ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

柏から考える|コンパクトな街としての可能性

2009年09月05日 | Weblog
東浩紀、北田暁大の『「東京から考える」再考』を読んだこともあって、今、住んでいる「柏」という街について考えてみた。千葉県柏市。wikiによると、

「利根川を挟んで、茨城県との境に位置する。市中央部は東武野田線・JR常磐線、国道6号・国道16号が交差する交通の要衝で、東京のベッドタウンとして人口が急増した。1970年代以降多くの百貨店が進出し、東京の衛星都市的な商業地としての機能を持ち、1980年~1990年代にかけて東葛地域の商業の中心都市的な性格に移行した。市北部はつくばエクスプレスが通り、大学、研究所、産学連携施設などが集積する文教地区としての顔を持つ柏の葉地域が中心。商圏人口は、約230万人[1]。プロサッカークラブ、柏レイソルのホームタウンとして知られる」

とのこと。僕もこれまでにいくつかの街で暮らしてきたが、この街は非常に住みやすい。この街の住人が柏のことを非常に好きなのもよくわかる。もっとも僕は「残念な町」と呼んでいたりするのだけど…。

で、この街について考えるとき、実は将来的も含めて1つのモデルケースになるのではないかと感じている。

人口約39万人。この規模感だけを見れば、都道府県の県庁所在地の市、中堅規模の中核市(30万人以上)クラスといったところ。しかし実感として、県庁所在地や地方の中核市に比べ非常に「コンパクト」なイメージがある。

実際、柏市(115k㎡)と同規模の長野市(730k㎡)と比べても1/6以下、富山市(1,242k㎡)に対しては1/10ほどなわけだけれど、それ以上に柏の場合、JR常磐線/千代田線と東武野田線が交差する駅前に商圏が集中しており、通勤通学、暮らしのための人の流れがここを中心に出来上がっている。また住宅も駅の周辺に集中しているということもある。その結果、駅を中心に半径300m~400mの間に商圏が集中しており、駅前にさえ出てくれば何もかもが手に入るという状態ができている。

また駅前の再開発の一環として高層マンションが建設されており、そうでなくてもこの商圏部分を越えれば(半径300m~)一戸建て、マンションを含めて住宅地となっており、また社宅なども多い。昔から柏に住んでいる高齢者の人から、東京勤務のお父さんを持つ家族、1人暮らしの学生まで様々な層が、駅を中心に重なりながら暮らしている。地方などで進められている「中心市街地活性化」政策への取り組みが既に実現されているような感があるのだ。

中心市街地活性化の取り組みは、商店街の活性化という意味合いはもちろんだけれど、同時に人口減少・高齢化という中でどのような都市をつくるのか、これまでの人口の増大と郊外化・自動車中心社会化という拡大路線が終わりをむかえた今、どのように「コンパクト・シティ」を実現するかという意味合いももっている。

住人が減り郊外に車を運転できないようなお年寄りが取り残される、あるいは税収が伸びない中で人のまばらになった郊外に対して上下水道や交通手段(バスなど)を整備するだけの財政負担がが厳しくなってきた、などなど拡大路線は限界を向かえ、職住近接型の街づくりへと転換しなければ、もたなくなっているのだ。

柏は東京の衛星都市として必ずしも「職」と「住」が隣接しているわけではない。ただし「職」の場所である「東京」への導線が駅前からに限られているため、結果、「暮らす」という部分でのコンパクト・シティが実現しているのだ。

また柏の面白いところとして、「美容院」と「裏カシ」がある。

正確な数字は知らないのだけれど、ここ柏は日本で一番美容院の激戦区なのだとか。まぁ、確かに美容院の数はやたら多い。こんなに利用する人がいるのかと聞きたくなるくらい、それこそコンビニよりも美容院を見つける方が簡単なくらいだ。と、「裏カシ」。原宿の裏通りにある「ウラハラ」に対抗するように?柏の古着屋やファッション店、雑貨屋、カフェなどは「裏カシ」と呼ばれている。

これらのショップは「小規模」「個性」をベースにしている。マーケティングと大量消費を中心とした「ユニクロ」や「マクドナルド」とは一線を画し、少人数のスタッフが自分たちの好きなものをセレクトし、それを気に入った人々が買いに来る。それぞれが独自のペースで商売を行い、自分たちのリズムを大事にする。中には、お客が来るまでスタッフ同士がショップの前に椅子を並べてタバコを吸いながら雑談に興じる、といった具合だ。

もちろん柏にも「ユニクロ」や「イオン」のようなローサイド型ショップは存在しているのだけれど、同時に、街の中心部にこうした小規模・個性をベースとしたショップ街があることは、街としての健全さや個性、活力と「居心地のよさ」を生み出してくれているのだろう。

その一方で柏は「東京から考える」で指摘されているように、国道16号線が貫いており、イオン的郊外・国道16号的郊外の象徴的な街でもある。モラージュ柏、イオン柏、ららぽーと柏の葉、流山おおたかの森 S・Cなど半径3~4kmの間にショッピングセンターが4つも存在しており、ヤマダ電機やユニクロ、郊外型のマクドナルド、ファミレスなどローサイド・ショップが多数ある。車を中心とした生活を過ごす人にはこれらは生活から切り離すことのできないものだろう。

しかしこうした空間だけではないところが柏の実際であり、東浩紀が支持する「動物化された」郊外ではない「心地のよさ」がコンパクトシティの中で実現されているのだ。ここに1つの可能性が在るのではないだろうか。

と、かなり今の柏に肯定的なことを書いたわけだけれど、冒頭でも書いている通り、そうはいっても僕は柏を「残念な町」と呼んでいる。1つは文化的な「質」が弱いこと。

、ファッションに関しては様々なショップやおしゃれな商品が存在しているのに、こと本屋に関しては新星堂カルチェ5にしろ浅野書店にしろ決して十分なものではない。また映画館に関してもすっかりシネコンばかりになってしまったこともあり、スクリーン数は24(おおたかの森含む)あるものの、上映されている映画はメジャーな作品ばかりで個性的な作品・ミニシアター系の作品が上映されないこと。これはこの規模の地方都市であればもう少し「ましな」作品が上映されているだろう。また演劇なども非常に弱い。文化面で非常に「残念な」感じがするのだ。

もう1つはそうはいっても柏にいればあらゆるものが揃ってしまうこと。しかしそれは必ずしも「本当に」満足したものではない。イオン的郊外・国道16号的郊外のように、そこそこ満足するようなものが揃っている。不快なものや不満足なものであれば、違うものを探せばいい。しかし柏の街中を歩けば「そこそこ」いいものが揃ってしまう。もっと探せば、あるいは東京まででれば、もっといいものがあるけれど、そこまでしなくても「これでいいかな」と思ってしまうのだ。

「本当に感動する」体験がないまま、ほどほどで満足してしまう。そういった動物化した時代らしさに、一方では支配されている街、柏。この街がもっと居心地がよくなるためには、街の個性、住民の個性をもっと引き出し、活かすようにならなければならないのだろう。




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