前記事は重い話を書いたので、続きを書こうか迷ったが、ちょっと軽めの記事で口直しをすることにした。
アメリカの経済学関係者では知らない人がいないほど流行ってるらしいYoutubeの映像を教えてもらったのでご紹介。
経済学にちょっとでも興味ある人は、英語の勉強になるし、面白い。
現在のアメリカで論争になってる、ケインジアン流 v.s. 市場自由主義の双方の主張が分かりやすく、面白くまとまってる。
アメリカと言えば、長らく市場原理主義が幅を利かせていた。
が、金融危機後、オバマ政権になってから、Stimulous package初めとし、ケインジアン流の景気刺激策がもてはやされている。
なんでも、オバマが今回金融政策と財政政策に使った額の合計は、アメリカが第二次世界大戦に使った額を超えるらしい。
そんな現代アメリカに突然現れた、ケインズとその論敵のハイエクがラップで持論を展開するというビデオ。
とても簡単に言うと、景気が悪くなったとき、政府が負債を背負ってでも、減税や公共投資をすることで、景気を回復させられる、というのがケインズの立場。
ハイエクは「古典的自由主義」とも呼ばれ、景気の循環の仕組みを詳細に説明した人だ。
景気が循環するのは市場の原理。
市場の情報を全て知るのはどんな知識人でも不可能だから、介入は無意味であり、一部の情報に熟達した人々がいる市場に任せるべきである、とした。
政府の財政投資に対して、真っ向対立した見解を持つ二人は存命当時は宿敵だった。
その後、いくつもの修正理論が現れて、昔のケインズ主義を持ち出す人は今はいないんだけど、まあ細かい話はここでは割愛。
で、その二人は現代アメリカ(場所は恐らくニューヨーク)の経済のカンファレンスに招待されたが、
前の晩に、バーに飲みに行く・・・という設定。
「借金してでも財政投資」のケインズが、リムジンや酒にカネをばら撒きまくり(財政投資のメタファー)、
更に二日酔になってもまだ迎え酒をあおる(効果が出なくて景気がよくならなくても財政投資を続ける)
のが面白い。
そして、その流れに乗れないハイエク。
日本語の字幕が入ってるバーションを発見したので、そちらをご紹介。
英語のスクリプトが、元のページにあるので、そっちも見てみて!
英語の勉強になると思うし。
とりあえず私なりに見所を解説。
- カンファレンスに到着したケインズを受付嬢が歓喜して出迎える。今のアメリカのケインジアン系の熱狂ぶりを皮肉ってるというわけ
- ところがハイエクのことを受付嬢は全く知らない。「ハイエクですけど。F.A. ハイエク。どうぞよろしく・・・」とだんだん小声になるハイエクが可哀想すぎて笑える
- ホテルの部屋に入ると、聖書が入ってるはずの引き出しにケインズの「一般理論」が。すでに聖書扱い。「アメリカのケインズ至上主義もここまで来たか・・・」というふうに嘆くハイエク
- ケインズがハイエクを誘ったバーの名前がFED(連邦準備委員会)なのが笑える。しかも後で出てくるけど、このバーでケインズにウィスキーを注ぎまくる(金融政策に金を使いまくるメタファー)バーテンダーの名前がBenとTim(爆笑)。Benはもちろんベン・バーナンキ。Timは財務長官ティム・ガイスナーのこと。顔もちょっと似てるし。
- ロビーで待ち合わせたケインズに、ハイエクが見せた黄色いカードはニューヨークの地下鉄の「メトロカード」。つまりカネがかからない地下鉄で行こう、と提案したわけ。ハイエクは「バブルにならないよう、ちゃんと貯蓄率を上げろ」という主張なのでケチの設定。
- ところがケインズは何言ってるの?という顔。眺めた先には真っ白なリムジン。そしてリムジンの中には美人の女性たちが・・・。「じゃんじゃん金を使えば景気回復」なケインズ本領発揮。
- C, I, G all together get to Y: 総需要は(閉鎖マクロでは)、消費(C)、投資(I)、政府支出(G)の和に等しい。政府支出を上げれば、国民の支出も喚起されて、消費や投資も盛んになる、というのがケインズの理論
- Animal spirits(アニマル・スピリッツ)とは、人間が(後先考えずに)「消費したい~!」とか思う欲求のことで、これが消費を刺激する元になっているとされる。またの名をConsumer confidence(和訳は知らん)と呼ばれる。ケインズの理論は、政府が財政支出を増やせば、国民も消費したい!と思うから、政府が支出した以上に総需要が増えるってことなのだ
- これを別の言葉で「乗数効果」と呼び、ラップの中でも何度も出てくるMultiplierとはこのこと。最近日本でも話題になってたと思うから、知ってる人もいるかも
- 「Bull and bear」は市場が上がったり(bull)下がったり(bear)することです。その不安定さが人々が投資したい、という意欲を下げるって話をしてます。(コメント欄参照:途中で文章が切れて変なところでつながっており、間違ったイミになってました・・・)
- 景気回復にはFiscal(財政政策)とMonetary(金融政策)の両方が必要だが、金融政策をいくらやっても効果が出ないLiquidity Trap(流動性の罠)にはまった現在は、政府の財政政策だけが頼り。だからじゃんじゃん使え~!というのが面白いところ。
- ちなみに「流動性の罠」とは、90年代の日本でゼロ金利政策を続けても全く効果がなかったこも説明しているとされ、今のアメリカにも同じことが当てはまる、とはクルッグマンの言
- Free Lunch:タダ飯のこと。経済学において「タダ飯」-つまり痛みを伴うことなく得が出来る政策-はあるのかというのは長年の論争。「結局財政政策やって、国が守って残るのは国の借金とゾンビ企業」というのはどこかの国みたいですね。
- そして二日酔になったケインズが、迎え酒をあおる下りが秀逸。財政政策は麻薬のようなもので、続けても続けても効果が出ないと、更に支出が増えかねない、というのが自由主義者の主張なのだ。まさに二日酔に迎え酒。
- ハイエクの主張は、景気刺激と称して注ぎ込まれたお金が実際に効果が出るのは遅く、景気が回復してからである。そうするとそれはバブル経済をあおるだけなので、意味がないどころか逆効果、というもの。オバマ政権の景気刺激策に反対している自由主義者の総論をまとめている
日本語の字幕無しで楽しみたい、と言う方はこちらをどうぞ。
聞き取れない人も、スクリプトを参照にして何度も見てると、自然と英語が頭に入ってくるようになると思います。
(追記)細かすぎるかな、と思って書かなかったんだけど、ケインズが言う「Broken window(割れ窓)ですら窓屋が儲かる」と言ってるのは、共和党のジュリアーニへの痛烈な皮肉だと思うんだよね。
「割れ窓理論」というのは、ジュリアーニがニューヨーク市長だったとき、
「窓が割られているなどの軽犯罪も見逃さないことで、重罪も減っていく」といった話なんだけど、
ジュリアーニのその発言が「割れ窓を直す」ことにつながり、
それで窓屋が儲かるということで、経済にはプラスの発言だった、と。
「あなた自由主義経済謳ってますけど、あなたの発言も財政効果高めるのに役立ってるんですよ」という皮肉。
まあとにかく、細かいところまで小ネタが仕込まれていて、面白いです。
Lilacさんは、よく見つけてきますね。
ちなみにAnimal spiritsというのは消費したいという欲求のことじゃなくて、経済学のおける完全合理主義者(エコノ)の思考からずれた感情のことですね。
つまり、エコノにも目の前にケーキがあったあった場合、消費したい(食べたい)という感情は湧きます。太ったり、おなか壊したりといった未来のネガティブなものを考慮して合理的に食べる量を制限するのがエコノで、おいしそうなケーキに釣られて、後先考えず、タラフク食べたいというのがAnimal spiritsです。
私が見つけてくるというよりは、周りの友人や先生が見つけてくる、と言う感じです。
日本に住んでると自然と日本語の情報がいろいろ入ってくるように、アメリカの大学で学生生活していると、いろんな英語の情報が入ってきます。
Animal spirits:なるほど「後先考えず」というところが説明に足りなかったわけですね。
実は「消費したい!」の!にそのあたりのキモチを込めてみたのですが、足りなかった!?
!をもう一個増やしたらいいだろうか?
そこら辺の話はリカードの中立命題とも絡みますので。
ラジャ!直してみました。これでどうじゃ!
(注:決してダジャレではありません)
すいません、間違って文章が書き途中のまま、別の文章とつながっていて、あたかも「Bull and bear」が公共投資のようになってました。
Bull marketは上げ相場、強気市場、bear marketは下げ相場、弱気市場のことです。
英語ではBullは雄牛のこと。Bearは熊で、何故か熊は弱気だと思われてるんですよね。
Bull and bearで強い奴と弱い奴、とか相場だけでなく、色んな意味に使われます。
>Bearは熊で、何故か熊は弱気だと思われてるんですよね.
以前どこかで読んだ本に、雄牛は相手を攻撃するとき、角を「突き上げる」ように動くから上げ相場、熊は爪を「振り下ろす」から下げ相場、と書いてありました。
熊そのものは弱気という意味ではないらしいですが・・・
ためになる解説有難うございます。