鴨が行く ver.BLOG

鴨と師匠(ベルツノガエル似)と志ん鳥のヲタク全開趣味まみれな日々

最近読んだSF 2016/2/1

2016年02月01日 19時38分32秒 | ゲーム・コミック・SF
いやー、第4四半期もあっという間に1ヶ月経ち、年度末らしく忙しくなってまいりました(-_-;
そんな中でも通勤電車内のSF読みは継続中。Twitterフォロワーの「桔梗花」さんに推薦していただいた作品を読了しました。

かめくん/北野勇作(河出文庫)

かめくんは、前の勤め先を整理解雇されて、この街にやってきた。新しい勤め先を見つけて、くらげ荘の1階の部屋を借りて、勤める業務は倉庫の荷受けと博物館のメンテナンスと、怪獣退治。勤め先の人たちやよく通う図書館の人たちと共に、穏やかな日常を過ごしていくかめくんは、自分が本物の亀ではないことを知っている。自分の認識が過去から断絶していることも。かめくんの世界認識は、日常の経験が蓄積するごとに少しずつ深化していく・・・。

あったかくて、ふんわりとして、少し切ない、異形の物語。

あらすじを読む限りでは、まるで子供向けのファンタジーのような、ふわふわして掴みどころのない話です。かめくんの日常は、時々ちょっとした事件があったりしますが全般的には淡々と描写されており、そこには手に汗握る冒険も複雑な謎解きもありません。登場人物はみんな悪気のない善人ばかりで、かめくんと彼らのやりとりが平易な筆致で描き出されていく、一見やさし気な物語世界です。
が、そんな世界のところどころに、ふと姿を現す「違和感」。まぁ、そもそも巨大な亀が人間と一緒に生活していること自体普通じゃないわけですがヽ( ´ー`)ノファンタジーっぽい物語だからそういうもんなのかなぁ、なんて考えていると後で手痛いしっぺ返しを食らう、実は相当にハードなSFの骨格がこの作品の背後に貫かれているということが、読み進めるうちに明らかになっていきます。

かめくんは、ある戦争のために生み出された生体兵器であるらしいこと。
かめくんはかつてその戦争の前線に何度も参加し、何らかの事情でドロップアウトして現在に至ること。
そうしたかめくんの自己に対する認識は、過去の記憶と共にリセットされていること。
その戦争は、今も続いているのか、何のために始まったのか、もはやはっきりしていないこと。
かめくんが住む街は、地球ではなく太陽系内のどこかに浮かぶコロニーの中に存在するらしいこと。
そして、その街に住む人間は、こうしたことに対して何とも思っていない(あるいは認識していない?)こと。
かめくんは、もうすぐ今の記憶を消され、再び戦場へと旅立っていくこと。

この物語は、常にかめくんの視点で、かめくんが経験したこと、かめくんが考えたことをフラットに描写していきます。それは即ち、読者がこの作品から受け取る情報量がかめくんの認識の幅そのままである、ということです。
出だしの頃は身の回りの事実をただ認識して受け止めるだけだったかめくんの心の声が、物語が進むにつれて幅と深みを増し、自分の存在意義について、世界の成り立ちについて、思索を深めていくようになります。つまり、読者はかめくんの認識力の広がりを追体験して、この世界の真の姿をかめくんと共に理解していくことになるのです。

しかし、そうして認識できた世界の姿が「真実」なのか、物語の中では明確に描かれてはいません。そもそも、この世界そのものが、かめくんが次の戦場に向かう途上のコールドスリープ中に夢見ただけに過ぎないのかもしれません。
そんな足元の不安定さを無自覚に理解しつつ、かめくんが紡いでいくかめくんの物語。ラストシーンにおいて、それまでの語りそのものが、かめくんがお世話になった図書館の人たちに遺した手記であることが明らかにされます。

主観という甲羅の中に、閉ざされた世界。

このSF的冷徹さ、突き放した世界認識。ほんわかした筆致に騙されそうになりますが、現代日本が生んだ認識論SFの傑作だと鴨は思います。

さて、積ん読で長編が溜まっちゃったから、次に読むのどうしようかな・・・(^_^;
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