とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

アインシュタイン選集(2): [A2] 一般相対性理論および重力論の草案(1914年)

2008年04月05日 17時40分27秒 | 物理学、数学
[A2] 一般相対性理論および重力論の草案(1914年)

[A1] 光の伝播に対する重力の影響」という論文で重力場が光の速度を遅くすることによって光の進路が湾曲することを計算したアインシュタインはさらに考察を深めていった。

この[A2]の論文の冒頭で彼は重力質量と慣性質量が厳密に一致することについて言及している。重力によって測定される質量と物体の動きにくさから測定される質量とは、もともと原因が異なるわけだから、両者が一致していることは本来自明ではないからだ。空間における物体の運動理論を展開するためにはこのことを前提条件としてきちんと述べておく必要があったのだ。

§1:静的重力場における質点の運動方程式

まずアインシュタインは特殊相対性理論で導いた ds^2 = - (dx)^2 - (dy)^2 - (dz)^2 + c^2*(dt)^2 という4次元時空でのピタゴラスの定理ともいうべき関係式と解析力学のハミルトンの原理を使って等速直線運動をする質点の運動量とエネルギーと力(重力)を質点の速度と質量を使って書き表した。dsとは4次元時空における隣接した2点間の距離を意味している。

特殊相対性理論は「加速度と重力は区別できない。」という「等価原理」を前提とする一般相対論的な曲がった空間の部分部分を構成する近似として彼は考えることにした。空間の各点で光の速度が変化すれば、全体的に光は遅くなりその軌跡も湾曲する。空間についても微小なそれぞれの部分が縮めば全体として湾曲した一般的な空間を表現できるとしたわけだ。

§2:任意の重力場における質点の運動方程式および重力場の表現法

空間の各点で光の速度が変化することは特殊相対性理論の範囲を超える。つまり特殊相対論で導いた ds はもはや不変量ではなくなってしまうわけだ。これが不変量であったおかげでその空間は直交空間としての性質を保っていられたのだ。

曲がった空間を数学的に説明する前に、通常私たちが知っている直交空間、つまり曲がっていない空間について補足しておこう。よく知られている「ピタゴラスの定理」がいちばんわかりやすい。2次元の平面での微小距離をそれぞれdx, dyとすると微小長方形の対角線dsとの関係は次のようになる。

(ds)^2 = (dx)^2 + (dy)^2

これが2次元の場合のピタゴラスの定理だ。同時にこれが円の方程式になっていることやdxとdyについて対称(dxとdyを交換しても同じ式が得られる)から空間的に等方的になっていることがわかる。3次元の場合も同様に次のようにあらわされる。

(ds)^2 = (dx)^2 + (dy)^2 + (dz)^2

これは球の方程式になっていることやdxとdyとdzについて対称(dxとdyとdzのうち任意の2つを交換しても同じ式が得られる)からこちらも空間的に等方的になっている。つまりX軸、Y軸、Z軸のどの方向にも空間は同じ縮尺で延びているので空間が直交的であることを意味している。

2次元の場合の関係式を次のように書き表してみる。むずかしいことではない。実は係数が1と1にになっていることが空間の直交性を表しているのだ。

(ds)^2 = 1*(dx)*(dx) + 1*(dy)*(dy)

dxやdyをベクトル的に X = (dx, dy) と考えなおしてみる。すると上の式はベクトルXとXそれ自身の内積の定義と同じであるということが高校でベクトルを勉強した人には想像がつくだろう。さらにこの内積の式を一般化するために単位行列をEとした場合に次のようにかきあらわせる。

(ds)^2 = [行ベクトルX] E [列ベクトル X]

1つ前の式で係数が1と1になっていることが単位行列Eの対角成分が1でそれ以外の成分がゼロになることと結びついている。対角線の成分だけが1になっていることがその空間が直交空間であることを示しているのだ。右下がりの対角要素が1であることはX軸とY軸の縮尺が等しいことを意味していて、左下がりの対角要素が0であることはX軸とY軸の中間方向の歪みがないことを意味している。3次元の場合でも同じように3次元の単位行列Eによって空間の直交性を示すことができる。時空の4次元空間でも要素の符号はプラスとマイナスで逆になるが同様の説明をすることができる。

空間が曲がっているとはこの単位行列に対応する部分の行列の要素がそれぞれ1やゼロ以外の値に変化することで表現できる。空間の各点に割り当てられた行列の値はその座標の位置によって変化するとすればよい。つまり行列のそれぞれの要素はdx, dy, dzから計算される関数である。

高校生のときに座標の1次変換でグラフに示された正方形が平行四辺形に変換されるのを学習したが、相対性理論もこの考え方の延長だ。3次元の1次変換だと立方体は平行四辺形で構成される六面体に変換され、4次元時空の場合も超立方体は周囲を六面体で囲まれた超六面体(4次元的平行六面立体?)に変換される。時空の各点で1次変換の行列が少しずつ変化すれば、変換される微小空間もすこしずつずれていき、全体的に曲がった空間が構成される。一般相対性理論における曲った時空とはこのようなものだ。

注意:1次変換のときの行列と上で説明している行列は別のものである。1次変換のときの行列はベクトルの線形変換を表しているのに対し、ここで説明している行列はベクトルとベクトルの内積(2次式)の係数に対応しているものだ。空間の直交性を説明するために、ここではあえてたとえ話として1次変換の例を使わせていただいた。ここで空間の直交性のために引き合いに出している行列g(u,v)は「計量(行列)」と呼ばれるものである。このあたりのことは次の[A3]の論文の最後で具体的に説明しておいた。

同じ考え方を4次元の時空にも適用することによってアインシュタインは時空の各点において曲がりを表現する4次元のg(u,v)という行列を想定し、これを基本テンソルと呼んだ。この記事の読者のみなさんは「テンソル」とは「行列」だと思っていただいて差し支えない。(実際、テンソルは行列やベクトルを一般化したものである。) uとvはテンソルの縦と横の要素を示すための添え字で、1,2,3,4のいずれかの数字となる。特殊相対性理論の場合、基本テンソルg(u,v)の対角要素は[-1, -1,- 1, c^2]で、4次元時空でのピタゴラスの定理の係数に一致している。

(ds)^2 = (-1)*(dx)^2 + (-1)*(dy)^2 + (-1)*(dz)^2 +(c^2)*(dt)^2

次にアインシュタインはこの曲がった時空で運動量やエネルギー、力(重力)がどのように表現されるか計算している。(計算を楽にするためにハミルトンの原理を再び使っている。)

本質的な意味には影響しないのだが、数式の表現を簡単にするため、彼は x, y, z, tのかわりにx1, x2, x3, x4を使い、さらにxi (i=1,2,3,4)のように略記することで4次元時空を表現している。

§3:空間および時間の測定に対するg(u,v)の意味

さて、曲がった時空をg(u,v)で表現するとしたのだが、どのように曲がっているのかわからないので、一般的にg(u,v)が具体的にどうなっているか表現することは至難の業である。4X4の各要素が時空の各点でどのように変化しているかを関数として一般的な形で導くことだからだ。

その手がかりとして彼は時間と空間の物理的意味に注目した。特殊相対性理論の場合とは異なり、空間・時間座標x1, x2, x3, x4と、物指や時計を使って測定して得られた距離や時間には簡単な関係は存在しない。したがって、座標x1, x2, x3, x4が物理的に意味をもって原理的に測定可能な量かということにも慎重であるべきだ。これが「相対理論」たるゆえんでもあるのだが。

この疑問を解決する手段として、彼は実際の測定から得られる時間と空間の測定値から考えられる「自然座標系」と「重力場によって曲がった時空系」との間の関係式をg(u,v)を仲介として書き表した。

§4:任意の重力場における連続体の運動

空間に何もないと議論が進みにくいので、アインシュタインは物質が連続的に空間に分布している状況を考えた。その中で微小部分の運動方程式を計算してみたのだ。

まず、質点の閉める3次元体積を計算し、連続体内の各点が時間の経過とともに描く4次元的軌跡と4次元体積を求めた。単純な4重積分の計算である。

次に静止または等速直線運動している自然座標系と重力座標系の間の関係式が線形変換であることを利用して、4次元体積どうしの変換をあらわす関係式を導いた。最後に運動量やエネルギー、力(重力)を4次元体積で割り算してθ(u,v)であらわされる「反変張力・エネルギー・テンソル」と曲がった4次元時空で成り立っている「運動量・エネルギー保存則」を導いた。

θ(u,v)「反変張力・エネルギー・テンソル」はわかりにくいと思うが、曲がった4次元時空における物質の集団的流れを表すものだというイメージでとらえてほしい。ここで彼が流体力学的なアプローチをとっていることに気づけばしめたものである。

§5:重力場の微分方程式

重力場の中における物質現象(力学的、電磁的およびその他の現象)に対する運動量・エネルギーの保存則が得られたのだから、次に残っているのはθ(u,v)「反変張力・エネルギー・テンソル」が与えられたときにg(u,v)を計算するための微分方程式はどのようなものかという問題である。

アインシュタインがここで手がかりにしたのは流体力学的なアプローチである。つまり、ポアッソンの方程式を4次元時空に一般化させて4次元テンソルを使って与えられた状況を仮定した。つまり、ポアッソンの方程式

Δφ = 4πκρ

を次のように一般化したのだ。(意味はわからなくてよい。)これを4次元空間での物質の方程式とした。

κθ(u,v) = Γ(u,v)

もちろんθ(u,v)やΓ(u,v)にはg(u,v)が含まれている。

流体力学や電磁気学で用いられるΔはラプラシアンと呼ばれる微分演算子で、場の勾配(Grad)に発散(Div)という演算をほどこして得られる。アインシュタインはこれを4次元時空の「反変張力・エネルギー・テンソル」に対応させて考え、任意の座標変換に対してテンソルとして振舞う微分を含んだΓ(u,v)というテンソルの形を追求することにしたのだ。

微分形式を含んだテンソルの計算はこの記事のレベルをはるかに超えるので省略するが、その計算過程で彼は重力場の微分方程式の1次の近似がニュートンの重力論の方程式になることを確認し、さらに2次以上の項が重要な役割をしていることを述べた。

もうひとつ彼が確認したのは「運動量保存則」と物質現象の方程式κθ(u,v) = Γ(u,v)を仮定し、テンソル演算をすることによって4行にも渡る複雑な恒等式が導けたことである。この恒等式は入力するのが大変なので画像を貼り付けておく。(数式を使わないと宣言したのにごめんなさい。)



この恒等式にでてくる中括弧{}の中が求めたいΓ(u,v)であり、再び複雑なテンソル計算の後に重力場に対する保存則を示す方程式が得られる。

彼がここで発見したのはこの方程式が物質現象の張力・エネルギー・テンソルθ(u,v)がその保存則を示すのとまったく同じ形で、重力場のテンソルが重力場に対するエネルギー・運動量保存則を示す式の中に現れていることである。これら両方の保存則を導きだした方法はまったく異なるのに同じ形の方程式が得られることに注目したのだ。(この箇所は説明を省略しているので理解できなくて当然なのでご心配なく。)

彼はさらにテンソル計算を進め、物質と重力場をいっしょにした全系に対して運動量・エネルギー保存則が成立することを導き、物質現象の張力・エネルギー・テンソルと重力場の張力・エネルギー・テンソルを使って重力場の場の方程式を非常に簡潔な形で表現することに成功した。

§6:物理現象、とくに電磁現象に対する重力場の影響

アインシュタインは曲がった4次元時空への座標変換によって、物質の物理現象はすべて同じように起きるべきだと想定した。しかしアインシュタインは慎重で控え目である。前のセクションで得られた重力場の方程式は任意の1次変換に対して「共変的」であることを示せたにすぎない。すべての物理現象が同じようにおこるためには、もっと一般的な条件で変換群が存在するのではないかと疑ったのだ。この問題はあまりに難度が高いので、さしあたり彼は電磁場の方程式に着目した。

計算手順は省略するが、4次元時空で電荷の運動を定式化することによって彼は電磁場に対しては運動方程式が2階反変テンソル(2次微分形式を含んだテンソル)で表されることを示し、マックスウェルの電磁場の方程式を曲がった4次元時空に一般化して表現することに成功した。そして重力場がないときに、この方程式はマックスウェルの方程式に一致することを示した。

§7:重力場は一つのスカラー量で記述できるか?

重力場の方程式があまりに複雑なものになったので、アインシュタインはこれが1つのスカラー量で記述できるかどうかについて補足説明を行っている。しかし、答はノーである。その反例として彼は空洞放射の実験をあげて矛盾を導き出した。(詳しい説明は省略。)

この段階で一般相対性理論はまだ完成していない。重力場が4次元のテンソル微分方程式で表現されることは導けたが、より一般的な形でこれを重力方程式として解けていないからだ。この理論が完成するには次の「[A3] 一般相対性理論の基礎(1916年)」の発表まで待たなければならない。



関連記事:

アインシュタイン選集(1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559

アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e

時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e

少年の頃の夢(の続き)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a6e4b9271cd56b2e85c3bdaa0b8b7cae

とね書店:

アインシュタイン選集(1)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030192/503-5691539-3879144

アインシュタイン選集(2)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030206/503-5691539-3879144

アインシュタイン選集(3)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030214/503-5691539-3879144


応援クリックをお願いします!
にほんブログ村 科学ブログ 物理学へ 人気ブログランキングへ 

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「地頭力」と企業の採用活動... | トップ | 不思議と自明の狭間で。(時... »

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
一般相対論 (千京夕夏)
2008-04-11 16:07:46
解説ご苦労様です。

とねさんの記事を読んでいて
一般相対論へのトライを再開したくなりましたよ。

家には何冊も相対論の本がありますので
準備はすでに完了しています(^^;

接続の変数変換の長い公式も導出している
途中で嫌になってしまてやめてしまっていたので
こちらも再チャレンジです。
返信する
Re: 一般相対論 (とね)
2008-04-11 20:43:23
千京さん

> とねさんの記事を読んでいて
> 一般相対論へのトライを再開したくなりましたよ。

こういうことおっしゃっていただくと、いちばん励みになりますね。ありがとうございます!

> 接続の変数変換の長い公式も導出している
> 途中で嫌になってしまてやめてしまっていたので

確かにこのあたりは忍耐と辛抱が要求されるところですよね。
僕はリーマン幾何学の部分もそのうちこのブログで解説しなければならなくなりますが、数式なしでどこまで踏み込めるか皆目見当がついていません。中学や高校の数学の内容でさえも、数式なしで説明するのがかなり厳しいものであるわけですから。僕は無謀な挑戦をしているのだなとあらためて思いました。

今、いちばん難しい[A3]の論文の理解に取り組んでいるところです。
返信する
Re: 一般相対論 (千京夕夏)
2008-04-13 20:46:47
> 接続の変数変換の長い公式も導出している

これは接続の「変数変換」ではなくて
「座標変換」ですね。間違っていました。

>数式なしでどこまで踏み込めるか
>皆目見当がついていません。

私の場合、もし書くとしたら
数式をばしばし書きたいなという
欲求があるのですが、

いかんせん、TEX も使えなく
数式を描けないので、とりあえずは
日本語表示かなと。
返信する
Re: 一般相対論 (とね)
2008-04-13 22:24:20
> これは接続の「変数変換」ではなくて
> 「座標変換」ですね。間違っていました。

そう言われてみればそうですね。僕も読み流していました。(^v^);

> いかんせん、TEX も使えなく

僕はTEXは少し使えますけど、やはり面倒です。
OpenOffice Mathなどの数式エディタもブログのビットマップ画像のための解像度は十分満たされますが、やはり入力が面倒です。

数式を挿入したブログやHP書く人って、きっとマメで手間を惜しまないのでしょうねぇ。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

物理学、数学」カテゴリの最新記事