

これは「てやんでい、そんな汚ねぇ国、ハナッから相手にしねぇよ」戦略である。
進出したらこんな面倒なことが色々起こる国、最初から魅力がないという判断。

実際、そもそも業界によっては中国やロシアの市場の成長が案外早くに限界に達して減速する、
つまり、中国やロシア市場はそんなに美味しいものではないとされているところがある。
こういうところでは、技術が流出するリスクに比べて市場が美味しくもないので、当然出る必要は無い。

また、先端技術の確保やセキュリティが非常に重要で、中国やロシアではこの維持に金がかかってしまう場合。
市場の拡大で得られる将来価値より、この現在コストが高いなら、進出するメリットはない。
今年初めのGoogleの中国撤退はこれに近い話だろう。

2. 中国やロシアに進出し、市場は取った上で、技術供与は最低限に留めるよう戦略を打つ。

そんなことが出来るならやってるよ、と言われそうだが、実際これが出来るかどうかも、
自社の技術の強みによるし、競合の出方にもよる。

また、相手国の技術習熟度が低いほどこれが可能になる。
本当に重要になる技術が何か分かっていないので、明確に技術要求が出来ない。
これを逆手にとって、「技術供与」の名の下で、ローカライゼーションや自社の生産効率向上に役立てる方向に技術供与をし、進出の効果を高めるというものだ。

具体的には、先端技術のブラックボックス化やモジュール化、技術のレベル分けによって、
供与しても痛くない(中国やロシア企業の新規開発の競争力を高めない)技術だけを切り分けた上で、痛くないものをできる限り供与するものである。

これを行うためには、社内の技術がある程度モジュール化され、切り分けられていることが重要だ。
モジュール化が出来ていないと、要求に応じて技術供与するうちに、ズルズルといろんなレベルの技術が流出してしまう危険性が高い。

3. 競争力の源泉となる技術を供与してでも、確実に市場(や資源)を取る

業界の競合関係が激しく、技術供与競争になっている業界では2は厳しい。
または、市場が魅力的で、技術が流出しても確実に市場を取れるほうが、美味しい場合はこの戦略をとることになるだろう。
ただし、相当の勝算がないと、技術をくすねられて終わる可能性も高い。

上の日産の記事では、ゴーン氏が「電気自動車の技術を惜しみなく提供」と言っているが、もしこれが本当であれば、
電気自動車はとにかく量が出て、コストが下がることで普及を促進するのが何よりも鍵であり、
中国側が技術を吸収するのにかかる時間を考えれば、十分元が取れると考えたのだろう。

このように、中国やロシアをあいてとする場合、
1. 本当にこれらに進出する必要はあるのか
→ 2. ある場合は、自社の技術を出来るだけモジュール化して、流出を出来る限り防いで進出することは可能か
→ 3.どうしても無理な場合、確実に市場や資源を取ることが可能か、その手立ては何か、

という順序で戦略的に技術供与を考えるのが重要だ。
図にするとこんな感じか・・・

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12 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (日出ずる処の名無し)
2010-09-22 15:11:39
先見性ある企業 → グーグル、ダイハツ(中国撤退)

先見性ない企業 → トヨタ、日産(今から中国に新工場設立)

Unknown (Unknown)
2010-09-22 16:23:41
そのかわりダイハツは韓国製になるわけだが。
Unknown (Unknown)
2010-09-22 20:18:08
韓国製だと何か不都合があるのでしょうか?よろしくお願いします。
Unknown ( )
2010-09-23 03:39:45
>韓国製だと何か不都合があるのでしょうか?よろしくお願いします。

組立工場としてはそこそこ使えるレベルだと思いますが技術盗難が最大の問題点だと思います。

過去に分解するなと言われていたアメリカから買った戦闘機を分解しブラックボックスも開けてしまったと言うことがありましたし、現在も日本国内では様々な分野で技術の盗難が相次いでいるので信用すると痛い目にあいます。
Unknown (TA)
2010-09-23 09:27:56
韓国に~の記事と合わせて、納得・共感はするのですが、
いかにもコンサル的、というか評論家然としていて
「結局Lilacさんは何が解決策だと考えているのか」
ということが見えません。

技術のブラックボックス化なんて、言うは易し~で
実際は「骨を埋めるか、撤退か」と
腹をくくるしかないのでしょう(=戦略を決める)

未来は何が起こるのか分からないので、戦略を決めた後は、
どちらを選んでも成功するように、あとは実行(戦術)あるのみです。
20年かけて回収する忍耐が必要 (ぐりぐりももんが)
2010-09-23 13:20:44
これは、自分の働く会社での経験です。
規模としては中小企業に入るのですが、中国やロシアに進出する場合、中長期的に絶対に真似できない技術があれば、進出は可能でしょう。
ただし、投資の回収期間は、20年が一つのスパンだと思って下さい。
彼らに真似できないと悟らせるまでの持久戦なのです。(URLを参照下さい。)
グローバライゼーションの宿命 (yumemakura)
2010-09-23 20:02:52
こうした問題がおこるのもグローバライゼーションの宿命かな?

グローバライゼーションにより後進国も先進国のレベルに到達し世界全体が豊かになると言うことでしょう。本当にそうなるかどうかわかりませんが。
Unknown (だいすきなうた)
2010-09-24 11:37:28
最近、中国を考えると法律の平等性を維持できなければ、商売にするならない。
「奪う」が基本になってきたな~と
トヨタ関連を見ていると、アメリカですら危ない。
ガラパゴス化の何がいけない!!
お客様が神様なのは、日本だけなのに・・
Unknown (ken)
2010-09-24 12:03:46
個人的には1であって欲しい。
日産はハイブリッドや電気自動車で後発だから
なりふり構っていられないのですかね。
真理の扉 (ピタゴラス)
2010-09-30 11:31:17
結局、創造的知的活動には、どういう政治形態が良いのか


欧米ではここ4~5百年間ずっと暗中模索で実験を繰り返して、今のような社会に


日本も敗戦後、憲法を強制改正して、欧米社会と基本的な土壌となりました。


コスト安くしたり、技術の改良は、真理の国でないところでも大丈夫だと思いますが、根本的な科学技術の発明を行うには、真理の国でないと無理なのでは。


つまりプラトン流の遺伝が残っている社会です

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