とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

僕が物理と数学にハマリだしたきっかけ - 重心と質点の話

2008年12月19日 21時31分25秒 | 理科復活プロジェクト

中学生のころから天文や数学は好きだったが、僕が物理や数学の本当の魅力に気がついたのは高校の物理の授業が原因だった。

ニュートンの万有引力についての授業ではいきなり「天体の全質量は質点に集中している」として次の万有引力の公式が紹介される。



「物理って何ていいかげんなんだろう。」と僕は思った。



この図で r をものすごく長くとったときのように天体が夜空の星のように点としてみなせるほど遠くに引き離した場合だったら、質点の仮定は「近似」として許せる。しかし下の図のように片一方がとても大きく、天体どうしが近い場合にに大きいほうの質量が中心に集中しているなどとしてよいものだろうか?



それは僕にとって「梅干を丸呑みしろ」と言われるに等しいことだった。さらにその質点は天体(物体)の質量重心の位置にあるというのだ。幾何学的な中心と重心は一般的には違うのに。

物体どうしがそれぞれ距離の2乗に反比例する大きさの力で引き合うというのは認めたとしても、距離と力の方向をはかる基準を質点に置くというのが解せなかった。基準にする点はどこかに設けなければいけないのはわかるが、それが重心だとするのも早計だし地球がほぼ球対称だから中心を基準とせよというのも安直だ。それこそ「蛮勇引力」の法則だ。(この駄洒落はたまたま漢字変換で表示されたので、いつか使ってやろうと思っていた。)

物体どうしがその質量によって引き合うならば、物体を構成する微小部分どうしが引き合い、それぞれの部分の合計の力で引き合っていることになる。地球上にいる自分を例にとれば、足元の地面も自分を引き寄せているし、地球の反対側のブラジルの地面もものすごく小さい力ながら自分を引っ張っている。

アメリカやフランスの地面も日本にいる自分を斜め下方向へ引っ張って引力に貢献しているはずだ。そのような地球上のあらゆる場所、地球の内部のマントルや核も含めて自分を引っ張る力をすべて合計したものが、今自分が足に感じている地球の引力になるという理屈。いろいろな方向にわずかずつの力で引っ張られているはずなのだが、私たちはいろいろな方向に引かれているようには感じない。それらは方向も含めて総合計され、ただ真下の1方向にだけ引かれていると感じるのが引力だ。

この引力は次のように地球を「無限個に」分割した微小体積要素にその部分の質量密度を掛け算し、自分から微小体積要素までの距離の2乗で割る。そして球全体で合計すれば引力は理論的には求まるはずだ。図で自分はPの位置にいるとする。



実際の計算は3次元の極座標と3重積分を使うことになるので高校レベルの数学では難しいが引力の方向と大きさを求めることができるはずだ。3次元の極座標とはこのような座標系のこと。僕はこの計算で得られる引力と質点を球の中心に置いた場合の引力の計算結果が(方向と大きさの両方について)同じになるとはにわかに信じられなかったのだ。3重積分を使う実際の計算式はこちらの記事でご覧いただける。

今だったらパソコンでシミュレーションして求めることもできるはずだ。その場合は直交座標を使ったほうがプログラムは簡単だ。地球を下の図のようにたくさんの微小な立方体に分割し、それぞれの微小立方体からの引力の影響を自分からの距離による減少の割合と方向を考慮に入れた上ですべて足し合わせればよい。赤い点が地球上の自分の位置だと考える。微小立方体を小さくすればするほど引力の計算精度は上がるはずだ。



しかし待てよ。自分が地表にいたとしたら地面の微小体積要素からの距離はゼロになって引力が無限大に発散してしまう。本当にこの方法で地球全体の微小引力の総和を計算できるのだろうか?


もやもやとしながら僕は考え続けた。そして下のような「やじろべえ」を思い浮かべながら物の重心というものについて考えはじめた。



やじろべえの腕についている2つの球の重心はもちろんそれぞれの球の中心にある。けれどもやじろべえ全体をひとつの物体とみなすと、全体の重心は画像の赤い点の位置にあることに気づく。

重心という物理的実体が何もないものが空間に浮かんでいるのが不思議だった。そしてやじろべえを支えている支点から重心に頭の中で(黄色い)線を引くと、まさにこれは「振り子」になることを僕は確信した。やじろべえの2つの玉の質量がこの重心に集中して見えない2倍の重さの玉となり、振り子を作っているのが僕には見えた。

やじろべえの回転方向は別にして、前後左右の揺れについては2つの玉の質量重心の位置に質量が2倍の玉を吊るした振り子と同じような力学的状態だと気がついたわけだ。

玉の質量が違う場合でも、それらの重心の位置を計算するのは簡単だ。



この図のような場合、重心の位置は次のような計算式で求められる。



玉の数がn個に増えても、この計算式は容易に一般化できる。Σは総和を表す数学記号だ。



n個の玉が直線上に並んでいず、空間に散らばっている場合でもこのように重心の3次元座標を計算できる。1次元から3次元への拡張だ。これは「力」がx、y、z成分に線形性を保ちながら分解できることを意味している。



つまり図示するとこのようになる。赤い玉すべてのの質量重心はGという黄色の点にある。(赤玉どうしの相対的な位置関係が固定していると考えるのが前提だ。)



上の3つの計算式はベクトルの足し算として1つの式にまとめることができる。もちろん力の重ね合わせに線形性が完全に保証されていることが事実の根底にあるのは間違いない。



さらに玉の数を増やしてお互いがくっつくようにすれば「物体」をつくることができる。そしてくっつけ方によってどんな形の物体も作ることができる。玉と玉がしまいに連続したひとつの物体になると考えると、その物体の重心の位置は次の式のように積分記号∫を使ってあらわされる。この場合の積分とは連続した無限小の要素 dV を領域 V のすべてにわたって足し合わせる∫計算のことだ。



ρが物体の質量密度、M が物体全体の質量だ。dV というところは物体を分割した微小部分の体積で、r は微小要素の位置、rc は物体の重心の位置をベクトルで表したものだ。

この段階で僕はその物体が「どんな形でもよくなっていること」に気がついた。すごいと思った。物体がどんな形であっても重心の位置はこんなにシンプルな式で表現されることに僕は驚嘆した。高校3年のときのことだ。この式は地球がジャガイモのようにいびつな形をしていたとしても重心の位置はこの式で計算できることを意味している。

「やじろべえ」の重心が見えない振り子の質点であることを認めると、力のベクトルの重ね合わせに線形性が保証されている限り、上のような連続物体に働く力学的な作用の「中心」の位置が質量重心の位置と一致することが論理的に矛盾なく導かれているようにも思える。しかしこれは重心を求めただけにすぎないのであって、それを引力の中心=質点と同一視してよいのだろうか?また引力が無限大に発散しないかということについての疑問も残っている。これについての検証は完了していない。

このような感じで僕が物理や数学に魅せられていったのだ。上記の考察を踏まえた上で以下の法則を読みなおすと、その深い意味にあらためて謎が深まる。2)は「定理」であって検証された法則ではないのだ。

=====================================================
1)任意の質量分布による万有引力質点の集合とみなしてそれらによる万有引力を重ね合わせたものに等しい。(重ね合わせの原理)

2)有用な定理:有限な大きさをもつ総質量M の球形の物体があり、その内部の密度分布が球の中心の周りで対称(球対称) とする。このときこの物体が外部にある別の質点に及ぼす重力や重力ポテンシャルは、球の中心に質量M の質点を置いた場合に得られるものと等しい。
=====================================================


なお、この話には続きがある。万有引力の公式からさらに計算を進めることによって、ニュートンの重力ポテンシャルψは次のような「ポアッソン方程式」と呼ばれる偏微分方程式の形で書き表すこともできるのだ。数式ってすごい。ポアッソン方程式の具体的なイメージを知りたい方はこのページをご覧になるとよい。



そこに至る計算過程はこのページでご覧いただけるのでご一読いただきたい。さらに数式の魅力にとりつかれることだろう。

このように重力ポテンシャルをポアッソン方程式のような「微分形」として記述することはニュートンから230年後、重力が瞬間的に伝わる遠隔力ではなく有限の速度で伝わる近接力であるという重力場の理論をアインシュタインが発見するきっかけとなった。そのあたりのことはこの論文の§5やこの論文の§16、そしてこの論文の§1で説明している。どれもアインシュタインが重力ポテンシャルのポアッソン方程式をどのように一般相対性理論に応用したかについて述べている箇所だ。

このほかにも多くの物理現象の根底に線形性が保証されていることの重要性について、そして線形性という性質がもしなかったら物理学や数学はおそらく発展しなかっただろうということについては、また今度別の記事で紹介することにしよう。

また自分と地表の距離がゼロであるのに引力の大きさが無限大にならず、地球の自分に対する引力が有限であることについては、後日また考察してみようと思う。無限大の発散については電子のくりこみ理論を見つけた朝永先生のお顔がちらつくが、たしか重力のくりこみ理論は失敗してしまったはずだし、これはまだ発見されていない重力子についての理論だったわけで。。。う~む、謎は深まる。

この話は次の記事に続く。


ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。
にほんブログ村 科学ブログ 物理学へ 人気ブログランキングへ 
コメント (10)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 道具へのこだわり: HHKB Pro... | トップ | 質点の定理: 引力の計算式を... »

10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
自分も計算しました (とある人)
2015-01-22 18:32:38
自分は浪人しているとき(笑)計算しました。
地球を微小部分に分割してそれと人間との引力の総和を求めました。
その結果、重心どうしの距離で単純計算していいことが確認できました。
高校の微積分の知識で可能ですが、夏休みの自由研究で使った模造紙くらいの計算量になってしまいました。

返信する
Re: 自分も計算しました (とね)
2015-01-22 22:23:44
とある人様

コメントありがとうございます。
ニュートンの質点定理は、物理を学ぶ高校生のうち疑問を持つ学生が多いもののうちのひとつですね。

微積分をつかった方法でご自分で計算された「とある人」様は立派だと思います。浪人生時代の自分を振り返ると、ひとりでは解けなかっただろうと思います。
返信する
Unknown (Unknown)
2017-03-25 22:31:52
(秋田大学の力学、電磁気学老一通信教育生)
球殻の質点が中心だとの証明は、電磁気学的にガウスの定理や球の空間対称性を活用した発想をすれは、力学的な三重積分や余弦定理など面倒で冗長な力づく計算をしないでもほとんどスマートに出てくるシンプルな頭脳の論理的イメージ展開だと思うのですが、これは初学者によくあるうぬぼれのぼせ症でしょうか。(Wikipedia :Shell theoremの後ろの参照)
返信する
Unkown様 (とね)
2017-03-25 23:59:58
Unknown様

古い記事にコメントをいただき、ありがとうございました。9年前の記事も読まれていることに少し驚きました。

確かにおっしゃるとおり、ご紹介いただいたガウスの定理を使った解法のほうがシンプルでエレガントだと僕も思います。

言い訳がましいですが、この記事を書いた段階で、僕は電磁気学の学習まで達していなかったこと、ニュートンの時代にはガウスの定理や、クーロン力は発見されていなかったことを添えて、力学の範囲で三重積分を使うのがとね日記史、科学史に沿ったものなのかなとも思うわけです。

ちなみにファインマン物理学ではこのような解法が紹介されていますね。(ご存知だと思いますが。)
http://d.hatena.ne.jp/ktonegaw/20090708/1247032628

あと、この例は球と質点の場合の解法ですが、球と球の場合だとどのように解けばよいのかなと、ときどき考えています。(ネット上に解法はまだ見つけることができないでいます。)
返信する
Unknown (Unknown)
2017-03-28 11:30:12
秋田大学理工学部一老通信生 U.K.
返答ありがとうございます。参考までに今、通信教育の力学の答案として準備している部分を貼ります。暇つぶしにして下さい。数式は一切使いません。イメージだけです。何枚かに渡りますが失礼します。
電磁気学の教科書では静電場でのガウスの定理の応用として、球面上の電荷による電場について必ず記述されているが、その発想をいわば一般力学分野においても「引力場」として推し及ぼしてみる。
返信する
Unknown (Unknown)
2017-03-28 11:35:48
(続き1。UK)
完全に一様に質量(いわば引力荷)が分布している球殻の外側のある任意の位置Pにおける引力場をイメージすると、球殻の各部分の引力荷からの引力が合成されて結局球の中心に向かった一定のベクトルになる。さて球殻が、完全に球の形状を保ちながら一様に中心に向かって次第に縮んでいくが質量の面密度は逆に相殺するように増加していき、球殻全体の質量合計は不変であるとする過程をイメージする。
返信する
Unknown様 (とね)
2017-03-28 12:27:58
Unknown様
コメントありがとうございます。
貼り付けた答案というのはどこにありますか?
提出前の答案ならば、貼り付けて一般公開しないほうがよいのではないでしょうか?同じ課題を提出する他の学生がコピーしてしまうかもしれませんし。
返信する
Unknown (Unknown)
2017-03-28 19:36:53
(続き1 UK)まず、完全に一様に質量(いわば引力荷)が分布している球殻とその外側の任意の位置Pをイメージし、Pにおける引力場(電場の代わり)を考える。それは球殻の各部分のいわば引力荷(すなわち質量。電荷の代わり)からの引力が合成されて結局球の中心に向かった一定の大きさのベクトルになる筈である。さて球殻が、完全に球の形状を保ちながら中心に向かって次第に縮んでいくが、逆に質量面密度は面積減少をちょうど相殺するように増加していき、結局殻全体の質量合計は不変、いわばきれいに潰れていく過程をイメージする。
返信する
Unknown (Unknown)
2017-03-29 11:16:09
(続き2 UK)この過程を通して固定位置Pにおける引力場は、引力荷(質量)トータルが同じで球の形状が維持されているから、ガウスの定理・空間対称性により、不変・同一。このつぶす過程を、球殻およびその全質量が中心の点に集中・収斂するまで進行させる。完全に潰れて点になってもトータルの引力荷量が同じなので結局、球外の任意の固定位置Pでの引力場ベクトルは終始一貫、同一・一定・不変である。(実質証明終)。球殻から球体への論理展開はファインマンさんの記述を援用する。
・以上です。スペースをお借りしてすみません。いかがですか。数式は一切使っていないので証明といえるか?(秋田大学理工学部通信学生U.K..)
返信する
Unknown様 (とね)
2017-03-29 14:05:26
Unknown様
ご説明いただき、ありがとうございました。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

理科復活プロジェクト」カテゴリの最新記事