L'Appréciation sentimentale

映画、文学、漫画、芸術、演劇、まちづくり、銭湯、北海道日本ハムファイターズなどに関する感想や考察、イベントなどのレポート

教文短篇演劇祭2013 決勝

2013-08-20 02:10:29 | 演劇

前回の続き。短篇演劇祭2013決勝は、非常に物議を醸し出す作品が集結したと思う。ここ3年間は、大差をつけて圧勝しつづけた「イレブン☆ナイン」納谷真大の天下だったと言っても過言ではない。四連覇を狙う「イレブン☆ナイン」、常連の「yhs」に「TBGZ」(TBGS改め)、岸田國士戯曲賞受賞作家佃典彦率いる愛知の「劇団B級遊撃隊」は、2013年の決勝にふさわしいカードだったと思う。

昨年、このブログで「3年連続「イレブン☆ナイン」が優勝したことで、観客がどんな劇を支持するのかも見えてきたことだ。観客の支持を集める方向に向かって、「勝ちパターン」に走る演劇ばかりが上演されると、演劇の多様性が消失してしまう」と書いた。

今年は、実験的な多様性が感じられ、テーマの「TRY」にふさわしい内容だったと思う。
審査員の投票が観客と票と対称的なところがうまく効いていた。

劇団B級遊撃隊 『ランディおじさん』
安定感は抜群。バッティングセンターのシズル感が実に懐かしい。段ボールの小道具が妙な味を出していて、札幌の劇団にはない新鮮さが感じられた。

イレブン☆ナイン 『にせんえん』
これはとてつもない変化球を投げてきたなぁというのが第一印象。観客のライトがつきっぱなし、同じ場面がズレや巻き戻しを含んで数回繰り返され、何度も「おや?」と思わされる。しかも、納谷さんが登場する「にせんえん」をめぐるエピソードに「笑い」は全くない。思い出したのは、レーモン・クノーの『文体練習』だ。一つの出来事を「ズレ」を混ぜながら少しずつ差異を取り入れてリフレインさせる。四連覇がかかる舞台でこれをやるか、という大胆な勇気と、好みが完全に真っ二つに分かれる演劇を持ってきたことに驚きを感じた。幕が下りた後は、会場が少し騒然とした。

yhs 『ラッキー・アンハッピー』
障害物競走が繰り広げられる前半と、胎児の遺伝子検査という重々しい社会的テーマをひっさげた作品。ラストでハートが落ちてくるシーンは心に響いた。

結果は、yhsの圧勝!
自分も投票しただけに、やはりうれしい。

審査員の三人の講評がじつに辛辣だった。それはそれで、劇作家の視点を学ぶことができて、大変勉強になる。表現したいことをどのように表現するか、そこがうまく表現されていない、という指摘は実に手厳しい。

審査員の歯に衣着せぬ講評を聞くかぎり、求められる作品とは、単にゴールに向かって伏線をストレートに回収させていくのダメで、何かしらの「ズレ」や観客を困惑させるような仕掛け(装置)があり、どちらか最後までよくわからないまま様々に解釈可能な拡がりのある人物描写や物語の展開をつくり、二分法で明確な線引きが不可能なキャラクター、感情が交錯した「ゆらぎ」がせめぎ合う作品、と言うことができる。

だからといって、審査員の求める要素をあますところなく取り入れて「タグ付け」した作品を上演して、「はい、こうです」と提示するのでは、きわめて退屈だ。そんな作品は失望しかもたらさない。いかに独自の手法で審査員と観客を「裏切る」か。そこにかかっているだろう。予選で審査員がぼろくそに言ったからといって、決勝で審査員の意見の通りに変更する必要など一切ないのだ。

審査員の講評は、演劇に長く携わった人間にしか獲得することのできない視点ならではのロジックで構成されていた。審査員の「イレブン☆ナイン」の高評価とyhsの低評価、観客のyhsへの圧倒的な支持は、観る側と作る側の間に横たわる大きな隔たりが露呈した結果とも言える。

正解はない。

終わった後は、ロビーで、友人で医師のM氏やK夫妻らと意見交換。さらには駐輪場でコピーライターのCさんとも遭遇。Cさんからは少々怒り気味の意見も出て、いろいろと考えさせられた。演劇で熱く語ることができるイベントは貴重だ。「イレブン☆ナイン」が挑戦者に回る来年も楽しみである。


教文短篇演劇祭2013 予選

2013-08-20 01:51:20 | 演劇

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夏の恒例行事となっている教育文化会館の教文演フェス。今年も教文短篇演劇祭に行ってきた。都合のため予選のAブロックを見ることがかなわなかったのが残念(個人的に大ファンの劇団パーソンズを見ることができなかったのが惜しまれる!)。2010年からこの演劇祭をずっと見てきたが、予選をまるまる見ることができなかったのははじめてだ。

今年は予選でも審査員の講評を聞くコーナーがあり、審査員の持ち点が各チームに配分され、投票もひとり二つまで劇団を選ぶことができるなど、変更点もいくつかあった(基本的なルールは変わらない)。2011年に決勝で登場した名古屋の劇団「あおきりみかん」の鹿目由紀氏が審査員として登場。2010年、2011年に審査員だった佃典彦氏が劇団を率いて挑戦者として決勝に登場するのなど、クロスオーバーな人選となっている。

毎年観て思うのは、レベルが年々高くなっているところだ。予選Bはどれもハイレベルな作品ばかりで迷った。しかも、どの劇団も手法も内容もヴァラエティーに富んだ内容に仕上がっており、大いに楽しませてくれた。

TUC+KYOKU 『優曇華の花が咲くときは』
短篇演劇祭では(おそらく)はじめてとなるミュージカル形式。こういうのはとても大好きだ。中央にいたピアノを弾いている個性的な風貌の方が気になった。

東京から参戦のパセリス 『死ぬまでにしておきたいこと』
占いに振り回されるレポーター。そこにやってくる地球の危機。これはどうなる?というところで一挙に時間が飛ぶ構成が面白い。

TBGZ 『マグカップダイアリー』
女三人の「女子会トーク」と思いきや、最後まで予想がつかない展開。それぞれのキャラを立てながらも、そこが恋愛感情の表現となる伏線が随所に見られる。水を飲むと「ぽちゃん」という効果音とともに時間が進み、時間軸が加速する手法は、質感が感じられて、とてもうまい。

 
劇団アトリエ 『ふたりの桃源郷』
緊迫感と展開の妙はさすが!ラストが素直に着地しすぎてしまったところが、あまりにもストレートすぎてしまったかもしれない。さらに一ひねりが加わると、大化けする。

印象的だったのは客の評価と審査員の評価が見事にまで対極だった点だ。審査員の票は、演劇でしかできない手法を使っているTBGZに大きく得点が入った。一方、観客の票は、面白いドラマを演じているパセリスに票が集中した。ぼくはこのTBGZとパセリスに投票。アトリエもTUC+KYOKUも素晴らしかったが、もう一押しが欲しかった。

パセリスの演劇がシアターZOOで8月31日、9月1日に行われると知り、大期待である。もっと東京や名古屋の劇団が来て欲しいなぁ。

決勝については次回。


くすみ書房友の会くすくすから本が届いた!

2013-08-12 13:20:56 | 本と雑誌

6月初頭くらいに、札幌の老舗書店くすみ書房がなくなる!? という衝撃的なニュースが駆け巡った。支援のため、店が独自に設けている会員制度「くすみ書房 友の会『くすくす』」への入会を募るウェブサイトがSNSで数多くの人たちにシェアされた。結果として、閉店の危機は回避され、いまもくすみ書房は営業中である。その顛末はこちらのウェブサイトに詳細が報告されている。

個性的なフェアや独自の品揃え、本を愛する社長のおだやかな人柄など、くすみ書房は札幌老舗書店の「最後の砦」である。ということで、諸都合で六月に「くすくす」に入会することはできなかったが、最近ようやく入会させていただいた。申し込むと、会報とのバックナンバーと本のリストが送られてきて、リストから好きな本を二冊(1500~2000円相当)プレゼントされる。
選んだのは、鈴木秀子『死にゆく者との対話』吉田修一『横道世之介』(いずれも文春文庫)である。本にはカバーが掛けられて、丁寧に包装されて届いた。細かいところに気を配るサービスがすばらしい。

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『横道世之介』は大好きな作家吉田修一の映画化作品でもあるので、迷うことなく決定だった。もう一冊はかなり迷った。結果、全くいままで知らなかったシスターが書いた鈴木秀子『死にゆく者との対話』である。「死」を通して数多くの人生から膨大に学ぶことができる名著である。「くすくす」で面白いのは、全く見向きもしなかったジャンルや作者との出会いがあるところだ。リストから選んで添付のはがきを送れば、自動的に自宅に送られてくる。これはとても便利だ。買うよりもはるかに敷居が低い。「友の会」という制度は、ファンの心理をくすぐるナイスな制度といえるだろう。

・・・とここまで書いて、神戸にある海文堂書店が閉店というニュースが飛び込んできた。神戸を訪れる際にはいつか行ってみたいと思っていた書店だけに、大きなショックである。こういったローカルの老舗書店をいかに支えるか。それには、読み手がリアル書店を買い支える必要がある。書店側も、「売れない」時代からこそ、逆転の発想で新しい取り組みに挑戦することを恐れてはいけない。「私は負けません!決してあきらめません。」という、くすみ書房店長の力強い決意表明から繰り出される次の取り組みに、大いに期待したい。


AKB48のライヴから

2013-08-01 15:25:49 | 音楽

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自分自身でもまさか行くことになるとは思っていなかったが、札幌ドームのAKB48のライブ『AKB48 2013真夏のドームツアー~まだまだ、やらなきゃいけないことがある~』に行ってきた。AKB48を最初に知ったのは『伝染歌』という映画を劇場で見たとき(2007年)で、当時はまだマイナーな存在だったものだが。。。

チケットが売れていないという風評もあったが、いざふたを開けてみたら、ほぼ満席に近い。所々に空席はあったが、平日の夜で月末という日程を差し引いても、大健闘だったと思う。

横山由依の影アナ「北海道はでっかいどう」(元ネタは眞木準のコピーだ!)で幕をあけた今回のライヴ。老若男女、幅広い年代のファンがいた。派手な照明のレーザービーム、移動型のサブステージなど、相当に凝った演出だった。私のいたスタンド席では、リアクションをどうしたらいいのか、ファンの側が少々遠慮している部分があった。日ハムのピッチャーがスリーボールでピンチの時に、ファンが激励の拍手を送る時の、あの暖かく見守る雰囲気が感じられた。

「RIVER」、「大声ダイヤモンド」、「ギンガムチェック」といった個人的に好きな曲も聴けて、SKE48、NMB48、HKT48の主要曲もあって、あっちゃんの新曲も、新ユニット「てんとうむchu」の発表もあって、盛りだくさんで楽しかった・・・と単純に喜ベなかった(もちろんライブそのものは楽しかった)。
今回のライブをみて、SPR48の誕生が早急に必要だと熱烈に感じてしまったのだ!

スポーツ報知が「SPR48が誕生!?」と報道していたが、ライヴ直前に経営サイドが否定した。姉妹ユニットがこれほど盛り上がり、楽曲がたくさんリリースされてライブで歌われているのに、SPR48がないという状況は、ホームなのに、アウェーで観戦しているようで、「なんだかなぁ」という気持ちも感じてしまった。

『AKB白熱論争』(幻冬舎新書)でも、中森明夫氏が「秋元さんがAKBでやった重要なファクターをひとつ指摘しておくと、やっぱり『地方』ということなんです」(p.242)と言及している。ラストで、たかみなが「今のところSPR48という予定はないです」と言っていたが、「今のところ」の話であって、今後は状況も変わってくるだろう。今回の札幌ドームでのコンサートは、何かしらのアクションを札幌に喚起する目的もあるはずだ。「SPR48、待っててくれますか?」というたかみなの問いには、「もちろん!」と答えたい。

SPR48というソフトパワーを札幌から創出して発展させていくか、という難題をいかに引き受けるか?いくつもの大きな関門が立ちはだかっているように思える。
そもそもファンがつくのか?
サステナブルに利益を出して運営していくことが可能か?
すでに確立している「ゲームの規則」にどのように乗っかっていくか?
スポンサー、集客、宣伝、広告はどうするのか?
「キャズム」をどう乗り越えるか?
地元愛を抱くスターの誕生(とそのプロデュース)と熱狂的なファンの獲得が必要だろう。

「会いに行けるアイドル」というコンセプトがあっても、会いに行くのはなかなか至難の業だ。札幌では体験する「場」が圧倒的に少ない。潜在的なファンをどのように動員するか、というモデルを地方で発展させて行くには、イベントを開催してファンを増やして足を運んで実際に体験してもらうしかない。『AKB白熱論争』のあとがきで濱野智史氏が書いているように、「AKBというのは、一度直に体験しなければ何もその良さがわからないシステムである」からだ。

初の札幌ドームでのコンサートも行われたことで、AKB48を生で体験するタッチポイントが増えると、状況は少しずつ変わってくるだろう。ファンの側も成長して、見る目も肥えていく。

当然のことながら、「今さらSPR48なんて・・・」という声があるだろう。
かつて自分もそう思っていた。
だが、ライブで体験した今となっては、すっかり変わってしまった。
「今さらだからこそ」SPR48を作った方がいいのだと思う。
これは、札幌で新しいソフトパワーを育てるにはどうしたらいいのか、というチャレンジングな試金石だ。今回のツアータイトルがそれを示唆している。「まだまだ、やらなきゃいけないことがある」のだ

注目は、AKBグループで在籍している唯一の道産子、東李苑(アズマリオン)である。今回のライヴで北海道出身であることが最初に紹介され、観客に大きなアピールとなった。アズマリオンがSKE48で今後どのような活躍をしていくのか、大期待!

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価格:¥ 907(税込)
発売日:2012-08-26