とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
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地球を半分に割ってみた - 重心と質点の話

2008年12月29日 20時50分20秒 | 理科復活プロジェクト

地球を8000万個に分割してみた」という記事の最後で「非対称な物体で万有引力の法則が成り立っているか数値計算する。」とお約束した。これは「物体の質点は一般に存在しない」という記事でイメージ的に説明したことを実際に引力を計算して具体的に示すということだ。

万有引力の法則とはこの式のことである。



非対称な形として僕が最終的に選んだのが南北に半分に割った地球だ。そうすると今日紹介するように計算が楽になるし、前回の数値計算で作ったプログラムが活かせるからである。少ない労力で結果を出せるならばそれがいちばんいい。

万有引力の法則の検証はこのような半月... いや「半地球」が宇宙空間に浮かんでいるときに、万有引力の法則で計算される引力とパソコンで数値計算して得られる引力に違いが見られるかという方法で行う。実際に数字で比べられれば、いちばんわかりやすいからだ。

まず掲載画像のような向きのでは考えにくいので、このような向きで考えることにしよう。この画像は地球の左側に太陽光線があたっていないだけなのだが、仮に半分無くなった状態だと考えてほしい。だから質量も体積も本来の地球の半分ということだ。




* 万有引力の法則による引力の計算

万有引力の法則を使うためには、引力の中心になる質点を半地球の中のどこかに設けなければならない。けれども「結論:物体の質点は一般に存在しない」で説明したように半地球の質点は存在しない。

そこで半地球の重心を質点とみなして計算をすることにした。「質点は2種類ある!」という記事で定義した「力点型質点」を質点(=重心)と仮定する。

ところで半球の重心はこれまで計算したことがないと思うが検索したところ「物理の小道、公式導出シリーズ 標準編」のNo.25のPDF文書で詳しく解き方が説明してあった。これを参考にすると半径を R (=6367Km)とすると重心の位置は中心から 3/8 R のところにある。

以下の計算をわかりやすくするために、今後の計算に必要な幾何図形を先に掲載しておこう。これは半地球の断面で、点Mがその重心(=質点)だ。


注意:この画像で「・」の箇所は文字化けで、正しくは「+」である。

万有引力の法則に従えば、この図で点Aと点Bは、重心M(=質点)からの距離が同じなので、それぞれAとBの地点での引力の値は同じである。AMの距離もピタゴラスの定理を使えば簡単に √73/8 R であることが計算できる。実際に地球半径Rや万有引力定数Gの値を使って引力の値を計算すると次の結果がでる。

地点A、地点Bにおける引力 = 4.31 N (N:ニュートン)

使った計算式はもちろんこれだ。

注意:この画像で「・」の箇所は文字化けで、正しくは「+」である。

地球自体の質量がちょうど半分になったので、これくらいの値になることはもっともらしいと思われる。けれどもこれが正しいかどうかはまだわからない。なぜなら点Mが質点であるというのは疑わしい仮定だからである。

ちなみに距離MCは 5/8 R なので地点Cでの引力も簡単に計算できる。計算式は地点A,Bの結果を使えば 4.31 x 73/5^2 = 12.59 となる。この値は明らかにおかしい。通常の球体の地球表面での引力が9.8Nなので、半地球でそれより大きい値が出るはずがない。でも計算は法則に従って正しく行っている。

地点Cにおける引力 = 12.59 N (N:ニュートン)


* 数値計算による引力の計算

次に地点Aと地点Bでの引力を半地球を構成する微小立方体からの引力の総合計として数値計算してみよう。球の地球のとき8000万個に分割したので半地球では4000万個ほどの分割数になる。数値計算での結果のほうが半地球について本当の引力の大きさが求められるのだ。

地点Aのほうは前に使ったプログラムを書き換えてこの gravity2.c を作った。こんなに短いプログラムで半地球の引力が計算できるのだ!今回の条件での計算のためだけにプログラミングしたので測定点を変化させるなどの条件変更は全くできない。微小立方体方式の利点は質点を設定しなくても引力を計算できることだ。実際に計算してみると次の結果を得る。

プログラム実行結果 (実行時間 7.2秒)
----------------------------------------
微小立方体分割方式での引力...: 5.843827
引力のX成分(右方向)..........: 3.094079
引力のY成分(手前方向)........: -0.000002
引力のZ成分(上方向)..........: -4.957519
地球の分割個数...............: 40425177


地点Aにおける引力 = 5.84 N (N:ニュートン)

先ほど万有引力の法則の式から求めた値 4.31N よりだいぶ大きい。

次に地点Bでの引力を計算しよう。上記の図形をよくながめると、前回「地球を8000万個に分割してみた」で作った gravity1.c というプログラムがそのまま使えることがわかる。ラッキーだ!(というよりプログラムが再利用できるから半地球を選んだのだ。)

地表から地点Bまでの距離CBは上の図の幾何学的関係から簡単に求められる。地球半径(=6367Km)を R に入れて計算してみると距離CBは 2821Km になる。これは前回の数値計算での条件で観測点を北極点の上空の高さ h に置くことに相当する。



さらによいことに前回のプログラム gravity1.c では「引力へ北半球が寄与する割合」も計算するようにしてあった。これによると地表からの高さが 2821Km のときの北半球の寄与は 72.79% となる。地点Bについても実際に計算してみると引力の値として次の結果がでた。

地点Bにおける引力 = 3.44 N (N:ニュートン)

ちなみに地点Cでの引力も前回のプログラムで簡単に計算できる。計算式は 9.805374 x 0.79315630 = 7.777194だ。0.79は高さ h=0 のときの北半球の引力寄与率である。

地点Cにおける引力 = 7.78 N (N: ニュートン)

この場合地点Bでの引力は点Mの方向に一致するが、地点Aでの引力の方向は点Mに一致しない。地点Aでの引力の方向は直線OC上のどこかで交わるが、それは質点ではない。観測点が地点Aから地点Cに円弧上を沿って移動するときにそれぞれの地点での引力の方向と直線OCとの交点は1点には固定されずにOC上を移動してしまうからだ。


* つまりこういうことだ

もう一度説明図を載せておこう。


注意:この画像で「・」の箇所は文字化けで、正しくは「+」である。

重心である点Mが質点だとして万有引力の法則に従って計算すれば次のような引力の値を得る。
地点Aにおける引力 = 4.31 N (N:ニュートン)
地点Bにおける引力 = 4.31 N (N:ニュートン)
地点Cにおける引力 = 12.59 N (N:ニュートン) -> 明らかに大きすぎる!

しかし実際の引力の値(=数値計算から得られる値)はこのようになった。
地点Aにおける引力 = 5.84 N (N:ニュートン)
地点Bにおける引力 = 3.44 N (N:ニュートン)
地点Cにおける引力 = 7.78 N (N: ニュートン)

つまり万有引力の法則で計算すると地点A、B、Cでの引力は正しい値にならないので、点Mを質点と認めることはできないし、半地球のような形の天体についてその近傍では万有引力の公式で引力を計算することができない。(観測点の距離がものすごく遠くなれば半地球も「点」として扱えるので万有引力の法則が近似的に適用できる。)

余談だが万有引力の法則を使ったほうの計算で「仮の質点」を直線OC上のどこにとっても地点Aや地点B、地点Cですべて同時に正しい引力の値を計算することはできない。

これで半地球には「引力型質点」が存在しないことが確認できた。だから引力型質点の存在を前提とする万有引力の法則はそもそも適用することができないのだ。

とうとう次回はこのシリーズの最後の記事するつもりだったが、そうはならないことに気がついてしまった。次回の記事では球体以外の物体ではどうして引力の方向が物体の重心を通らないか、つまり引力型質点がなぜ重心と一致しないのかということの根本的な原理を説明する予定だ。けれどもこの原理を考えているうちに前回の「質点は2種類ある!」で紹介した「力点型質点」の存在も疑わしくなってきたのだ。したがってこの記事に修正を加えることになるだろう。今後の記事のタイトルとしては次のものが僕の頭にある。

- 質点はなぜ重心と一致しないのか
- 2種類の質点は同じものだった (2種類の質点の記事の修正)
- 動いている球体の質点はなくなるのか

さらに質点の本質に迫っていくのだ。ゴールはもう視界に入ってきていると思うがそれはまるで地平線のようである。「これで最後」と言って「いや実は...」を何度も繰り返すとオオカミ少年のように言われてしまうので、今日のところは約束しないでおこう。面白そうなことが見つかるとつい寄り道してしまう僕のことだからきっと全く違う記事を書いてしまうことだろう。予定はあくまで予定なのだ。


余談:イソップ物語の「オオカミ少年」の寓話の教訓は「ウソつきはいけない。」ではなく、重大な警告が含まれているそうだ。それについてはこちらをご覧いただきたい。

この話は次の記事に続く。

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関連記事:

万有引力についてのこの一連の記事を最初から読みたい方は、「僕が物理や数学にハマりだしたきっかけ - 重心と質点の話」という記事からお読みください。
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4 コメント

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相変わらず… ()
2008-12-31 19:51:30
場違いですが(笑)、

他のスペースもないので、ここに書きますが…

今年はいろいろお世話になりました。

来年もまたよろしくお願いしますm(_ _)m

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Re: 相変わらず… (とね)
2008-12-31 20:52:27
まさん

> 他のスペースもないので、ここに書きますが…

確かにそうですね。(笑)いっそ「年末年始のご挨拶はこちらにどうぞ!」みたいな記事をひとつ用意しましょうかね。

途中で何度も大掃除から逃げ出しながら、ようやく年越しを迎えられました。僕にとっては相対性理論よりも苦手な分野です。

まさんとはひょんなことから今年のはじめに知り合うことができましたが、これも何かの縁でしょう。来年もお互い何事もなく平和にすごせるといいですね。

来年もまた物理や数学中心に僕は活動していきますが、よろしくお願いいたします。

楽しい正月をお過ごしください。
返信する
>いっそ… ()
2008-12-31 21:40:04
「年末年始のご挨拶はこちらにどうぞ!」みたいな記事をひとつ用意しましょうかね。

ぜひ。


>楽しい正月をお過ごしください。

とねさんも。
返信する
Re: > いっそ (とね)
2008-12-31 21:45:00
まさん

今年最後の記事を書いている途中です。(いつもながらの記事です。)

それを投稿してから「> いっそ」の記事を書くことにいたしましょう。

紅白にエンヤがアイルランドのお城から衛星中継主演して歌ってましたね。昔よく聴いていたので突然の登場にびっくりしました。
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