イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「愛しのゴキブリ探訪記 ゴキブリ求めて10万キロ」読了

2024年05月21日 | 2024読書
柳澤静磨 「愛しのゴキブリ探訪記 ゴキブリ求めて10万キロ」読了

このジャンルの本を見ていると、その内容よりもこの人たちはどうしてこんなものに情熱を燃やせるのかと感じると同時に、こんなもの(決して悪い意味で使っているわけではないのだが・・)にさえ情熱を燃やせない人は何をやっても大したことはできないと思うのである。バッタの時もそうであったし、洞窟の生物のときもそうであった。
その典型が仕事だ。なんとなく雰囲気でとか、上司と取引先とのひそひそ話(これを僕たちはフレンドシップマーチャンダイジングと呼んでいた。)とか、苦しまぎれで考えた施策などは、大体、「これで業績上がるの・・?」というものばかりだ。だからもちろんそれを実行に移す段ではやる気が起こらず適当に済ませてしまうの繰り返しであった。

昆虫の研究でも、農業に役立つものでもなく、ゴキブリといっても駆除のための研究でもなく屋外に棲んでいるゴキブリを研究しても多分何の役にも立たないように思う。それでも、これを研究しようと決めたら、それの社会的意義を度外視してとことん熱中するという心の構造が必要であるのだ。
自然の摂理の解明と会社の営業活動とはかなり違うとも思っているのは僕だけかもしれないが、昨日、太平洋戦争で従軍した人の娘が父についての本を書いたという記事が新聞に載っていて、その軍人は、戦争自体には反対をしていたものの目の前の戦争には命をかけて向かって行ったそうだ。山本五十六もすでにこの戦争は負けると意識しながらも自分の使命を全うしようとしたそうだ。
記事の軍人は中将という地位にあった人らしいが、位が高い人ほど意にそぐわなくても立場上やらねばならないことはやらねばならないのだという信念が強いのだろう。きっとそういう信念が昇格の必要条件でもあったのかもしれないなどと、この本の本題でないことばかりを考えてしまう。

やっと本題のこの本の内容に入るのであるが、ゴキブリの生態や解説ではなく、国内や海外のゴキブリを見つけるという、タイトルのとおりの探訪記という感じで書かれたものになっている。
著者も、世のなかにそれほど多くのゴキブリファンがいるはずもないということが初めからわかっているらしく、「世界の歩き方」のように、ゴキブリ探訪の時の装備や注意点などに重点を置いて書いている。
そういったことは著者のゴキブリへののめり込み度を際立たせるのにも役立っている。
そして、これがカブトムシやカミキリムシのような昆虫界のヒーローが主役なら大勢の中に埋もれてしまって本を出すまでには至らなかっただろうと考えると、それは偶然だったのか、戦略だったのかはわからないがゴキブリらしくうまい具合にニッチ(隙間)を見つけたものである。まったく著者の勝利だ。

世界中でゴキブリは4600種以上いると言われている。そのうち、国内では64種が生息しているそうだ。ゴキブリというのはゴキブリ目というグループを作っていて、その特徴というのは、『扁平で、小判型をしており、触角は糸状で多数節、肢がどれも同じ形で棘列(トゲ)が発達していること、尾肢を持つ。』というのだが、その特徴を最も表しているのが家の中で見つかるゴキブリである。



この、尾肢というものもどうも気持ちの悪い原因になっているのかもしれない・・。


その、家の中に人間と同居しているゴキブリは、主に「クロゴキブリ」か「チャバネゴキブリ」という2種類だそうだ。
こういうゴキブリはいくら見ていても全然親しみを持てないが、屋外にいるゴキブリたちは形も多様でカラフル、大きさもいろいろだ。動きも家の中のゴキブリのように気持ちの悪い素早い動きをするものばかりではない。著者も家の中のゴキブリを見て興味を持ったのではなく、西表島でみつけたヒメマルゴキブリというダンゴムシのようなゴキブリだったそうである。
去年、カブトムシがやってくる木を見つけたとき、そこにはゴキブリもいて、人家に近いとこんなところにもゴキブリがいるのかと嫌な感じがしたがあれはまた別の種類であったのかもしれない。見た目はまんま普通のゴキブリであったが・・。
掲載されているゴキブリのほとんどは白黒の画像であるが、確かにこれなら生で見てみたいと思える姿であったのは確かである。

面白かったのは、「ゴキブリ」の語源である。濁音がふたつも入っているというのがそもそも“気持ちが悪い”という印象をもたらす元凶だと著者も書いていて、これが“コキフリ”だったらゴキブリの地位ももっと高くなっていただろうというのが著者の考えだが、元は「ゴキカブリ」という名前だったそうだ。
ゴキブリの“ゴキ”というのは“御器”という意味で、蓋つきのお椀のことである。マイマイカブリ同様、“御器”に頭を突っ込んで餌を食べている虫だというのがその語源だったらしい。
それが、1884年に出版された、日本初の生物学用語集「生物學語彙」の誤植によってゴキブリが“ゴキブリ”になってしまったというのである。
「生物學語彙」にはゴキブリが2度出てくるのだが、ひとつ目は“蜚蠊属(ゴキカブリゾク)”と書かれていたが、ふたつ目では同じ文字の送り仮名が“ゴキブリ”となってしまっている。当時、製本は活版印刷が主流だったので、版組のときに「カ」を入れ忘れてしまったのではないかとされているそうだ。
まだ、「ゴキカブリ」のほうが可愛かったのではないかと思うけれども、画像を並べてみるとやっぱりあまり可愛くはないのである・・。

        

と、ゴキブリ自体ではなくそれを取り巻く周辺の事どもが面白い1冊であった。
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