とね日記

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アインシュタイン選集(2): [A3] 一般相対性理論の基礎(1916年):A

2008年04月13日 17時11分06秒 | 物理学、数学
[A3] 一般相対性理論の基礎(1916年)

この[A3]の論文で一般相対性理論はひとまず完成する。けれども54ページあるので以下の5つの記事に分けて説明することにした。

A: 相対性の要請についての原理的考察
B: 一般共変方程式に対する数学的準備
C: 重力場の理論
D: 物質現象
E: 第1次近似としてのニュートンの理論


A: 相対性の要請についての原理的考察

この部分はほとんど数式を使わず文章だけで書かれているので、自分の言葉に言い換えて説明することにした。

§1 特殊相対性理論に関する注意

一般相対性理論を展開する前に、その基礎となる特殊相対性理論の前提について述べている。ガリレイやニュートンの力学でも「相対性原理」があり、静止している系Kと等速直線運動している系K'のそれぞれで成り立つ物理法則は同じというものだが、この意味では特殊相対性理論でも同じ原理を採用している。けれども特殊相対性理論では真空中の光速度が一定という前提を加えたため、時間と物体(空間)は物体の速度に影響されて収縮することとなった。特殊相対性理論が時間と空間についての常識をくつがえしたのは光速度が一定という条件を加えた結果なのだ。

したがって時間や空間の感じ方(観測のされ方)は、空間の中のそれぞれの場所で、そして時刻が異なればそれぞれのタイミングによって異なってしまい、自分のいる場所と観測する対象がある場所から常に「相対的」に考えなくてはならない。これが「相対性」という言葉がこの理論に与えられた理由だ。

アインシュタインが特殊相対性理論の前提とした「相対性原理」は速度によって収縮する時空に存在する異なる2つの系についてさえ物理法則は同じ形になっているべきであるというものである。


§2 相対性の要請の拡張の根拠

この部分でアインシュタインはまず古典力学に認識論的な欠陥があることを述べている。物体S1の周りを回っている物体S2について、その運動の結果物体の形がS1とS2で異なって観測されたとすると、その系だけではその違いの原因を説明する手段を持っていないからだ。相対運動する2つの物体で成り立つ物理法則は同じでなければならないので、必然的に「相対性」についての要請を拡張することが必要になる。そのために彼は「加速度運動している系」を考えた。

等速直線運動している系をKとし、このKに対して加速度運動している系をK'とする。Kにいる人は自分が静止していると感じ、K'にいる人も自分が加速度運動をしているとは思わない。そのかわりに自分が持っている物体が加速度運動をするのを観測し、それが彼の周りに重力場が存在するからだと思うのだ。 

つまりKという座標系もK'という座標系も自分は「静止系」だと主張できる。一般相対性理論では「相対性」についての要請は実際にはKに対して加速度運動しているK'についても成り立つことした。そして一般相対性理論ではこれら2つの座標系の変換が重力場を見かけ上つくり出していることがわかる。[A1]の論文で導いたように重力場のよって光線は湾曲するのだから、真空中の光速度は一般相対性理論では一定ではなくなる。


§3 時空、物理法則を示す方程式の一般共変性の要求

古典力学や特殊相対性理論で、時間や空間の物理的意味は物理現象が起きる時刻や位置を座標の値として考えればよいので明らかだが、常に2つの座標系の間で座標変換を必要とする一般相対性理論で時間や空間は物理的に意味を持つためには、どのような条件が必要かということをアインシュタインは考察している。

結論から言えば「すべての自然法則はあらゆる座標系に対して成り立つような等式によって表現されるべきである。すなわち、任意の座標変換に対して共変(これを一般共変とよぶことにする)な等式によって書き表わされるべきである。」とした。もちろんここで言う座標系は時空の4次元座標系である。

4次元の2つの座標系は時間t=x4とするとそれぞれ(x1, x2, x3, x4)と(x'1, x'2, x'3, x'4)であり、それらの間で成り立つ一般的な座標変換を求めることが一般相対性理論のとるアプローチだ。ここで「共変性」という言葉が使われているが、今の段階では一方の系での値の変化と座標変換後の系での値の変化が共に(連動して連続的に)変化するという程度の意味で理解していてよい。


§4 時間・空間的測定と座標との関係、重力場の数式的表現

さて、2つの4次元座標の間の一般的な変換をどう表現するかがここからのテーマである。曲がった時空の間の座標変換を数式で表現することはむずかしそうだ。

アインシュタインは曲がった時空の4次元空間を「無限小の真っ直ぐな空間」がつながったものとして考え、変換前の無限小空間から変換後の無限小4次元空間への変換を考え、変換後に(真っ直ぐな)無限小4次元空間を空間と時間の方向につなぎ合わせて曲がった時空の4次元空間を作り出せばよいとした。これは微分幾何学的な方法だ。数式では全微分で表した微小の長さの組を4次元行列(テンソル)を使って変換することになる。

[A2]の論文で取り上げた4次元微小直方体の対角線の長さ ds は4次元時空の2点間の微小距離を表す「線素」で、次のように書き表せる。

(ds)^2 = -(dX1)^2 - (dX2)^2 - (dX3)^2 + (dX4)^2

(ds)^2の値はマイナスになることもありえるわけで、マイナスのときはこの線素は「空間的」と呼び、プラスのときは「時間的」と呼ぶことにする。

同じ線素を別の座標系を基準にして見た場合、dX1はdx1として、そして残りの要素はそれぞれdx2,dx3,dx4として表すことにする。するとdX1~dX4はdx1~dx4のそれぞれに係数をかけて加え合わせた1次式(線形同次式)で表すことができる。微小空間は直交空間なので2つの領域の変換は高校で習った1次変換の4次元バージョンになるのだ。(あ~あ、数式を使わないと約束したのにごめんなさい。でも高校の範囲だし足し算と掛け算だけなので許してね。)

dX1 = a(1,1)*dx1 + a(1,2)*dx2 + a(1,3)*dx3 + a(1,4)*dx4
dX2 = a(2,1)*dx1 + a(2,2)*dx2 + a(2,3)*dx3 + a(2,4)*dx4
dX3 = a(3,1)*dx1 + a(3,2)*dx2 + a(3,3)*dx3 + a(3,4)*dx4
dX4 = a(4,1)*dx1 + a(4,2)*dx2 + a(4,3)*dx3 + a(4,4)*dx4

行列を使って書くと

dX = A*dx (簡単だ!)

これを先ほどの4次元の線素の式に代入して(ごちゃごちゃ)計算すると次のような形になる。これはdX1~dX4を消してしまうための計算だ。dX1~dX4を消しても変換のための行列Aの情報は形を変えて次のg(u,v)の中に含まれているので2つの系の間の「一般相対性」の意味は失われない。

(ds)^2 =
g(1,1)*dx1*dx1 + g(1,2)*dx1*dx2 + g(1,3)*dx1*dx3 + g(1,4)*dx1*dx4 +
g(2,1)*dx2*dx1 + g(2,2)*dx2*dx2 + g(2,3)*dx2*dx3 + g(2,4)*dx2*dx4 +
g(3,1)*dx3*dx1 + g(3,2)*dx3*dx2 + g(3,3)*dx3*dx3 + g(3,4)*dx3*dx4 +
g(4,1)*dx4*dx1 + g(4,2)*dx4*dx2 + g(4,3)*dx4*dx3 + g(4,4)*dx4*dx4

行列を使って書くと

(ds)^2 = ∑ G*dx*dx
ただし G = g(u,v)

となる。Gは4次元の行列で時空の微小距離の両端はお互いに対等な関係にあるので、uとvを取り替えてもg(u,v)の値は同じだからg(u,v)=g(v,u)となるのでg(u,v)=Gは対称行列となる。

このg(u,v)は[A2]の論文で説明したように時空の各点の伸縮を表す尺度を意味していて、4x4の値の組み合わせなのだが、g(u,v)が対角線について対称的なので時空の伸縮は10個の値で表される。時間と空間の縮尺が伸縮する結果、それは曲がってしまう。多とて言えば時空を織りなす布でできた洋服の繊維が伸び縮みすると洋服の形が曲がってしまうようなものだ。

したがって一般相対性理論では時空の各点でg(u,v)の値は変化する。つまりg(u,v)自体もx1,x2,x3,x4の関数になってくる。数式であらわせばG(x1, x2, x3, x4) = g[u,v](x1, x2, x3, x4)となる。それが時空の各点で曲がり方が変化しているということなのだ。曲がった4次元時空は曲線座標であり、それは微小な4次元斜交空間の集まりで表現される。斜交空間とはそれぞれの座標軸傾いて交わっている空間だ。また、曲がった時空全体から曲がった時空全体への変換が求めたい「一般の変換」で、それは4次元の微小空間レベルの変換で考えれば対応するそれぞれの微小斜交空間から微小斜交空間への1次変換となる。

ここで外力の加わらない物体は「時空」の中の「直線」になる。時空が曲がっていればその直線は曲がって見え、それを私たちは重力が働いた結果だと感じる。すなわちg(u,v)という時空の曲がりを表す量は重力場を記述する量となっていることがわかるのだ。重力によって4次元時空の中で曲がって見える直線は、空間的には縮むことになり、時間的には延びることになる。この10個の「関数」であるg(u,v)を重力場を記述する「計量」と呼んでいる。


関連記事:

アインシュタイン選集(1)
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時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
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少年の頃の夢(の続き)
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とね書店:

アインシュタイン選集(1)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030192/503-5691539-3879144

アインシュタイン選集(2)
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2 コメント

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一般相対性理論をやっている者として (EROICA)
2008-04-27 22:25:19
 とねさん。アインシュタインの原論文進んでますね。
 ところで、ちょっとちょっかい出しても良いですか?

>真空中の光速度は一般相対性理論では一定ではなくなる。

 これって微妙なんですよね。一般相対性理論になっても、真空中の光速度は、その場所にいる人間が測るといわゆる光速度なんです。
 ただ、光速度よりも速いスピードで宇宙が膨張したり、光が曲がるのは、光速度が場所によって異なるからなんですよね。
 あくまでも、その場所にいる人間にとっては、光速を測ると2.99792458*10^8m/sなんだという点、確認しておきます。
 でもとねさん、独学でここまで、立派です。
返信する
Re: 一般相対性理論をやっている者として (とね)
2008-04-28 01:08:46
EROICAさん

お久しぶりです!どんどんちょっかい出してください!

> これって微妙なんですよね。一般相対性理論に
> なっても、真空中の光速度は、その場所にいる人間が
> 測るといわゆる光速度なんです。

そうなんですよね。実は僕も「真空中での光速度は一定」って書きながらおかしいなと気がついていました。「光速度は一定」って書いた瞬間にそれは曲がった空間を包み込む形で真っ直ぐなデカルト座標があることを前提としてしまうからですね。

この記事で紹介した次のセクションで僕は頓挫してしまっています。テンソルの演算規則や共変、混合、反変テンソル、共変微分などをワイルの「時間・空間・物質(ちくま学芸文庫)」でおさらいしていますが、2つの意味でなかなかブログの記事を書くまでに至っていません。

1)本質的には幾何学的ではないテンソルをどうイメージさせるかいいアイデアや表現方法を思いついていない。

2)テンソルの添え字の上げ下げを説明するにはこのgooブログでは上付き文字、下付き文字が書けないので数式エディタに頼るかどうか躊躇している。仮に数式を使って説明をはじめたとすると読もうとする読者をますます減らしてしまうから。。。

もう少しアイデアが育つのを待つことにします。期限のある課題ではないので。

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