ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

リアル(7)/井上雄彦

2007年12月02日 | 読書
基本的にマンガ好きなわけですが、今、一番泣けるマンガは何かと問われたら、間違いなく薦めるのが井上雄彦の「リアル」。井上雄彦といえばバスケブームの火付け役となった「SLAM DUNK」や宮本武蔵を題材とした「バガボンド」が真っ先にあげられるかもしれないけれど、「泣ける」度合いからすると車椅子バスケをモチーフとした「リアル」だろう。





wikiに書かれた「リアル」のストーリー部分を引用すると、

自身の引き起こしたバイク事故により高校を中退、他人に一生残る傷を残してしまった罪に苛まれる野宮朋美。
車イスバスケットボールの有力選手でありながら、我が強くチームメイトと上手くいかずにチームを抜けた戸川清春。
自意識が強く、交通事故で下半身不随になったことを受け入れる事のできない高橋久信。
それぞれが向き合うREAL(現実)――。

とあるように、3人の主人公のうち、実は車椅子バスケをしているのは(現在のところ)戸川清春1人である。この戸川が所属する弱小チーム「タイガース」が物語の舞台には位置するものの、決して「SLAM DUNK」における湘北高校バスケ部のようにそれ自体が中心というわけでもない。

この物語は「障害者バスケ」がモチーフになっているものの、「障害者」であることが大事なわけではない。野宮、戸川、高橋という3人の主人公たちが直面する「壁」の象徴として「車椅子」「障害」というものが存在しているのだ。そのため(健常者である野宮はもちろん)彼らが直面している本当の問題というのは、必ずしもち「歩けない」ということではない。

野宮が直面している「壁」は、バイク事故の加害者であるという苦悩ももそうではあるが、その根底には周囲とうまく折り合いがつけれない「自分」であり、現実に対して腐っていた「自分」であり、未来につながる「俺の道」を行こうとしてもそこに立ちふさがる「現実」である。

戸川は、それまで自分の全てを賭けて誰よりも速く走ろうとしていたにもかかわらず障害者となったことで存在理由や1人の人格として認められないことへの不安、周囲に対する引け目、父親との関係など「障害者」であることに関わる「壁」に直面していたわけだけれどそれはあくまで過去のものとして描かれている。「トラ」との出会い、「ヤマ」との出会いを通じて、それらを越えた上で、自分が引き継いだ「タイガース」というチームを強くするために生じる周囲との軋轢やより自分を高みに導くためにはどうするかなど、健常者が主人公であってもぶつかる問題こそが壁となっている。

高橋は、それまでの自分のエリート意識や(今では自分も含まれる)障害者に対する弱者意識、あるいは彼をそうさせてしまっている家族との関係、自分を捨てていった「父親」に対するトラウマこそが「壁」となっている。現実が変わってしまった以上、自分自身を変えていかねばならないのに変われない自分自身――。

つまり「リアル」はあくまで、うまくいかない現実(リアル)、人間関係、自分自身と葛藤する物語なのだ。形こそ違えど、それは誰もが現実を生きていく上で直面している問題でもある。

7巻では、ついに因縁のドリームスとタイガースの試合が始まる。コーチもいてタイガース対策も練っているドリームスに対し、内部分裂を起こしながらも結束の固まった戸川清春率いるタイガースが必死に食い下がる。

せっかく見出した就職先が倒産し、またもや自分の道を見失いかけた野宮は呟く。

「もううんざりだ…お前らの あのイケてない練習はつながるのか?どこか この先に…見てえ…今どうしても」

「勝ちたい」という想い。「諦めない」気持ち。
誰もが番狂わせを信じ、肉体の限界を超えて彼らは戦おうとする。

試合の終盤、1人選手の減ったタイガースは必死の追い上げを続ける。しかし現実は決して甘くはない。

「終わりじゃねぇ…絶対につながる…」「道は途切れちゃいねぇぞ」

7巻では新しい登場人物・水島亮の視点から「仲間」とは何かが描かれている。そうなのだ。きっとこういうことなのだ。



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