
”LẠ GIƯỜNG”by Như Quỳnh
夜のニュースをボヤっと見ていたら、窓の外に激しくたたきつける雨の音。慌てて階上に走り、開け放しておいた窓を閉めてみたりする。
いや、普段はこんなことでは立ち上がりもしないレイジーなワタシだが、何しろ一昨日は我が家の駐車場が突然の雨で水没という事件あり、さすがに神経質になっているのだった。この調子で降り続けるなら、寝る前に一回、見回りに行ってみるべきかも知れない。
戸口に出、空を見上げてみると、いつの間にか夜の通りは水の匂いでいっぱいとなっている。いきなりやってきた猛暑に、脇に追いやられてしまった感があるけど、そういえばまだ梅雨だったんだな。
こんな具合に空気に含まれる水分の気配の強い日に私は、かっては殷々たるシンセ音楽など聴いていたものだが、最近はニュ・クィンである。この東アジアの海洋性で湿気の強い空気の流れの夏には、彼女のしっとりとしたベトナム歌謡に乗り、地上60センチくらいに魂を浮かばせて過ごしたい。家の裏の竹の囲いを吹きぬけてきた風は、夜になっても下がらない気温に汗ばんだ体をやさしく吹き抜けて行くだろう。
ニュ・クィンは1970年、ベトナム生まれの歌手だが、今はアメリカ合衆国に住んでいる。世界中に存在するベトナム人社会に向かって、伝統色の濃いベトナム大衆歌謡のCDを発表し続けている。
そんな彼女の、これは本年作、最新作。もう、ジャケからして良い感じなのである。白を基調とした清楚な雰囲気は彼女の歌に良く似合う。
多くの人が彼女の歌を表現するに当たって”たおやか”なんて言葉を使っている。無駄に感情を垂れ流すこともなく、しっとりと水分を湛えて、なだらかに上下するベトナム伝統のメロディを織り上げて行く彼女の歌声。それは、熱帯の一日における木陰の清水の流れのような慰めを、聴く者に与える。
今回のアルバムは民俗楽器あり電子楽器あり、彼女の特質を生かした好アレンジで、ニュ・クィンの歌世界の美しさを効果的に演出して見事だ。そしてニュ・クィンも、まさに水を得た魚のようにベトナム伝統美の湧水の中を自在に泳ぎまわっている。良いアルバムとなった。
それにしても、と聴くたびに思うのだが、ブラジル音楽におけるサウダージのような感覚って、彼女の歌には自覚的なものとして存在するのだろうか?後にしてきた故郷への想い、というものは。若くして故国を離れ、そして非常にベトナム的な音楽を歌い続けているニュ・クィンなのだが。
(このアルバムの曲は、まだYou=tubeにはあがっていません。で、他のアルバムの中から、とりあえず彼女の歌がどんなものかだけでもわかって頂こうと、下の曲を)