前回の続き。短篇演劇祭2013決勝は、非常に物議を醸し出す作品が集結したと思う。ここ3年間は、大差をつけて圧勝しつづけた「イレブン☆ナイン」納谷真大の天下だったと言っても過言ではない。四連覇を狙う「イレブン☆ナイン」、常連の「yhs」に「TBGZ」(TBGS改め)、岸田國士戯曲賞受賞作家佃典彦率いる愛知の「劇団B級遊撃隊」は、2013年の決勝にふさわしいカードだったと思う。
昨年、このブログで「3年連続「イレブン☆ナイン」が優勝したことで、観客がどんな劇を支持するのかも見えてきたことだ。観客の支持を集める方向に向かって、「勝ちパターン」に走る演劇ばかりが上演されると、演劇の多様性が消失してしまう」と書いた。
今年は、実験的な多様性が感じられ、テーマの「TRY」にふさわしい内容だったと思う。
審査員の投票が観客と票と対称的なところがうまく効いていた。
劇団B級遊撃隊 『ランディおじさん』
安定感は抜群。バッティングセンターのシズル感が実に懐かしい。段ボールの小道具が妙な味を出していて、札幌の劇団にはない新鮮さが感じられた。
イレブン☆ナイン 『にせんえん』
これはとてつもない変化球を投げてきたなぁというのが第一印象。観客のライトがつきっぱなし、同じ場面がズレや巻き戻しを含んで数回繰り返され、何度も「おや?」と思わされる。しかも、納谷さんが登場する「にせんえん」をめぐるエピソードに「笑い」は全くない。思い出したのは、レーモン・クノーの『文体練習』だ。一つの出来事を「ズレ」を混ぜながら少しずつ差異を取り入れてリフレインさせる。四連覇がかかる舞台でこれをやるか、という大胆な勇気と、好みが完全に真っ二つに分かれる演劇を持ってきたことに驚きを感じた。幕が下りた後は、会場が少し騒然とした。
yhs 『ラッキー・アンハッピー』
障害物競走が繰り広げられる前半と、胎児の遺伝子検査という重々しい社会的テーマをひっさげた作品。ラストでハートが落ちてくるシーンは心に響いた。
結果は、yhsの圧勝!
自分も投票しただけに、やはりうれしい。
審査員の三人の講評がじつに辛辣だった。それはそれで、劇作家の視点を学ぶことができて、大変勉強になる。表現したいことをどのように表現するか、そこがうまく表現されていない、という指摘は実に手厳しい。
審査員の歯に衣着せぬ講評を聞くかぎり、求められる作品とは、単にゴールに向かって伏線をストレートに回収させていくのダメで、何かしらの「ズレ」や観客を困惑させるような仕掛け(装置)があり、どちらか最後までよくわからないまま様々に解釈可能な拡がりのある人物描写や物語の展開をつくり、二分法で明確な線引きが不可能なキャラクター、感情が交錯した「ゆらぎ」がせめぎ合う作品、と言うことができる。
だからといって、審査員の求める要素をあますところなく取り入れて「タグ付け」した作品を上演して、「はい、こうです」と提示するのでは、きわめて退屈だ。そんな作品は失望しかもたらさない。いかに独自の手法で審査員と観客を「裏切る」か。そこにかかっているだろう。予選で審査員がぼろくそに言ったからといって、決勝で審査員の意見の通りに変更する必要など一切ないのだ。
審査員の講評は、演劇に長く携わった人間にしか獲得することのできない視点ならではのロジックで構成されていた。審査員の「イレブン☆ナイン」の高評価とyhsの低評価、観客のyhsへの圧倒的な支持は、観る側と作る側の間に横たわる大きな隔たりが露呈した結果とも言える。
正解はない。
終わった後は、ロビーで、友人で医師のM氏やK夫妻らと意見交換。さらには駐輪場でコピーライターのCさんとも遭遇。Cさんからは少々怒り気味の意見も出て、いろいろと考えさせられた。演劇で熱く語ることができるイベントは貴重だ。「イレブン☆ナイン」が挑戦者に回る来年も楽しみである。