L'Appréciation sentimentale

映画、文学、漫画、芸術、演劇、まちづくり、銭湯、北海道日本ハムファイターズなどに関する感想や考察、イベントなどのレポート

映画音声解説ゼミ 札幌国際短編映画祭上映に向けて

2012-07-31 00:57:36 | インポート

今年(2012年)3月に映画に音声ガイダンスを付ける活動を行っている松田高加子さんが来札されて、ワークショップをおこなった(その模様はこちら)。音声ガイダンスとは、映画のセリフ(や音楽、音)の間に入っている、人物や場面がどんな風に展開されているかを簡潔に説明する副音声のことである。

6月には、札幌オオドオリ大学で、音声ガイダンスを付ける授業が行われた(授業レポートはこちらから)。さらに、参加者の中から私を含めて有志のメンバーが集まり、ゼミという形式で、蓑輪俊介監督の『び じょ』という15分の短編映画に音声ガイダンスを付ける試みを行っている。このゼミには視覚障害の方もモニターとして参加されている。担当者は6人。1人あたりの尺はおよそ2分30秒ほどだ。

『び じょ』のヒロインのカオルコの悩みは鼻が効きすぎること。電車の中や仕事の打ち合わせなど、その嗅覚の鋭さゆえに問題ばかり発生。ある日、思い切って治療院を訪れて嗅覚を元に戻すのだが・・・・。

たった2分半とはいえ、これがすこぶる難しい。どんな場面で、登場人物がどう行動するかを、的確で簡潔な言葉で伝えなくてはいけない。ガイダンスは短ければ短いほど良いとされる。人物が激しい動きをする場面だと、簡潔に表現するのは困難を究める。これは映像を翻訳する作業と言ってもよいであろう。外国語の翻訳と違うのは、「テクスト」が「映像」である点にある。映っている内容をどこまでガイダンスとして表現するべきか、あるいは省くべきか、その取捨選択を間違ってしまうと、伝わりにくいガイダンスになってしまう。「逐語的」な翻訳は、映像では通用しないのだ。

前半と後半で大きく変わる画面のトーンや主人公の服の色、遊び心満載の画面の構図、嗅覚と視覚の関係など、初見ではわからなかったことが、何度も繰り返し映画を見る中で発見することがおびただしくある。なぜか唐突に後半に酔っ払いが登場するシーンなどは、ご都合主義な展開と言えなくもないが(厳しい見方をすれば)、これも何度も繰り返し映像を見ることでわかったシナリオ技法の一つだ。ガイダンスを付けることは、映像の世界にどこまでも深く深くダイブしていくことだ。

映像ガイダンス付きの『び じょ』は今年9月の札幌国際短編映画祭(SSF)で上映予定である。みなさん、上映をお楽しみに!