【前回の続きです。】
お昼を食べ終った後、予定してた展望室に向う為に、一旦1階に下りて、塔の入場口からエレベーターに乗った。
場内で1番高い塔『ドム・トールン』、展望室はそののっぽな塔の5階に当るらしい。
予想してたより狭く、場内のパノラマを360°見渡せる構造になっていなかったのは残念だったけど(←精々270°位かしら?)、地上80mから見下ろす景色は、絶景としか言い様が無かった。
区切られた窓から覗ける、小さな赤い屋根の街並み。
こんな高さから見ても判る程、澄んだ水した運河。
赤煉瓦の敷詰められたアレキサンダー広場には、塔の黒い大きな影が落ちていた。
天気が好くなってくれて本当に幸い。
お陰で大村湾を取巻く周囲の島々まで、くっきりと観える。
「なァなァ!!ナミィ!!俺達が乗る船が出てくぞ!!!」
身を乗り出し、窓に貼り付いたルフィが、興奮して叫ぶ。
指した先には、紺碧の海を波立てて走ってく、観光丸の雄姿。
そうか、今丁度2時だから、本日3度目の出航って訳ね。
その隣1番奥の窓からは、私達の宿泊してたフォレストヴィラが観えた。
鬱蒼とした森に包まれた湖畔のコテージ、そして更に奥には、場内でも一際瀟洒な建物、パレス・ハウステンボス。
「すっげェなー!!どれもこれもミニチュア、まるでレゴブロックで作ったみてェだな!!」
「確かにこっから観ると、まるきし玩具だよな。」
「……身も蓋も無い感想ね、あんた達。」
「お!?あそこ観てみろよ!!俺達の乗ってたバスが走ってっぞ!!…あ!今バス停に停まった!!客がゾロゾロ降りてく!!」
眼下の、広場へと続く橋を指しながら言う。
「目ェ良いわよねルフィは。私も良い方だと思うけど、あんたには負けるわ。視力5.0位有んじゃないの?」
「本当にそうなら、モンゴルの遊牧民並視力だな。」
「…色んな色した車が走ってるよなー。茶色に緑に青赤黄色…信号みてーだな。」
「青赤黄色いのは多分ホテルの車だと思うわ。場内ホテル宿泊者用の送迎バスなんてのも有るみたいよ。」
「バスより小っせェ、茶色い四角ばった車も、チョコチョコ走ってるよなー。」
「あれはクラシックタクシーね。手を挙げれば、場内の何処からでも乗車出来て、行きたい場所に連れてってくれるんだって。」
「そんな便利な乗りもん有ったのか!?早く乗っちまや良かったのに!!」
「タクシーだからお金が掛かるの!!!だから乗らなかったし、あんたにも言わないでおいたのよ!!!」
ふと、ヒソヒソ声が隣から聞えて来たんで振り向くと、セーラー着た中学生女子と思しき1固まりが、失礼にもこちら指差し笑い合っていた。
どうやら修学旅行御一行様とかち合ってしまったらしく、展望室内はそいつらにほぼ占拠されてしまっていた。
ギャアギャアワイワイ、はっきり言って煩い。
学ラン&黒セーラーで、さながら烏の群れみたい。
そんで笑われてる原因は、彼女達の視線を辿ってって直ぐ解った。
ルフィが頭上に戴いてる、大人気無い船長帽。
…そりゃ確かに、良い年した高校生が、こんなん被って窓にベタッと貼り付いてたら……笑われるのも当然かもだけどさ。
「ルフィ…その船長帽、いいかげん脱いだら?」
近くに寄って耳打ちする。
「ん?何でだァァ??」
「だってあんた、さっきからそれで周りの子達に笑われてんの、気付かないの…?」
「笑いてェ奴は笑わせときゃ良いだろ!?」
少しムッとした顔で返された。
「ルフィの言う通りだ。無視しとけ。…人目気にするなんて、らしくねェぞ。」
ゾロが背後からポンと肩を叩いて来る。
「別に自分が笑われてんなら、気にならないけど…。」
人を小馬鹿にした様な黄色声が益々大きくなる。
ガキって集団になると本当、性質が悪くなるんだから。
いいかげん収まらなくなりそうだったんで、2人を引き摺りさっさとエレベーター乗って下まで降りた。
害した気分を治すには、美しい物を観るのが良いだろと、橋を渡ってアレキサンダー広場に建つ『ギヤマン・ミュージアム』に入館する。
エントランスは吹き抜けになっていて、大理石の床の真上には、世界最大級だっつう豪奢なシャンデリアが飾ってあった。
案内スタッフが説明するには、フランス・バカラ社製で、幅は2.2m、高さは3.5m、重さは750㎏、4,628個もの硝子のパーツが組合されていて、飾り付けた当時、組立てるだけで丸5日も掛かったらしい。
無色透明な骨組みに、赤と緑が鏤められてて、そのあまりの眩さに圧倒された。
「すっげーなァァァ~~~~~!!!」
「豪華絢爛。唯の硝子でも此処まで凝ってると宝飾品並だな。」
「綺麗ねェェ……ガイドブックによると、毎日夕方5時に点灯して、益々麗しく輝かせるらしいわ。」
「へーーー、観たかったなァーーー。何で観に行かなかったんだよ??」
「……あんたがフィギュアヘッドっつう雑貨屋に篭り切りになっちゃって、行く時間が無くなっちゃったからでしょうが……!」
「うわっっ、ヤブヘビ!!」
「口は禍の門だな。」
螺旋階段で2階へ上る。
バロック調に設えられた館内では、技法毎に分類・展示された硝子製品が、穏やかな照明の中で燦然と輝いていた。
中央にはドイツの或る宮殿の喫茶室を模して造られたっつう『黄金の間』。
此処だけロココ様式の優雅な一角には、金と赤とに煌くヴェネチアングラスが38個。
凄いわ……こんな喫茶室に通されたら、ビクビクしてお茶も啜れない。
「ふへーーー!!すっげきれーだなーーー!!どーやったらあんな血みてェに赤く作れんだろーなァーーー!?」
「ルフィ近寄るな!!!じっとしてて!!!ステイ!!!ステイ!!!」
はしゃいで中入ってこうとしそうなルフィの腕を引張り止める。
怪力出して割られたり、うっかり落とされたりしたら思うと……考えただけでぞっとする。
「んだよォォ!?人ガキみたいにィィ~~~!!するワケ無ェじゃん、そんな事よォォ~~~!!」
「力弱い分だけガキのがマシよ!!!」
「極めて真理だな。」
フロア奥にはドイツの或る宮殿の応接室をモデルにして造られた、『鏡の間』と呼ばれる展示室が在った。
展示されているのは、青いヴェネチアングラス76個。
鏡面になってる壁に嵌め込まれたグラスが反射し、何重にも観えて幻想的だった。
昨日行った磁器の博物館、『ポルセレイン・ミュージアム』に設けて在った、『磁器の間』に似た感じだわね。
一巡した後、また階段上って今度は3階へ行く。
入館した時観たあの大シャンデリアが、この階からだと目と鼻の先に見える。
「なんかこっから手を伸ばせば届きそうだよな~~!!…届くかも??―――よっと!!!」
「手を伸ばすなァァーーーーーーーー!!!!!」
手摺から身を乗り出して触ろうとするルフィを、焦って羽交い絞めにして止めた。
…まったく…腕白なお子ちゃま連れてるお母様方の苦労が、身に沁みて解るわよ。
3階は極めて落とされた照明の中、硝子1点づつを灯りで照らしてあるっつう、今迄観て来た中では異質に感じる展示方法だった。
展示品は全て壁面に嵌め込まれてる。
正面はステンドグラスで彩られ、祭壇が置かれてる。
ぽっかり空いた室内には、席がズラリと並べられてる。
席は左右に分断され、中心が道の様に空けてあった。
「……何だか、教会みてェな造りだな。」
ぼそりと、ゾロが呟く。
「みたいじゃなく、そうみたい。此処は『誓いの間』として、挙式会場としても使用されてるみたいよ。」
「こんな所で結婚式挙げんのかよ!?」
「結構人気有るんだって。パレスなんかでも挙げられるみたい。馬車パレードとか、観光客にまでお披露目イベントなんかも出来たりして、結婚式場としてハウステンボスは、良く利用されてるらしいわ。」
フロアを一巡し、せっかく席が有るんだったら…と、何とはなしに3人並び、座って話した。
「つまり左右を分断してるこの空白スペースは、『バージンロード』を敷く為か。」
「そうゆう事ね。…前の祭壇で牧師さんが聖書を朗読してくれて、新郎新婦が指輪交換して、病める時も健やかなる時も手を取り共に生きて行きますっつって永遠の愛を宣誓する…と。」
「美術館で結婚式挙げるなんて、おんもしれーなァ♪」
「此処で結婚式挙げると、名誉市民として台帳に名前記入して貰えるらしいわよ。」
「それって何かのメリットになんのかよ??」
「……あんた達、ガタイは良いし、気立ても悪くはないんだからさ。将来良いお嫁さん貰える様、ルフィはもっと落ち着きを持って、ゾロは仏頂面治してついでにファッションセンスも正す様……ちょっとは先の事考えて生きてきなさいよ。」
「んあ??良いヨメさん???」
「……んだよ?いきなり…。」
「姉として、妹としての、心からの忠告。」
――最後のね。
「……だったら俺も忠告してやるよ。おめェは見てくれ結構良いんだから、ちったァその果てしなく救い様の無ェ我儘を治せ!!振りだけでも治せ!!そうすりゃ騙される馬鹿も居るさ!!ついでに、もっと素直に甘えられる様なりやがれっっ!!!」
「な………どさくさ紛れに言うだけ言ってくれるじゃないのさっっ!!」
「見てくれ良くてもこんな性格可愛くねェと行き遅れちまうんじゃねェかって、兄貴分としちゃ心配なんだよ!!」
「安心しろってナミ!!いざとなったら俺かゾロがもらってやっから♪」
―――は??
急にしじまが舞い降りる…。
のほほんと笑ってるルフィの隣では、目を点にしたゾロが居た。
「何故そこで俺まで含めんだよおめェは!!?」
「ゾロはもらいたくねーのかーー??」
「ってか何!?その私が行き遅れる事を前提にした言い様は!!?」
「ナミは素直じゃねェからな♪行き遅れるに決まってら♪♪」
「ヘラヘラ笑って失礼言うな!!!私がちょぉっとその気でフェロモン垂れ流したら、たちまち引手数多なんだからね!!!」
「安心しろよ、ナミ。ラブコックが最終キープに居るんだ。嫁に行けねェって事は無いだろうさ。」
「あ、そっか!!居たなー、サンジも!良かったなー、ナミ♪将来思ったよか暗くなさそうだぞ♪」
「誰の将来が『思ったよか暗くない』っつうのよ!?私の将来はプラズマTV画面並にくっきり明るいわよ!!!真空管TV並に薄ぼんやりはっきりしてないのはあんたとゾロの将来の方でしょう!!?――ってか何で私の将来気に懸けられなきゃいけないのよもォォ~~~~!!!」
大声で喚いてる所に、また修学旅行の1グループがやって来た。
静寂に包まれてた(←そうでもないか…)館内が、一気に賑やかになる。
時間的にも3時を切ったし…と、次に予定してる『大航海体験館』に移動する事にした。
広場を出て、ビネンスタッドバス停から、バスに乗ってスパーケンブルグまで行く。
この時間になると場内もそれなりに賑やか、何校かの修学旅行が重なってるのか、様々な制服が街を闊歩していた。
1人用の自転車に3人も乗って、港街前方デッキをウロチョロウロチョロ…何時か車に轢かれそうで、見ていて怖い。
「不思議だよなーー。」
前の席でまた、車窓にベタッと貼り付いた姿勢のルフィが呟く。
「何が不思議なの?ルフィ??」
「今日ここまで歩いて来て、俺、1回も水たまり見てねェ。昨夜あんなに雨降ったのに、不思議じゃねェ?」
「…言われてみればそうだな。」
「道の多くが煉瓦で舗装してあるからよ。コンクリートと違って、雨水を地中に浸透させ易いからだと思う。」
「へ~~~??解んねェけど、レンガってすげェんだなァ~~~。」
「成る程、景観上の理由からだけじゃなかったんだな。」
スパーケンブルグバス停に着く。
『大航海体験館』は、丁度その正面に在った。
海上に浮ぶシミュレーションシアター。
スクリーンに映像を映して、それに合せて席を振動させ、船の揺れを体感させる。
「要するにディ○ニーの『スター○アーズ』みてェなヤツだな?」
「そうだけど……本当に身も蓋も無い例えするわね、ルフィ。」
映像フィルムは2本。
16世紀末にオランダから東洋を目指して航海をして来た、デ・リーフデ号の記録を再現した『デ・リーフデ号の大航海』。
それと17世紀中頃、オランダから徳川将軍に献上された、オランダ灯篭を巡る話を再現した『将軍への贈り物~海を渡ったシャンデリア』。
この2本を交互に上映してるって事だった。
私達は『デ・リーフデ号の大航海』を上映する時間に入館したらしかった。
薄暗い館内に、映画館みたく前から後ろへ、段々と高く並べられた観客席。
振動がより大きい方が楽しいだろうと、1番後ろの左端から、ルフィ・私・ゾロの順で座った。
「『デ・リーフデ号』って、オレンジ広場前に繋留されてる船だろ?」
「そうよ、ゾロ。日本に初めて着いたオランダ船の話って事ね。」
「あの海賊船が出て来る映画か!?」
「……だから海賊船じゃないってばルフィ……もう、いいわ。呼びたいように呼べば?」
或る程度観客が集まり着席した所で、館内の照明がいっぺんに消された。
闇の中、正面の大型スクリーン左端に、白い男の顔がヌッと浮き上る。
案内役キャラ、『ウィリアム・アダムス(三浦按針)』らしかった。
彼の語りで紹介される話――
1598年、5隻の東洋遠征船団が、日本を目指してオランダを出航した。
いざ目指そう、黄金の国『ジパング』。
此処から客席が振動し出した。
…ふーん…海上にわざわざ浮かべただけあって、波の動きがリアルに再現されてるわ。
何だか本当に、船に乗って揺られてる気分。
暫くは平穏な波だった。
しかし船はあらゆる苦難に襲われて行く。
突然の暴風雨、荒狂う波――って、ちょ、ちょっと待ってっっ!!!
これ…結構揺れない…!!?
「うわっっ!!!すっげェェ~~~~!!!席が真横に傾いてっぞこれ!!!」
「こ、これは…ひょっとして、今迄で1番激しいアミューズメントじゃねェか…!?」
上下左右前後と、映像に合せて振動する座席。
ローリング(横揺れ)とピッチング(縦揺れ)が連続して続く。
最大揺れ時、ルフィの言う通り、席はほぼ真横になるまで傾いた。
これは…乗り物酔いし易い人、きついかも…!
照明と音響も凄い迫力。
雷鳴が本当に頭上で轟いてる感じ。
映像の中の帆船が1隻、また1隻…と、どんどん壊れて沈んで行った。
――何とかしろ!!航海士っっ!!!
…………え……?
「今、何か言ったルフィ!?」
「えーーー!?何か言ったかナミィーーー!!?」
激しい振動ですっかりハイになってるルフィが、浮れ声して叫ぶ。
「私じゃなくって!!今、あんた、私に何か言って来たでしょォォ!!?」
「はァァ!!?俺…ナミに何も言ってねェぞォォォ!!?」
――しっかりしやがれ!!てめェが指示出さなきゃ、皆沈んじまうんだぞ!!!
「……ゾロ!?何か言ったァァ…!!?」
「は!?…んだよ、いきなり!?何も言ってねェだろがっっ!!!」
……だ、だって今、確かに…!!
荒れる波の中、デ・リーフデ号を残して他4隻は、全て大破してしまった。
唯一残ったデ・リーフデ号は、豊後の国(大分)、臼杵湾に漂着した――って所で終幕。
上映は終了し、振動も止まって、館内の照明は明るくなった。
「面白かったな♪♪」
「ああ、中々面白かった。…他施設が地味でのほほんとしてる分、新鮮に感じられたっつか。」
「…………。」
館の外へ出て、広場に並んでた白いテラス席に座って休憩した。
目の前にはデ・リーフデ号……話の中とは違い、港に繋がれのんびり穏やかに、海上で浮んでた。
強い潮風に煽られ、マストが揺らいでる。
…こんな小さい帆船で…よくも転覆しないで、荒波越えて行けたもんだと、しみじみ感心してしまう。
風が強いお陰で、雲はすっかり取払われていた。
気持ち良い位の青空……帰る時にお天気になられても、何か悔しいけど。
「そうだなーー…90点くれェは付けてやっても良いな!!」
「お前そりゃ点やり過ぎだって。他の場所行きゃ、この程度の施設幾らでも在るしな。」
「そんでもメチャクチャ楽しかった!!本当に船乗って航海してる気がしたもんな!!……なつかしかったよなァーー…。」
「………ああ、懐かしかったな。」
「な!!ナミも、なつかしかったよな!?」
「んなわきゃ有るか!!海を知らない都会っ子が!!!」
遮る物無く、何処までも続く海原。
水平線、沈む夕陽、昇る朝陽。
嵐、うねる波、翻弄される小さな帆船。
一心不乱に越えて、漕いで、また漕いで。
漸く、薄っすらと見えて来る、島の影……
………懐かしくなんて、ない。
有得っこ無いんだからっっ。
【その38に続】
写真の説明~、春なんですが、しかも懐かしき気球、ルフティー・バルーンからなんですが…
まぁ、こんな感じで、展望台からは観えますよ、と。
お昼を食べ終った後、予定してた展望室に向う為に、一旦1階に下りて、塔の入場口からエレベーターに乗った。
場内で1番高い塔『ドム・トールン』、展望室はそののっぽな塔の5階に当るらしい。
予想してたより狭く、場内のパノラマを360°見渡せる構造になっていなかったのは残念だったけど(←精々270°位かしら?)、地上80mから見下ろす景色は、絶景としか言い様が無かった。
区切られた窓から覗ける、小さな赤い屋根の街並み。
こんな高さから見ても判る程、澄んだ水した運河。
赤煉瓦の敷詰められたアレキサンダー広場には、塔の黒い大きな影が落ちていた。
天気が好くなってくれて本当に幸い。
お陰で大村湾を取巻く周囲の島々まで、くっきりと観える。
「なァなァ!!ナミィ!!俺達が乗る船が出てくぞ!!!」
身を乗り出し、窓に貼り付いたルフィが、興奮して叫ぶ。
指した先には、紺碧の海を波立てて走ってく、観光丸の雄姿。
そうか、今丁度2時だから、本日3度目の出航って訳ね。
その隣1番奥の窓からは、私達の宿泊してたフォレストヴィラが観えた。
鬱蒼とした森に包まれた湖畔のコテージ、そして更に奥には、場内でも一際瀟洒な建物、パレス・ハウステンボス。
「すっげェなー!!どれもこれもミニチュア、まるでレゴブロックで作ったみてェだな!!」
「確かにこっから観ると、まるきし玩具だよな。」
「……身も蓋も無い感想ね、あんた達。」
「お!?あそこ観てみろよ!!俺達の乗ってたバスが走ってっぞ!!…あ!今バス停に停まった!!客がゾロゾロ降りてく!!」
眼下の、広場へと続く橋を指しながら言う。
「目ェ良いわよねルフィは。私も良い方だと思うけど、あんたには負けるわ。視力5.0位有んじゃないの?」
「本当にそうなら、モンゴルの遊牧民並視力だな。」
「…色んな色した車が走ってるよなー。茶色に緑に青赤黄色…信号みてーだな。」
「青赤黄色いのは多分ホテルの車だと思うわ。場内ホテル宿泊者用の送迎バスなんてのも有るみたいよ。」
「バスより小っせェ、茶色い四角ばった車も、チョコチョコ走ってるよなー。」
「あれはクラシックタクシーね。手を挙げれば、場内の何処からでも乗車出来て、行きたい場所に連れてってくれるんだって。」
「そんな便利な乗りもん有ったのか!?早く乗っちまや良かったのに!!」
「タクシーだからお金が掛かるの!!!だから乗らなかったし、あんたにも言わないでおいたのよ!!!」
ふと、ヒソヒソ声が隣から聞えて来たんで振り向くと、セーラー着た中学生女子と思しき1固まりが、失礼にもこちら指差し笑い合っていた。
どうやら修学旅行御一行様とかち合ってしまったらしく、展望室内はそいつらにほぼ占拠されてしまっていた。
ギャアギャアワイワイ、はっきり言って煩い。
学ラン&黒セーラーで、さながら烏の群れみたい。
そんで笑われてる原因は、彼女達の視線を辿ってって直ぐ解った。
ルフィが頭上に戴いてる、大人気無い船長帽。
…そりゃ確かに、良い年した高校生が、こんなん被って窓にベタッと貼り付いてたら……笑われるのも当然かもだけどさ。
「ルフィ…その船長帽、いいかげん脱いだら?」
近くに寄って耳打ちする。
「ん?何でだァァ??」
「だってあんた、さっきからそれで周りの子達に笑われてんの、気付かないの…?」
「笑いてェ奴は笑わせときゃ良いだろ!?」
少しムッとした顔で返された。
「ルフィの言う通りだ。無視しとけ。…人目気にするなんて、らしくねェぞ。」
ゾロが背後からポンと肩を叩いて来る。
「別に自分が笑われてんなら、気にならないけど…。」
人を小馬鹿にした様な黄色声が益々大きくなる。
ガキって集団になると本当、性質が悪くなるんだから。
いいかげん収まらなくなりそうだったんで、2人を引き摺りさっさとエレベーター乗って下まで降りた。
害した気分を治すには、美しい物を観るのが良いだろと、橋を渡ってアレキサンダー広場に建つ『ギヤマン・ミュージアム』に入館する。
エントランスは吹き抜けになっていて、大理石の床の真上には、世界最大級だっつう豪奢なシャンデリアが飾ってあった。
案内スタッフが説明するには、フランス・バカラ社製で、幅は2.2m、高さは3.5m、重さは750㎏、4,628個もの硝子のパーツが組合されていて、飾り付けた当時、組立てるだけで丸5日も掛かったらしい。
無色透明な骨組みに、赤と緑が鏤められてて、そのあまりの眩さに圧倒された。
「すっげーなァァァ~~~~~!!!」
「豪華絢爛。唯の硝子でも此処まで凝ってると宝飾品並だな。」
「綺麗ねェェ……ガイドブックによると、毎日夕方5時に点灯して、益々麗しく輝かせるらしいわ。」
「へーーー、観たかったなァーーー。何で観に行かなかったんだよ??」
「……あんたがフィギュアヘッドっつう雑貨屋に篭り切りになっちゃって、行く時間が無くなっちゃったからでしょうが……!」
「うわっっ、ヤブヘビ!!」
「口は禍の門だな。」
螺旋階段で2階へ上る。
バロック調に設えられた館内では、技法毎に分類・展示された硝子製品が、穏やかな照明の中で燦然と輝いていた。
中央にはドイツの或る宮殿の喫茶室を模して造られたっつう『黄金の間』。
此処だけロココ様式の優雅な一角には、金と赤とに煌くヴェネチアングラスが38個。
凄いわ……こんな喫茶室に通されたら、ビクビクしてお茶も啜れない。
「ふへーーー!!すっげきれーだなーーー!!どーやったらあんな血みてェに赤く作れんだろーなァーーー!?」
「ルフィ近寄るな!!!じっとしてて!!!ステイ!!!ステイ!!!」
はしゃいで中入ってこうとしそうなルフィの腕を引張り止める。
怪力出して割られたり、うっかり落とされたりしたら思うと……考えただけでぞっとする。
「んだよォォ!?人ガキみたいにィィ~~~!!するワケ無ェじゃん、そんな事よォォ~~~!!」
「力弱い分だけガキのがマシよ!!!」
「極めて真理だな。」
フロア奥にはドイツの或る宮殿の応接室をモデルにして造られた、『鏡の間』と呼ばれる展示室が在った。
展示されているのは、青いヴェネチアングラス76個。
鏡面になってる壁に嵌め込まれたグラスが反射し、何重にも観えて幻想的だった。
昨日行った磁器の博物館、『ポルセレイン・ミュージアム』に設けて在った、『磁器の間』に似た感じだわね。
一巡した後、また階段上って今度は3階へ行く。
入館した時観たあの大シャンデリアが、この階からだと目と鼻の先に見える。
「なんかこっから手を伸ばせば届きそうだよな~~!!…届くかも??―――よっと!!!」
「手を伸ばすなァァーーーーーーーー!!!!!」
手摺から身を乗り出して触ろうとするルフィを、焦って羽交い絞めにして止めた。
…まったく…腕白なお子ちゃま連れてるお母様方の苦労が、身に沁みて解るわよ。
3階は極めて落とされた照明の中、硝子1点づつを灯りで照らしてあるっつう、今迄観て来た中では異質に感じる展示方法だった。
展示品は全て壁面に嵌め込まれてる。
正面はステンドグラスで彩られ、祭壇が置かれてる。
ぽっかり空いた室内には、席がズラリと並べられてる。
席は左右に分断され、中心が道の様に空けてあった。
「……何だか、教会みてェな造りだな。」
ぼそりと、ゾロが呟く。
「みたいじゃなく、そうみたい。此処は『誓いの間』として、挙式会場としても使用されてるみたいよ。」
「こんな所で結婚式挙げんのかよ!?」
「結構人気有るんだって。パレスなんかでも挙げられるみたい。馬車パレードとか、観光客にまでお披露目イベントなんかも出来たりして、結婚式場としてハウステンボスは、良く利用されてるらしいわ。」
フロアを一巡し、せっかく席が有るんだったら…と、何とはなしに3人並び、座って話した。
「つまり左右を分断してるこの空白スペースは、『バージンロード』を敷く為か。」
「そうゆう事ね。…前の祭壇で牧師さんが聖書を朗読してくれて、新郎新婦が指輪交換して、病める時も健やかなる時も手を取り共に生きて行きますっつって永遠の愛を宣誓する…と。」
「美術館で結婚式挙げるなんて、おんもしれーなァ♪」
「此処で結婚式挙げると、名誉市民として台帳に名前記入して貰えるらしいわよ。」
「それって何かのメリットになんのかよ??」
「……あんた達、ガタイは良いし、気立ても悪くはないんだからさ。将来良いお嫁さん貰える様、ルフィはもっと落ち着きを持って、ゾロは仏頂面治してついでにファッションセンスも正す様……ちょっとは先の事考えて生きてきなさいよ。」
「んあ??良いヨメさん???」
「……んだよ?いきなり…。」
「姉として、妹としての、心からの忠告。」
――最後のね。
「……だったら俺も忠告してやるよ。おめェは見てくれ結構良いんだから、ちったァその果てしなく救い様の無ェ我儘を治せ!!振りだけでも治せ!!そうすりゃ騙される馬鹿も居るさ!!ついでに、もっと素直に甘えられる様なりやがれっっ!!!」
「な………どさくさ紛れに言うだけ言ってくれるじゃないのさっっ!!」
「見てくれ良くてもこんな性格可愛くねェと行き遅れちまうんじゃねェかって、兄貴分としちゃ心配なんだよ!!」
「安心しろってナミ!!いざとなったら俺かゾロがもらってやっから♪」
―――は??
急にしじまが舞い降りる…。
のほほんと笑ってるルフィの隣では、目を点にしたゾロが居た。
「何故そこで俺まで含めんだよおめェは!!?」
「ゾロはもらいたくねーのかーー??」
「ってか何!?その私が行き遅れる事を前提にした言い様は!!?」
「ナミは素直じゃねェからな♪行き遅れるに決まってら♪♪」
「ヘラヘラ笑って失礼言うな!!!私がちょぉっとその気でフェロモン垂れ流したら、たちまち引手数多なんだからね!!!」
「安心しろよ、ナミ。ラブコックが最終キープに居るんだ。嫁に行けねェって事は無いだろうさ。」
「あ、そっか!!居たなー、サンジも!良かったなー、ナミ♪将来思ったよか暗くなさそうだぞ♪」
「誰の将来が『思ったよか暗くない』っつうのよ!?私の将来はプラズマTV画面並にくっきり明るいわよ!!!真空管TV並に薄ぼんやりはっきりしてないのはあんたとゾロの将来の方でしょう!!?――ってか何で私の将来気に懸けられなきゃいけないのよもォォ~~~~!!!」
大声で喚いてる所に、また修学旅行の1グループがやって来た。
静寂に包まれてた(←そうでもないか…)館内が、一気に賑やかになる。
時間的にも3時を切ったし…と、次に予定してる『大航海体験館』に移動する事にした。
広場を出て、ビネンスタッドバス停から、バスに乗ってスパーケンブルグまで行く。
この時間になると場内もそれなりに賑やか、何校かの修学旅行が重なってるのか、様々な制服が街を闊歩していた。
1人用の自転車に3人も乗って、港街前方デッキをウロチョロウロチョロ…何時か車に轢かれそうで、見ていて怖い。
「不思議だよなーー。」
前の席でまた、車窓にベタッと貼り付いた姿勢のルフィが呟く。
「何が不思議なの?ルフィ??」
「今日ここまで歩いて来て、俺、1回も水たまり見てねェ。昨夜あんなに雨降ったのに、不思議じゃねェ?」
「…言われてみればそうだな。」
「道の多くが煉瓦で舗装してあるからよ。コンクリートと違って、雨水を地中に浸透させ易いからだと思う。」
「へ~~~??解んねェけど、レンガってすげェんだなァ~~~。」
「成る程、景観上の理由からだけじゃなかったんだな。」
スパーケンブルグバス停に着く。
『大航海体験館』は、丁度その正面に在った。
海上に浮ぶシミュレーションシアター。
スクリーンに映像を映して、それに合せて席を振動させ、船の揺れを体感させる。
「要するにディ○ニーの『スター○アーズ』みてェなヤツだな?」
「そうだけど……本当に身も蓋も無い例えするわね、ルフィ。」
映像フィルムは2本。
16世紀末にオランダから東洋を目指して航海をして来た、デ・リーフデ号の記録を再現した『デ・リーフデ号の大航海』。
それと17世紀中頃、オランダから徳川将軍に献上された、オランダ灯篭を巡る話を再現した『将軍への贈り物~海を渡ったシャンデリア』。
この2本を交互に上映してるって事だった。
私達は『デ・リーフデ号の大航海』を上映する時間に入館したらしかった。
薄暗い館内に、映画館みたく前から後ろへ、段々と高く並べられた観客席。
振動がより大きい方が楽しいだろうと、1番後ろの左端から、ルフィ・私・ゾロの順で座った。
「『デ・リーフデ号』って、オレンジ広場前に繋留されてる船だろ?」
「そうよ、ゾロ。日本に初めて着いたオランダ船の話って事ね。」
「あの海賊船が出て来る映画か!?」
「……だから海賊船じゃないってばルフィ……もう、いいわ。呼びたいように呼べば?」
或る程度観客が集まり着席した所で、館内の照明がいっぺんに消された。
闇の中、正面の大型スクリーン左端に、白い男の顔がヌッと浮き上る。
案内役キャラ、『ウィリアム・アダムス(三浦按針)』らしかった。
彼の語りで紹介される話――
1598年、5隻の東洋遠征船団が、日本を目指してオランダを出航した。
いざ目指そう、黄金の国『ジパング』。
此処から客席が振動し出した。
…ふーん…海上にわざわざ浮かべただけあって、波の動きがリアルに再現されてるわ。
何だか本当に、船に乗って揺られてる気分。
暫くは平穏な波だった。
しかし船はあらゆる苦難に襲われて行く。
突然の暴風雨、荒狂う波――って、ちょ、ちょっと待ってっっ!!!
これ…結構揺れない…!!?
「うわっっ!!!すっげェェ~~~~!!!席が真横に傾いてっぞこれ!!!」
「こ、これは…ひょっとして、今迄で1番激しいアミューズメントじゃねェか…!?」
上下左右前後と、映像に合せて振動する座席。
ローリング(横揺れ)とピッチング(縦揺れ)が連続して続く。
最大揺れ時、ルフィの言う通り、席はほぼ真横になるまで傾いた。
これは…乗り物酔いし易い人、きついかも…!
照明と音響も凄い迫力。
雷鳴が本当に頭上で轟いてる感じ。
映像の中の帆船が1隻、また1隻…と、どんどん壊れて沈んで行った。
――何とかしろ!!航海士っっ!!!
…………え……?
「今、何か言ったルフィ!?」
「えーーー!?何か言ったかナミィーーー!!?」
激しい振動ですっかりハイになってるルフィが、浮れ声して叫ぶ。
「私じゃなくって!!今、あんた、私に何か言って来たでしょォォ!!?」
「はァァ!!?俺…ナミに何も言ってねェぞォォォ!!?」
――しっかりしやがれ!!てめェが指示出さなきゃ、皆沈んじまうんだぞ!!!
「……ゾロ!?何か言ったァァ…!!?」
「は!?…んだよ、いきなり!?何も言ってねェだろがっっ!!!」
……だ、だって今、確かに…!!
荒れる波の中、デ・リーフデ号を残して他4隻は、全て大破してしまった。
唯一残ったデ・リーフデ号は、豊後の国(大分)、臼杵湾に漂着した――って所で終幕。
上映は終了し、振動も止まって、館内の照明は明るくなった。
「面白かったな♪♪」
「ああ、中々面白かった。…他施設が地味でのほほんとしてる分、新鮮に感じられたっつか。」
「…………。」
館の外へ出て、広場に並んでた白いテラス席に座って休憩した。
目の前にはデ・リーフデ号……話の中とは違い、港に繋がれのんびり穏やかに、海上で浮んでた。
強い潮風に煽られ、マストが揺らいでる。
…こんな小さい帆船で…よくも転覆しないで、荒波越えて行けたもんだと、しみじみ感心してしまう。
風が強いお陰で、雲はすっかり取払われていた。
気持ち良い位の青空……帰る時にお天気になられても、何か悔しいけど。
「そうだなーー…90点くれェは付けてやっても良いな!!」
「お前そりゃ点やり過ぎだって。他の場所行きゃ、この程度の施設幾らでも在るしな。」
「そんでもメチャクチャ楽しかった!!本当に船乗って航海してる気がしたもんな!!……なつかしかったよなァーー…。」
「………ああ、懐かしかったな。」
「な!!ナミも、なつかしかったよな!?」
「んなわきゃ有るか!!海を知らない都会っ子が!!!」
遮る物無く、何処までも続く海原。
水平線、沈む夕陽、昇る朝陽。
嵐、うねる波、翻弄される小さな帆船。
一心不乱に越えて、漕いで、また漕いで。
漸く、薄っすらと見えて来る、島の影……
………懐かしくなんて、ない。
有得っこ無いんだからっっ。
【その38に続】
写真の説明~、春なんですが、しかも懐かしき気球、ルフティー・バルーンからなんですが…
まぁ、こんな感じで、展望台からは観えますよ、と。
見晴らしは素晴らしかったです。
ええ、あの見晴らしは最高でしたv
上から観ても、運河の底の溝がはっきり判ったっつうのが…そこまで運河の水が澄んでるんだァ~~と感心してしまいました。
コメントどうも有難う御座いました♪
そう言えば、以前、アニメ「名探偵コナン」でハウステンボスが舞台になった時、コナンたち、ルフティーバルーンに乗っていましたよね。(羨)
2年以上ハウステンボスへ行っていないので、当時と今とでは、施設やお店が所々様変わりしているみたいですが、街並み等風景の美しさはいつまでも変わらぬようで嬉しいです。
私は気球運良かったらしく、行くと必ず乗れたんですが……母がね…結局乗れずに終ったみたいで。
デザインも可愛らしく、それだけに惜しいです…。(涙)
そう言えば、コナン達も乗ってましたね。(笑)
街並は相変らず綺麗です。
この美しさは1番の武器になるんじゃないかと。
コメント、どうも有難う御座いました♪