ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

セカイカメラと多層化する社会

2009年02月22日 | ビジネス
多層化する社会にどのような可能性を見出だすかという問題意識を持っている人間にとって、この「セカイカメラ」はまさに「この世界観だよ!」と思う反面、セカンドライフが直面したように、その世界観が受け入れられるまでには/普及・利用させるためにはまだまだ課題を残しているのだろう。正直な話、「セカイカメラ」に取り組んだ「頓智・」と「ソフトバンク」のメンバーには敬意を表したいと思う。

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「セカイカメラ」はAR(拡張現実)の技術を用いており、大前提としてあらゆる場所でも通信可能な社会、ユビキタス社会が前提となっている。しかもベースのビジネスモデルは広告モデルだという。

しかしそうだとするとまず3キャリアの中でシェアが20%程度しかないソフトバンクで、かつその中でもiPhoneを前提にするというのでは無理がある。Android版も用意するとのことだが、いずれにしろ日本では主流になるのは難しい。そんな状況では広告ビジネスは成立しないだろう。

そう考えると、本来、こうした技術は特定のキャリアに結びつくのではなく、むしろFelicaやGPSのように水平統合的なPFとしての立ち位置を目指すべきだろう。さまざまなデバイスが利用できる共通基盤的な位置づけになることで、さまざまなプレイヤーが参画し、さまざまなサービスが提供される。そしてそのことでさまざまなデバイスがそのPFを担ぎ、より多くの利用者を生み出すという具合に。

google MAPがそうであるように、Google自身はあくまでPFとしてさまざまなサービサーに開放するすることで、それぞれが利用用途なども含めてサービスを開発してくれる。ある種、Googleマップという生態系が自己増殖的に伸びていくことになる。これをもしYahoo!がYahoo!サイト上だけで地図とその上の広告だけを提供していたらここまで伸びただろうか。あるいはFelicaがDoCoMo端末にのみライセンスを供給していたら「おさいふケータイ」やSuicaやPASMO、nanacoといった電子マネーは普及しただろうか。本当にこうしたマス向けのAR技術を展開するためには「共通基盤」としてどのように普及させるかが大事になる。

その上でさまざまなサービサーの参画や利用者の求める情報を網羅していこうとすると、同時にさまざまな情報を表示するというのは適切ではない。情報の種類やサービサーによって、現実空間に重ね合わせる「情報」を整理する必要があるだろう。CADやPhotoshopの画面を思い起こしてほしいのだけれど、それらのソフトでは、ベースとなる素材に対して、いくつかの種別ごとに階層化した図柄を重ね合わせることができる。それは単に「上書き」ではなく、あくまで異なる階層の画面を透過的に表示しているのだ。

例えば、ベースとなる建築図面があるとする。どこが柱で通路の広さは何メートルで、といったことがわかる図面だ。これに違う階層として「配管」だけの図面を重ねるとする。そうすると建物の形に即したまま配管の経路を理解することができる。そしてその上に「電力線」だけの図面を重ねたとする。すると建物のどの部分の配管を通じてどれだけの電力線がどこに通っているかを把握することができる。もちろん全ての情報を1つの図面に記入することもできるのだけれど、そんなことをすると見づらいし、分散して作業することもできない。ここに「階層」という概念がはいることで、必要に応じて必要な画面を作りだすことができる。

セカイカメラのようなARの世界にも、こうした「階層化」という概念は必要だろう。人は全ての情報を欲しているわけではないし、サービサーも全ての情報を全ての人に提供したいわけではない。利用者が求めたときに、必要な情報を、深く提供することが求められるのだ。

仮にこれを「多層化社会」と呼ぼう。セカイカメラがこの多層化社会のベースになるのだとするならば、オープン性と切り替え可能な技術を用意する必要がある。

と、これはそもそもの話になるのだけれど、街中で仮に欲しい情報があったからといって「携帯」や「PDA」、「スマートフォン」を覗き込むということをするだろうか。普通に街中でその近辺の情報が欲しいとすれば、検索するという方法はもちろん、iコンシェルのように利用者に先回りして情報を入手してくれるというアプローチもあるだろうし、街中にQRコードを貼りそこから必要な情報を入手するというアプローチもある。検索やiコンシェルはともかく、街中でQRコードを読み込むという行為は、技術的にはこれだけ普及し実績があるにもかかわらずとんと見たことがない。これは行動特性としてやはり無理があるのだろう。

そう考えると、多層化した空間にアクセスするためには、もっと自然な形で利用できるようなデバイスや環境作りが必要なのだろう。

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