MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

Mozart の『五度』

2013-01-26 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/26 私の音楽仲間 (462) ~ 私の室内楽仲間たち (435)



             Mozart の『五度』




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




                関連記事

                練習時間が無い…!
                  なぜ不協和?
                どうやって跳ねる?
              重力と反発力で跳~ねる
                 Mozart の "混沌"
                 楽章を結ぶターン
               ハ長調のスポットライト
                運命の動機の動機?
                 滑らかな不協和音
                 Mozart の『五度』
                 ハ長調の安らぎ
                 不協和音の余波
                  牙を剥く脇役
                  嫌われる飛躍
                  作品か人間か
                  歩くメヌエット?
                   鋭い演奏者




 やあ、ソフト君! いらっしゃい。 元気かい?



 「“元気かい” は、ないでしょ? maru が電源を
入れてくれないからだよ。 最近は、ちっとも出番
が無いじゃないか…。」

 そうだね。 だから今回は、ぜひキミに登場して
ほしかったんだ。



 「…なんだか、嫌な予感がするな。 またボクを
からかうんじゃないの?」

 とんでもない。 とても真剣な話題だよ。

 「へえ、何の話だろう。」




 今回の曲はね、Mozart の弦楽四重奏曲、『五度』だよ。



 「“五度” だって!? Mozart の! そんな曲、あるわけ、
ないじゃないか。」

 それがね、あるんだよ。

 「嘘つけ。 『不協和音』なら知ってるけど。」



 実は、それ、同じ曲のことなんだ。

 「ほら、やっぱりからかってる! 完全五度が不協和音
だなんて。 ハイドンの『五度』のときだって、ボクを散々
コケにしたくせに…。」

       関連記事 ハイドンの mf、mp など




 まあまあ。 落ち着いて、話だけでも聞いてほしいんだ。

 「…、……。」




 これ、何の曲の譜例だか、解るでしょ?

 「…えーと…。 以前にもアップしていたよね。」



 うん、Mozart の弦楽四重奏曲 ハ長調 K.465
その第Ⅳ楽章の冒頭だよ。

 「軽快な Allegro (molto)。 スコアだな。」



 [譜例①]






 次の[譜例②]はね、これに続く部分で、ViolinⅠのパート譜
だよ。 今度は別の色を塗ってみたんだけど、どういう意味
だと思う?

 ただし、最初の2小節半は無視してね?







 「どれどれ…。 なるほど、音程が4度で跳躍する箇所に、
塗り絵をしてみたわけね?」

 そう。 第一主題が繰り返される、“確保” の部分だよ。



 「でも、まさか、これが “五度” だ…なんて言う
んじゃないだろうな。」

 まさに、そのとおり! 立派な “五度” でしょ?
上昇4度は、下降5度と同じだもの。 西洋音楽
ではお馴染みだよ。



 「Sol-Do…。 なるほど、これは最初の譜例にもあるね。
La-Re もだ。 今度は新たに、Si-Mi、Do-Fa、Re-Sol…
って連続するのか…。 でもさ、単なる偶然じゃないの?」




 そうかな…? 次の[譜例③]はね、第二主題がト長調で
出て来る箇所だよ。 よく見てね?

                               




 「Mi-La、それに Re-Sol …か…。 なるほど、5度で
下降している…。」

 上昇4度より、はるかにインパクトが強いよね?



 「第一主題が “上昇” で、第二主題が “下降” か…。
でも、この先はどうなるの?」

 ソナタ形式だから、展開部があるんだ。 そこではね、
上昇、下降、両方とも頻繁に出て来るよ。




 最後の[譜例④]は、楽章の最後の部分なの。

 「……。 なんだ! 切れ切れに出て来るだけじゃないか…。
これじゃ、とても “Mozart の『五度』” とは呼べないね!」







 そうかな。 でも、これはパート譜だよ? ほかのパートが
何をしているか、これだけじゃ解らないさ?



 「…、じゃ、ちゃんと説明しなさい。」

 はい、はい。




 演奏例の音源]はね、先ほどの譜例の順序を変え、
③、②、④の順に編集したものなんだ。



 「変なの…。」

 鑑賞には、まったく値しないよ。 でもね、特に
最後の部分を、よく聴いてね?





                                   

           


                                      

 





 どうだった?

 「確かに、下降5度のオンパレードだね、最後は…。」




 楽章の最初だけ見ても、ちょっと気が付きにくいよね。
それに『不協和音』…って呼ばれているから、第Ⅰ楽章
の最初だけが目立っちゃうんだ。 でも楽章が進むに
つれて、徐々に “5度” が活躍し始めるの。

 「本当に?」

 うん。 第Ⅱ楽章は、いきなり “下降5度” が出て来るし。
それに “上昇4度” は、次のメヌエットやトリオでは、とても
重要なんだ。



 「後へ行くほど…か…。 まるで “種明かし” だね、
手品師の。」

 同じことはハイドンも、よくやってるんだ。

 「へえ…。」



 それどころかね、はるか時代が下ったロシアの作品
にも、同じような手法の曲が、たくさんあるよ。 ちょっと
スタンスが違うんだけど。



         関連記事 地下の白樺 など




 「じゃあ Mozart が、先輩の『五度』を真似した…って
言うの?」

 いや、むしろ逆だよ。 Mozart がこの曲を作ったのは、
1785年。 1791年には亡くなっちゃうでしょ? ハイドンの
『五度』は、ずっと後の1797年の作品なんだ。

 「へえ、そうなの…。」



 Mozart の『不協和音』は、ハイドン・セットの一曲でしょ?
これを聞かされて、先輩のハイドンは驚愕したそうだよ。

 「全部で6曲なのね…。」

 だから Mozart の『五度』が、ハイドンには強烈な印象を
与えた…。 そういう可能性だって、考えられるんだ。

 「先発った後輩を思いながら、ハイドンが、自分の『五度』
を作ったのかもしれないね?」



 解らないけどさ、もちろん。 でも、『五度』と呼ばれても、
ちっとも不思議じゃないでしょ? この曲。 『不協和音』の
代わりに。

 「確かにね…。」

 名前が与える印象って、とても大事だよね。 見る者が、
ほかの要素を度外視しちゃうこともあるから。




 「たまには真面目な話もするんだね、maru も。」

 まあ、これからも、よろしくね? PCソフト君が
いなかったら、ボクは何にも出来ないんだから。



 「…、ま、解りゃいいんだよ、オホン!」

 あれ? 急に偉くなっちゃったね、キミ。



 「これからは “ソフト様” って呼ぶんだよ?
名前が与える印象は重要だからね。」

 ……はいはい…。




       [音源ページ ]  [音源ページ