鴨が行く ver.BLOG

鴨と師匠(ベルツノガエル似)と志ん鳥のヲタク全開趣味まみれな日々

テクノロジーという触媒

2011年03月21日 22時41分47秒 | ゲーム・コミック・SF
あっという間に三連休が過ぎていく・・・(=_=)←やや体調不良
今日は特にネタもないので、読み終わったSFのレビューでも。


ハイーライズ/J・G・バラード、村上博基訳(ハヤカワ文庫SF:絶版)


都市の郊外に屹立する40階建ての高層マンション。近代的で利便性の高い生活の象徴のようなそのマンションでは、高所得者層が住む高層階と低所得者層が住む低層階との間で、些細な確執が日増しに強まってきていた。ある日、最上階に住む宝石商の転落死をきっかけに、階層ごとの「階級闘争」が一気に表面化する。マンション中に充満する暴力と欲望渦巻く中、住人たちは次第に人としての理性を失ってゆき・・・

怖いよー(T_T)怖いよー(T_T)
鴨がこれまで読んだ本の中で、最もグロテスクな作品と言っても過言ではあるまい。ホントに怖いですよー。何が怖いって、登場人物であるマンションの住人たちが、一般的にはセレブと言っても差し支えないぐらいの社会的ステイタスにある人たち(低層階は低所得者といっても相対的な話で、社会的には十分立派な立場にある人たちばかり)であるにも関わらず、獣性を剥き出しにして闘争と破壊の喜びに目覚めていく、このプロセスがもぅ怖いのなんの。
物語は、最上階のペントハウスに住むこのマンションの設計者・ロイヤル、25階に住む医師のラング、2階に住むTVプロデューサーのワイルダーの3人を中心に進んでいきます。彼ら3人は、それぞれ高層階・中層階・低層階を象徴するキャラクター。治安の悪化を肌で感じつつも何故かマンションを去る決心がつかないロイヤル、争いに巻き込まれないようひっそりと暮らしつつもいつしか闘争の渦中に飲み込まれるラング、闘争をきっかけに高層階への敵意を爆発させ、屋上への登攀を開始するワイルダー・・・彼らの背後に霧のように立ち現れる女たちもキャラ立ってます。もはや殺人さえ日常と化してしまったマンションの中で、最後まで生き残るのは誰か?乞うご期待!

・・・という作品ではないんですねぇ、これはヽ( ´ー`)ノハラハラドキドキのサスペンスは、この作品にはありません。描かれているのは、高層マンションという近代的な閉鎖空間において人間精神が環境の影響を受けて変容する、そのあり様です。バラードの筆致は徹底して冷徹にして静謐。たいへんな暴力行為が描かれているのに、そこから受けるイメージは奇妙に美しく淡々として、そして静かです。
SFという文学ジャンルは様々な定義付けがなされていますが、鴨は、SFとは「変容を描く」文学だと思っています。変容の対象が外的要因であり、且つその規模が宇宙的なものであれば壮大なハードSFとなるでしょうし、内的要因を対象とした個々人の魂に切り込む変容であれば、ニューウェーブSFと呼ばれるようになるのではないかと。そういう意味で、鴨はSFの「S=サイエンス」なファクターは、決して物語の中心にならなくても良いと感じています。
この「ハイーライズ」をはじめとするバラードの「テクノロジー三部作」は、いずれも「近代テクノロジーを触媒とする環境の中で人間精神がどう変容していくか」を描いた作品です。40階建ての高層マンションという舞台設定自体は若干古臭いものの(1975年の作品ですからねぇヽ( ´ー`)ノ)、その目指さんとするところは紛れもなくSFであろうと鴨は思いますし、この設定だからこそ今読んでも十分インパクトのある普遍性を勝ち取るに至った作品なんでしょうね。

amazonのマーケットプレイスでチェックしたら、何かスゴい値段になってますね、これ・・・(^_^;
若い頃は全然理解できなかったバラード、この歳になって読むと相当面白いです。他にもいろいろチャレンジしてみよう(.. )φ
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