MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

星と音楽 (8) 「ヴェーヌスベルク」 (前)

2008-10-20 07:30:43 | 星と音楽・科学一般
10/20  R. ヴァーグナー (1813/5/22~1883/2/13、ドイツ) の
    『ヴェーヌスベルクの音楽』~(歌劇タンホイザー』より)。


 同じ歌劇に出てくる (3) の『夕星』は、おそらく “宵の明星” だろう。 (7) の『惑星』では平和な星として描かれている。 金星は “ヴィーナス”。 だがこの名は、また “愛の女神” でもある。

 しかしヴァーグナーはこのヴェーヌスを、”愛欲で誘惑する女性の名” として用いた。 "ヴィーナスの誘惑" は絵画などでも頻繁に見られるが、ここでの相手はもちろんタンホイザー。 

        “In the Venusberg” by Hon. John Collier

     

  有名な序曲に続く第一幕は、魔界 “ヴェーヌスベルク” でタンホイザーが快楽の日々を送る場面から始まる。 かつての平安な日々を思い出し、彼は帰郷を決意する。 許婚のエリーザベトは城主の令嬢。 帰還を今も待ちわびている。

 なおも引き止めるヴェーヌスを振り切ると、魔の巣窟は大音響とともに崩れ去った。 我に帰ると、彼は故郷の谷に横たわっている。 すぐそこには、許婚のいるヴァルトブルク城が。

      [ヴェーヌスベルクの音楽~タンホイザー
      カラヤン、フィルハーモニア管、1954年の録音

 “ヴェーヌスベルクの音楽” は、この間の情景を描いている。 オーケストラだけで演奏される音楽は雄弁。 大狂乱から静寂、平安へと、情景が激しく揺れ動く様に圧倒される。 この変化の大きさは精神的な振幅の広さでもあり、また、深層心理と現実世界を隔てる壁の厚さとも言える。

 初期ヴァーグナーの音楽は、聴く者の心理を巧みにつかんで離さない。
 
 (続く)