My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

【書評】IBMを復活させた男-ルイ・ガースナー「巨像も踊る」

2009-04-18 14:54:43 | 9. 書評

この本は私の好きな本のひとつで、事あるごとによく読み返している。
今回は、クリステンセンの本に書いてあったIBMの事例が気になって、ちょっと調べるつもりで読んだら、ついつい全部読んでしまった。

巨像も踊る-Who says Elephants Can't Dance?

ルイス・V・ガースナー

読み返すたびに、何らかの学びがある。
前に読んだときには素通りしたところが、次に読んだときには大きな意味を持ってきたりする。
言葉に無駄が無いだけでなく、その言葉や逸話は読むものに与える影響を考えて慎重に選ばれていることも分かってきた。

ルー・ガースナーは派手なことが嫌いだ。
自分に厳しく、物静かで、言葉も短い。
しかし、心の中は熱く、燃えたぎっている。
やると決めたら、素早く強靭に、必ずやり遂げる。
彼が日本人の経営者や大企業の経営を担う人たちに人気がある、というのは頷ける。

最初に読んだのは、コンサルタントになってから、ある大企業の経営幹部に強く勧められたのがきっかけだった。
その日のうちにアマゾンで注文し、週末をかけて読んだ。

30万人もの社員が世界中隅々におり、全産業の顧客に製品を開発して、売っている組織。
世界で最も複雑なだけでなく、最も技術の進歩の速い業界に身を置いている。

かつてはメインフレームの覇者として、大きな利益を享受してきたが、
今や競争相手に叩かれ、世界中のあらゆる箇所で出血を起こし、その量は致死量に至ろうとしている。
皆が出血を止めようとは思うものの、動きが鈍く、流血が止まるどころか増えるばかり。
そこのCEOになるというのはどんなものか。

当たり前だが、CEOには出血が見えても、血が出ているところ一つ一つを止めに行くわけには行かない。
何が組織全体を動かすレバーになるのか。
森を見て、木を動かすためには、どこに目を見張り、何をしなくてはならないのか。
そういうことが、端的な言葉で、的確に一つ一つ書いてある。
この本は変革のCEOの指南書といえるかもしれない。

IBMはガースナーが就任するまでは、基本的にはメインフレーム一本の会社だった。
もちろんパソコン事業などもあったが、結局そこまで本気ではなかったらしい。

でも、メインフレームに関しては、半導体からサービスに至るまで必要なものは全て持っていた。
IBMはそれを他社製品と互換性の無いクローズドな形で、セットで提供していた。
完全な垂直統合の会社で、これが60年代、70年代のIBMの栄光の根幹だった。

ところが、業界は水平化し、垂直統合のメインフレームの仕組みは崩れはじめた。。
一部の分野では、競合のほうが競争力のある商品を提供するようになった。
例えば、アプリケーションではSAP、OSではマイクロソフトというように。
それに惹かれた顧客が、根こそぎ持っていかれるということが起こっていた。

ガースナーがやったことのうち、最大の成果のひとつは、この垂直統合を分割し、
一つ一つのレイヤーをオープン化して、他社製品と互換性を持たせたこと、
そして、競争力がなくなっている分野からは完全に撤退したことだ。

更に、サーバやソフトを売る製造業ではなく、
顧客のニーズに合わせて、自社・他社問わず製品を組み合わせてシステムをつくり、
必要なITスキルを提供する、サービスの会社としてIBMを生まれ変わらせたことだ。

読んでいて、何度も目頭が熱くなる。
ガースナーの端的で飾らない言葉の中に、IBMへの思いが伝わってくる。
世界中でバラバラだったブランドを統一し、IBMが世界企業であり、世界一のシステムインテグレーターを目指すメッセージを打ち出した日。
69年に反トラスト法の訴訟を受けて以来、「競争」「勝つ」という言葉を使えず、忘れていた社員に、競争相手への怒りをもう一度思い出させ、奮い立たせるスピーチ。

IBMは実際、偉大な企業なのだと思う。
正しい采配を振れば、それに応えて、復活を支える強い意志を持った優秀な社員がおり、企業文化がある。
一方で、その正しい采配を振ることがいかに大切で、それはどんな智恵と胆力とリーダーシップが必要か。
偉大な経営者に学ぶことは多い。

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1 Comments

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書評記事 (TK)
2009-09-07 14:58:53
はじめまして。こちらの書評記事、いいですね。わかりやすいし、読んでいてわくわくしますし、詳しく読んでみたいと思わせる。うまいですね。アマゾンで早速注文します。アマゾンの評価も高かったし、読むのが楽しみです。
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