My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

カーライル・ジャパン 安達保氏 講演会@MITスローン

2009-09-21 11:50:56 | MBA: クラブ活動・講演会

同じMBA出身の、財界の重鎮に会って直接話せる、というのはMBA生のひとつの特権かもしれない。
先週木曜(9/17)は、カーライルグループの日本共同代表の安達保氏(1983 MITスローンMBA卒)を講演会にお呼びした。

その日って、実はカーライルの投資先の一つであるWILLCOMが、大変なことに直面していたにも関わらず、
安達さんは快く日本人学生と一緒にブランチを食べ、いろんなインサイトを与えてくれ、
その後はスローン生の前で素晴らしい講演をしてくださった。
プロフェッショナルの経営者ってこういうことなのだな、と思った。
どんな状況でも仕事は必ず完遂して、価値を届ける、と。
「財界の重鎮に会う」というのはミーハーじゃなくて、経営者としての姿勢、背中に学ぶところが大きいから好きだ。

講演は、定員120名の教室が満員になるほど人が入り、大盛況だった。

カーライル・ジャパンがどのように日本のPE市場を開拓してきたか、という話は実はハーバードのケースになっている。(こちらがリンク→ HBS Case Carlyle Japan (A) (B) (C))

私は講演会係なので、事前にケースを1枚のサマリーにまとめて、講演前にメールで配布。
MBA生って、カーライルのような「プライベート・エクイティ(以下PE)」という業種に興味がある人が、ものすごく多い。
でも、実はPEが何をやってるか知らなかったり、ましてや日本の状況なんか知らない人がほとんど。
だから、事前にある程度知識を持っておいてもらうって大事。
(という安達さんのインプットを受けてそうしたんだけど(・・・正直))

ケースは、PEの初歩的な説明から書いてある親切なもの。
PEは主にバイアウト・ファンドを指していること、
特に経営が期待されるほどうまく行っていない会社をレバレッジをかけて(お金を借りて)買収し、経営を立て直してから、株を売却するLBOや、経営陣と一緒に買収するMBOを行っている、などということが詳しく例を挙げて説明してある。

次に、日本の状況や問題点が細かに書いてある。

・1997年までは規制で、ファンドが企業株のMajorityを買収できなかったため、日本のPE業界は12年の歴史しかないこと
・日本人の多くは、PEを村上ファンドなどのActivist Fundと混同したり、じゃなくてもリップルウッドが長銀を買い叩いたりしたことなどから、「ハゲタカファンド」という悪いイメージを持っていること
・日本では、企業情報は「メインバンク」と言われる銀行がほとんど持っており、外部者が買収に必要な情報を得るのが極めて難しいこと
・日本の経営者は、信用ベースの長期的な付き合いがあることが、意思決定に重要で、米国式に「短期的に儲かるからやろうよ」みたいなアプローチではうまくいかないこと

そして、PEという極めて米国的なビジネスを、カーライルが日本で成功させているのは、次のような戦略をとって、上記の問題を解決しているからだ、と解説している。

・現在の経営者をサポートし(Pro-management)、経営者を入れ替えるようなことはほとんどしない、入札での買収はあまりやらない、というやり方で、ファンドに対する悪いイメージを払拭している
日本の銀行出身の人を多く雇い、彼らがかつて「メインバンク」としてサーブしていたなど個人的なネットワークを利用して、案件発掘をしている
案件発掘から、経営建て直しまでを、同じチームが担当し、経営者からの信用を築き、強い関係をつくっている
・短期的な利益ではなく、会社にとっての長期的な利益を重視し、経営者との関係構築に長い時間をかけることで、経営者との信用を築いている

で、ケースでは最後に、成功案件であるキトーのケースと、WILLCOMのことについて詳しく書いてある。
特に、カーライルのグローバルなネットワーク・知見が使えることが、会社の建て直しの成功に大きく寄与している、というようなことが書いてある。

以上がケースまとめ。(長かった)

で、今回安達さんと午前中にブランチを頂きながら、お話した結果、
ケースは、ケースライターの視点で書かれた一部分に過ぎない」という、当たり前かもしれないことにはっとした。
上記に書いてあることは、全て本当だけど、それだけでは語れない問題がたくさんあるのだった。

例えば、ケースにはファイナンシング(お金調達)の際の金融機関との付き合い方が、米国とは全く違うことや、それに伴う苦労には全く触れてない。
経営者を入れ替えない「Pro-management」ポリシーを維持するので、経営者を送り込めず、外から企業再生を行っていくことの大変さは何も触れていない。
そうすると、経営者を送り込まなくても、成長できる企業を投資先に選ばないとならないが、それがどんなに大変か、ということは書いてない。

こういう本当に大変なところがどこか、という話をざっくばらんにしていただけたのは、非常に有難かった。

安達さんは、私が勤めているコンサルファームのご出身で、パートナーロールにもいた大先輩。
1988年から、10年間つとめていらした(私とはかぶってないんだけど)。
「講演会係」の役得で、その日は半日ご一緒させていただいたのだけど、話していて、根底にある考え方とか価値観に共通点がある-肌感覚が合うのが感じられて、私はとても居心地が良かった。
(安達さんも居心地が良かったならよいんだけど・・・)

午前中に日本人学生とのブランチのときも、私は
「Deal SourcingやFinancingの課題はわかったが、カーライル・ジャパンにとって、最も大きな経営課題は何か」
なんていう、根本的で、普通だったら失礼かもしれない質問を投げかけたのだが、
安達さんは、ちょっと考えて、普通に答えてくださった。
それは、「まずは正しく課題を認識することが、経営の舵取りに最も大切」という価値観を共有しているからなのかな、と思ったりした。

安達さんの私の質問への答えは
「中小企業へのアプローチは確立してきた。
しかし大企業のターンアラウンドを、今のカーライル・ジャパンがどう行っていくか、というのが課題」
というものだった。

この言葉がWILLCOMのことを指していたのでは、という邪推する向きもあるかもしれない。
でも、カーライル全体では、同じテレコムでも例えばSprint Nextelなんて大企業の再生に成功していて、
日本ではそもそもPEというやり方で大企業にアプローチして成功してる案件は、業界全体にも無いことを考えると、
これ自体が、日本のPE業界の大きな課題なのだと思う。

そもそも、日本で大企業まで市場を拡大するのは難しいのか(扱いやすい中小案件に特化してやるべきなのか)、
それとも何らかの方法で、日本でも大企業の案件を成功させられうるのか。

PEサイドの方法論を変えれば良い問題ではなく、
日本の大企業サイドは、会社を売ることの抵抗感が大きくて、そもそも案件自体が少ない
(よって成功しうる案件が出てくる可能性も少ない)から、非常に難しい課題だ。

安達さんは、こんなこともおっしゃっていた。
「今年のCEOの舵取りは簡単だった。なぜならやること(リストラ)は明らかだったから。
 でも状況がよくなってきた今から18ヶ月は、CEOの真の力量が問われる。
 ここで何をやるかで、企業がその後成長するか、失敗するかが決まるから。」

同様の理由で、再生法を申請して、つぶれかけた会社であれば、再生はある程度やることが決まっている。
しかし、業績はそこそこだが、もっと成長のポテンシャルがある、という程度のPEファンドがターゲットとするような会社の「再生」の舵取りをするのは非常に大変なのだという。

こんな話もした。
アメリカだと、「経営者プール」というのがあり、企業再生の際はそこから社長となる人材を引っ張ってくるのが普通。
しかし日本にはそんなものはない。
すぐ経営者になれる、なんて人材もなかなかいないし、企業側もよそ者経営者を求めてないから。
今後日本でPE市場が拡大すれば、当然「経営者プール」のようなものは必要になってくるわけだが、じゃあどうやって作るか。

私は個人的には、中小の案件で、社長となれる人を引っ張ってきて、育てていくしかないんじゃないかな、と思う。
よそ者経営者に対する企業側の不信感も、成功事例を増やすことで少しずつなくしていくしかない。
そうしているうちに、大企業の雇われ企業再生CEOもできる
ルー・ガースナーみたいな人が出てくるようになるのではないかと。

そんなわけで、講演も素晴らしかったんだけど、午前中のブランチの1時間半ほどの間に、安達さんとお話させていただいて、いろいろと目が見開かれる思いをした。
だからそのことばかり書いちゃったんだけど、
講演でも、満員の会場から、いろんな質問が飛び交い、
講演終了後も、活発に名刺交換などが行われて、安達さんの講演がスローン生に大きな影響を与えていたことが良くわかった。

MBAの大先輩で、会社の大先輩でもある安達さんにお会いして、わたしも将来こういう風になりたいな、と思った。

安達さん、お忙しいところ本当に有難うございました。

安達さんと、スローンVC/PEクラブの講演会係Kenと私

今日のまとめ
・真のプロフェッショナルは、自分の状況がどうであれ、目の前のクライアントにベストを提供する
・ビジネススクールのケースは、ケースライターの視点で書かれた一面的なものであり、実際にはもっと複雑な側面がたくさんあることを忘れてはならない
・PEが経営者を変えず、資本だけ入れて再生を行うPro-managementは、そういうことが可能な経営者がいる会社を選定することから始まり、実際の戦略のインプリまで、結構大変
・日本のPE業界の(そしてカーライルの)最も大きな課題は、「大企業のターンアラウンドをPE的手法でどうやって成功させられるか」。これが解けることがPE業界の行く末を左右する
・ちょっと業績が悪いくらいの会社、景気がよくなってきた時期、というところのCEOは真価が問われる
・日本にも「経営者プール」のようなものはいずれ必要になる。(MBA生としてどうやって作ればいいか、考えていこう)

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