MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

歩くメヌエット?

2013-06-23 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

06/23 私の音楽仲間 (502) ~ 私の室内楽仲間たち (475)



              歩くメヌエット?




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                  嫌われる飛躍
                  作品か人間か
                  歩くメヌエット?
                   鋭い演奏者




 Mozart の弦楽四重奏曲 ハ長調 K465 の第Ⅲ楽章
には、Allegro のメヌエットがあります。



 下の[譜例]は、すでにご覧いただいたもので、第Ⅱ楽章
の終りの部分も見られます。

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 この曲が『不協和音』と呼ばれるのは、第Ⅰ楽章の序奏
に由来するわけですね。 大きな原因は、半音階でした。

 ここでも下降上昇する半音階を、たくさん見かけます。



 演奏例の音源]は、Violin の O.さん、Viola の M.さん、チェロの
T.さんとご一緒した際のもので、
メヌエット部分を、繰り返し抜き
編集したものです。







 メヌエットは、元は宮廷風の舞曲。 テンポが速すぎれ
ば、脚がもつれて踊りにくく、優雅さも失われます。

 一方、ショパンのワルツには速い曲が多い。 「もはや
“踊るため” のものではないから」…と言われます。



 さて、この Mozart のメヌエットでは、どんなテンポが指示
されているのでしょうか?

 以下は、弦楽四重奏曲、五重奏曲に限った場合の例です。

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 まず初期の四重奏曲ですが、ここでは単に “Menuetto”、
“Tempo di Minuetto” などと記されているだけ。 具体的な
速度の指示が見られるようになるのは、この『不協和音』を
含む “ハイドン・セット” の時期以後のことです。



 もっとも多い指示は、Allegretto。 この標語を Mozart
は、ほとんどメヌエット楽章にのみ、用いているほどです。



 次が Allegro、“快速に”。 しかし Allegretto に比べると、
例はだいぶ少なくなります。



 珍しいのは Moderato。 K458 『狩』、K589 のメヌエット2曲
で、調はいずれも変ロ長調です。

 これ、感覚的には “かなり遅く弾く” つもりでないと、Moderato
になりません。

 特に後者は、うっかり速く弾き始めると大変なことになります。
やがて、“ViolinⅠ虐め” のような箇所が出てくるから…。

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 ちなみに、Andante のメヌエットも、探せばありそうですね。

 でも “Andare” (歩く) から来る楽語なので、踊りには相応しく
なさそう…。

 ひょっとすると “Moderato” は、実質的には “Andante” なの
かもしれません。




 さて、今回のメヌエットは “Allegro” ですが、お聞きになって
如何だったでしょうか? ひょっとすると、「遅すぎる!」と感じ
られるかたが、半分以上いらっしゃるかもしれませんね。

 事実、演奏会やCDでは、この何倍も速いテンポが珍しく
ありません。 それと比べれば、私のは “チンタラ メヌエット”。



 速い、遅い…を問題にする際に、大事なことが。 それは
「ビートをどう感じるか?」です。

 このメヌエットは、通常の 3/4拍子。 四分音符が一拍
です。 でも、一小節を一拍として感じれば、話がだいぶ
変わってきます。



 もし踊るなら、ステップは3つ? 1つ? 指揮者なら、
三つに振るか、一つに振るか?

 あなたなら、この曲の場合、どうしますか?



 テンポは好きずきで、個々の感性次第。 年齢によっても
違うと言われます。 その点では、もはや “高齢者” の私…。

 しかし “高齢者” であっても、急速なテンポを好む演奏家
が珍しくありません。 逆に若い演奏家でも、遅いテンポを
好む例が…。




 一つだけ “言い訳” をしておきましょう。 「テンポの遅い
ほうが、速いより易しい」…とは、必ずしも言えないのです。

 それは、“音の長さを保つ” のが難しくなるからです。
レガートでも、スタカートでも。



 私は、今 (60+X)歳ですが、あるときは (40-A)歳の
テンポになったかと思うと、次の日は (60+B)歳になり
ます。 年齢が一日で変わるわけはないのに…。

 これは、そのときのコンディションによって、テンポ感
がまったく変わってしまうからなのです。 私の場合は、
主に “楽器の構え方” 次第…なのですが。




 「なんでもいいけど、高齢者は速いステップが苦手なのでは?」

 …おや、これは手厳しい…。



 「大きな原因は、半音階だろう。 脚、じゃなくて、指がもつれる
に違いないのさ。」

 ……。




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