救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ー United in the World for Us ー

HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

講座 全身性炎症におけるアンチロトンビン補充療法 

2019年09月04日 01時08分48秒 | 急性期管理技術

全身性炎症におけるアンチロトンビン補充療法 

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

教授 松田直之

 

はじめに

 

 アンチトンビンⅢ(antithrombin:ATⅢ)は,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)の治療に用いられています。この本態として,全身性炎症における血管内皮保護作用が期待されます。アンチトロンビン持続投与法などを含めて,アンチトロンビン補充療法を解説します。

 

アンチトロンビンについて

 アンチトロンビン(AT)は,セルピンスーパーファミリーに属する糖蛋白です。セリンプロテアーゼインヒビター(serine protease inhibitor)を,私たちはセルピン(serpin)と略称しています。このセルピンスーパーファミリーの中に,アンチトロンビンは分類されており,他にはヘパリンコファクターII(HCII),プロテインZ依存性プロテアーゼインヒビター(ZPI),プロテインCインヒビター(PCI),α1アンチトリプシン(α1AT),α1アンチキモトリプシン(α1ACT),C1インヒビター(C1Inh),プラスミノゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1),プラスミノゲンアクチベーターインヒビター2(PAI-2),α2プラスミンインヒビター(α2PI)などが分類されています。胎盤由来のPAI-2を除き,セルピンスーパーファミリは血漿中で血液の凝固と線溶をコントロールしています。

 アンチトロンビンは,具体的には,6種類の分子として発見されています。そのうち,凝固を抑制する抗凝固活性を持つものがATⅢです。国際血栓止血学会は,抗凝固活性の観点より,1994年にATⅢを単にアンチトロンビンと呼ぶように推奨しています。そのATⅢは,さらに蛋白の表現系としてATⅢαとATⅢβの2種類,遺伝子組み換えとして人工合成されたATⅢγを加えると3種類となります。

 

アンチトロンビン遺伝子の特徴

 ATⅢ遺伝子は,Gene ID 462として1q25.1に存在し,8つのエクソンがあります。第2あるいは第3エクソンのスキッピングなどでスプライシングアリアントも存在します。多くのATⅢは,肝臓でまず464個のアミノ酸として合成され,翻訳後修飾としてN末端の32個のアミノ残基が切断され,432個のアミノ酸として生体内に存在します。このATⅢの構造学的特徴は,分子内に3つのジスルフィド結合を持つことです。ATⅢは,6つのシステイン残基と結合できる特徴があり,4ヶ所でグリコシル化を受けます。

 ATⅢは,ヘパリン,ペパリン様分子,およびシンデカン4など血管内皮構成分子と結合する能力があり,肝臓内だけではなく,肺や腎臓などの血管内皮に接着します。しかし,このヘパラン硫酸などのヘパリン様分子とATⅢの結合を抑制する機序として,ATⅢの135残基のアスパラギンがグリコシル化されるなどが知られています。ATⅢは,蛋白への翻訳後に主にATⅢαとATⅢβの2つとして存在していますが,135残基のアスパラギンの欠失1)により,グリコシル化を受けていないATⅢβが,血液中に約10%程度で存在しています。このATⅢβは,ATⅢαと比較して,未分化ヘパリンなどの抗凝固作用が強く発現する。

 

アンチトロンビンの作用

 アンチトロンビンは,活性化プロテインCを除くほとんどすべての凝固因子,また,プラスミンやカリクレインに対して阻害作用を持ちます。特に,トロンビン(活性化第Ⅱ因子,Ⅱa),活性化第Ⅹ因子(Ⅹa),活性化第Ⅸ因子(Ⅸa)との結合親和性が高く,これらの凝固因子活性を抑制します。結果として,トロンビン量が減少し,フィブリノゲンがフィブリンに変換できなくなり,フィブリン膜の合成が低下し,血栓形成が抑制されます。ATと結合したトロンビンはブリッジング効果として,Xaはアロステリック効果として,トロンビン活性やXa活性が低下します2

 また,アンチトロンビンは,血管内皮等のヘパラン硫酸やシンデカン4と結合し,トロンビン受容体protease activated receptor(PAR)を介した炎症反応に拮抗し,血管内皮などを保護する作用があります。全身性炎症では,肝臓で産生されたアンチトロンビンの消費やサードスペースと呼ばれる血管外への漏出の亢進により,AT活性が70%未満に低下します。このような状況で,肺や腎臓や脾臓などの網内系に血小板が沈着するとともに,血管内皮細胞は独自にアポトーシスなどの細胞死を高めます。この肺や腎臓などのさまざま臓器の血管保護を目的とした補充療法として,後述する「ATⅢ持続投与法(2004年考案)」があります。

 

AT製剤の使い方

 AT製剤は,すべての製剤に共通した2つの適応があります。ATⅢγ(遺伝子組換え)静注用製剤についても,他の製剤と共通した2つの適応があります。その上で,献血ノンスロン®については,ATIII低下を伴う門脈血栓症の適応が追加されます。効能及び効果については,薬価収載として認められる内容に留意して用いることが大切です。また,適応外使用については,薬機法改定に十分に留意し,包括的対応として院内承認を未然に取ることが期待されます。

 

(1)効能・効果

 1.先天性アンチトロンビンIII欠乏に基づく血栓形成傾向

 2.アンチトロンビンIII 低下を伴う汎発性血管内凝固症候群(DIC)

 2015年における薬機法の改定より,現在,効能及び効果に基づく薬剤等の使用がより厳格化されています。効能・効果については,口頭できるようにされて下さい。適応外使用においては,院内承認を得るとともに,患者さんと御家族に十分に利点を説明され,文書を含めた厳格な説明と同意として下さい。

 

(2)診断と治療

 

  1.先天性アンチトロンビン欠乏に基づく血栓形成傾向

 先天性AT欠乏症は,常染色体優性遺伝である。AT遺伝子のヘテロ変異保有者は思春期の深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症,ホモおよび複合へテロ接合の重症型は新生児の脳梗塞や電撃性紫斑病をおこす血栓症などとして,救急・集中治療領域で対応する可能性のある病態です。診断としては,家族歴やAT活性を評価することに加えて,AT遺伝子であるSERPINC1の遺伝子異常の評価を行います。

 

  2.アンチトロンビン低下を伴う播種性血管内凝固症候群

 炎症に随伴したDICを疑う場合,急性期DIC診断基準4を診断に用います。出血傾向などの理学所見に加えて,血液生化学検査では血小板数の推移,プロトロンビン時間,FDP,D-ダイマーなどの評価とともに,AT活性目標>70%活性,トロンビン-AT複合体(thrombin-antithrombin complex:TAT)(正常:<3~4 ng/mL)などを評価とします。

 

(3)アンチトロンビン補充の具体的方法

 「アンチトロンビン低下を伴う播種性血管内凝固症候群(DIC)」では,通常1日量1,500単位(または30単位/kg),産科的・外科的DICなどで緊急処置として使用する場合は1日量40~60単位/kgを投与とします。抗凝固療法としてのアンチトロンビン補充療法はヘパリン投与下で行うとされているが,DICなどで出血合併症可能性のある場合には単独使用を考慮します。

 このような使用説明書で推奨されている投与法以外に,AT活性≧70%を目標としたATⅢ持続投与法があります。これは,2004年に工夫して独自に開発した方法ですが,AT補充療法をいきなり止めてしまうのではなく,AT活性≧70%を目標に,持続投与速度で増減し,やがて離脱していくテーパリング法です。いつ開始しても,朝6時に集中治療室などで採血され,検査されるAT活性が,前値との比較として評価できます。さまざまな臨床研究において敗血症におけるAT活性値と生命予後の関係としてAT活性値70%を目標とすると良いと考えられます5。一方,AT補充療法にペパリンを併用することについては,反対意見は多く,添付文書の改定を行う必要があります。ヘパリンを使用することにより,AT製剤の血管内皮保護作用が消失してしまう危険性も存在します。KyberSept トライアルはとても有名なAT補充療法の報告ですが,そのサブ解析6ではアンチトンビン補充療法と併用したへパリンがDIC治療のリスクとなるとされています。AT投与中にヘパリンを併用しなかった群において,AT群の90日死亡率は有意に改善しています(44.9% vs 52.5%, p=0.03)。その一方で,ヘパリンを併用することにより,出血性リスクを増加させる結果となっています(23.8% vs 13.5%, p<0.001)。

 

(4)肝機能低下例におけるアンチトロンビン補充療法

 肝機能低下例では,アンチトロンビンの産生が低下しています。このため,敗血症などの全身性炎症病態でトロンビン活性が高まる,AT活性が20%レベルなどへ際立って低下します。もともとATが減少していれば,炎症期に上昇するはずのthrombin-antithrombin complex(TAT)の産生も余り上がることなく,時系列で低下する可能性があり,肺や腎臓などにおけるトロンビン高値による血管内皮傷害や臓器傷害が致命的となる可能性があります。肝不全においても,全身性炎症の急性期には,ご本人やご家族との相談や希望聴取などのもとで,AT活性70%以上を目標に,AT製剤を持続投与することを私はお勧めしています。

 

アンチトロンビン製剤を用いる際の留意事項

 

□ ご本人およびご家族への説明

 ATⅢ製剤は,① 先天性アンチトロンビンIII欠乏に基づく血栓形成傾向,② アンチトロンビンIII低下を伴う汎発性血管内凝固症候群(DIC)に共通の適応があります。使用するメリットと医療費負担等を明確に説明し,留意事項としてアナフィラキシーなどの注意事項,ヒトパルボウイルスB19などの製剤情報を説明します。その他の使用方法などについては,患者・家族への説明と承認を得るとともに,病院内の承認下での対応とします。

□ リスク評価1:出血傾向

  口腔内,鼻腔,皮膚やカテーテル刺入部などの出血傾向に注意します。

□ リスク評価2:消化管出血

  貧血の進行を認める場合,消化管出血に注意します。その他,後腹膜出血,筋肉内出血,皮下出血に注意します。

 

文 献

1. Pol-Fachin L, Franco Becker C, Almeida Guimarães J, et al. Effects of glycosylation on heparin binding and antithrombin activation by heparin. Proteins. 2011;79:2735-45.

2. Huntington JA. Mechanisms of glycosaminoglycan activation of the serpins in hemostasis. J Thromb Haemost 2003;1:1535–49.

3. Ersdal-Badju E, Lu A, Zuo Y, et al. Identification of the antithrombin III heparin binding site. J. Biol. Chem. 1997;272:19393-400.

4. Gando S, Iba T, Eguchi Y, et al. A multicenter, prospective validation of disseminated intravascular coagulation diagnostic criteria for critically ill patients: comparing current criteria. Crit Care Med 2006;34:625-31.

5. Hayakawa M, Yamakawa K, Kudo D, et al. Optimal Antithrombin Activity Threshold for Initiating Antithrombin Supplementation in Patients With Sepsis-Induced Disseminated Intravascular Coagulation: A Multicenter Retrospective Observational Study. Clin Appl Thromb Hemost. 2018;24:874-883.

6. Kienast J, Juers M, Wiedermann CJ, et al. Treatment effects of high-dose antithrombin without concomitant heparin in patients with severe sepsis with or without disseminated intravascular coagulation. J Thromb Haemost. 2006;4:90-7.

7. Endo S, Shimazaki R; Antithrombin Gamma Study Group. An open-label, randomized, phase 3 study of the efficacy and safety of antithrombin gamma in patients with sepsis-induced disseminated intravascular coagulation syndrome. J Intensive Care. 2018;6:75.


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

手技 閉鎖式A-lineからの採血と動脈血ガス分析

2016年09月04日 00時13分46秒 | 急性期管理技術

手技解説 

適切なA-line採血 PART2 閉鎖式A−lineからの動脈血採血


名古屋大学大学院医学系研究科 
救急・集中治療医学分野

日本救急医学会 救急科指導医・専門医

日本集中治療医学会 集中治療専門医


松田直之

 

 はじめに 


 動脈圧ライン(arterial line: A-line,A line,Aライン)が確保されている状況では,医師に限らず,適時,看護師さんが動脈ガス分析を行い,さらに圧ラインを清潔に管理できるとよいです。また,A-lineが入っているのに適切に圧波形が出ていない状況は,カテーテル内での血栓形成の可能性も出てきます。A-lineは,時間あたり1.8-2 mL/時で生理的食塩水(ヘパリン添加を含む)が流れるものとして管理しています。ヘパリンを生理的食塩水に含めるかどうかは,施設基準によりますが,大切な管理は動脈圧波形がしっかりと出るように管理することです。多くの前向き臨床研究では,ヘパリン1単位/mLを含む生理的食塩水と生理的食塩水のみで還流させた場合に統計学的有意差はついていませんが,ヘパリンを含まない場合にはカテーテルの血栓性閉塞は約18%に高まる可能性があります(Del Cotillo M,et al. Intensive Care Med. 2008;34:339-43)。一方で,ヘパリンをルーティンに併用する危険性は,ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia:HIT)です。A-lineの管理では,A-lineを定期的にフラッシュをする必要はありませんが,しっかりとA-lineの圧波形が出るように管理しましょう。

姉妹編(開放式・髭つき回路からの採血) 手技 適切なA-line採血と動脈血ガス分析の実際 クリック

※ 看護師さんへのお願い:すべての手技は,親指を曲げないことから始まります。親指が立つと,指全体が曲がりやすいのです。これは,料理の手技でもそうです。指が曲がらない手技は,等速直線運動を作りやすいにです。慌ててはいけません。慌てることが災害です。親指を曲げない手技を体得されてください。

  コツとポイント 

1.サンプリングサイト(血液を採取する場所;採血ポート;ゴム式プラグやプラネクタなど)の清潔化:アルコール綿で消毒してから1分置くようにします。これは,仮に菌が付着していても減菌できるからです。静脈路確保の際と同様に,A−line確保やA-line採血においても1分間待ちます。これは,サンプリングサイトに付いている菌を減量させるためです。僕自身は,アルコール綿で拭いた後にそのアルコール綿の裏面で積み込みさらにアルコール綿が入っている袋で包み込む方法(松田考案:アル綿包み込み法/1分間法)などで,1分間以上アルコール綿で消毒する方法(ステップ2/3参照)とします。

2.アルコール綿:アルコール綿は,1袋に2枚付いています。1枚は使用前,1枚は使用後として,意識してアルコール綿を使用します(ステップ2参照)。

3.シリンジの挿入方法:垂直穿刺を原則(ステップ8参照)とします。斜めに挿入することで,血液をベッドサイドなどにこぼす可能性が高まります。写真では,サンプリングサイトに25G針で穿刺していますが,プラネクタであれば針を用いずに直接にシリンジを挿入しますので,この際は絶対に寝かせてはいけないと強調して指導しています。シリンジは,寝かせて挿入するのではなく,立てて挿入することが原則です。BD A-line採血キットなどというのもあります。この1 mLシリンジはすぐれものです。

4.空気を回路に内に入れないこと:サンプリングサイトがプラネクタ(ステップ2参照)であるときなどは,特に雑に挿入すると回路に空気が入りやすいです。

5.動脈血採取後の対応:サンプリングサイトを残る1枚のアルコール綿で拭き,サンプリングサイトから血液を拭き取り,残さないようにします。

 

 写真で見る手技ステップ 

※ アルコール耐性のセラチアや表皮ブドウ球菌,またアシネトバクターもいます。しっかりと拭いて下さい。

※ ご自由に印刷されてご使用下さい。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【注意】GO GO ハーブ 合法ハーブ 中毒

2011年06月22日 03時24分53秒 | 急性期管理技術
スパイスシルバー,スパイスゴールドスピリットなどの合法ハーブの乱用が,若年層に認められる。
安易に使用すると,薬物依存性が生じ,Gateway drugとして危険性がある。
こういうGo-Goハーブ中毒患者が,数多く救急搬入されるようになり,舌根沈下や頻脈などの致死的状態が観察されている。

このようなスパイスゴールド類,スパイスダイヤモンド類,スタッフインスパイアなどの幻覚剤ハーブ類の過量吸引は
症状出現に個人差があり,密室での殺人となる可能性もある。
実際の製造過程でどのように葉に薬液を振りかけているかが不明確であり,1本あたりのハーブ類の混入量は均質性がない。
極度の頻脈や高血圧や気道閉塞を起こす可能性があるので,十分に注意しなければならない。
さらに痛覚過敏状態により,暴力や殺人に発展する可能性がある。

これらのハーブ類は,マジックマッシュルームに類似する幻覚を伴う急性薬物中毒としても知られている。
合成ハーブの多くの主成分は,JWH-018やカンナビシクロヘキサノールなどの合成カンナビノイドであり,内因性麻薬であるカンナビノイドに構造を擬えて作られた合成化合物である。
その一部は,メチル基の修飾などにより脳内や脂肪への貯留時間が延長され,さらにカンナビノイド受容体との結合持続時間が延長され,カンナビノイド受容体作用が持続すると考えられる。
さらに,合成過程で副産物の産生比率が不明であり,また,それら生成物の血中濃度の中毒域が明らかでない。

医師は,これらの症状を知っておく必要がある。意識混濁,頻脈,知覚過敏,呼吸抑制,唾液増加,そしてTRIAGE DOAなどの尿中薬物検査キットでアンフェタミンなどの急性薬物中毒が否定された時に,合成カンナビノイド中毒を疑う。これまでも,これらを使用した死亡例が,ハーブ中毒として診断がつかずに隠れていると予測している。

※ カンナビノイド受容体
カンナビノイド受容体は,1980年代に脳内に存在することが同定されている(Proc Natl Acad Sci U S A. 1990;87:1932-6.)。現在,中枢神経系にはCB1受容体,末梢神経系にはCB2受容体が主に存在していることが確認されている。これらの受容体リガンドは1990年代に解析が進み,敗血症の分野でも10年遅れの一時期に,内因性カンナビノイドであるアナンダマイドや2-AGが話題にされた。カンナビノイドCB受容体は,グルタミン酸,GABA,アセチルコリンなどの介在ニューロンのシナプス前膜に主に存在し,これらの神経伝達物質の遊離を抑制する作用がある。記憶・学習に関与する海馬にも,CB1受容体が高密度に分布するため,カンナビノイド受容体作用によりNMDA受容体作用が遮断され,長期増強 LTP (Long Term Potentiation)が傷害される。このため,スパイスゴールド類,スパイスダイヤモンド類,スタッフインスパイアなどの大量吸入では,吸っていたという記憶が残りにくいという。また,残存する記憶障害にはアセチルコリン遊離抑制が関与するという。さらに,合成カンナビノイドは,末梢神経系のCB2受容体やバニロイドVR1受容体との結合により,疼痛緩和,皮膚感覚消失,末梢血管拡張作用を持つ。また,統合失調症などの精神疾患では,CB1受容体に対する内在性カンナビノイドの反応障害が関与するという報告もある。急性肺障害にも,カンナビノイドCB2受容体の活性化が関係することが知られている。


参考文献
Kogan NM, Mechoulam R. Cannabinoids in health and disease. Dialogues Clin Neurosci. 2007;9(4):413-30. Review.
Every-Palmer S. Synthetic cannabinoid JWH-018 and psychosis: An explorative study. Drug Alcohol Depend. 2011 Feb 10.
Mustata C, Torrens M, Pardo R, Pérez C; Psychonaut Web Mapping Group, Farré M. Spice drugs: cannabinoids as a new designer drugs. Adicciones. 2009;21(3):181-6.
Vardakou I, Pistos C, Spiliopoulou Ch. Spice drugs as a new trend: mode of action, identification and legislation. Toxicol Lett. 2010 Sep 1;197(3):157-62. Epub 2010 Jun 8. Review.

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

手技 適切なA-line採血と動脈血ガス分析の実際 2010

2010年12月29日 04時02分08秒 | 急性期管理技術

完全手技 適切なA-line採血と動脈血ガス分析の実際

接触感染予防策の徹底


名古屋大学大学院医学系研究科
救急・集中治療医学分野

日本救急医学会 指導医・専門医

日本集中治療医学会 専門医


松田直之

 

 はじめに 


 動脈圧ライン(arterial line: A-line,A line,Aライン)が確保されている状況では,医師に限らず,適時,看護師が動脈ガス分析を行い,さらに圧ラインを清潔に管理することが大切です。医師のみが動脈ガス分析をしているような施設では,虚血のモニタリングとして代謝性アシドーシスの進行を把握するタイミングが遅れたり,高血糖や低血糖の発見が遅れます。A-line採血は,適切に,注意事項を遵守することで,問題なく施行できます。この注意点は,①  アルコール手指消毒,②手袋着用,③ 三方活栓の使い方に慣れること,④ 清潔管理です。感染対策を適切に施行し,A-line採血を適切な方法として自施設のA-lineにあわせて工夫されるとよいと思います。施設の管理の質は,A-lineを見るだけでわかる特徴があるのです。是非,留意されて下さい。

 現在,A-lineは閉鎖回路を用いることができれば,安全に採血がしやすく,また,血液への汚染が少ないものとすることができます。しかし,まだすべての施設でA-lineの閉鎖回路を使用していないのが現状です。非閉鎖回路でも,日々の丁寧な管理を志すことにより,血液汚染や感染培地を予防することが大切です。研修医の皆さん,および看護師さんのために,現行の非閉鎖回路における適切なA-line採血(実践A-line採血メソッド)を記載します。ここで紹介する方法は,1996年から,研究医や他科のDRに伝授している方法です。この中で,皆ができていない一番大切なのは,図11と図12のステップです。参考として下さい。

1. A-lineの実際:接触感染予防策 三方活栓には血液を残さない清潔管理が大切(図1)

 松田「どうして,A-lineの三方活栓(三活:図1先端部)に血液が残存し,ガビガビになっているのか・・・。」バイ菌マン様の紫手袋さん「???。急いで,ガス分析器まで走るからでしょうね・・なにかエビデンスがあるのでしょうか?ちゃんとみんな理解しないといけないですね」。A-lineへの空気混入を防ぐことや採血をしやすくするために,図1のような側副路(ひげ)を付ける施設もあります。また,「ひげ」をつけずに,そのまま三方活栓から採血する施設もあります。大切なことは,いずれの場合でも,三方活栓を素手で触ったり,三方活栓に血液が残った状態でキャップをするのを止めることです。ここには,ブドウ球菌属やカンジダ属,そして大腸菌や腸球菌属などが一般的に検出されやすいですし,海外ではアシネトバクター,またセラチアが検出されることもあります。血液を三方活栓に残さないことや,ベッドサイドに血液をこぼしてしまわないことなどの予防策として,現在は,吸引シリンジが回路にあらかじめ備え付けられている「閉鎖式A-line」が普及しはじめています。


2. 三方活栓の清潔管理が大切(図2)

 三方活栓に血液を残す医師がいれば,注意して下さい。不適切です。また,患者さんが手首を曲げるなどの理由として,動脈圧波形が出ない状態で奉仕しておくことも不適切です。その領域に血栓傾向を促進する危険性,A-lineの入れ替えのインシデントに繋がる可能性があります。正しく,持続モニタリングするためのものですし,電子記録に不適切な血圧の連続記録を残すことは不適切です。その上で,三方活栓は,細菌の培地とならないように,絶えず清潔に保つように工夫してください。

3. 吸引用注射器の設置法(図3) 

シリンジは立てて接続し,立てて,ゆっくりと吸引するのが原則です。立てることで重たい血球成分が下に沈下します。これが大切であり,コツとポイントです。A-line採血の際にシリンジを横につけて陰圧をかけるのは間違いです。これは,たくさん血液を引いても,混入しているヘパリンが,引いたシリンジや三方活栓の接続部上方に残存しやすいからです。

4. 回路内液の吸引はシリンジを立てて施行(図4)

 回路内吸引のコツとポイントは,1)注射筒を立てて引く,2)ゆっくり引くこと,この2つです。この目的は,回路内の非血液(回路内ヘパリン加え生理的食塩水,あるいは単身の生理的食塩水)の十分かつ適切量の吸引です。注射筒を立てると下に血液の沈殿が生じてきます。この沈殿が最低でも1 mLできるまで吸引します。僕のデータでは,丁寧にゆっくり引くと,下方血液部 1 mLで適切な血液ガス分析ができます。ゆっくり引くと,この1 mL吸引の観察ができます。陰圧をかけて早く引くと,ヘパリン加生食と血液がごちゃごちゃです。ヘパリンが接続部に残存する可能性が出てきます。

5. 動脈血の吸引は0.4 mL以下でよい(図5)

 動脈血用の採血筒に切り替えて,約0.4 mLを採血します。もちろん,慣れてくれば,しっかり引いて,実採血は空気を入れずに0.4 mLにチャレンジできると良いです。この縦長の1 mLシリンジを用いる際には,0.4 mLあれば十分です。横幅のあるシリンジの場合は,血液ガス分析器が斜め横スタイルで血液を自動吸引することから,0.4 mLであると空気が混入してしまう場合があり,僕は0.5 mLとしています。実際に血液ガス分析器が使用する血液量は,0.3 mL以下です。少なくとも1 mL などの大量な血液は,現在の血液ガス分析に不要です。ご自身の施設で使用している血液ガス分析機の必要最少量の血液量を把握しておきましょう。


6. クロスロック:採血完了(図6)

 注射筒や採血筒を外すときは,図6のようなクロスロックでもよいです。

 シリンジを立てて,空気混入のないように,回路内液をゆっくり返却します。注意点は,1)空気を混入させないこと,2)シリンジ内や回路内に血栓傾向のないことの確認,3)三方活栓部に汚染を起こさないこと,4)周囲に血液をこぼさないことの確認と実践です。

8. 圧トランスデューサで生食フラッシュ(図8)

 圧トランスデューサ下方のノブ(白矢印)を押したり引いたりすることにより,回路内に(ヘパリン加)生理食塩水が急速流入します。「親の敵」のように生食をフラッシュするひとがいますが,丁寧に,優しくフラッシュして下さい。手先や指先は非常に重要であり,指先は流れるように連続性を保つように,加速度を抑えることができるように鍛えることが大切です。ガス分析などに用いる採血シリンジの中には,抗凝固剤が含まれています。慌てて圧トランスデューサのノブを引っ張ったり,走ってガス分析器に向かう必要はありません。

9. 吸引用注射筒の再充満による三活洗浄(図9)

 圧トランスデューサ下方のノブを押したり引いたりして,注射筒を再充満させます。北斗の拳のように100連攻撃的にフラッシュする先生がいますが,適度にフラッシュしましょう。そして,この廃液シリンジは,汚染物用ボックスに廃棄します。



10. 吸引用注射筒を外した時点での三活管理「さよならガビガビ君」(図10)

 血液が残存しています。これを放置しないことが大切です。連続テレビ小説「市原悦子さん」は,家政婦さんのカリスマですが,こっそりとベッドサイドから見ていると,血液が中途半端に残っているのに三方活栓に堂々とふたをしようとする場合がいます。これが,あとで,三方活栓に潜む「ガビガビ君」になります。また,手袋をしない手で触っていたりします。これは持続血液浄化法においても,回路の付替えにおける基本阻止事項です。集中治療室には,時折,「家政婦的カリスマ」がいます。その場で,適切に指導してあげましょう。

11. もっときれいに三活管理(図11)

 図11は,僕の考案したお薦めの方法です。圧トランスデューサ下方のノブを,丁寧に押したり引いたりして,アルコール綿パック内に三方活栓を沈めた状態で血液残量を落とし,さらに少し浮かせた状態で付着アルコールをアルコール綿パック内へ流し落とします(ポットン法)。「ポットン法」は,アルコール綿の中に三方活栓のシリンジ接合部をポットンと沈下させて約2 mLの回路内液で洗浄する方法で,3方活栓が綺麗になります。それを捨てて,もう一度,フラッシュしてもらいながら,最終的に三方活栓に付着したアルコールを除去します。最終的にアルコールが三方活栓に残存しないようによく流します。注射針付きシリンジで三活の残存血液を吸引する先生もいますが,針刺し事故の可能性があるので,お勧めしません。

12. きれいな三法活栓の維持(図12)

 上述した11の方法などの工夫により,きれいな三法活栓を維持しましょう。

13. 回路内残存血液の最終フラッシュ(図13)

 圧トランスデューサ下方のノブを押したり引いたりして,回路内残存血液を最終フラッシュします。

14. A-line採血後のA-line内の状態(図14)

15. 血液ガス分析に必要な血液量は0.3 mLレベル以下(図15)

 現在,血液ガス分析に使用する実際の血液0.3 mL以下です。以下の細1mLシリンジであれば0.4 mLで,適切な動脈血ガス分析ができるようになりました。1日10回動脈血ガス分析をしても,4 mL程度の採血です。自施設での,最低血液必要量を評価できるようにしましょう。

16. 血液と手袋の廃棄(図16)

 実際に必要とした血液量は0.2 mLレベルです。血液ガス分析後は,必ず責任を持って,採血シリンジ,着用手袋などの廃棄物を,汚染物として白ボックスに廃棄しましょう。使用した手袋もすぐに廃棄ボックスへ破棄しましょう。

17. 動脈血ガス分析の評価(図17)

 血液ガス分析の評価は,皆さんできるようになりましょう。

ポイント:① 酸素化の評価(PaO2/FIO2),② 代謝性アシドーシスと代謝性アルカローシスの評価(Base Excessと乳酸値の変化),③ 呼吸性アルカローシスと呼吸性アシドーシスの評価(PaCO2),④ アシデミアかアルカレミアかノーマルか,⑤ 血清乳酸値,⑥ 血糖値,⑦ 電解質。



結果は,DR, NS,MEさん,リハビリテーションの皆さんなどで,皆で共有することが大切です。
管理の注意点は,たくさん見つかることでしょう。

協力:山本尚範 先生(手)(名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野)

撮影・執筆:松田直之(名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野)

※ 本内容は,プリントしたりコピーして使用していただいて構いません(松田直之)。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

急性期管理 ショック管理 ろくろMATSUDA法 A−line波形の読み方の応用

2010年01月04日 02時19分30秒 | 急性期管理技術

パルス波形・A-line波形のショック管理への応用

京都大学医学系研究科

初期診療・救急医学分野

松田直之

 

 

 パルスオキシメータやA-lineの圧波形において,① 波形の呼吸性変動(循環血液量),② Percussion waveの立ち上がり角(dp/dt:心収縮性),③ 第1波形下面積(stroke volume:1回心拍出量),④ 第1波形下面積の呼吸性変動(循環血液量)⑤ Dicrotic wave(体血管抵抗),⑥ 脈圧(波形高)を連続して観察するとよいです。これを,ろくろMATSUDA法(パルス6苦労作戦:くるくるとろくろを回るように,治療の時系列で,パルス波形を監視し続けること),時折振り返る(だるまさんがころんだ法)などと命名しています。この方法を私が独自に論理化して,意識しはじめたのは,1994年の砂川市立病院時代であり,1990年代後半以来,教育や管理に用いて来ました。

 心タンポナーデや緊張性気胸は,呼吸による脈圧変動として「奇脈(pulsus paradoxus)」が認められる代表病態です。吸気時に脈圧(収縮期圧―拡張期圧)が10 mmHg以上低下する病態が「奇脈」ですが,循環血液量低下でも,A-line波形に奇脈や強い収縮期血圧の呼吸性変動が観察されます。心収縮性低下では,dp/dtが低下します。さらに,大動脈弁狭窄症のような1回拍出量の低下した病態では,第1波形下面積が輸液に反応せずに小さい状態が続きます。波形下面積は,1回心拍出量に比例して大きくなります。そして,交感神経緊張と体血管抵抗の評価としては,dicrotic waveを観察します。Dicrotic waveが存在すれば体血管抵抗は高く,dicrotic waveが存在しなければ体血管抵抗は低い。このように,A-lineの波形観察では,呼吸性変動の程度,dp/dtの変化,波形下面積,dicrotic wave に着眼するとよいです。それ以外の細かな観察は,緊急時には不要です。


 このような波形管理は,アナフィラキシー,敗血症,神経原性ショックなどの血流分布異常性ショックの評価に有効です。血管拡張により体血管抵抗が減じた際には,dicrotic waveが消失し,呼吸性変動が強まり,dp/dtが低下し,波形下面積が減少します。ノルエピネフリンなどのアドレナリン作動性α1受容体作動薬,またはバゾプレシンなどの血管収縮薬を使用する際にはdicrotic waveを観察し,dicrotic waveが生じれば体血管抵抗が上昇したと評価します。また,輸液によるショック治療の反応性評価として,輸血や急速輸液の際には波形の呼吸性変動とdp/dtの改善を観察することを,ダイナミックモニタリングとして重視して教育しています。心機能が悪い場合や血管拡張が極めて強い場合には,輸液によるdp/dtの上昇が得られにくく,心原性ショックなどの要因をエコーで評価することになります。心エコーについての教育システムも整えます。

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

研修医・看護師さん・救急救命士さん パワーアップ 末梢静脈路 Vライン

2009年10月25日 03時08分21秒 | 急性期管理技術

  末梢静脈留置針を使いこなす V-line エイト・ポイント  


京都大学大学院医学研究科初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之

 はじめに 

 医療従事者は,末梢静脈路(Vライン,V-line)を確実に確保できる適切な方法を学ぶ必要があります。さまざまな状況において末梢静脈路確保の裏技はいくつもありますが,まずは基本が何かを皆さんに説明できるように,自己評価,自己トレーニングしてください。そして,その次には,いろいろな状況における技術を,イメージのなかで高めていくとよいでしょう。そして,すべての手技は,親指を曲げないことから始まります。親指が立つと,指全体が曲がりやすいのです。指が立つことは,ばらつきや乱雑を生みます。親指を曲げない,完全な等速直線運動の手技を体得されてください。加速度をつけると,痛みが残る可能性があります。点滴において,痛みや炎症を最小限とするためには,痛点をさけ,そして等速直線運動での留置針挿入を意識してください。

 さて,末梢静脈路留置の基本技術を,以下にスライドで示しました。絶えず,留置針の針先と自身の指先が同一の感覚となるように意識して,実際の穿刺を行うことが大切です。皮下に留置針が到達するまでは針先を見つめていますが,針先が皮下に到達した後には,既に方向が定まっていますから,血液の逆流が来ることを信じて,目線は血液の逆流のみの観察とし,丁寧に針先を進めて行きます。静脈路確保,スピード,急ぐことがすべてではありません。できるようになってから,必要に応じてスピードを高めていくので良いでしょう。

 カテーテルの持ち方として,極めて多くの研修医や看護師の皆さんは,血液逆流確認部位を指で覆ってしまっています。持ち方を,誤って教えている指導者もいます。また,静脈路確保は痛いという先入観を強く持った看護師さんも多いです。22G留置針なのに,「痛いですよ~」という掛け声をかける。痛くないように穿刺に工夫することが大切なのです。

 また,ぺんぺんぺんぺん,腕をたたいている看護師さんもいます。虐待です。叩いて手を充血させるのは不適切なのです。腕を心臓の高さより落として,もちろん肩関節脱臼などを起こさないように工夫して,穿刺腕に血液を貯留させて,駆血します。「ぺんぺんぺんぺん」と手を叩いたほうが,穿刺より痛いです。松田式「温点歩かせ法」を見た研修医の先生もいると思います。これは,私が独自に発見した方法ですが,大切なことは「痛点を穿刺しないこと」です。1994年,医師2年目の砂川市立病院時代に確立した手法です。個人差や刺入部位による差はありますが,温点を穿刺し,カテーテルを皮下に留置することで22G留置針レベルであれば,痛みを最小限として留置するができます。また,血管内にプラスティック針が入る際の感触を必ず,指先で感じ取れるようにしましょう。人差し指の母子側の知覚力を磨きます。

 金属針の先端が少しだけ曲がっていて,静脈の後壁への先あたりを防ぐようになっているカテーテルが出てきていますが,これは,側方支持法で10度レベルにまでやや角度をつけることができ,まず,血液逆流を確認することを目標とした静脈路カテーテルです。通常用いている留置針の先端の形状も説明できるようにし,各施設での最良の静脈路確保法をマニュアルとして整備する必要があります。以下のスライドを参考にして,技術習得の参考とされてください。

 松田式 末梢静脈路確保プロトコール 

1.カテーテル:使用する自施設静脈路カテーテルの特徴を調べて,同僚に伝えられるようにしましょう。このブログでは,ブラウン社製の留置針で解説しています。参考として下さい。

2. 感染防御:手指消毒・手袋,感染防御に徹して下さい。

3. 刺入部位:1st choiceは分岐部をねらう。血管が逃げません。

4. 消毒:アルコール消毒は刺入部とその手前を広く含む。カテーテル接続部の動線を丁寧に消毒することが大切です。カテーテル感染,菌血症の可能性を阻止しましょう。

5. 刺入点の選択:温点の多い部位を選び,温点を確認し,温点に刺入する。痛いという迷信を捨てて下さい。その脇で,「いたいですよ~~」と声をかけている看護師さんがいますが,痛みを誘発することは間違いであると考えています。「穿刺します」というように私はしています。患者さんへの静脈路留置は,痛くないように刺入点を選ぶ必要があります。温点の確認は,カテーテル先端の金属心を皮膚に比較的平衡に押し当てるようにして圧迫して確認しています。痛いと感じるならば,その周辺に1-2 mmずらしたところに温点を探すことができます。痛いと感じる痛点付近を,絶対に刺入しないようにします。この,痛点が多い場所は,確かに前腕橈側部ですので,緊急時の前腕橈側部の静脈穿刺には注意が必要かもしれません。

6. カテーテル挿入:カテーテルの特徴をつかむことが大切です。その上で,針先と指先が同一の感覚となるように意識します。針先が指先が同一感覚を保てているかどうかを意識します。

7. 姿勢:刺入時は脇を閉めます。私の薦めるカテーテルの持ち方は,比較的遠方を持つ方法です。この方法では,金属針先端のブレが生じやすいです。このため,脇をシメることで刺入方向の安定性を高めます。接続部付近を持つ先生がいますが,接続部にグローブが触れることは望ましくありません(不潔になるかもしれません)。接属部には,手が触れないことが,末梢静脈路挿入で心がける基本です。

8.刺入時最大のコツ:一滴の血液逆流を見逃さないことです。これは,小児の静脈路留置でも,とても大切な事項となります。皮下に金属部が刺入された後は,目線は血液の逆流部の確認のみに集中されます。針が刺さった状態で,皮膚の刺入部を見ているようではダメです。皮下までカテーテルが入った後の,私たちの目線は,カテーテル内の血流部分として下さい。

原則:① 血液汚染の阻止:接続時に血液をこぼさない,② カテーテル接続部に指で触れない

 留置に困ったとき 

1.血管が見えない

 腕を下げた状態で血管が見えてくるかを確認します。血管が見えてくるような状態で,駆血します。それでもだめなときは,暖かいタオルなどを握って頂いた状態で,手を下げた状態で,駆血します。通常,上半身を起こして頂き手を下げた状態では手掌に血管が見えてくるものです。

2.肥満

 最大の難関です。駆血は腕を下げた状態で行い,血管が見えればよいですが,見えないときには人差し指を用いた触診で血管の走行を探ります。エコーを用いることもありますが,盲目的に穿刺するときも,皮下に留置針が到達するまでは針先を見つめ,針先が皮下に到達した後には,血液の逆流が来ることを信じて,目線は血液の逆流のみの観察として留置針を慎重に進めることが大切です。また,光で透過させる「血管可視化装置」については,各施設で有効な利用方法をマニュアルとしていくと良いでしょう。

3.小児の静脈路確保

 動いてしまうと,どうしても留意の失敗率が高まるため,ご両親などに十分な説明をさせていただき,① 巻ネット,② 巻タオルなどを使用するのが一般的だと思います。「点滴音頭」などの開発により,歌いながら静脈を留置させて頂くとか,これまでの「痛い」とか「縛られる」という恐怖感を和らげる工夫を提案しています。そして,医療従事者自身が,「痛いですよ」という「先入感」や「失敗するかもしれない」という「恐怖感」を和らげる工夫が必要です。痛くないように,暖かく,成功するように留置する成功が大切です。困難な場合は,① 極度の脱水,② 肥満となります。

















末梢静脈路確保は,とても重要な基本手技です。
この技術には,いろいろな応用技法がありますが,技術を崩す前にまず,基本技法を確認しましょう。

 大切なこと 
1.感染防御策,2.疼痛対策 3.手法のイメージ化
現在は医療が標準化されています。安全管理の標準化に注意する一方で,より高い技術として,指の知覚や姿勢,そしてセンスを意識します。


友情出演 山畑佳篤先生(京都府立医科大学)

(注)記事修正 2018年5月14日 研修の先生に指導する過程で,部分修正しています。

(注)記事修正 2019年9月13日 要望があり,フォントサイズを大きくしています。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

救急 集中治療 カプノグラム/カプノグラフィの有効利用

2006年03月01日 05時13分29秒 | 急性期管理技術

  カプノグラム/カプノグラフィの有効利用 

京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之


 要 点 
・ メインストリーム方式のカプノメータの長所と短所
・ サイドストリーム方式のカプノメータの長所と短所
・ カプノグラフィを構成する4つの相の生理学的解釈
・ カプノグラフィから読み取ること

 概 説 
 カプノグラフィ(カプノグラム)は麻酔における呼吸管理の必須のモニタであり,呼気ガスの二酸化炭素分圧(end-tidal partial pressure of CO2: PETCO2)を知るばかりではなく,呼吸の有無や呼吸状態を知ることができる。カプノグラフィの利用は気管挿管された患者における調節呼吸管理に限られるものではなく,ラリンジャルマスクでの自発呼吸管理,マスクや鼻カヌラを用いた呼吸管理においても利用できる。


① カプノメータの測定方式

カプノメータのCO2測定方式は2種類ある

 カプノメータによるPETCO2の測定方式は,メインストリーム方式とサイドストリーム方式の2種類がある。メインストリーム方式は呼吸回路内に組み込まれる方式であり気管挿管やラリンジャルマスクでの気道確保が行われている際に使用できる。一方,サイドストリーム方式は必ずしも気道確保を必要とせず,マスクや鼻カヌラでの酸素投与であっても,内腔1.5mm程のサンプリングチューブを介して呼気ガスを採取し,PETCO2を測定できる。

【メインストリーム方式で気を付けること】

 メインストリーム方式の回路接続を図1に示した。呼気ガスサンプリングでは計測センサーに重量があるため,気道確保された気管チューブやラリンジャルマスクと麻酔回路の間で荷重がかかる。蛇管固定具で蛇管をしっかりと固定しなければ,チューブが抜ける可能性がある。ラリンジャルマスクでの気道確保においても,その位置のずれに気をつける必要があり,メインストリーム方式の計測センサーの荷重とテンションに気をつけなければならない。そして,測定チャンバーの装着によりこの部分が死腔となる。

☆ メインストリーム方式の2大利点
・ PETCO2の測定が速やかであること
・ 呼気ガスを吸引する必要がないため低流量麻酔に適していること

☆ メインストリーム方式の4大欠点
・ センサーが熱を持ち熱傷の危険があること
・ 荷重が回路にかかること
・ 死腔が増加すること
・ 気道確保を必要とすること

⇒ ラリンジアルマスクは胸元に固定するのが良い
⇒ メーンストリーム方式では熱傷防止に留意する
⇒ メインストリーム方式ではセンサーの加重に気をつける。

【サイドストリーム方式で気を付けること】

 サイドストリーム方式では,人工鼻やサンプリング用アダプターからサンプリングチューブを介して呼気ガスを吸引してPETCO2を計測する(図2参照)。サンプリングする位置が患者側より離れるほど,PETCO2が低く算出されるため,通常は気管チューブと接続した人工鼻よりサンプリングする。呼気ガスのサンプリングには約50~500 mL/minを必要とし,場合によっては約2L/minまで必要とするため,新鮮ガス流量の少ない低流量麻酔には適さない。また,サンプリングチューブの材質や長さに留意する必要があり,長いほどPETCO2が低くなりやすい。サンプリングチューブの材質はナイロン製のものが望ましく,ポリエチレンやテフロン製のものはCO2透過性が高いため,PETCO2が低く出やすい。サイドストリーム方式ではサンプリングチューブからCO2が拡散する可能性に留意し,呼気には水蒸気が含まれるため水滴がサンプリングチューブを閉塞しないように気を付ける必要がある。計測器内へ蒸気や水滴が混入しないようにするためにwater trapが付けられているが,回路組立にあたっては,患者側に人工鼻をつけるとよい(図3参照)。人工鼻に側孔のついたものを利用することにより,サンプリングアダプタを使用する必要がなくなるため,死腔を減少できる。

☆ サイドストリーム方式の2大利点
・ ガス吸引部に荷重が加わらないこと。
・ 気道確保を必要としないためすべての患者に使用できること。

☆ サイドストリーム方式の4大欠点
・ CO2のサンプリングチューブなどからの拡散によりPETCO2が低く出やすい。
・ 水摘によるサンプリングチューブの閉塞の可能性がある。
・ 呼出開始より測定の応答時間が若干遅れる。
・ 低流量麻酔に適さない。

⇒ 業者の指定するサンプリングチューブを使用する。
⇒ 低流量麻酔では使用しない。

➁ サイドストリーム方式の有効利用
 脊椎麻酔や硬膜外麻酔で鎮痛を施し,プロフォフォールやミダゾラムで鎮静を行うような場合,呼吸の確認にサイドストリーム方式のカプノメータを利用するとよい。鼻前庭に装着する専用のものが市販されているが,これがない場合は内径14 Frの吸引チューブを先端より3 cm切断しサンプリングチューブの先端に接続して,テープで鼻に測定する(図5参照)。PETCO2は低く示される傾向があるが,呼吸様式を観察することができるため,呼吸抑制や無呼吸の評価に役立つ。


③ カプノグラフィの4相の生理学的意味

カプノグラフィ波型は横軸が時間経過,縦軸がPCO2を示し,4相から成り立つ(図6参照)。カプノグラフィ波型は吸気と呼気の流量波型とあわせて考えると理解しやすい。
1) 第Ⅰ相:吸気終末からまさに呼期が開始されようとした時期に形成され,チューブやマスクなどの死腔のガス排泄で形成される相であり,PCO2の上昇が生じない。
2) 第Ⅱ相:末梢気道より呼気ガスが排泄されることで,その呼気流量にしたがってPCO2の上昇が形成される。第Ⅱ相から第Ⅲ相への変化は呼気流量の急激な増加によって形成されるものであり,この流量の大半は気道レベルおよび気管チューブやマスク内のガス排泄により生じる。
3) 第Ⅲ相:alveolar plateauと呼ばれており,肺胞気が回路内に排泄され始める時期であり,気道内ガスとゆっくりと交じり合うことでPCO2がなだらかに上昇し,最終点がPETCO2となる。
4) 第Ⅳ相:吸気開始によりPCO2が低下するのが第4相である。

⇒ 第Ⅰ相は死腔ガス排泄,第II相は末梢気管支レベルの呼出,第Ⅲ相は肺胞レベルの呼出,第Ⅳ相は吸気相と覚えよう!


④ カプノグラフの波型解析
 カプノグラフィの波形を十分に理解することにより,呼吸状態の変化の理解に役立てるとよい。

1)2相の遅れと3相の傾きの急峻化(図7)
 呼気延長の所見である。肺気腫など閉塞性肺疾患や喘息の呼気延長所見として,出現する。

2)第3相の2峰性化・多峰性化(図8)
ボリュームコントロールやプレッシャーコントロールによる人工呼吸の最中で第3相の2峰性化や多峰性化が認められた場合,自発呼吸が出現してきたか,術野での横隔膜圧迫を考える。自発呼吸下での管理では喀痰量の増加により,このような波形を呈することがある。

3)第3相終末の上昇化(図9)
 第3相のPCO2の低下と,終末上昇化(tails-up pattern)は,サンプリングチューブの損傷とリークで生じる。調節呼吸時には回路内よりサンプリングチューブを介して一定量のガスを採取するため,その陰圧によりサンプリングチューブ外の空気が混入し,第3相が低下する。自発呼吸下ではこのようなパターンは見られにくい。

4)第2層の低下と第3相の短縮(図10)
 第3相の短縮は十分に肺胞気が排出されていないことを示す。すなわち,浅呼吸により有効な換気がなされていないことに注意する。ラリンジアルマスクを挿入し,プロポフォールの持続投与やでミダゾラムなどのマイナートランキライザーで鎮静を行う場合,このような波形が呼吸抑制の特徴となる。これを有効な換気とするためには,一定の気道内圧を目標に用手的にプレッシャーサポートを行うことが必要であり,肺胞レベルを十分に拡張させる必要がある。
⇒ プロポフォールは浅呼吸となるため,用手的pressure supportで対応する。

5)第3相の延長(図11)
 第3相の延長はフェンタニールなどの麻薬による吸気ドライブの抑制で生じやすく,呼吸数低下の所見である。呼吸数を増やすよう用手的にsynchronized intermittent mandatory ventilation(SIMV:同期的間欠的強制換気)を行うことが必要である。
⇒ フェンタニールは呼吸数を減らすので,用手的SIMVで対応する。

6) 第3相初期のノッチ(図12)
第3相初期に形成されるinitial notchは片肺のみの挫傷が強い場合や,片肺の気管支内分泌が多い場合や,肺移植後などで観察され,左右の肺コンプライアンスに差が生じていることを意味する。コンプライアンスの低い肺からの呼出が遷延するために第3相後半の傾きが急峻化する。

********************************************************************
コラム ラリンジアルマスクとカプノメータの固定

********************************************************************

 ラリンジアルマスクで気道確保され,サイドストリーム方式でカプノグラムをモニタリングする場合の固定例を図13に示した。ラリンジャルマスクは,そのチューブの形状から胸元方向にチューブ遠位端をもってくるように固定するのが望ましい。頭部方向にラリンジャルマスクがS字を描くように固定しているケースをよく見かけるが,マスクの位置がずれやすい。ラリンジャルマスクを胸方向に正しく固定している場合は,メインストリーム方式の計測センサーであれば胸に乗るように設置されることになるため,計測センサーの発する熱に留意し,乾ガーゼなどを下に敷くことで熱傷を起こさぬよう気をつけなければならない。メインストリーム方式では加重によるラリンジャルマスクの位置のずれと熱傷の危険あるため,サイドストリーム方式のほうが望ましい。



図の表題と説明


図1 メインストリーム方式の回路接続


図2 サイドストリーム方式の回路接続


図3 人工鼻を用いたサイドストリーム方式
 写真は気管挿管された患者における気管チューブ,コネクタ,人工鼻,サンプリングチューブの接続例である。人工鼻にサンプリングチューブを接続することで,水蒸気や水滴のサンプリングチューブへの流入を減少できる。


図4 吸引チューブを用いた経鼻式サンプリングチューブの作成


図6 カプノグラフィは4つの相で構成される


図7 閉塞性換気障害パターン


図8 自発呼吸出現パターン


図9 サンプリングチューブの破損パターン


図10 マイナートランキライザーパターン
マイナートランキライザは,1回換気量を低下させ,呼吸数を早める。さらに,血中濃度が高まると,換気量低下と呼吸が消える傾向を示す。


図11 麻薬による呼吸抑制パターン
フェンタニルは呼吸数を減らします。


図12 片肺挫傷パターン


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

救急 集中治療 分離肺換気のテクニック 

2006年03月01日 04時56分29秒 | 急性期管理技術

分離肺換気のテクニック


京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之


要 点
・ 分離肺換気の4つの方法
・ ダブルルーメンチューブの選択と挿入法
・ ユニベントチューブの選択と挿入法
・ bronchial blockerを利用した小児の分離肺換気

概 説
 肺切除術や食道全摘術などの麻酔管理では,分離肺換気とし片肺を虚脱させる技術が必要である。この分離肺換気の手法は,1)タブルルーメンチューブを利用した方法,2)ユニベントチューブを利用した方法,3)Fogartyカテーテルなどのbronchial blockerを利用した方法,4)ノーマルチューブの片肺挿入の4つの手法に大別される。予定手術においては,その手術内容の確認に加えて,胸部単純X線像やCT像で十分な画像評価を加え,分離肺換気の技法を吟味するとよい。


分離肺換気のための基礎知識

☆ 右上幹の位置に注意 
左上葉気管支へ移行する左上幹は気管分岐部から3~5 cmに位置するのに対して,右上葉気管支へ移行する右上幹は気管分岐部から1~2 cmである(図1参照)。このため,右主気管支挿入用ダブルルーメンチューブでは右上葉の換気が損なわれることが多い。

<気管か右主気管支か左主気管支か>
 分離肺換気を確実に行うためには,挿入されたチューブの先端やブロッカーの位置を気管支鏡で確認することが必要である。このため,気管,右主気管支と左主気管支を気管支鏡で判別できることが要求される。気管は前方と側方が気管軟骨に囲まれており,後壁は平滑筋で形成されるため縦走するヒダとして観察される。このように見える気管分岐部(Carina)の形状を理解しておくことが大切である(図2参照)。

分離肺換気のための準備
□  分離肺換気のための計画と打ち合わせ
□ 胸部単純X線像と胸部CT像
□ 分離肺換気用チューブあるいはブロッキングバルーンカテーテル
□ クランプ鉗子(鉤なし)(ダブルルーメンチューブ挿入の場合)
□ チューブ接続用専用コネクター(ダブルルーメンチューブ挿入の場合)
□ 気管支鏡と観察用専用コネクター。
□ 潤滑油,医療用ゼリー(気管チューブカフなどへ使用できるもの)(リドカインゼリー)
□ 喀痰吸引システム。
□ チューブ固定専用テープと蛇管立て。
□ 乾ガーゼ。
□ 麻酔導入と十分な麻酔モニタリング(SpO2とカプノグラフィを含む)

【A】ダブルルーメンチューブの選択と挿入
 ダブルルーメンチューブは一般に左主気管支挿入用チューブを選択する。適切な位置に固定する技術が必要である。ダブルルーメンチューブとして,よく選択されるマリンクロット社の商品は,2006年の段階で第3世代となっており,1990年レベルの第1世代,1995年レベルの第2世代とは異なる。このために,適切な片肺チューブ固定位置が変化していることに注意する。

ダブルルーメンチューブの選択について

1)第1選択は左主気管支挿入用チューブ
左主気管支挿入用チューブを第1選択とするのがよい。左主気管支のスリーブ切除などで左気管チューブが術野の邪魔となる場合に右主気管支挿入用チューブを用いることがあるが稀である。

2)右主気管支挿入用チューブを用いる場合の注意
右主気管支挿入用チューブを用いる場合,気管分岐部からどれぐらいの距離で右上葉気管支が分岐するかを胸部単純X線像と胸部CT像で確認するとよい。この距離が1 cm以上なければ,右主気管支挿入用チューブの適切な留置が期待できない。

3) チューブサイズ
ダブルルーメンチューブは外径が41 Fr,39 Fr,37 Fr,35 Fr,32 Fr,28 Fr,26 Frの7種類があり,28 Frと26 Frは左主気管支挿入用のみで右用がない。成人男性には一般に39~37 Fr,成人女性には37~32 Frを選択し,太いサイズとすることで換気や気管支鏡検査が行いやすい。12~15歳レベルの小児には32 Fr,10~12歳は28 Fr,8-10歳は26 Frを目安としダブルルーメンチューブを選択するが,25 kg以下の10歳以下の小児や乳児に対してはユニベントチューブ®やブロッカーを用いた分離肺換気を考慮するとよい。

左主気管支挿入用ダブルルーメンチューブの挿入
常にパルスオキシメータの音を聞きながら処置を行う。

1)チューブ先端は挿入気管支方向に曲がっている
ダブルルーメンチューブの先端は挿入気管支方向に曲がっているため,チューブ先端が声門部を通過した際には,左主気管支挿入用チューブであれば,反時計回りに90度回転させてから気管内にチューブを進める(図3参照)。

2)スタイレット抜去に対する注意
スタイレットはチューブ先端が声門部に位置した際に介助者に抜去してもらう。気管挿管者はtracheal cuff(白カフ)が声門を通過するまで声門に外力が加わらないように観察を続けることが大切であり,目をそらしてはいけない。スタイレットを抜去してもらう際に外力が加わらないようにするためには,スタイレットに専用の潤滑剤やリドカインゼリーを塗布し,摩擦力が軽減されていることをあらかじめ確認しておく。
⇒ スタイレットを挿入したままチューブを気管内に進めれば,声門損傷,披裂軟骨脱臼,気管裂傷などを起こす可能性がある。

3)チューブの固定
チューブの最終固定は気管支鏡下に行う。しかし,側臥位で行う肺切除術の場合,正確にチューブ固定しても,その位置がずれてしまうことが多い。左右すべての肺野の呼吸音が正常に聴診できれば,チューブの簡易固定を行い,側臥位変換を行ってから正確な固定を施すほうが手術開始までの時間を十分に短縮できる。しかし,上葉の呼吸音が弱い場合は,気管支鏡でチューブ先端が主気管支の左右どちらかに深く陥入している可能性があり,チューブの適切な位置を気管支鏡で必ず評価する。気道内分泌物がある場合は放置せずに,十分に吸引する。気管挿管後はエアリークの無いようにtracheal lumenの白カフを適切に膨らませるが,bronchial lumenの先端カフ(青カフ)は分離肺換気を行うまでは脱気しておく。
⇒ チューブ先端の青カフは脱気しておく。
⇒ 肺野の聴診を重視する。
⇒ 気管挿管後はカプノグラフィで呼気波型を評価する。
⇒ 体位が固定されないまでは,酸素濃度を上げておく。

左主気管支挿入用ダブルルーメンチューブの最終固定
 チューブの最終固定は気管支鏡を用いて純酸素下で直視下に行う。口腔内分泌物を吸引した後に,2つのカフが脱気されていることを確認し操作にあたる。

1)Tracheal lumenの先端孔(白ライン)からの観察
チューブ固定のための気管支鏡操作は白ラインからの観察が基本である。チューブ先端が気管内にある場合,通常はそのまま進行させれば先端が左主気管支に陥入する(図4A参照)。気管分岐部が観察されず,気管壁に気管支鏡が接した状態で気管内がよく観察できない場合は,チューブ挿入が深すぎる場合であり,1.5 cmずつチューブを引き戻し(図4B参照),tracheal lumenを適切な位置に設置した時点で止める。先端部の青カフを1~2 mLで膨らまし,気管分岐部に青カフが見え隠れするぐらいの位置でチューブを固定することが,第2世代までのマリンクロット社チューブで推奨されていた(図5参照)。しかし,現在の第3世代マリンクロット社ダブルルーメンチューブは,青カフが見えなくなるまで挿入するのが良い。気管支側ルーメンから見て,分岐部が約1.5 cmレベルで見える位置が,おおよその適正な固定位置である。第3世代マリンクロット社ダブルルーメンチューブでは,青カフ後端と気管支ルーメン間の距離が短縮していることに注意する。初めて使用する初心者は,不潔にならないように注意が必要であるが,ダブルルーメンチューブの先端,青カフ先端,青カフ後端,白カフ先端,白カフ長,白カフ後端度の各パート間距離を測定し,記憶するように努めると良い。

2)Bronchial lumenの先端孔(青ライン)からの観察
 チューブがどうしても望む方向に進まない場合,気管支鏡をbronchial lumenに挿入し,チューブ先端を左主気管支に陥入させる。
⇒ 手術開始までの待ち時間には気管支鏡ですべての気管支の状態を評価しておく。

注釈:右主気管支挿入用ダブルルーメンチューブの挿入

 チューブサイズの選択や挿入手順は,左主気管支挿入用チューブとほぼ同様である。注意点は,図6のように気管支鏡を介して bronchial lumenのventilation slotから右上幹を確認することである。この確認ができない場合でも右上葉の呼吸音が聴取されることがあるが,右側臥位で手術が長時間におよぶ際には,右上葉の無気肺に移行しやすいので,ventilation slotと右上幹を合わせるように工夫する。

ダブルルーメンチューブを用いた分離肺換気の実際
 分離肺換気に際しては,先端の青カフを1~2 mLで膨らます。鉗子を用いたクランプは接続コネクター部位で行い,閉塞側のコネクターをチューブからはずすことで,脱気が行われる(図7参照)。開胸前に脱気されていることを評価する際には,無換気側のチューブ口にカプノメータを接続することで,呼吸音を聴取する代わりに換気遮断ができているかどうかを知ることができる。

【B】ユニベントチューブ
 ユニベントチューブ(Fuji Systems Corp)はノーマルチューブの気管挿管に準じて,気管挿入する。気管挿管後は図8のようにチューブ内に気管支鏡を挿入し,気管支鏡で直視下にbronchial blocker(BB)を主気管支に挿入する。BBカフを膨らませることにより,挿入側を無換気とすることができるが,気管の石灰化やリンパなどによる圧迫により気管支を閉塞できないことがある。
⇒ BBによる気道裂傷を防ぐためは気管支鏡下に適切なカフ空気量を評価しておくのがよい。カフ内圧を過度に上げることにより気管支裂傷を合併する危険がある。

<小児分離肺換気におけるユニベントチューブ>
 6~10歳レベルの25kg以下の小児の分離肺換気には内径3.5 mmか内径4.5 mmのユニベントチューブを用いることができる。

【C】Bronchial blockerとしてのForgarty®カテーテル
 血栓除去カテーテルとして知られているForgarty®カテーテルを用いて,分離肺換気を行うことができる。乳児や小児の場合は5 FrのForgarty®カテーテルを用いるが,低酸素と声門下の腫脹に留意しなければならないため,挿入する気管チューブの内径を一つ下げた細いものとするとよい。小児の場合は先に気管挿管し,換気を整えてから,再度,喉頭展開し気管チューブに平行してForgarty®カテーテルを挿入したほうが安全である。
⇒ Forgarty®カテーテルが声門を通過しにくい場合は内径がワンサイズ低いものに気管挿管チューブを入れ替える。無理に挿入してはいけない。

 

【D】COOK社のAmdtブロッカー

 小児では5Fr,一般に5Fr ,7Fr,9Frを用意しておくと良い。片肺挿管として,Amdtブロッカーを挿入してから,チューブのみを引き抜いてくることができる。固定は最終的に,2股のコネクションを用意する必要がある。



【その他】

ミニ知識 ダブルルーメンチューブの固定技


 歯がない患者の場合はチューブの位置がずれやすい。このため,両側の頬と歯肉の間域にガーゼを1枚ずつ球形に丸めて挿入するとダブルルーメンチューブの固定が安定する。さらに,側臥位になる場合は,口腔内に1~2枚の乾いたガーゼを挿入し,そのガーゼの先端を口腔外に出しておくことで,唾液をゼリー状にできるため,口腔内分泌物に邪魔をされず,チューブ固定やチューブ位置変更の際のスピードアップができる。チューブ位置を定めた正式な固定としない場合は,太目のテープで簡易固定とすると,側臥位となった後の正式な固定が行いやすい(図10参照)。側臥位になった際にチューブ固定位置が上方になるように,左側臥位の場合は右口角固定,右側臥位の場合は左口角固定としている。


ミニ知識 気管の炎症性浮腫とコブラヘッド

 食道腫瘍手術後などの全身性炎症の強い時期には血管透過性亢進のために気道浮腫が強い場合がある。再手術に際して気管支鏡で気管内を観察すると,毒蛇コブラのように膜様部がチューブ先端に覆いふさがるように膨隆し,気管分岐部を気管支鏡で確認しづらい。用手換気で吸気保持することにより,主気管支が観察しやすくなる。人工呼吸下では,一時的にPEEPを10 cmH2Oレベルで併用し,換気量を下げるか中断することで,気管支レベルの観察が容易となる。ダブルルーメンチューブの適切な位置決定が行いにくいばかりでなく,自発呼吸出現により膜様部肥厚が増強しチューブ閉塞が生じる可能性があるので,慎重に対応されたい。


ミニ知識 気管分岐の先天的変異と無気肺

 左下葉切除を予定されていた症例に左主気管支挿入用ダブルルーメンチューブを挿入後,チューブが適切な位置にあるにもかかわらず,右上葉の換気が障害された経験がある。この症例では右上葉支が気管分岐部の約3 cmの声門側寄りに位置していた。ユニベントチューブに入れ替えを行い,チューブを浅く固定することで右上葉の換気を得ることができ,分離肺換気も施行できた。転移性気管支分岐異常の約70 %は右上葉に関連するとされている。



図の表題と解説


図1 成人の気管と主気管支
右上幹は気管分岐部より1~2 cmで分岐する。左主気管支は3~5 cmと右に比べて長い。気管支の分岐角度は3歳頃までは左右に差がなく55°レベルだが,成人では右が25°と左に比べて急峻となる。


図2 気管分岐部
 気管分岐部はかまぼこのように見える。


図3 ダブルルーメンチューブの形状と挿入法

左主気管支挿入用ダブルルーメンチューブを上方から観察した図である。ダブルルーメンチューブには2つの弯曲があり,bronchial lumenの先端は主気管支に陥入しやすいように適切に弯曲している。A:挿入時は左側に位置するbronchial lumenが上方になる。B:左主気管支挿入用ダブルルーメンチューブの気管挿管では,bronchial lumenが声門に位置した時点でスタイレットを抜去し,チューブを進める。チューブを反時計周りに90°回転させることで図Bのようになり,bronchial lumenが左主気管支に陥入できる。右主気管支挿入用であれば時計回りに90°回転させてチューブを進行させることになる。



図4 ダブルルーメンチューブの挿入位置の決定
 ダブルルーメンチューブの挿入位置をすばやく決定するためには,tracheal lumenの側孔(白ライン)からの観察が原則である。Aは気管へのチューブ挿入が浅い場合,Bは深すぎる場合である。


図5 ダブルルーメンチューブの適切な位置
青カフが見え隠れするぐらいの位置でチューブを固定する。


図6 右主気管支挿入用ダブルルーメンチューブ
 Bronchial lumenのventilation slotから右上幹を確認する。右上葉の換気に難渋するために,まず,使用しない。


図7 カプノグラムを用いた肺虚脱の確認
 図ではチューブコネクターの左換気用側を鉗子でクランプし,左肺を虚脱させる設定とした。左肺が換気されないことを確認するためには,左胸部の聴診のほかに,14Fr以上の吸引用カテーテルの尾側にカプノメータのサンプリングチューブを接続し,カプノグラフィから呼気ガスの有無を知る方法がある。


図8 ユニベントチューブとbronchial blocker
 ユニベントチューブを気管挿管した後は,気管支鏡下でbronchial blocker(BB)を主気管支に留置する。BBのカフを膨らませることで,分離肺換気が可能となる。


図9 Bronchial blockerとしてのForgarty®カテーテルの応用 
 救急外来で対応する喀血において,大動脈瘤と左気管支,肺動脈と左気管支などの際には,右片肺挿管で左へのForgarty®カテーテルという緊急対応がある。また,腺癌などからの出血に対して,救急外来で気管挿管プラス出血部のForgarty®カテーテルで対応した経験がある。長期的予後は厳しいが,緊急対応におけるバイタルサイン安定化の一工夫となる。もちろん,慣れた看護体制があれば,救急外来といえども分離換気で対応することもできる。


図10 チューブの簡易固定
 側臥位に体位変換される場合の仰臥位状態でのダブルルーメンチューブの簡易固定を図に示した。側臥位となる場合には,上になる方の口角にテープ固定をすると,最終的な位置固定合わせをしやすい。ガッツと両側から止める先生もいるが,僕は上となる口側に固定する方法を得意としている。重症肺挫傷などにおける仰臥位や側臥位をローテーションさせるICU管理では,2000年頃は両側からの固定としていたが,専用の固定器具を使う場合が多い。A:用いるテープは太いものとし,図Aのように中央線上に切開を加える。①をチューブ下端にあわせ➂方向にチューブを巻く。次に,④をチューブ下端にあわせ➅までチューブを巻く。⑦を頬部に張り,その上をさらにテープで補強する。図は左側臥位におけるチューブ固定の例である。この固定では側臥位でチューブが上方に位置するため,次の正式な固定を行いやすい。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする