ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

クライマーズハイ:記者たちに「良心」は存在するのか

2009年02月21日 | 映画♪
遺族や関係者に少しでも早く届けたいという思い。事故の現実を伝えたいという思い。記者としての功名心。嫉妬。「日航墜落」という2度と巡り会わないであろう大事件に直面した記者たちの誰もが異様な興奮状態に巻き込まれる。果たして記者たちに報道機関としての「良心」は存在するのか――。

【ストーリー】
1985年8月12日、群馬県御巣鷹山にJAL123便が墜落、死者520人の大惨事が起こった。前橋にある北関東新聞社では、白河社長の鶴の一声により、一匹狼の遊軍記者・悠木和雅が全権デスクに任命される。そして未曽有の大事故を報道する紙面作り―闘いの日々が幕を開けた。さっそく悠木は県警キャップの佐山らを事故現場へ向かわせる。そんな時、販売部の同僚で無二の親友・安西がクモ膜下出血で倒れたとの知らせが届く…。(goo 映画より)




【レビュー】
原作は読了済み。ということもあって背景や人間関係についての事前知識があったのでそうでもなかったが、映画単体で見たときにいろいろな要素が盛り込まれ過ぎてて登場人物の掘り下げが弱くなってしまったのが残念。ただし本筋については熱いドラマが繰り広げられるので十分楽しめるのではないかと思う。

この映画の感想はというと…
果たして多くの人はこのドラマの主人公・悠木和雅に共感できたのだろうか。小説を読んだ時もそうだったのだけれど、僕はもう1つ共感しきれなかった。理由は単純で、自分が佐山や玉置の立場だったときに上司である悠木の行動を評価できるか、あるいは自分が悠木の立場だった時にあの決断をするのか、という点で悠木を評価できないからだ。

佐山が必死の思いで伝えた第1報を本意ではなかったとはいえ掲載できなかったこと。本当に諦める以外の手はなかったのか。現場の記者が真剣に伝えようとした「魂」のこもった雑感を一面で載せることはできなかったのか。そして玉置~佐山とつないだスクープを何故、掲載しなかったのか。

もちろん悠木の考えもわかる。

「チェック、ダブルチェック」

全員が「祭り」状態、クライマーズハイの状態で適切な判断ができているとは限らない。読者へ正しい情報を伝える義務、特に遺族に対して一刻も早く「事実」を伝えることの大切さ、そのことが必要なのはよくわかる。それが報道機関としての「良心」でもあるのだろう。しかし「事実」とは何だろうか。

スクープ合戦がいいことだとは思えないが、他社よりも早く「事実」に近づこうとすること、一歩でも早く「事実」を配信しようとすること、これは記者としての本能だろう。その上で事実とは何か、誰がどの時点でそれを事実と認定するのかを問うたとしたらどうだろう。少なくとも事故調査委員会が公式見解として発表した時点まで「事実」として扱わないのだとしたら、御用新聞以外の何でもない。

ジャーナリストである以上、独自の取材と読み、観察力、勘…そうした記者としての「経験知」がまだ「事実」として認定されていないものから「事実」を探しあてる。事件の関係者や権力が隠そうとしているものを「事実」として世に暴くのだ。

「サツ勘ならYesです」

佐山のこの感覚をどう判断するか。とはいえ、佐山自身も初対面の取材対象であり「出来すぎた感」のあるストーリーだからこそ100%の確証は持ちえなかったし、実際に取材対象者と会っていない悠木が確証をもてないこともよくわかる。その上で佐山の感覚をどう判断するのか――。そのことがスクープかどうかを分けることになったのだ。

先の見えない世界をどう読むか。これは僕らの仕事上でも通じる話だ。新しいサービスを作る、新しい商品を開発する、戦略的な価格設定をする、応札価格を算出する…いずれもそれが正しいかどうかは見えていない。今、在る情報の中から何を読み取り、どう判断するかが求められることになる。このサービスはいけるのか。この価格なら他社を出し抜き落札できるのか。確証はない。勝負どころでの判断力勇気、あるいは決断力。

もう1つ悠木に共感できなかったのはまさにここだ。何故、勝負できなかったのか、と。

と、この映画を見ていて感じたのは、やはりどこかで「報道」という名の下で自分たちのことを特権的に考えているのだろうなぁということ。遺品を勝手に持ち帰ったり、民家を我がもの顔で占拠したりととその厚かましさは、まさに今、ネットで「マスゴミ」と呼ばれていることの根底にあるものなのだろう。その厚かましさを許容できるだけの内容を報じているのか――誰もが発信者となれる今、そのことも問われているのだろう。

【レビュー】
総合:★★★★☆
役者がいい味出してました:★★★★★
もうちょっと削ったほうが…:★★☆☆☆

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映画「クライマーズ・ハイ」予告編



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【小説】クライマーズ・ハイ/横山秀夫


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