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HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 PART 4 〜項目46~93の推奨ポイント〜呼吸・補助療法・ケアシステム

2021年10月12日 20時10分35秒 | COVID-19の集中治療

敗血症という病態を知ろう

Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 PART4

推奨内容の整理:呼吸管理,追加治療,ケアの目標と長期転帰における48項目

欧州集中治療医学会/米国集中治療医学会

〜 6グループ 93の推奨ポイント 〜

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

教授 松田直之

はじめに

 敗血症は,感染症に随伴する多臓器傷害の病態です。集中治療では,COVID−19における診療活動で見られたように,多臓器傷害の評価,そして診断と治療を提供しています。国際的敗血症診療ガイドライン2021であるSurviving Sepsis Campaign guidelines 2021(SSCG 2021)が,2021年9月に公表されました。このSSCG 2021における呼吸管理,追加治療,ケア目標と長期転帰,後半の3グループの内容48項目(93項目中の48内容)の推奨を,本稿では記載しました。本ブログに記載した前の45項目と合わせて,確認されてください。

 本稿の後半の内容では,項目74から93までの20項目が敗血症罹患後の総合的ケアとして記載されています。多職種連携として大切な内容ですが,まだまだ診療エビデンスの少ない領域です。 

 全般を通して,SSCG 2021の改訂ではより一層に,診療の方策,そして罹患後のケアを充実させることが期待されます。私のコメントを,一部に,付記しています。敗血症診療の補助的視点として,活用されてください。

 

呼吸:酸素化について

46. 成人の敗血症における低酸素性呼吸不全における酸素化の目標について推奨するための十分な証拠はない。

※ 松田コメント: 集中治療における酸素化指標(conservative oxygen target)は,一般にPaO2 55–70 mmHg,SpO2は92%レベルです。

 

呼吸:HFNCの利用

47. 成人の敗血症における低酸素性呼吸不全では,非侵襲的換気よりも高流量鼻酸素(high flow nasal oxygen:HFNO)を使用する(弱い推奨,低い質のエビデンス)(NEW)。

呼吸:NIVの利用

48. 敗血症誘発性低酸素性呼吸不全の成人に対する侵襲的換気と比較して,非侵襲的換気(noninvasive ventilation)の使用するエビデンスは不十分である(推奨なし)。

 

ARDS

49. 成人の敗血症で誘発されたARDSでは,高い一回換気量(>10 mL/kg)ではなく,低い一回換気量(6 mL/kg)とする(強い推奨,高い質のエビデンス)。

50. 成人の敗血症で誘発された重症ARDSでは,高いプラトー圧ではなく30 cmH2Oのプラトー圧を上限とする(強い推奨,中程度の質のエビデンス)。

51. 成人の敗血症で誘発された中等から重症のARDSでは,低いpositive endexpiratory pressure(PEEP)よりも高いPEEPを使用する(弱い推奨,中程度の質のエビデンス)。

52. 成人の敗血症で誘発されたARDSではない呼吸不全でも,高い一回換気量換気ではなく,低い一回換気量とする(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

 

肺リクルートメントについて

53. 成人の敗血症によって誘発された中等度のARDS(moderate ARDS)では,従来行われている肺のリクルートメント手技を行う(弱い推奨,中程度の質のエビデンス)。

54. 肺のリクルートメント手技を行う場合は,徐々にPEEPを上げていくようなincremental PEEP titration/strategyとしない(強い推奨,中程度の質のエビデンス)。

※ 松田コメント:従来型のリクルートメントマニューバーは,ジャクソンリース回路などを用いて30~40cmH20で30~40秒間ほどで,一度,肺を拡張させる手法(手技)です。一方で,IPTS(incremental PEEP titration/strategy)は,90分程度をかけてPEEPを26 cmH20程度まで緩徐に上げていき,また90分ほどかけて緩徐にもとに戻していくような肺拡張の方法です。この手法は,肺の圧保護を期待した非従来手法ですが,1)即効的効果が得られない,2)90分から3時間の中で新たな変化が起きる,3)厳格管理のタイミングを逃すなどが懸念されます。

 

腹臥位療法

55. 成人の敗血症で誘発された中等度のARDS(moderate ARDS)の人工呼吸管理では,1日12時間以上の腹臥位とする(強い推奨,中程度の質のエビデンス)。

※ 松田コメント:私も睡眠の半分は腹臥位ですので,私の人工呼吸管理の半分は腹臥位で良いかもしれません。しかし,日本の現在のICU管理では,安全管理が強く期待されます。つまり,腹臥位療法管理には,「腹臥位安全管理ベッド」の新規システム開発が必要です。顔面・皮膚管理,眼球保護管理,唾液管理,腹腔内圧管理など,管理の安全化システムの開発の総合討議の解決の下で安全で手のかからない腹臥位療法が期待されます。また,ここには多くの尽力が必要となるために診療加算が必要です。患者さんがまず,どのような睡眠様式を一般としているかを理解することも重要です。腹臥位療法は下葉背側の無気肺に対する対応と私はお伝えしています。

 

筋弛緩薬

56. 成人の敗血症で誘発された中等度から重症のARDS(moderate ~severe ARDS)では,筋弛緩薬を使用する場合は,持続注入よりも間欠的な投与とする(弱い推奨,中程度の質のエビデンス)。

 

ECMO

57. 成人の敗血症で誘発された人工呼吸管理が困難な重症ARDS(severe ARDS)では,活用できる状況であればVV-ECMOを利用する(弱い推奨,低い質のエビデンス)(NEW)。

※ 松田コメント:VV-ECMOによる管理過程で,どのような改善治療をできるかの治療策がとても大切です。

 

ステロイド

58. 成人の敗血症性ショックで昇圧が必要な場合は,糖質コルチコイドを使用する(弱い推奨; 中程度の質のエビデンス)。

解説:適切な輸液療法とノルアドレナリンで血行動態の安定性を回復できる場合は,敗血症性ショックの治療にIVヒドロコルチゾンを使用しません。ショックを蘇生できない場合にヒドロコルチゾン1日量 200 mgを分割して静脈内投与します。敗血症性ショックの成人に使用される典型的なコルチコステロイドは,ヒドロコルチゾンを6時間ごとに50 mgを静脈内投与するか,または持続注入すると記載されています。

※ 松田コメント: 24時間持続投与を私はお勧めしています。血中コルチゾル濃度を,朝・夕としてヒドロコルチゾン使用開始後DAY1とDAY3にモニタリングする方法や工夫があります。

 

血液浄化法について Blood Purification

59. 敗血症または敗血症性ショックの成人には,PMX-DHPを使用しない(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

※ 松田コメント:非常に厳しい敗血症性ショックでは私はPMX-DHPでまず救命しますので,PMX-DHPを使用する理念が必要なのだと思います。大切なことは,敗血症性ショックをPMX-DHPで一時的に離脱した後に,その患者さんをどのように社会復帰できるようにするかの治療策です。このような「敗血症総合管理バンドル」が大切です。

60. 他の血液浄化技術の使用を推奨するには証拠が不十分です。

※ 松田コメント:糸球体濾過の厳格管理が,敗血症診療に期待されます。後述の67項と68項と,どうして一緒にまとめなかったのかについては,現在,調べています。

 

輸血について

61. 敗血症または敗血症性ショックの成人には,制限的な輸血の方策とする(強い推奨,中程度の質のエビデンス)。

解説:赤血球輸血は,通常,ヘモグロビン値が7 g/dL以下です。その上で,赤血球輸血についてはヘモグロビン濃度のみで判断するべきではなく,全体的な患者の臨床状態を評価し,その上で急性心筋虚血,重度の低酸素血症,急性出血などの緊急性を考慮します。

※ 松田コメント:これは現在の急性期医療の基本知識ですので,確認されていただくとともに,現在でも記載されています。

 

免疫グロブリンについて

62. 敗血症または敗血症性ショックの成人には,静注用免疫グロブリンを使用しない(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

※ 松田コメント:毒素産生ブドウ球菌(MRSA),サイトメガロウイルス検出,1,3-β-Dグルカン上昇,またウイルス関与(疑)において,救命や早期改善のために使用しています。その上で,費用対効果を考慮します。

 

胃粘膜防御

63. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,消化管出血の危険因子がある場合には,ストレス潰瘍を予防する(弱い推奨,中程度の質のエビデンス)。

 

深部静脈血栓症対策

64. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,禁忌が存在しない限り,薬理学的な深部静脈血栓症対策とする(強い推奨,中程度の質のエビデンス)。

65. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,深部静脈血栓症を予防のために未分画ヘパリン(UFH)よりも低分子量ヘパリン(LMWH)を使用する(強い推奨,中程度の質のエビデンス)。

66. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,深部静脈血栓症を予防のために,薬理学的予防に加えて機械的予防を併用しない(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

 

血液浄化法 Renal Replacement Therapy

67. 敗血症または敗血症性ショックに急性腎障害を併発した成人では,持続的または断続的な腎代替療法を併用する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

68. 敗血症または敗血症性ショックに急性腎障害を併発した成人では,腎代替療法の明確な適応がない場合は,腎代替療法を使用しない(弱い推奨,中程度の質のエビデンス)。

 

血糖コントロール

69. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,血糖値180 mg/dL以上でインスリン療法を開始する(強い推奨,中程度の質のエビデンス)。

解説:集中治療領域のインスリン療法の目標血糖範囲は,NICE-SUGAR研究に準じて144~180 mg/dLです。

 

ビタミンC

70. 敗血症または敗血症性ショックの成人には,ビタミンC静注療法をしない(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

※ 松田コメント:喫煙歴,飲酒歴,FIO2>0.5などで,私は大量ビタミンC静注療法を考慮しています。

 

重炭酸イオン

71. 敗血症性ショックおよび低灌流で誘発される高乳酸血症の成人では,血行動態を改善するためや,昇圧剤の投与量を減らすために,重炭酸イオンを投与しない(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

72. 敗血症性ショックで重度の代謝性アシドーシス(pH≤7. 2)およびAKI(AKINスコア2または3)の成人では,重炭酸イオンを投与する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

 

栄養管理

73. 経腸栄養が可能な敗血症または敗血症性ショックの成人患者には,経腸栄養を早期(72時間以内)に開始する(弱い推奨; 非常に低い質のエビデンス)。

※ 松田コメント:遅い感じがします。少なくとも48時間,原則としてすぐに開始する方法もあります。早期経腸栄養の定義がおかしいです。

 

ケア目標

74. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,患者や家族とケアと予後の目標について話し合う(ベストプラクティスステートメント:BPS)。

75. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,早期(72時間以内)からケアの目標に取り組む(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

76. 敗血症または敗血症性ショックの成人において,ケア目標のための標準化された基準の推奨には,エビデンスが不十分である。

※ 松田コメント:ここも解説を読まれると良いです。引用文献は,534〜544までの11編しかないこと,今後の本内容の充実のための課題となります。

 

緩和ケア

77. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,患者と家族の症状および苦痛に対処するために,適切な場合,緩和ケア(臨床医の判断に基づく緩和ケアの相談を含む)を治療計画に統合させる(ベストプラクティスステートメント:BPS)。

78. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,すべての患者にルーティンに正式な緩和ケアの相談とするのではなく,臨床医の判断に基づいて緩和ケアの相談とする(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

 

ピアサポート

79. 成人の敗血症または敗血症性ショックの生存者とその家族については,ピアサポートグループ(敗血症に罹患した同じような立場のサポーターグループ)に紹介する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

ケア場所の移動に際して

80. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,管理移行時には重要な情報の受け渡しをプロセスとして行う(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)。

81. 敗血症または敗血症性ショックの成人において,重症管理報告として構造化された申し送りツールを使用することと,通常の申し送りの優劣を区分できない。

※ 松田コメント:現在は,管理時間帯移行時の患者さん管理の申し送り内容は電子カルテにしっかりと残されていると思いますが,各施設での工夫として,さまざまな方法が用いられています。しっかりと申し送り情報を明確に,担当者移行の氏名,時刻,場所,内容をカルテに残ことが不可欠です。

 

経済的支援や社会的支援のスクリーニング

82. 成人の敗血症または敗血症性ショックとその家族に対して,経済的支援と社会的支援(住居,栄養,経済的,精神的支援など)をスクリーニングし,それを利用可能な場合には,本人や家族に紹介する(ベストプラクティスステートメント:BPS)。

 

患者と家族への敗血症教育

83. 敗血症または敗血症性ショックの成人とその家族には,退院前およびフォローアップにおいて,敗血症に対する教育(診断,治療,および集中治療管理および敗血症後の徴候)を口頭と書面で提供する(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)。

 

治療計画の共有

84. 成人の敗血症または敗血症性ショックとその家族に対して臨床チームは,ICU後および退院後の計画が受け入れ可能で実行可能であることを確認するために,それらの決定に参加する機会を提供する(ベストプラクティスステートメント:BPS)。

 

退院計画・退院支援

85. 成人の敗血症または敗血症性ショックとその家族に対して,患者が一般病床に移動する際には,通常のケアと比較して,クリティカルケア移行プログラム(critical care transition program)を使用する(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)。

※ 松田コメント:管理場所が,集中治療室から一般病床へ,また自宅への退院後なる場合は,投薬誤りや情報逸脱の内容にがないようにしっかりと管理することになりますが,このようなcritical care transition programの作成を各施設で工夫しましょう。

86. 成人の敗血症および敗血症性ショックでは,ICU退出と退院の両方で投薬の調整を行う(BPS:ベストプラクティスステートメント)。

87. 成人の敗血症および敗血症性ショックの生存傷病者と家族に対して,そのICU滞在,敗血症と他の診断内容,治療,そして一般的な合併症についての情報を,書面および口頭で退院要約に含める(BPS:ベストプラクティスステートメント)。

88. 成人で新たな障害を発症した敗血症または敗血症性ショックでは,臨床医による新規および長期の後遺症のフォローアップを退院時計画に含める(BPS:ベストプラクティスステートメント)。

89. 通常の退院後のフォローアップと比較して,退院後の早期のフォローアップを推奨するには,エビデンスが不十分である。

 

認知療法

90. 成人の敗血症および敗血症性ショックの生存傷病者に対して,早期認知療法を推奨するにはエビデンスが不十分である。

 

退院後のフォローアップ

91. 敗血症または敗血症性ショックの成人生存者には,退院後の身体的,認知的,および感情的な問題の評価とフォローアップを推奨する(BPS:ベストプラクティスステートメント)

92. 成人の敗血症および敗血症性ショックの生存傷病者に対して,可能であれば重症後の病気のフォローアッププログラム(post-critical illness programs)を共有する(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)。

93. 48時間以上の人工呼吸管理または72時間以上の集中治療管理を受けた敗血症または敗血症性ショックの成人生存者には,退院後のリハビリテーションプログラムを紹介する(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)。

記載:Post-critical illness programs(PCIP:集中治療後管理プログラム)は,集中治療で生存した患者さんが倦怠感,健忘,無気力,呼吸苦,筋力低下,活動性低下,抑うつ状態など多くの多面的な問題をスクリーニングし,そして対処する方法として,世界的に開発されている過程にあります。これらの個々のプログラムは,構造が異なり,現在は世界中で共有して利用できるものではありません(637)。心的外傷を評価したランダム化研究は非常に少ないですし(文献638,639),これらのメタ解析ではコクランレビュー(文献640)と一致して,死亡率,QOL,身体機能,そして認知において,通常のケアとPCIPを用いた違いは認められていません。 精神的症状として不安,うつ病,心的外傷が,わずかに改善する可能性がありますが不明瞭です。このような敗血症後のフォローアッププログラムPCIPの研究が進行中です(文献641,642)。研究結果としての有効性は曖昧ですが,これらの集中治療後管理プログラムは患者に好まれており,介入試験が必要になります(文献637,643)。

参考文献

637. Teixeira C, Rosa RG: Post-intensive care outpatient clinic: Is it feasible and effective? A literature review. Rev Bras Ter Intensiva 2018; 30:98–111

638. Cuthbertson BH, Rattray J, Campbell MK, et al; PRaCTICaL study group: The PRaCTICaL study of nurse led, intensive care follow-up programmes for improving long term out- comes from critical illness: A pragmatic randomised con- trolled trial. BMJ 2009; 339:b3723

639. Jensen JF, Egerod I, Bestle MH, et al: A recovery program to improve quality of life, sense of coherence and psychological health in ICU survivors: A multicenter randomized controlled trial, the RAPIT study. Intensive Care Med 2016; 42:1733–1743

640. Schofield-Robinson OJ, Lewis SR, Smith AF, et al: Follow-up services for improving long-term outcomes in intensive care unit (ICU) survivors. Cochrane Database Syst Rev 2018; 11:CD012701

641. Kowalkowski M, Chou SH, McWilliams A, et al; Atrium Health ACORN Investigators: Structured, proactive care coordina- tion versus usual care for Improving Morbidity during Post- Acute Care Transitions for Sepsis (IMPACTS): A pragmatic, randomized controlled trial. Trials 2019; 20:660

642. Paratz JD, Kenardy J, Mitchell G, et al: IMPOSE (IMProving Outcomes after Sepsis)-the effect of a multidisciplinary fol- low-up service on health-related quality of life in patients postsepsis syndromes-a double-blinded randomised con- trolled trial: Protocol. BMJ Open 2014; 4:e004966

643, Prescott HC, Iwashyna TJ, Blackwood B, et al: Understanding and enhancing sepsis survivorship. Priorities for research and practice. Am J Respir Crit Care Med 2019; 200:972–981

 

おわりに

 SSCG2021における「93の推奨項目」,後半の46項から93項までを紹介しました。以上,ご確認ください。2021年においてもSSCG2021,まだまだ不十分であり,診療エビデンスを満たしていく領域が散見されます。本稿においては,意訳をしているところなどを含めて,適時,追記,また補足とさせていただきます。敗血症診療,世界の潮流として,ご確認ください。

初稿:2021年10月2日,保存:2021年10月12日,修正UP:2021年11月3日

 

参照:

PART1 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021  概要 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021

PART2 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 「敗血症のスクリーニングと早期発見」について

PART3 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021  推奨内容の整理「スクリーニングと初期蘇生,感染,血行動態の45項目」

 


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Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 PART 3 〜45/93の推奨ポイント〜 スクリーニングと初期蘇生,感染,血行動態

2021年10月10日 11時11分35秒 | 論文紹介 敗血症性ショック・重症敗血症

敗血症という病態を知ろう

Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 PART3

推奨内容の整理:スクリーニングと初期蘇生,感染,血行動態における45項目

欧州集中治療医学会/米国集中治療医学会

〜 6グループ 93の推奨ポイント 〜

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

教授 松田直之

 

はじめに

 Surviving Sepsis Campaign guidelines 2021(SSCG 2021)が, 2021年10月2日に欧州集中治療医学会と米国集中治療医学会より公表されました。SSCG 2021における「スクリーニングと初期蘇生」,「感染」,「血行動態」における45項目(93項目中の45内容)の推奨内容を整理し,記載しています。一部には,コメントを追記しています。敗血症および敗血症性ショック,敗血症診療の補助として,ご確認ください。

 

敗血症のスクリーニングと早期発見

1. 病院や医療システムでは,急性疾患の敗血症のスクリーニングを含む敗血症,高リスク患者,治療ための標準操作手順(standard operating procedures)などのために,敗血症のパフォーマンス改善プログラムを作成し,運用する。

 (スクリーニング:強い推奨,低い質のエビデンス)

 (標準操作手順:強い推奨,非常に低い質のエビデンス)

2. 敗血症や敗血症性ショックのスクリーニングツールとして,SIRS,NEWSやMEWSと比較して,qSOFAを単独で使用しない(強い推奨,中等度の質のエビデンス)。

3. 敗血症が疑われる成人では,血中乳酸を測定する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

 

初期蘇生

4.敗血症と敗血症性ショックは救急疾患としてすぐに治療と蘇生を開始する(ベストプラクティスステートメント:BPS)。

5.敗血症によって誘発された低灌流または敗血症性ショックでは,蘇生の最初の3時間以内に少なくとも30 mL/kgの晶質液輸液を開始する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

6.敗血症または敗血症性ショックの成人では,動的測定を使用して輸液蘇生のガイドとする。動的パラメータには,輸液ボーラス投与や脚上げにおける1回拍出量(SV),1回拍出量変動(SVV),脈圧変動(PPV)また心エコーの反応評価を含む(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)。

7.敗血症または敗血症性ショックの成人では,乳酸レベルが上昇している患者の血清乳酸値を減少させるように蘇生の指導とする(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

8.敗血症性ショックの成人では,組織灌流評価の補助として毛細血管補充時間(capillary refill time:CRT)を使用して蘇生補助とする(弱い推奨,低い質のエビデンス)。※ コメント:ベッドサイドCRTの併用が含まれています(松田直之)。

 

平均血圧の管理

9.昇圧剤に敗血症性ショックがある成人では,より高い血圧ではなく,平均血圧65 mmHgを初期のターゲットとする(強い推奨,中程度の質のエビデンス)。

 

ICU入室について

10. ICU入室が必要な敗血症または敗血症性ショックの成人では,6時間以内にICUに入室させる(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

 

感染症の診断

11. 敗血症または敗血症性ショックが疑われるが感染が確認されていない成人では,継続的に他の診断を再評価および検索し,他の病因が示されるか,強く疑われる場合は経験的抗菌薬を中止する(ベストプラクティスステートメント:BPS)。

 

抗菌薬投与のタミング

12. 敗血症性ショックの可能性がある,または敗血症の可能性が高い成人では,抗菌薬を直ちに,理想的には疑いから1時間以内に投与する。

 強力な推奨,低い質のエビデンス(敗血症性ショック)

 強力な推奨,非常に低い質のエビデンス(ショックのない敗血症)

13. ショックのない敗血症(疑)の成人では,急性疾患に感染症が併発しているか否かを迅速に評価する(ベストプラクティスステートメント:BPS)。

14. ショックのない敗血症(疑)の成人では,感染症の迅速調査の期間を区切り,感染の懸念が続く場合には敗血症が最初に認識された時から3時間以内に抗菌薬を投与する(非常に弱い推奨,低い質のエビデンス:BPS)。※ コメント:非ショック敗血症(疑)では,感染症かどうかの再評価を行い,直ちに抗菌薬を投与するのではなく,3時間までの時間に猶予をもたせる(松田直之)。

15. 感染の可能性が低く,ショックのない成人では,注意深く監視しながら,抗菌薬投与を延期する(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)

 

抗菌薬開始のためのバイオマーカー

16. 敗血症または敗血症性ショックが疑われる成人において,プロカルシトニン値を抗菌薬開始の評価として用いない(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)。

 

抗菌薬の選択

17. メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のリスクが高い敗血症または敗血症性ショックの成人では,MRSAの対象外の抗菌薬を使用するよりも,MRSAの対象となる経験的抗菌薬を使用する(ベストプラクティスステートメント:BPS)。

18. メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のリスクが低い敗血症または敗血症性ショックの成人では,MRSAの対象となる経験的抗菌薬を使用しない(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

19. 敗血症または敗血症性ショックがあり,抗菌薬の多剤耐性のリスクが高い成人では,経験的治療としてグラム陰性に対する2種類の抗菌薬を併用する(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)。

20. 敗血症または敗血症性ショックがあり,抗菌薬の多剤耐性(MDR)のリスクが低い成人では,経験的治療として1つのグラム陰性菌として,2つのグラム陰性菌用の抗菌薬を併用しない(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)。

21. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,原因となる細菌と薬剤感受性がわかったら,2つのグラム陰性菌用の抗菌薬を併用しない(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)。

 

抗真菌薬

22. 真菌感染のリスクが高い敗血症または敗血症性ショックの成人では,抗真菌療法なしではなく,抗真菌薬を経験的に使用する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

23. 真菌感染のリスクが低い敗血症または敗血症性ショックの成人では,抗真菌薬を経験的に使用しないこと(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

 

抗ウイルス薬

24. 抗ウイルス薬の使用については推奨を定めない。※ コメント:Rationale(理由)には,コメントが46行にわたってまとめられています。特記事項として,COVID-19の管理については以下のSSCG-COVID-19が紹介されています(松田直之)。

紹介文献:Alhazzani W, Moller MH, Arabi YM et al . Surviving Sepsis Campaign: guidelines on the management of critically ill adults with Coronavirus Disease 2019 (COVID‐19). Intensive Care Med 2020;46:854–887. 

 

抗菌薬の投与方法

25. 敗血症または敗血症性ショックの成人へのβラクタム系抗菌薬の投与では,従来のボーラス投与よりも,最初のボーラス後は長時間で投与する(弱い推奨,中程度の質のエビデンス)。※ コメント:30分程度での初期投与後に,投与間隔の半分程度,つまり6時間間隔であると3時間程度の時間をかけて長時間投与するという方法です(松田直之)。

 

PK/PD(薬物動態/薬力学)

26. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,薬物動態/薬力学(PK/PD)の薬物特性に基づいて抗菌薬の投与戦略を最適化する(ベストプラクティスステートメント:BPS)。

 

感染巣制御(ソースコントロール)

27. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,医学的およびロジスティック的に実用的であればすぐに,感染源管理を必要とする感染巣の解剖学的診断を行い,必要な感染源管理介入を実施する(ベストプラクティスステートメント:BPS)。

※ 松田コメント:ソースコントロールとして,膿瘍ドレナージ,感染壊死組織の創面切除,感染デバイスの除去,腹腔内膿瘍,胃腸穿孔,虚血性腸炎,胆管炎,胆嚢炎,閉塞または膿瘍に関連する腎盂腎炎,壊死性軟部組織感染症,敗血症性関節炎,デバイス感染などが解説に挙げられています。

28. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,原因の可能性のある血管内デバイスを,他の血管内デバイスの確保後に迅速に抜去する。(ベストプラクティスステートメント:BPS)

 

抗菌薬のディエスカレーション

29. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,抗菌薬のディエスカレーションを毎日行い,毎日の評価のない一定期間後のディエスカレーションとしない(弱い推奨,低い質のエビデンス)。※ コメント:敗血症におけるディエスカレーションは,良くなってきている患者さんに適応される傾向があるため,後ろ向きの解析などで短期死亡率を改善するという報告には注意します。一定の期間をおくのではなく,毎日,ディエスカレーションできるかどうかを検討してくださいませ(松田直之)。

 

抗菌薬中止のタイミング

30. 敗血症または敗血症性ショックにおいて,適切なソース管理が行われている成人では,抗菌薬治療の期間を短くする(弱い推奨,低い質のエビデンス)。※ コメント:管理できている感染症では,抗菌薬をできるだけ早く中止するように意識します(松田直之)。

 

抗菌薬中止のバイオマーカー

31. 敗血症または敗血症性ショックで適切なソースコントロールが行われている成人において,最適な抗菌薬投与期間が不明である場合は,抗菌薬を中止する時期を決定するために,プロカルシトニンと臨床評価を併用する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

 

血行動態管理

32. 敗血症または敗血症性ショックの成人には,蘇生の第一選択として晶質液を使用する(強力な推奨,中程度の質のエビデンス)。

33. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,蘇生には通常の生理食塩水の代わりにバランスの取れた晶質液(balanced crystalloid)を使用する(弱い推奨,低い質のエビデンス)※ コメント:救急外来やICUでは,薬剤のルート内での沈殿などの観点より生理食塩水を使用する傾向がありますが,大量の生理食塩水による腎血管収縮,急性腎障害誘発の危険性が示唆されていました。解説では,敗血症患者の14件のRCTのネットワークメタアナリシスとしてクリスタロイドが生理食塩水と比較して死亡率を低下させるとする以下の論文を紹介しています(松田直之)。

紹介文献:Rochwerg B, Alhazzani W, Sindi A, et al. Fluid resuscitation in sepsis: a systematic review and network meta‐analysis. Ann Intern Med. 2014;161:347–355.

34. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,晶質液のみを使用するよりも大量の晶質液を投与された患者にはアルブミンを併用することを推奨する(弱い推奨,中程度の質のエビデンス)。※ コメント:エビデンスは不十分ですが,日本版敗血症診療ガイドライン2020と一致する内容ですし,欧州の先生の見解が取り入れられています。賛同できる内容です(松田直之)。

35. 敗血症または敗血症性ショックの成人には,蘇生にHES 130/0.38–0.45 などのスターチを用いない(強い推奨,高い質のエビデンス )。

36. 敗血症および敗血症性ショックの成人では,蘇生にゼラチンを用いない(弱い推奨,中程度の質のエビデンス)。

 

血管作動薬の選択

37. 敗血症性ショックの成人には,他の昇圧剤よりも第一選択薬としてノルエピネフリンを使用する(強い推奨)

比較対象

・ドパミンよりノルエピネフリン:高い質のエビデンス

・バソプレシンよりノルエピネフリン:中等度の質のエビデンス

・エピネフリンよりノルエピネフリン:低い質のエビデンス

38. ノルエピネフリン投与で血圧上昇が不十分である敗血症性ショックの成人では,ノルエピネフリン持続投与量の増量の代わりに,バソプレッシンを追加する(弱い推奨,中程度の質のエビデンス)。(リマークス:バソプレッシンは通常,ノルエピネフリン0. 25μg/kg/分の持続投与量以上であるときに併用する。)

39. ノルエピネフリンとバソプレシンにもかかわらず,敗血症性ショックと不十分なMAPレベルの成人には,エピネフリンを追加する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

40. 敗血症性ショックの成人では,テルリプレシンを使用しない(弱い推奨,低い質のエビデンス)。コメント:テルリプレシン(terlipressin)は,バソプレシンV1受容体選択性の高いバソプレシン類似体す。海外では,肝腎症候群 1 型(HRS-1)の治療に使用されています。欧州では,敗血症性ショックに用いる施設があるとのことです。敗血症性ショックでの治験では,生存率を改善する有意な結果が認められませんでした(松田直之)。

 

陽性変力作用/陽性変時作用

41. 十分な循環ボリュームと血圧にもかかわらず,低灌流と心原性ショックのある成人では,ノルエピネフリンにドブタミンを追加するか,エピネフリンのみを使用することを推奨する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。※ コメント:ドブタミンにより敗血症性ショックの生存率が改善したというエビデンスはありません。一方,両膝に網状皮斑(リベドー)の出現する症例に限り,NOMIの予防を含めてドブタミンを併用する臨床研究は必要です。その上で,ドブタミンの有害性については,引き続き,注意が必要です(松田直之)。

42. 十分な循環ボリュームと血圧にもかかわらず,敗血症性ショックと持続的な低灌流を伴う心機能障害のある成人には,レボシメンダンを使用しない(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

 

モニタリング

43. 敗血症性ショックの成人では,非侵襲的モニタリングではなく,利用可能であれば観血的動脈圧を使用する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

44. 敗血症性ショックの成人では,末梢静脈路より昇圧薬を開始し,中心静脈路が確保されるまで遅らせずに,血圧を回復させる(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

 

輸液バランスについて

45. 敗血症および敗血症性ショックの患者で,初期蘇生後も組織低灌流と循環血液量不足の兆候がある場合において,初期24時間の輸液制限が良いのか否か(restrictive vs liberal fluid strategy)についての推奨には,エビデンスが不十分である。

 

おわりに

 本稿は,SSCG2021における「93の推奨項目」のうち,「スクリーニングと初期蘇生」,「感染」,「血行動態」に関係する45項目を紹介しています。ご確認ください。2021年においても,診療エビデンスを満たしていく領域が散見されます。本稿においては,適時,修正,追記,また補足とさせていただきます。

初稿:2021年10月6日

続編:Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 PART4   推奨内容の整理:呼吸管理,追加治療,ケアの目標と長期転帰(48項目の推奨)

参照:

PART1 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021  概要 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021

PART2 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 「敗血症のスクリーニングと早期発見」について

PART3 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021  推奨内容の整理「スクリーニングと初期蘇生,感染,血行動態の45項目」


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Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 PART 2 〜93の推奨ポイント〜 第1セッション

2021年10月02日 23時35分35秒 | 論文紹介 敗血症性ショック・重症敗血症

敗血症という病態を知ろう

Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 PART2

1st グループ「スクリーニングと早期発見」の概要

欧州集中治療医学会/米国集中治療医学会の推奨する敗血症診療ガイドライン 〜 6グループ 93の推奨ポイント〜

Surviving Sepsis Campaign guidelines 2021(SSCG 2021)

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

教授 松田直之

 

はじめに 

 敗血症のスクリーニングと早期発見におけるSSCG2021(文献1)のポイントは,2016年のSSCG2016(文献2)のために用意した「敗血症診断のためのqSOFA」の有効性を修正したことにあります。本稿は,本領域の専門家として,少し,マニアックな国際学会での討議レベルの内容となります。2016年のSSCG2016では集中治療室以外の診療の場での敗血症スクリーニングの診断ツールとしてqSOFA(GCS<15,呼吸数≧22/分,収縮期血圧≦100mmHgの3つのうち2つ以上を満たす)(文献3)に一本化された経緯がありましたが,結果的には早くもqSOFAの完全性を否定する記載となっています。私自身としては,qSOFAを早急に提出した以上は,2024年の改訂までに代替え案を策定し,否定的見解は見合わせるべきであると考えておりました。診療経験としては,SIRS定義を満たさず,qSOFAを満たす感染性臓器障害は重症度が高い傾向があり,このSIRS(-)/qSOFA(+)の病態認識と診療バンドル(診療管理)は重要と考えています。オンセット概念や時間軸を取り除いているという誤りがある内容ですが,感染症が疑われる状態での臓器障害の悪化予測の特異度は,評価時点で80%を超えて高いものです。

 qSOFAについては,感染症と院内死亡との関連として開発されたスコアですので,敗血症のスクリーニングツールとしての評価は,今回のSSCG 2021のように,後から付けられてくることになります。そして,国際的診断基準を作る際には,各国の年齢構成予測,基礎疾患の構成分布,医療状況および診療水準などの影響因子を考慮することも重要となります。

 qSOFAの概念は,「quick」に意義があります。最近は,救急外来や集中治療室において,血液・生化学検査結果が極めてスピーディに報告され,さらに人工知能(Artificial Intelligence:AI)により異常やアラートを自動報告してくれるTele-システムなどに発展していきます。しかし,血液・生化学検査所見を待たず,理学所見よりクイックに臓器障害の進行や院内死亡を予測するスコアリングシステムは有用です。

 以下の3つの推奨,欧州集中治療医学会/米国集中治療医学会からの「敗血症のスクリーニングと早期発見」の新しい推奨です。日本や世界における敗血症の初期診断と初期治療は良好に進化していますので,さらに評価し,考察し,再開発する2022年になると考えています。

 

SSCG2021の「推奨度」の理解

 SSCG2021は,前回のSSCG2016と同様に,Sepsis-3の敗血症の定義を用いています。その一方で,解析された臨床研究データは敗血症,重症敗血症,敗血症性ショックのSepsis-1の定義に基づくデータであることが方法に記載されています。

Definitions
These guidelines used the third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3) (1).  Sepsis is defined as a life-threatening organ dysfunction caused by a dysregulated host response to infection. Septic shock is a subset of sepsis with circulatory and cellular/metabolic dysfunction associated with a higher risk of mortality (5). While Sepsis-3 definitions also included clinical criteria for sepsis and septic shock, most studies comprising the evidence for these guidelines, including all those published prior to 2016, used earlier definitions of sepsis, severe sepsis, and septic shock (6).

文 献(文献番号はSSCG2021に記載されている番号のままとしています)

1.Singer M, Deutschman CS, Seymour CW et al (2016) The Third Inter‐ national Consensus definitions for sepsis and septic shock (Sepsis‐3). JAMA 315(8):801–810

5.Seymour CW, Liu VX, Iwashyna TJ et al (2016) Assessment of clinical criteria for sepsis: for the third international consensus definitions for sepsis and septic shock (Sepsis‐3). JAMA 315(8):762–774

6.Levy MM, Fink MP, Marshall JC et al (2003) 2001 SCCM/ESICM/ACCP/ ATS/SIS International Sepsis Definitions Conference. Crit Care Med 31(4):1250–1256

 

SSCG2021 患者さんへのガイドライン推奨の2つの区分

強い推奨:患者さんのほとんどが,推奨される指針を受け取る必要があります。

弱い推奨:患者さんによってさまざまな選択が可能であり,治療は患者さんの個々の状況に合わせて調整されます。

表の引用:SSIG2021(文献1)からの引用

 

SSCG2021 スクリーニングと早期発見 3つの推奨項目

1.病院や医療システムでは,急性疾患の敗血症のスクリーニングを含む敗血症,高リスク患者,治療ための標準操作手順(standard operating procedures)などのために,敗血症のパフォーマンス改善プログラム(performance improvement programme)を作成し,運用することを推奨する(programme:イギリス英語で記載されています)。

 スクリーニング:強い推奨,低い質のエビデンス

 標準操作手順:強い推奨,非常に低い質のエビデンス

 ※ 敗血症管理バンドル・敗血症安全管理手順など,performance improvement programmeの作成は,敗血症の管理の質の向上として重要です(文献4/5)。

コメント:ニューヨーク州などの5つ米国の州での敗血症のコフォート研究(509病院,1,012,410例など)(文献6)では,作成された診療バンドル達成への遵守率の高い病院では,死亡率が低いことがSSCG2021の本稿で紹介されています。Performance improvement program(PIP)や敗血症管理バンドル(SMB:sepsis management bundle)は,常識的には治療成績向上のための共通基盤として重要です。

 

2.敗血症や敗血症性ショックのスクリーニングツールとして,SIRS,NEWSやMEWSと比較して,qSOFAを単独で使用しないことを推奨する(強い推奨,中等度の質のエビデンス)。

 解説:敗血症スクリーニングにおけるqSOFAの単独使用を否定しています。この解説の記載のポイントを紹介します。

(1)スクリーニングツールとしての解析

 感染症が疑われる患者さんの転帰不良の予測因子としてqSOFAが同定されていますが,スクリーニングツールとしての使用をサポートする解析は行われていません。

 原文:Definitions of Sepsis identified qSOFA as a predictor of poor outcome in patients with known or suspected infection, but no analysis was performed to support its use as a screening tool.

 コメント:これははじめからわかっていたことなので,日本でも随分と討議をさせて頂きました。つまり,SSCG 2016でのqSOFAの推奨は,「これからqSOFAの敗血症スクリーニングツールとしての有効性を国際的に評価しようという提案なのだろうとと思います」と,私は説明してきました。感染症が疑われる患者さんの転帰不良の予測因子としてqSOFAが同定されていますが,スクリーニングツールとしての使用をサポートする解析は行われていません。これははじめから当たり前ですので,SSCG 2021における本稿の解説はSSCG2016との整合性を維持するために,より適切に記載すると良かったと思います。qSOFA反対派は,世界に多くいらっしゃいますので,今後も議論が継続されると思います。

内容の理解例:SSCG 2016において推奨したqSOFAは,本来,感染症が疑われる患者さんの転帰不良の予測因子としてラージデータベースを用いて同定されたものです。このため,Sepsis-3およびSSCG 2016の公表時において,このqSOFAが敗血症のスクリーニングツールとして有効かどうかについては検証されていませんでした。その上で,SSCG 2016の公表後も,敗血症のスクリーニングツールとしてのqSOFA単独の有効性は確認できていません。このため,本ガイドラインでは敗血症のスクリーニングとして,SIRS,NEWSおよびMEWSなどの他のスケールの併用についても考慮し,敗血症かどうかのスクリーニングにはqSOFA単独の使用には注意が必要であるとしました。この敗血症スクリーニングのためのツールについては,これからの4年間における新規開発や新規提案が期待されます。※ 以下の内容として,私は理解しています。

松田記載:The qSOFA recommended in SSCG 2016 was originally identified using a large database as a predictor of poor outcome in patients with suspected infection and infectious disease. Therefore, at the time of publication of Sepsis-3 and SSCG 2016, it was not verified whether this qSOFA is effective as a screening tool for sepsis and septic shock. Moreover, even after the publication of SSCG 2016, the effectiveness of qSOFA alone as a screening tool for sepsis and septic shock has not been confirmed. For this reason, the guideline SSCG 2021 considers the combined use of other scales such as SIRS, NEWS, and MEWS as a screening for sepsis, and states that caution should be exercised when using qSOFA alone for screening for sepsis and septic shock. New developments and proposals for sepsis screening are expected over the next four years in SSCG 2025. (Matsuda N)

(2)敗血症のスクリーニングとしてのqSOFAの感度の低さ

 qSOFAの敗血症のスクリーニングツールとしての感度の低さを問題としています(文献7-10)。SIRSスコアもqSOFAも敗血症の理想的なスクリーニングツールではなく,ベッドサイドの臨床医はそれぞれの限界を理解する必要があると記載しています。

 本文記載:Neither SIRS nor qSOFA are ideal screening tools for sepsis and the bedside clinician needs to understand the limitations of each. In the original derivation study, authors found that only 24% of infected patients had a qSOFA score 2 or 3, but these patients accounted for 70% of poor outcomes[5]. Similar findings have also been found when comparing against the National Early warning Score (NEWS) and the Modified Early warning Score (MEWS) [44]. Although the presence of a positive qSOFA should alert the clinician to the possibility of sepsis in all resource settings; given the poor sensitivity of the qSOFA, the panel issued a strong recommendation against its use as a single screening tool.

 和訳:SIRSもqSOFAも敗血症の理想的なスクリーニングツールではなく,ベッドサイドの臨床医はそれぞれの限界を理解する必要があります。qSOFSのオリジナル研究では,感染した患者の24%のみがqSOFAスコア2または3を満たし,これらの患者は悪い転帰の70%を占めました(文献3)。 同様の結果は,National Early Warning Score(NEWS)およびModified Early Warning Score(MEWS)との比較でも見つかりました(文献11)。qSOFA陽性では敗血症の可能性があることを臨床医に警告する必要があるけれども,qSOFAの感度が低いことを考慮して、パネルでは単一のスクリーニングツールとしてのqSOFAの使用に対して強い勧告を出しました。

 コメント:qSOFAが完全に否定されたわけではないことには,注意されると良いでしょう。感染症が疑われる状態において,qSOFA陽性では重症となる可能性があるという解釈がポイントと思います。直ちに血液培養検査2セット,抗菌薬の投与を開始すると良いでしょう。その上で,普段から敗血症をよく診療しているものであれば ,「これは従来は敗血症としていた病態なのだけどqSOFAの2項目を満たしてない」などとして,「qSOFAの感度が低い」ことは,はじめから自明でした。

 この討議で気をつけるとよいことは,まず敗血症の定義,つまりSIRS(全身性炎症)-sepsisとMOI(多臓器障害:maltiple organ injury)-sepsisを混同しないことです。確かに,SIRSからMOIに進展します。SIRS-sepsisを含めたスクリーニングを,qSOFAに期待しているのかもしれません。病態の進行という時間軸と時間幅を定めて,討議する必要があります。SIRS基準は臓器障害となる可能性の少し早い時点でのチェックスコア(しかし2025年までには改定が必要),qSOFAは臓器障害が具現化しはじめているチェックスコア(しかし2025年頃までには日本版としての修正の提案が必要)と言う解釈です。

 急性臓器障害というのは,プレショック(pre-shock)のように途中で介入して,障害の進行を阻止してしまうと臓器障害ではなくなります。これはあたり前のことなのですが,時間軸を逆走して「カルテや診療録から介入が適正だった因果関係を読み取る」には,強力な診療能力が必要とされます。「それ,本当にプレショックだったの」などと誤解される場合もあります。感染性SIRS,このSIRSスコアについてはSIRS診断をつけるべき時点で,1)気がつかない医師,2)SIRSと理解したけれども経過観察する医師,3)SIRSと評価して治療を開始する医師,この3パターンだけでも6時間から24時間後の臓器障害の合併率や進行度が変化する可能性があります。このように,後ろ向き解析では臓器障害までの評価時間を長く取れば,SIRSはqSOFAを含みやすくなる可能性があります。そして,SIRSの時点で治療介入しているとSIRSの臓器障害は低いとなります。このような時間軸バイアスは,後ろ向き評価などでは十分に注意しなければならない事項です。集中治療室の電子カルテ/電子記録では,上手に管理できているので,何もなかったかのように痕跡が残らない場合も多くあります。診断をつけて介入したのか否かの評価は,やはり前向き研究でなければ評価できないと考えます。その上で,SIRSの定義と診断については,私たちは「新SIRSスコアの開発」を急ぐ必要があります。現時点では,臓器障害が起こってしまっている時点でのスクリーニング感度(現状評価)なのか,臓器障害が起こる前の予測としてのスクリーニング感度(未来予測)なのか,現場では評価時点をより厳格として対応することが期待されます。

 

3.敗血症が疑われる成人では,血中乳酸を測定することを推奨する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。

解説:感染症および敗血症が疑われる場合の,乳酸値レベルと死亡率との関連は十分に確立されています(文献12/13)。一方,多くのリソースが制限された設定ではすぐ乳酸値測定を利用できない場合があります(文献14-21)。以上から,補助検査として,乳酸値評価を弱い勧告としているようです。

 

おわりに

 本稿では,本邦や世界における私の重要な業務の一つである「敗血症の早期スクリーニング」について,2021年10月2日,欧州集中治療医学会34th Annual Congressに合わせて発表されたSSCG2021,この1st グループ「スクリーニングと早期発見」の概要を記載しました。大きく変わりのないところですが,「感染症が疑われる場合にqSOFAを満たす」,この場合は要注意,治療にスピードが要求されること,改めてご留意ください。SSCG2021を構成する93項目,引き続き,適時,UPさせていただきます。

初稿:2021年10月2日,適時修正・追記させていただきます(松田直之)

 

文 献   

1. Surviving Sepsis Campaign guidelines 2021. https://link.springer.com/content/pdf/10.1007/s00134-021-06506-y.pdf?fbclid=IwAR0L7026gO6NV93aEXCQ14jO4DNVcWemDhWR3aris4EdXMGO24jE7inG3w8

2. Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017;43:304-377.

3. Seymour CW, Liu VX, Iwashyna TJ,et al . Assessment of clinical criteria for sepsis: for the Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis‐3). JAMA. 2016; 315:762–774.

4. Schorr C, Odden A, Evans L, et al. Implementation of a multi‐ center performance improvement program for early detection and treatment of severe sepsis in general medical–surgical wards. J Hosp Med. 2016;11:S32–S39.

5. Damiani E, Donati A, Serafini G, et al. Effect of performance improvement programs on compliance with sepsis bundles and mor‐ tality: a systematic review and meta‐analysis of observational studies. PLoS One. 2015;10:e0125827.

6. Kahn JM, Davis BS, Yabes JG, et al. Association between state‐ mandated protocolized sepsis care and in‐hospital mortality among adults with sepsis. JAMA. 2019;322:240–250.

7. Fernando SM, Tran A, Taljaard M, et al. Prognostic accuracy of the quick sequential organ failure assessment for mortality in patients with suspected infection: a systematic review and meta‐analysis. Ann Intern Med. 2018;168:266–275.

8. Herwanto V, Shetty A, Nalos M, et al. Accuracy of quick sequential organ failure assessment score to predict sepsis mortality in 121 studies including 1,716,017 individuals: a systematic review and meta‐analysis. Crit Care Explor. 2019;1:e0043.

9. Serafim R, Gomes JA, Salluh J, et al. A comparison of the Quick‐ SOFA and systemic inflammatory response syndrome criteria for the diagnosis of sepsis and prediction of mortality: a systematic review and meta‐analysis. Chest. 2018;153:646–655.

10. Cinel I, Kasapoglu US, Gul F, et al. The initial resuscitation of septic shock. J Crit Care. 2020;57:108–117.

11. Liu VX, Lu Y, Carey KA, et al. Comparison of early warning scoring systems for hospitalized patients with and without infection at risk for in‐hospital mortality and transfer to the intensive care unit. JAMA Netw Open. 2020;3:e205191.

12. Borthwick HA, Brunt LK, Mitchem KL, et al. Does lactate measure‐ ment performed on admission predict clinical outcome on the inten‐ sive care unit? A concise systematic review. Ann Clin Biochem. 2012;49(Pt 4):391–394.

13. Liu G, An Y, Yi X, et al. Early lactate levels for prediction of mortality in patients with sepsis or septic shock: a meta‐analysis. Int J Exp Med. 2017;10:37–47.

14. Abdu M, Wilson A, Mhango C, et al. Resource availability for the management of maternal sepsis in Malawi, other low‐income

countries, and lower‐middle‐income countries. Int J Gynaecol Obstet. 2018;140:175–183.

15. Baelani I, Jochberger S, Laimer T, et al. Availability of critical care resources to treat patients with severe sepsis or septic shock in Africa: a self‐reported, continent‐wide survey of anaesthesia providers. Crit Care. 2011;15:R10.

16. Baelani I, Jochberger S, Laimer T, et al. Identifying resource needs for sepsis care and guideline implementation in the Democratic Republic of the Congo: a cluster survey of 66 hospitals in four eastern provinces. Middle East J Anaesthesiol. 2012;21:559–575.

17. Bataar O, Lundeg G, Tsenddorj G, et al. Nationwide survey on resource availability for implementing current sepsis guidelines in Mongolia. Bull World Health Organ. 2010; 88:839–846.

18. Hernandez G, Ospina‐Tascon GA, Damiani LP, et al. Effect of a resuscitation strategy targeting peripheral perfusion status vs serum lactate levels on 28‐day mortality among patients with septic shock: the ANDROMEDA‐SHOCK Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019;321:654–664.

19. Machado FR, Cavalcanti AB, Bozza FA, et al. The epidemiology of sepsis in Brazilian intensive care units (the Sepsis PREvalence Assess‐ ment Database, SPREAD): an observational study. Lancet Infect Dis. 2017;17:1180–1189.

20. Shrestha GS, Kwizera A, Lundeg G, et al. International Surviving Sepsis Campaign guidelines 2016: the perspective from low income and middle‐income countries. Lancet Infect Dis. 2017;17:893–895.

21. Taniguchi LU, Azevedo LCP, Bozza FA, et al. Availability of resources to treat sepsis in Brazil: a random sample of Brazilian institutions. Rev Bras Ter Intensiva. 2019;31:193–201.

参照:

PART1 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021  概要 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021

PART3 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021  推奨内容の整理「スクリーニングと初期蘇生,感染,血行動態の45項目」

PART4  Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021       推奨内容の整理「呼吸管理,追加治療,ケアの目標と長期転帰の48項目」


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Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 〜93の推奨ポイント〜〜

2021年10月01日 20時00分00秒 | 論文紹介 敗血症性ショック・重症敗血症

敗血症という病態を知ろう

概要 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021

欧州集中治療医学会/米国集中治療医学会の推奨する診療ガイドライン 〜 6グループ 93の推奨ポイント〜

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野 教授 松田直之

 

はじめに

 敗血症(Sepsis:セプシス)は,感染症に罹患した際に進行する多臓器不全の病態です。日本においても,世界においても,近年,「敗血症」という病名が医療従事者の皆さん,患者さん,行政の皆さんなど,広く知っていただけるようになり,世界レベルで治療成績が改善してきています。2011年9月より開始されたWorld Sepsis Day(WSD)活動も実ってきているように思います。

 このような背景には,古くは2002年9月30日〜10月2日にバルセロナで開催された欧州集中治療医学会(ESICM)における「バルセロナ宣言」(文献1)が,大きな役割を担っています。この2002年のESICMは,Jean-Louis Vincent 先生より敗血症疫学に関するSepsis Occurrence in the Acutely ill Patient (SOAP) studyの結果が公表されたり,Arthur Slutsky先生から血管透過型性肺水腫ARDSの人工呼吸管理(PEEP管理)に関するthe Assessment of Low Tidal Volume and Elevated End-Expiratory Volume to Obviate Lung Injury (ALVEOLI)study が公表された年となります。

 2002年欧州集中治療医学会の「バルセロナ宣言」(文献1)は,敗血症の死亡率を25%低下させることを目標とし,Surviving Sepsis Campaign(SSC)を開始するというものでした。この行動プランとなるSurviving Sepsis six-point action plan(Awareness,Diagnosis,Treatment,Education,Counselling,Referral)の1つ,Referral(専門医などへの照会)として「世界標準のガイドラインの作成」が盛り込まれていました。これが,2004年4月にSurviving Sepsis Campaign guidelines 2004(SSCG 2004)(文献2)が,世界初めての敗血症診療ガイドラインとして誕生した背景です。その後,2008年,2012年,2016年とSSCGは3回の改訂が行われています。

 一方,日本集中治療医学会は,日本の敗血症の診療状況に照らした独自の「日本版敗血症診療ガイドライン」を作成することを目標とし,平澤博之先生(理事長)の指揮の下で2007年4月に日本集中治療医学会内に「敗血症レジストリー委員会」を立ち上げました。その結果が,日本の敗血症レジストリー結果などを基にして2012年に発表した,日本初の日本版敗血症診療ガイドライン(文献3)です。その後,4年後ごとに改訂され,現在は前向き臨床研究データ解析に基づく診療エビデンスベースのガイドラインとして,日本版敗血症診療ガイドライン2020(文献4)を提供できるようになりました。これは,SSCGと並ぶ,国際的敗血症診療ガイドラインとも評価される充実した内容です。

 この度,SSCGガイドライン(SSCG2021)(文献5)が, 2021年10月に欧州集中治療医学会と米国集中治療医学会より公表されました。今回は22カ国からSSCのためのパネラーが招聘され,このSSCパネラーが6つのグループに分けられました。グループは,1)スクリーニングと初期蘇生,2)感染,3)血行動態,4)呼吸管理,5)追加治療,6)ケアの目標と長期転帰の6つです。各グループには,低所得国または中所得国から少なくとも1人の代表者を含めるものとされ,6)のケアにおいては市民代表者なども含まれています。国際ガイドラインとしての特徴があります。しかし,欧州集中治療医学会と米国集中治療医学会のガイドラインに反対する学術グループも存在することは,敗血症領域の学術発展においても重要なことです。

 SSCG2021は,93項目の評価の設定と推奨となっています。トピックと質問の優先順位付けは,1)パネラーの評価スコア,2)臨床診療の変動性,3)旧バージョンにおけるトピックまたは質問を含めるものとして,まず6つの各グループで評価され,最終的には2名の議長とグループ長により決定されています。ガイドラインの質問は,PICO形式(① Patient:どのような患者に,② Intervention:どのような治療をしたら,③ Comparison:何と比較して,④ Outcome:どのような結果になるか)で構成され,推奨はGRADEアプローチです。この方法は,日本版敗血症診療ガイドライン2020の作成と変わりありません。SSCG2021を構成する93項目は,近日,UPさせていただきます。

 

引用:文献5

内容:図の右最下にように,敗血症の可能性があるけれども,ショックでない場合には,抗菌薬投与のタイミングを3時間までに許容しています。ショックのない敗血症では,発症から最初の数時間以内の死亡率の評価において,抗菌薬投与までの時間と関連が低いとする2つの観察研究からのものであり,非常に弱いエビデンスとしています。2つの観察研究として取り上げているものは,文献6と文献7です。文献6: Seymour先生たちによる2014年4月1日から2016年6月30日までニューヨーク州保健局に報告された敗血症および敗血症性ショックのデータ解析。文献7: 2010年から2013年の間に北カリフォルニアの21の救急科で治療された敗血症35,000例の後ろ向き研究。

初稿:2021年10月1日,適時修正・追記させていただきます(松田直之)

文 献

1. バルセロナ宣言. Slade E, Tamber PS, Vincent JL. The Surviving Sepsis Campaign: raising awareness to reduce mortality. Crit Care. 2003;7:1-2.

2. Surviving Sepsis Campaign guidelines 2004. Dellinger RP, Carlet JM, Masur H, Gerlach H, Calandra T, Cohen J, Gea-Banacloche J, Keh D, Marshall JC, Parker MM, Ramsay G, Zimmerman JL, Vincent JL, Levy MM. Surviving Sepsis Campaign guidelines for management of severe sepsis and septic shock. Intensive Care Med. 2004;30:536-55.

3. 日本版敗血症診療ガイドライン(初版). https://www.jsicm.org/pdf/20_124.pdf

4. 日本版敗血症診療ガイドライン2021. https://www.jsicm.org/pdf/jjsicm28Suppl.pdf

5. Surviving Sepsis Campaign guidelines 2021. https://link.springer.com/content/pdf/10.1007/s00134-021-06506-y.pdf?fbclid=IwAR0L7026gO6NV93aEXCQ14jO4DNVcWemDhWR3aris4EdXMGO24jE7inG3w8

6. Seymour CW, Gesten F, Prescott HC, et al. Time to treatment and mortality during mandated emergency care for sepsis. N Engl J Med. 2017;376:2235–2244

7. Liu VX, Fielding‐Singh V, Greene JD, et al. The timing of early antibiotics and hospital mortality in sepsis. Am J Respir Crit Care Med. 2017;196:856–863

参照:

PART2 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 「敗血症のスクリーニングと早期発見」について

PART3 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021  推奨内容の整理「スクリーニングと初期蘇生,感染,血行動態の45項目」

PART4  Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021       推奨内容の整理「呼吸管理,追加治療,ケアの目標と長期転帰の48項目」


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